第9話 タキヒコ達、娘たちを考えて引っ越しする
「どういうこと?」
「このおうち住めなくなるの?」
「二人とも落ち着いて。まずはお話をきいてみましょう?」
姉妹の下二人は、訳も分からない様子で混乱しておる。
レイチェルも若干の不安を感じておるのか、心配げな様子じゃ。
まあ、いきなり引っ越すとだけ言われたら、さもありなん。
「タキヒコさんや、引っ越しとは一体全体どういうことじゃ?」
混乱する皆を代表するように、目を細めたヒサコさんが問いかけてきた。
急な話で皆を驚かせ過ぎてしまったのう……反省、反省……。
「すまんすまん、ちいと話が急すぎたの」
「まったくじゃ。少しは前置きをして話しんしゃい」
「そうすべきじゃったの……。まあ、理由としては大したことでないと思うかもしれんが……風呂が外にあるじゃろう? 暫くここに住み続けても構わんのじゃが、女子が多かのに、いつまでも外でというわけにもいかんでな?」
「まあ……確かにそうですばい」
「家の改築は必要たい。都合よく、先のレベルアップで拠点を大きく出来るようになったらしくての。それなら街中に新しい拠点を建てる方がええんじゃなかろうか、と思いましたと」
「ふんふん、なるほどのう……それで土地がうんぬんと言っておったのか」
今の説明で納得してもらえたのか、怒気を収めるヒサコさん。
アイリとカイリも、先に理解したレイチェルに説明して貰って、新しい家はどんな家にするのかと、今度は興味津々の様子じゃ。
「それで、いつ引っ越すのですか? 荷物もそう多くはないとはいえ、結構な手間だと思うのですが……」
「うむ、まずはスキルで引っ越しをした時に【拠点】の中にあるものがどうなるか確かめてみんといかんの」
「家財道具がそのままで移動できるなら楽じゃけんのう」
「だのう……念のため、大事なものだけは手元に置いてから試しておこうかの」
そうして全員が外に出てからステータスを開き、【拠点】について確認すると、『掘っ立て小屋』の詳細に【拠点の引っ越し】という項目が追加されておった。
どうやら、これを選択すれば良いらしいのう。
「そりゃ、ぽちっとな」
――シュンッ!
小屋が、音を立てて一瞬で消えてしもうた。
その光景に全員が唖然とし、一足先に我に返ったワシは慌ててステータスを確認する。
するとそこには、『掘っ立て小屋(引っ越し中)』の表示が……!
一も二もなく詳細を確認し、【引っ越し先の指定】という項目があることに安堵した。
「皆、心配せんでええ。どうやらこれが【拠点の引っ越し】のようじゃ」
そう言って【引っ越し先の指定】を選択し、少し離れた場所の地面に手を触れてから皆の下へ戻ってくる。
数秒後、消えた時と同じような音と共に掘っ立て小屋が現れると、皆は揃って感嘆のため息をついておった。
家の中身も変わっておらんし、色々としまい込んだものもそのままじゃ。
これなら、すぐにでも引っ越しができるじゃろうな。
「いやはや……これはまた便利じゃのう……」
「タキヒコさんや、この前あたしのスキルが凄いとか言っておったが、あんたのも大概じゃぞ……?」
ヒサコさんの呆れたような声につられて、辺りに笑い声がこだまする。
そのまま皆で話し合い、翌日を待たずに引っ越してしまうことを決めると、再び【拠点の引っ越し】を行いって街へと歩みを向けた。
道中で【拠点】についての確認を進めていると、どうやら『店』と『ログハウス(庭と駐車場付き)』が出せるらしいという事がわかった。
(掘っ立て小屋の次が店とログハウスとは、なかなか豪勢じゃのう……)
暗くなる前に冒険者ギルド前に到着すると、予め目星をつけていた場所へ皆を案内する。
ヒサコさんに姉妹を預け、【拠点】から【店】の項目を選ぶと、今建てられる店舗形態が一覧で表示された。
その中から『うどん屋』を選ぶと、先ほど試した時と同様、一瞬で目の前にうどん屋が現れ、周囲がどよめきに包まれた。
「「わあ……!」」
「凄い……立派なお店ですね……!」
「おやおや、なんとも懐かしい感じのお店じゃのう……」
ワシらには馴染みのある、木造で漆喰壁の、しっとりと味わいのある佇まいじゃ。
何人かがギルドの方に向けて走っていくのを横目にうどん屋の中に入ると、皆を呼び寄せる。
「ほら、皆もこちらにおいで」
「入ってもいいのですか……?」
「勿論じゃよ。座れるところもあるようじゃし、中で休むとええ」
「では、お言葉に甘えて」
「「お邪魔しまーす!!」」
「これこれ、走ると危ないよ。タキヒコさん、こっちはあたしに任せて厨房とかを見てきんしゃい」
「おお、助かるぞい。すぐに終わらせるからの」
ヒサコさんが姉妹の面倒を見ている間に色々と見て回ったが、どうやらこのうどん屋、ワシの行きつけのうどん屋と大して変わらん作りになっておるようじゃ。
カウンター席も多ければテーブル席も多く、1つ1つのテーブルには何度破いても無くならないという注文書が置かれておる。
厨房には大きな茹で窯、そのすぐ隣にはうどんを水洗いするのための桶、具材を入れておくケースに、大型冷蔵庫。
御汁を入れるやかんにどんぶり……うどん屋に必要なすべてが揃っておった。
食器を洗う場所も十分広く、備え付きの機械は軽く水洗いした食器を入れると全自動で洗って、おまけに乾燥までしてくれるという優れものじゃった。
(なんというか……至れり尽くせりの店じゃのう……)
なんと、『おでん』を作る場所まで設置してあったのじゃから驚きじゃ。
これらのことを伝えると、やはり皆も驚いたようで、一様に言葉をなくしておった。
そのうえ――。
「何が凄いって、この店で作るうどんじゃよ、うどん。なんでも、食べるとステータスが上がるというものらしいんじゃ」
「それが本当なら、紙に書いて張り出しましょう!? ステータスが上がる食べ物なんて、冒険者の皆さんが飛びつきますよ!?」
「それなら、お品書きの横にもう書いてあるぞい?」
「本当じゃのう。至れり尽くせりじゃわい」
「!」
あのレイチェルが思わず興奮してしまうほどのことじゃ。きっと相当なことなのじゃろう。
この世界に来る前、面接官らしい人が、ワシとヒサコさんには「いいカルマ」が沢山溜まっておって、それを使って最善を尽くしたレアスキルを用意したと言っておった。
スキルで出した店がここまで至れり尽くせりなのは、きっとそのおかげなのじゃろうな……。
「ゆくゆくは従業員を雇ったりもせんといけんのう」
「やる事いっぱいですばい」
「まあ、従業員については後で考えようかのう。なんせ先立つ物が無い……」
こればかりは、スキルでもどうにもならんのじゃ。
「さて、次は住む拠点じゃ。折角じゃし、このうどん屋の隣に作ろうかね」
「楽しみですばい!」
「出来れば店と家が繋がっとるのがええんじゃがのう……」
「無理せんでも、別々でもよかですばい?」
「そこは都合よう出来るように、なんとかしてみようと思うんじゃ」
「そうですかい……そんなら、そうしなっせ!」
よし、ヒサコさんの応援があれば百人力じゃ。
ワシは【拠点】から今まで住んでおった『掘っ立て小屋(引っ越し中)』を選ぶと、『ログハウス(庭と駐車場付き)』に荷物を移すように念じる。
すると『ログハウス(庭と駐車場付き)(引っ越し中)』という表示に変わり、直感で荷物が無事に移動したのじゃとわかった。
そのままログハウスと店が繋がっているイメージを脳裏に描き、店の壁に手を当てると――。
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