第24話 タキヒコ、ギルドを再建する!
「――さて、後は冒険者ギルドの再建ばい。アリシアさんよ、回収は粗方終わったんかい?」
「ああ、そっちは問題ない。大部分が焼けちまっていたが、重要な魔道具と書類は金庫に入っていて無事だったぜ」
「そいつは不幸中の幸いたい。そいじゃ、あとはワシの出番っちゅうわけじゃな」
「おいおい、そんなに急いで大丈夫なのか? 消火活動から働きづめなんだ。少しくらい休んでからでもいいんだぞ?」
「なに、この程度なら問題なかよ。それに、皆が休める場所は早う用意するに越したことはないからの」
そう呟くと、ワシはギルドの焼け跡まで歩いていく。
念のため皆には離れているように伝えてあるが、好奇心が勝るのか遠巻きに見物しておる。
微かなざわめきを耳に感じつつ、ワシは静かに集中を高めていく……。
(まず作るのは【拠点】の中心となる建物……ギルドホールじゃな)
以前のギルドは木造やったけん、今回の火事で大きな被害が出てしもうた。
間取りなんかは似たようなもんにするとして、壁と床は石造りにする方が良いじゃろうな。
(1階は記憶にあるギルドをできるだけ再現……2階に事務仕事をするための部屋と応接室を用意……)
頭の中で、これから創る建物を想像する。
それが形になったところで、ワシはそっと、焼け跡の地面に手を当てたんじゃ。
「――おい、ありゃあ何だ!」
「地面が……光ってるっすね」
「んなこと見りゃわかる! そうじゃなくて、そこから生えてきているのは何だって言ってんだよ!」
「あー……俺には大きな家か何かに見えるっすね。参ったな、幻覚でも見てるんすかね?」
光は地面を走り、冒険者ギルドの焼け跡とその周辺を輝きで満たしておる。
集まった人たちの方でざわめきが強くなるのを感じるが、ワシはそれを意に介さないほどに集中しきっておった。
(冒険者の皆が、街の人たちが、安心できるような建物を)
今はただそれだけを望み、新たなギルドホールの姿をさらに強く、強く意識する。
そして、焼け跡と瓦礫を飲み込んだ光が収まると、ワシが想像した通りの重厚な石造りの建物が姿を現したのじゃ。
(ギルドはこれでよし。次はギルドの職員さんや冒険者、それに街の人を住まわせるための宿舎じゃ。これは幾つか小分けにせんといかんのう)
ワシは続けざまに『拠点を大きくする』ために頭を絞る。
脳裏に描くのは、ギルドホールを中心としてその隣にいくつかの長屋のような建物が並ぶようなイメージじゃ。
再び地面から光がほとばしり、ギルドの隣に等間隔で4つの長屋が立ち並ぶ。
(男女で各2棟づつ……どうやら、あと1つ増やすのが限界じゃな。では最後に、身を清めるための浴場じゃ)
住居があっても衛生環境が良くなけりゃ病気がはやるし、何より日々の疲れを落とす場所も必要じゃからの。
あまり大きなものは作れんばってん、最低限の設備くらいは用意せんといかん。
そうして男女別に入れるような浴場を呼び出したところで、集中の糸がぷつりと切れるような感覚と共に周囲のざわめきが戻ってきた。
「――ふう、こんな所ですかの? アリシアさんや、職員さんたちと中の確認をお願いしますばい」
「あ、ああ……。皆、それぞれの建物の確認を頼む。問題なければ、ギルドホールに道具類を運び込むぞ!」
「「「「は、はい!」」」」
アリシアさんを中心とした一団がギルドホールへ向かうのを見送ると、ワシはその場に腰を下ろした。
さすがに、これだけの建物を一気に呼びたすと、少し疲れるのう。
座り込んだワシを心配したのか、ヒサコさんが近寄ってきた。
「タキヒコさんや、身体は平気かの?」
「ああ、大丈夫じゃよ。少し疲れた程度じゃ」
「それならいいんじゃが……心配させんで欲しいったい」
「ほっほ、そいつは申し訳なか。それよりヒサコさん、そろそろ子どもたちも心配しとる頃じゃろうし、先に戻って安心させてやってくれんかの?」
「それは構わんが、タキヒコさんはどうするんじゃ?」
「ワシはアリシアさんともう少し話をせにゃならんことがあるでな。それが終わったらすぐ帰るぞい」
「よし、それなら子どもたちはあたしに任せんしゃいな。家で待っとるでな、早う戻ってきんしゃい」
家へと帰るヒサコさんを送り出した後、暫くの間目を閉じておったところ、軽く肩を叩かれる。
振り返ると、そこには確認を終えてきたらしいアリシアさんが立っておった。
「建物を一通り確認してきたが、凄いなカミアリ! 2階なんて事務員の仕事場所だけじゃなく、応接室まであるじゃねえか!」
「うむ、ご友人も来るという事じゃから必要かと思ったが、いらんお世話じゃったかの?」
「いや、正直助かる。宿舎も寝泊まりには十分だし、風呂があるのもありがたい」
「体を清潔にするっちゅうことは大事じゃからの。いくらヒサコさんが薬を作れるようになったからとはいえ、病気の予防は大切じゃ」
「まったく、ますますお前さんたち夫婦には足を向けて寝られなくなるな」
「よかですばい。好きでしましたことですけん」
何度も頭を下げようとするアリシアさんを抑えつつ、宿舎の使い方についても話をする。
あくまで仮の住居としての利用を想定して作ったもんじゃから、それぞれの部屋はそう広くもない。
後々、復興した際に十分な住居を確保できた時点で宿舎については撤去するという事に決めた。
「ところで、話は変わるんじゃが……今回、冒険者ギルドに放火したのは、あいつらかのう?」
「ああ、おそらく想像している通りだ。というより、この街にあいつら……ドンダー一味以外にこんなことをしでかすような人間はいねえよ」
「やはりか……冒険者ギルドが狙われた理由に心当たりは?」
「分からん。俺たちを敵に回しても碌なことにならないのは分っているはずなんだがな……ひょっとすると、カミアリたちが狙いなのかもしれん」
「何? ワシらが狙いじゃと?」
「以前の炊き出しで、あいつらの面子を潰しているからな。」
「ああ……あの時の……」
思い返される、広場での一件。
確かに、街のごろつきやチンピラにとって、面子を潰されるというのは報復に十分値する行為じゃろう。
「俺たちも引き続き警戒するが、カミアリも家族を気を掛けてやれ」
「無論じゃ。うちは女所帯じゃからのう。唯一の男手であるワシが皆を守らねば……」
「特に、年頃の娘2人はドンダー一味に目を付けられたら大事になる可能性が高い。ドンダー一味が関与していると思われる、年頃の娘を狙った誘拐が多発してるんだ」
「レイチェルとファビリアが? 確かに年頃の娘を狙うとすればその2人じゃろうが……」
「領主様にも伝えているんだがな。毎回『調査する』という返事ばかりで、実際は何の進展もない」
「そうか……我が娘たちもそうじゃが、連れ去られた娘たちも心配じゃのう……」
下賤な輩が2人を狙うというなら、何としても守らねばならん。
もし、二人に何かあれば、その時は――。
「――ははっ! カミアリでもそんな顔するんだな!」
「む……そんな顔とはどういう事じゃ? 恐ろし気な顔でもしておったか?」
「かなりな。まぁいいじゃないか? お前は良い父親なんだろうな……その顔を見ればわかるよ」
「良き父でありたいとは常に思うておるぞ? 出来るだけ子に寄り添い、子の話に耳を傾け、子を護るのは親の務め。ただそれだけじゃ」
「子を慈しみ、街を守り、自らの力を人々のために使う……か。カミアリ、お前はまるでおとぎ話の『聖者様』のようだな」
「そんな大層なもんじゃなかと。前にも言うたが、ワシはただの飯炊き野郎ですばい?」
実際のところ【聖者】の称号を持っておるばってん、正解ではあるのじゃが……。
ワシの返事に大笑いしておるアリシアさんがそれを知るのは、また後程ということでええじゃろう。
昼過ぎに冒険者と街の人たちに向けて宿舎の説明をするから同席して欲しいという話を引き受け、ワシは妻と娘たちの待つ家へと向かうのじゃった――。
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