第10話

それから3日間のテストはあっという間に終わった。


その間、梨央りおは風邪で学校にくることはなかった。


そして奏汰かなたは「大丈夫か?熱あるんちゃう?」とあの時のセリフと行動をまことに真似されてからかわれて、地獄のような日々を送っていた。


そしてなぜか小春こはるまでもが何だか冷たい。

奏汰が挨拶しても返してはくれるが、目を合わせてくれない。


(チョコでも買ってくるかな)


もう心がすり減ってなくなってしまうんじゃないかと思い始めたころに、梨央が久しぶりに学校に登校してきた。


いつものように席に座り、静かに本を読んでいる。

奏汰にも何もリアクションはない。


(クールだな・・・)


「お前、あれは脈ないんちゃうか?」

誠に核心を突かれて、「・・・うるせぇよ」と小さく言い返していると、小春がやってきた。


「・・・市川」


「おう」


久々に声をかけられて少しドギマギしてしまう。

小春は目を合わせずに、「おめでと」と言った。


「は?」


「おめでとうって」

「何が?」

「中間テストの順位だよ」


奏汰は、急いで廊下に出た。


奏汰の高校ではテストの順位を食堂前の掲示板に貼りだす。

個人情報やらいじめの原因になるやらで貼らない高校がほとんどだと思うが、切磋琢磨すべきという校長の持論で上位20位までは貼りだされることになっている。


食堂の前に人が集まっている。


市川の姿に気づくと、みんながふわっと掲示板から離れる。


祈る思いで掲示板の順位を下からみていく。


20位・・・


15位・・・


10位・・・


5位・・・


「う・・・うそ・・?」

誠から声が漏れる。


3位 市川奏汰


万年、中の下をキープしていた奏汰の名前が上から3番目に載っている。


「やばい・・・」


奏汰は喜びと絶望と色んな感情が入り乱れた気持ちになった。

3位なんて快挙なわけだが、今回は1位じゃないとまずいのだ。


(世界が・・・世界が・・・・)


そう思って、肩を落として掲示板から離れようとすると、梨央が立っている。


「大久保・・・」

「・・・どうだった?」

「すまん、3位やったわ。あんなに教えてもらったのに」

「・・・そう」


梨央はそういうと、くるりと背を向けて去っていく。


「おーさすが雪女やな。クールすぎる」


(やっぱり無理だったか・・・)


「お前に手に負える相手ちゃうからあきらめろ」

そういって誠に背中をバシバシ叩かれながら、教室へ足をひきずりながら戻った。


そう無理だ。

そうわかっていても、習慣になってしまった放課後の図書室へ向かってしまった。


図書室の奥の人気のない場所。

梨央は変わらずいつもの席で静かに本を読んでいる。


奏汰はそっと近づいて声をかけた。


「大久保さん」


梨央がびっくりしたように奏汰を見ている。


「あの・・・ごめん、1位になれんかったわ。俺にしたら3位ってすごいんやけどなぁ・・・ハハハ、これも大久保さんのおかげや。ありがとう。じゃあ御礼言いたかっただけやから」

梨央に何も言われないように早口で伝えて去ろうとすると、「市川くん」と呼び止められた。


(これは・・これは・・ドラマとかでよくあるやつ・・・)


期待で胸が高鳴る―。


「これ落としたよ?」

メモを手に乗せられた。


「え?」

そう言って、戸惑っている内に梨央は何でもないように本を読み始めた。


(ですよね~・・・。それにしてもこの紙なんだ?)


メモを開いてみる。

“3位おめでとう。3位でも御礼はもらえるのかな?”

可愛らしい梨央の字が並んでいる。


「もう俺ムリ・・・」

奏汰は真っ赤な顔で、思わずその場にしゃがみこんだ。

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