第12話
今日はいよいよ土曜日。
体育祭のこととかは一旦置いておいて、今日は
服装は、ネットで上から下までセットで全て購入した。お小遣いやら貯めてきたお年玉が吹っ飛んでいったが、これも世界の為だと思えば安いもんだ。
少し早めに待ち合わせ場所へ行くと、目立っている人がいる。
本を読みながら、待ち合わせの相手を待っているようだ。
みんな彼女を見ては、「綺麗な子だね」「芸能人かな」と言って、通り過ぎていく。
「ねぇ、1人?」
若い男が彼女に声をかけている。
「今は一人です」
そんな美人である彼女、梨央は本から目をそらすことなく、淡々と答えている。
「あのさ、俺と遊びにいかへん?」
「行きません」
速攻で凍りそうな冷たい態度で断っている。
「そんなこと言わずにさ、ええやん」
「嫌です。迷惑なので、やめてください」
一切、男の方を見ようとすらしない。
男は強行突破しようと思ったのか、梨央の腕を掴もうとしている。
(やばい・・・!)
奏汰は駆け出した。
すると、梨央はスルッと掴もうとした手を避けると、本でパシッとその腕を叩いた。
「いてぇ・・・。何すんねん!」
男が怒って掴みかかろうとしているところで、なんとか奏汰が梨央の腕を掴むと、
「行くで」と駆け出した。
しばらく走って、振り返ると、どうやら追いかけては来ていないらしい。
「はぁはぁはぁ、良かった・・・」
「すいません」
梨央も顔を赤くして、息が上がっているようだ。
「・・・とりあえず、お茶でもいこか」
店の予約まで時間があったので、近くのカフェで気持ちも身体も落ち着けることにした。
なんだか落ち着かない。
梨央は注文したカフェラテをずっと見ている。
学校でも美人だと思ってはいたし、周りもそう言っていたが、私服になるとより美しさが強調されている気がする。
普段学校の指導で髪は結んでいることが多いが、今日は髪をおろしていて、艶のある髪が梨央が動く度に揺れている。
白の襟付きの水色ワンピースに、白のカーディガンを羽織っている。
こんな美人とカフェに来てこの後ご飯とか、奇跡でしかないよな、そう思いながら、奏汰もコーヒーに目を落とした。
「あ、あの」
「はい?!」
「さっきはありがとう」
「あぁ、かまへんよ。むしろ、もっと早くつけたらよかったんやけど」
梨央は、手を突き出して左右に振りながら、「ううん、全然そんなことないよ!」と言った。
「それにむしろ市川くんって・・・足速いよね?」
「昔からなんや知らんけど、足だけは速いねんな」
「・・・いいな、足速いの」
梨央がぽつりと言った。
「え?大久保さんも運動神経ええやん」
「ううん、そんなことないよ。走るのはどちらかというと苦手で」
「そうなんや」
「でもなんか勝手に速いって思われて、アンカーとかさせられること多いから困っちゃうんだよね」
「確かに俺も速いんやろうなって勝手に思ってたわ、ごめん」
「あ、全然、そんな気にしないで」慌てたようにそういうと「期待されるのもありがたいことだものね」梨央はそう言って、カフェラテをゆっくり一口飲んだ。
「そういえば、もうすぐ体育祭やな」
「そうだね。6月にやるなんて変わってるよね。雨で中止になるかもしれないのに」
「教師もやりたないんかもな、体育祭」
「そうかもしれない」そう言って、梨央はふふふと微笑んだ。
その後、時間が来て予約した店に移動した。
「サマーリーフカフェ」
小さなレストランだ。
昼間はカフェで夜はレストランをやっている。
値段もそんなに高くなく、家族連れも多い。
綺麗な顔のウェイターに案内され、席に座った。
「
女の人に颯太と呼ばれウェイターは、「予約で料理は承っておりますので、飲み物の注文などございましたら、および下さい。ではごゆっくりどうぞ」というと、「今行くー!ちょっとクロバくん!それダメ、それは触らないで!」と慌てて、奥に入っていった。
「なんだか慌ただしい店だね」
「うん。でもこの店美味しいらしい。
「藤沢って
「うん。藤沢とは小学校から一緒で、なんとなく話すことも多くて」
「・・・そうなんだ。あの・・市川君ってどんな小学生だったの?」
「小学生の時?うーん、せやなぁ。今とあんまり変わらんかもなぁ。友達もあまりおらんかったし、毎日遊んで寝てただけって感じかな。大久保さんは?」
「私は・・・うん、同じ感じだよ」
なんとなく触れてはいけない話題なのか、沈黙が訪れる。
どうしようかと思っていたところに、料理が運ばれてきた。
「こちらがサラダとスープでございます」
女の人がにこっと笑うと、置いて去っていく。
「美味しい」
スープはコーンスープで、甘くてまろやかな味だ。
梨央が嬉しそうに微笑んでいる。
「口にあったみたいで良かった」
その後出てきたハンバーグも美味しくて、あっという間に平らげてしまった。
最後のデザートのアイスも美味しくて、「お腹いっぱい」と言いながらも梨央も最後まで食べきっていた。
「ありがとうございました」
店を出ると、21時近かったので、梨央を家まで送ることにした。
もう春を超えて初夏が近いが、夜はほんの少し肌寒い。
「今日はありがとう」
「いやいや、これはお礼やから」
「嬉しかった。私、家族以外とお外で食事とかしたことなかったから」
「そうなん?なんか初めてが俺で申し訳ないな」
「そんなこと、そんなことないよ。楽しかったもの」
「そっか、それなら良かった」
他愛もない話をしていると、あっという間に梨央の家の前についた。
「じゃあ、また明後日学校でな」
「今日はありがとう」
「うん。じゃあ」
そう言って、奏汰が背を向けて歩き出すと、「あ、あの!」梨央に呼び止められて振り返ると、「あの、えーっと、気を付けて帰ってね?」とそう言って、梨央は家に入っていった。
(どうしたんや・・・?)
疑問に思いつつも、家に向かっているとスマホが震えた。
“今日はありがとうございました。楽しかったです。それで・・市川君さえよければなんだけど、また一緒にご飯行ってくれる?”
「もちろん、喜んで」
奏汰は一人夜空に向かってガッツポーズをした。
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