【毎日更新】異世界うどん屋老夫婦の領地改革~亡き妻がうどんスライムになったので、店をしながら現地の生活を改善して住みやすくすることにしました~
第6話 タキヒコ夫婦、飢えに苦しむ民を放っては置けない!
第6話 タキヒコ夫婦、飢えに苦しむ民を放っては置けない!
翌朝、早々に目を覚ましたワシとヒサコさんは、静かに寝床を抜け出した。
まだ眠る子供達を起こさんように身支度を行ったワシらは厨房に立ち、朝食を作り始める。
「せめて、簡単な味噌汁くらいは作らんとな」
「後は飲み物も用意してやらないかんのう」
「ワシらが飲んでおったようなお茶や牛乳でもいいじゃろうか?」
「それでよかろうが、あの子らが遠慮せんように、少しばかり多めに用意せんといかんよ」
そんな会話をしつつ【ネットスーパー】で必要なものを購入し、調理を進めていく。
ヒサコさんにすいとんの具を小さめに出してもらい、鍋に入れたら、あとは煮込むだけじゃ。
……味噌汁ではなく、すいとん汁(お味噌味)になってしもうたの……。
暫くして小屋の中に食事の香りが漂い始めると、子供たちがもぞもぞと起きてきた。
久しぶりに熟睡できたようで、髪には寝癖が付き、まだ眠そうな表情を見せておる。
「アイリ、カイリ、二人ともおはよう」
「おはようございます」
「美味しそうな匂いがする……」
「おやおや、まだ眠そうじゃのう……ヒサコさん、身支度を手伝ってやってくれんかの」
「あいよ」
二人を待つ間におにぎりを幾つか購入して皿に並べ、すいとん汁を椀に注ぐ。
簡単ではあるが朝食としては十分じゃろう。
「さて、食卓はこれでいいとして……お姉ちゃんさん、起きれるかの?」
今までずっと寝ておったのじゃ、いきなり動いては体に負担がかかってしまう。
眠っているお姉ちゃんさんの傍まで移動し、声をかける。
「はい……まだゆっくりとしか起き上がれませんが……」
そう言って起き上がろうとする彼女を支え、ゆっくりと体を起こしていく。
「昨日より随分と顔色がよくなったのう」
「ええ……あのまま死んでしまうことも覚悟していたのに……」
「ふぇっふぇっふぇ! 良かったのう、良かったのう!」
頬に手を当て、信じられないという表情をしておる。
この様子なら、またすぐに倒れるといった心配はなさそうじゃし、一人で歩けるまで回復するのもそう遠くなさそうじゃ。
「そうじゃ、まだ名前を聞いていなかったの。すまんが、教えて貰ってもいいかの?」
「勿論です……私はレイチェルと申します。この度は助けていただき、ありがとうございました」
「レイチェルさんじゃな。よろしくのう。ワシはタキヒコ、今は席を外しておるが、白いスライムが妻のヒサコさんじゃ」
妻、と言ったところでレイチェルさんが目を丸くする。
「妻……?スライムと……結婚なさったのですか?」
「ワシらはちとばかし訳アリでな。ヒサコさんは元々人間なんじゃよ」
「訳アリ……それなら、詳しくお聞きしない方がよさそうですね」
「すまんが、今はそうしてもらえると助かるの」
その言葉に頷くレイチェルさん。
受け答えもしっかりしておるし、賢い子じゃ。
妹二人も懐いておるし、しっかり者のお姉さん、といった具合じゃの。
「それじゃあ、まずは朝食にするとして、その後の今日の予定じゃが――」
と、この後のことを話そうとしておったところ……。
「「お姉ちゃん!」」
身支度を整えたアイリとカイリが駆け込んできた。
二人とも心配そうな様子で姉の顔を覗き込んでおる。
「もう起きて大丈夫なの?」
「痛いところとかない?」
「ええ、二人には心配かけたわね。ごめんなさい……。けど、もう大丈夫よ」
その言葉と共に頭を撫でられた二人は、目を潤ませつつもうれしそうな顔をしておる。
……思わず、ワシも涙ぐんでしもうた。
「あのね、このおうち凄いんだよ!」
「歩けるようになったら、案内してあげる!」
どうやら、ワシらにしてみればただの掘っ立て小屋という風情のこの拠点でも、この子達には凄い家に見えるらしい。
これまでの苦労がしのばれるが、環境も少しずつ良くしないといかんのう……。
特に風呂場が丸見えっちゅーのはいかん。
一応壁があるから丸見えと言う訳ではないが、年頃の娘が入るには抵抗があるじゃろう。
(拠点……移動させるかのう)
そんなことを考えながら三人を食卓へ連れていき、ヒサコさんを合わせた五人で朝食を共にする。
小さい子や病み上がりでも食べやすいようにと、小さめに出してもらったすいとんの具じゃったが、ヒサコさん曰く『女神の加護』はしっかりと効果を発揮しておるらしい。
効果があるか少しばかり不安じゃったが、一安心、これを食べておれば回復も早いじゃろう。
「はい、お姉ちゃんの分だよー」
「食べにくかったら小さくするからね!」
「アイリもカイリもありがとう。私も食べるから、二人もちゃんと食べるのよ?」
「「はーい!」」
姉妹で仲良くおにぎりを分け合っておるのう……。
ちらりとヒサコさんの方を見たが、若干目元が潤んでおるのは見なかったことにしておこう。
年を取ると、涙もろくなっていかんわい。
「それじゃ、ワシは冒険者ギルドまで出かけてくるけん、三人はヒサコさんの言う事をよく聞いて待っておるのじゃぞ」
「はい、お気をつけて」
「「いってらっしゃーい!」」
朝食を終えた後は、昨晩買っておいた炊き出し用の道具を拠点の外に運び出し、朝食で使った食器を片付けるのと共に準備を進めてもらうことにする。
机にまな板、ざるに包丁、寸胴、お玉、ガスコンロ……。
数はそれなりに多いが、ヒサコさんに任せておけば問題はないじゃろう。
「こっちのことは、あたしにまかせんしゃい!」
そう言ってワシを送り出す妻の頼もしいこと……。
――話を戻すと、ギルドでは、炊き出しについての話をする予定じゃ。
配給に硬い黒パンしか出せん程にひっ迫しておるのは、スタンピードとか言う奴で田畑がやられたからだとも聞いておる……。
そこも何とかしてやれればいいが、今のワシらに出来る事は限られておるからのう。
まずは炊き出しで少しでも元気をだしてもらわないかん。
「魔物に食べ物に……こりゃ領主様も頭を抱えるばい」
小さく溜息交じりに冒険者ギルドに入ると、見慣れぬワシの姿に冒険者達が警戒したのか、一瞬の緊張が走る。
まあ、そんなものはどこ吹く風で受付に向かうんじゃがな。
「ギルドマスターはおるかのう?」
「あなたは昨日もいらっしゃった……」
「そうそう、昨日の話で進展があったと、マスターさんに伝えて貰えないかのう?」
「……承りました。少々お待ちください」
受付担当の人が奥の部屋に向かい、暫くするとマスターさんを連れてやってきた。
その間も何人かの視線を感じたが、まあ仕方のないことじゃろう。
「昨日の今日で早速だな……どうしたカミアリ」
「うむ、今朝から炊き出しの準備をしておってな。場所だけが決まっておらんのじゃが、どこか炊き出しをするのにいい場所をしらんかのう?」
「昨日もそんなことを言っていたが……本気なのか?」
「いかにも、わしゃ本気じゃが? 今はヒサコさん達が下ごしらえをしておるわい」
「そ、そうか……それなら、冒険者ギルド前の広場を使うといい。そこなら辺りも開けているし、何かあってもうちの連中がなんとかしてやれる」
「ああ、建物の正面にあった空き地じゃな? 分かった。そこで炊き出しをさせてもらおうかの」
「有言実行とはこのことだな……。しかし、見返りもなく食べ物を配るなんてお前さん一体何者なんだ?」
怪訝そうな顔をするが、まあ仕方ないことじゃのう。
ワシは聖人様といった風体でもないし、いきなり現れた人間が炊き出しなんぞし始めたら、疑っても仕方なかろう。
「すまんが、ワシが何者かっちゅうことは答えられんのよな。まぁ、悪いようにはせんのじゃからええじゃろ?」
「そりゃそうだが……」
「無論、飢えている民への炊き出しが一番の目的じゃよ? 詳しくは話せんが、それがワシとワシの妻、ヒサコさんのスキル上げになるんじゃよ」
「なるほどな、全く見返りがないって訳でもないんだな」
「そういう事じゃ。集まる人数次第じゃが、冒険者の人達にも温かい食べ物を提供できると思うぞ?」
ワシらがそんな話をしておると、一人の冒険者が近づいてきた。
なかなか精悍な体つきをしておる。冒険者というだけあって、鍛えておるのかのう。
「おいおい、俺たちを置いて話を進めるなんてさみしいじゃねえか。炊き出しなんて言っているが、満足に食える代物でてくんのか?」
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