第10話 タキヒコ、拠点を作ると冒険者達が飛び出してきて――

 手を当てていた壁が柔らかな光を放ち、屋根付きの渡り廊下を形作る。

 光の廊下はそのまま数メートル伸びて止まると、今度は先端が家のような形に変貌していく。


(これが拠点を大きくするという事なんか……パッと出すだけかと思っておったが、改築と言った方ががよさそうじゃのう)


 納得しているうちに光が収まると、そこには渡り廊下で店とつながった、立派なログハウスが佇んでいた。

 玄関横には駐車場のようなスペースが確保されており、渡り廊下で囲まれた部分が中庭のようになっておる。

 早速中を覗いてみようかと足を踏み出した時、冒険者ギルドの方角から数人がバタバタと走ってきた。



「待て待て! おい、カミアリ! ちょっとそこで止まれ!」



 聞き覚えのある声に足を止めて振り向くと、そこには急いで走ってきたのであろう、息を切らせたギルドマスターさんの姿があった。

 彼の後ろにも、先日ギルドで見かけた冒険者がついてきておったが、皆一様に驚きの表情を浮かべておる。

 その中にさっき走り去った者もおることから、ギルドに報告が行ったんじゃろうな。



「どうかしましたとな?」

「どうかしましたも何もあるか! こりゃなんだ? カミアリが出したのか!?」

「そうなりますな。ワシの持っておる【拠点】というスキルじゃ」

「一瞬でこんな規模の建物を……相当なレアスキルだな? ……ひょっとして、他にも同じように建物を出せるのか!?」



 すごい剣幕で迫って来おる……。

 確かに、よくよく考えてみれば『家を作れるスキル』なんてこの街にとってみれば垂涎ものじゃろう。

 期待してもらっておるところ申し訳ないが、そこはきちんと伝えんといかんのう……。



「すまんが、このスキルにも色々と制限があるようでしてな。 別のを作れと言われても無理ですばい?」

「そ、そうか……。 いや、勝手に期待したこっちが悪いんだから気にしないでくれ。」



 そう言って汗を拭くギルドマスターさんじゃが、2件の建物を交互に見た後でため息を吐きながらしゃがみこんだ。

 


「おいガジュ、おめえが『家を作れるスキル持ちっす! この街の救世主っす!』とか言うから急いで来たんだが……」

「うす……すんません。 自分の早とちりでした……」

「気を落とす必要はねえよ。こんな凄えもん見せられたら慌てちまうのも分からなくはない……が、普段から言っているようにもう少し落ち着きを持つんだな」



 よく顔がみえなんだでわからんかったが、さっき走って行ってたのはガジュ君じゃったか。

 彼も間が悪いというか、なんとも不憫じゃのう……。

 そんなことを思っていると、いつの間にか二人の傍にいたヒサコさんが助け舟を出そうとしておるようじゃ。



「ふぇっふぇっふぇ! 早とちりしても仕方がなかろう、タキヒコさんは凄いんじゃからな!」

「いや、本当に凄いスキルだと思うぜ……。 この街の冒険者ではないのが勿体ない――っ!」

「羨ましいっすよ。 家を出し入れできるスキルなんて、どこに行っても快適に過ごせるじゃないっすか――って!」



 ヒサコさんに向き直った二人の目が驚愕に見開かれる。



「「人語を解するスライム!?」」



 しもうた、炊き出しの時から今まで後ろに控えておったから気づかれなんだし、ワシらもすっかり馴染んでおったから気に留めていなかったが……。

 ヒサコさん、見た目『スライム』やないか!

 


「なんでスライムが街中にいるっすか!」

「落ち着け! スライムとは言え人語を解するんだ。何があるか分らんぞ!」 



 そう言って各々武器を抜こうとする冒険者たちだが――。



「「だめ――!」」

「待つんじゃ、落ち着くんじゃ!」



 ワシに加えて、店から走ってきたアイリとカイリが間に立ちはだかる。

 ヒサコさんは玄関におったレイチェルのところまで飛び退き、そのまま抱き上げられた。



「「ヒサコさんをいじめないで!」」



 困惑する冒険者たちに向け、畳みかけるように叫び声がぶつけられた。

 幼い二人が精一杯両手を広げて震えておる姿は、彼らの気勢を削ぐのに十分以上のものじゃった。

 ワシは皆に武器を納めてもらうようお願いし、店の中へと彼らを案内した。

 温かいお茶を用意して彼らに配り、話を聞いてもらうための準備をする。



「マスターさんも皆も落ち着いて聞いとくれ。 確かにヒサコさんは喋るスライムに見えるじゃろうが、それは訳あってのことなんじゃ」

「訳ありねぇ……カミアリが庇うってことは、そいつはお前の従魔か何かか?」

「喋る魔物なんて、相当高位の魔物になるっすよ……?」

「従魔……というのは何かわからんが、ヒサコさんは魔物なんかじゃないぞい? ワシの妻じゃ」

「「……つま……妻!?」」



 冒険者たちの目が、再び驚愕に見開かれる。

 視線はワシとヒサコさんの間を行ったり来たりし、もはや何が何だかわからないという様子じゃ。



「ヒサコさんは元々人間でな。 少しばかり事情があって、今はスライムになってしもうておるが……」

「中身はなんも変わっておらんよ! そりゃあ最初は驚きましたがの!」



 そう言って頭に飛び乗ってくるヒサコさん。

 いまだ混乱の渦にいるであろう面々を尻目に、今度は三姉妹が話を続けていく。



「道に迷った妹たちを助けてくれましたし、私にも本当によくして下さるのですよ」

「優しいし、お料理も上手なんだよ!」

「魔物と一緒にしちゃかわいそうだよ!」

「わかった、わかった! とにかく、危険もなければ魔物でもない、カミアリの大事な奥さんってことでいいんだな!?」

 


 必死に説得しようとする様子に毒気を抜かれたようで、ギルドマスターさんが降参だという様子で両手をあげた。

 他の方々も同じような格好をしたり、頷きを返したり、どうにか納得してもらえた様子じゃ。

 


「まったく……突然現れたかと思ったら炊き出しを始めたり、何もないところから家を出したり、挙句の果てに妻がスライム……カミアリよ、お前さんは何者なんだ?」

「ふぁっふぁっふぁ! ワシはちぃっと料理が作れるだけの飯炊き野郎ですばい? 近いうちに、この店でも旨いもんを振舞えるように頑張りますけんな!」

「まあ、すんなりと答えられる質問じゃねえのはわかっていたけどな……。とりあえず、飯については期待させてもらおうじゃねえか」

「まかせんしゃい! あたしとタキヒコさんが作るもんはとびきり旨いけんのう!」

「楽しみにしてるっすよ! 炊き出しの手伝いも頑張らせてもらいますから、おまけしてくれるとありがたいっす!」

「そいつはできん相談ですたい」



 バッサリ切り捨てられたガジュの言葉に、冒険者たちの間でドッと笑いが起きる。

 一時はどうなるかと冷や冷やしたが、これなら大丈夫そうじゃ。

 ちゃんと話を聞いてくれる人たちで助かったわい。

 その後ギルドマスターさんを先頭にギルドへ向かう一団を見送った後、ワシらは改めて新居に向き直る。


「さて、ちいとゴタゴタしてしもうたが、改めて家をみてみようかの!」

「「わーい!」」



 元気の良い声と共に、ワシらは新しくなった家に足を踏み入れるのじゃった――。




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