パフェと苺と忍者

日は災難な目に合った。ナンパに合って、断ったら逆切れされて・・・

しかも変な忍者に助けられて。

 もともとこの通りは治安が悪い。私と同じような地雷系の恰好をした女の子もたくさんいるが、その多くがパパ活、売春。そのせいか、この通りは【地雷原】なんて揶揄されている。

 馬鹿にされたりすることは、当然多い。それでも私はこの通りを離れられない。居場所がここしかないから。少なくともここに居れば、お金を出してくれる優しい人が声を掛けてくれる。もちろん、代償はただじゃない。ヤることは、ヤる。

 以前は風俗で働いていた。18才になってすぐに入って、1カ月も経たずに辞めちゃったけど。人間関係が嫌になったから。綺麗なお姉さんが沢山いたけど、内面のドロドロとした歪な戦いに嫌気がさした。


 こうやって、立ち尽くすだけで良いなら気が楽だ。ここにいる女の子たちは互いに無関心だから、争いがおきることは滅多にない。けど、無関心がゆえにいざという時に助けてくれる人はいない。昨日の夜だってそう。私が絡まれたときも、チラ見はするけどすぐに去ったり、スマホで撮影する人はいたけど、通報や助けを呼んでくれる人はいなかった。

 結局私を愛してくれる人なんていないんだ・・・どこにも。埋まらない寂しさを抱えながら、スマホでtweetyをやる。フォロワーと繋がれば、少しは気が紛れる。


 


 「寂しい」___@Jirai_chan

そう投稿すると、すぐに反応が返ってきた。

 「僕も!」___@kuroneko


 黒猫ちゃん。私のネッ友だ。この子は重度のメンヘラ女子で、よくリスカ画像を投稿している。流石に私はそこまではしないが、時々この子の投稿内容に共感するときがある。


 「昨日変な人に絡まれた」___@Jirai_chan

 「え!大変じゃん!地雷原?」___@kuroneko

 「うん。財布無くすとこだった。病む、最悪」___@Jirai_chan

 「財布無事でよかった!今から遊ぶ?」___@kuroneko

 「今お金ないから、また今度で良い?」___@Jirai_chan

 「良いよ~!僕もお金稼いでから行くね!じゃまたね~」___@kuroneko


 黒猫ちゃんと遊びたいなぁ。ぼんやりそう思いながら辺りを見渡した。今日は誰か声かけてくれるかな。しかし、望みは薄そうな気がしてきた。今日は人通りが少ない。あぁ、ダメかも。本当にお金ないのに。昨日もナンパに絡まれてチャンスを逃しちゃった。折角声を掛けてくれたおじさんがいたのに・・・。


 なんだか昨日のイライラがまたぶり返してきた。はぁっとため息を吐く。ため息吐くと幸せが逃げるなんて言うけど、そんぐらいで逃げる幸なんて大した事ないんだろう。ため息を吐いている時は、一瞬だけ落ち着く。もしかしたら息を吐き続けた方が幸せなんじゃないの?

 「おや、昨日の・・・」

 横から声を掛けられた。ふっと視線を移すとそこにいたのは、昨日の忍者だった。

 「何?」

 「昨日はかたじけない!助かったでござる!」

 「あっそ」

 そいつは相も変わらず、忍者の恰好をしている。なんでそんな恰好してんの?

 「この恩は忘れないでござる」

 「・・・恩ねぇ」

 正直、ご恩なんてどうでもいいから金が欲しい。今日金を稼げなかったらネカフェで寝泊まりできない。野宿する羽目になる。

 「ねぇ私と休憩しない?」

 「休憩でござるか?拙者は構わんでござる」



「で、なんで私はカフェにいんの!!!」

「ん?休憩がしたいと言ったではござらんか」

「あんた・・・休憩ってそういう意味じゃないから!」

「茶屋で和菓子を食べることではござらぬのか!?」

 こ、こいつ昨日も思ったが本当にやましいこと考えてないのか?

「ところでさっきから気になる事があるのでござるが」

「な、なによ」

「どうしてマスクを外さずにストローでお茶を飲むでござるか?」

「マスク外してるところ見られたくないの。別にいいでしょ」

 自分の顔は見せたくない。私あんまり可愛くないし・・・。マスク外したらがっかりなんて思われたくない。

「食べづらくないでござるか?」

 そう言いながら、パフェに乗っけられたアイスをスプーンで食べようとした忍者は口に運ぼうとするが___

「き、消えた!!!!!!?????」

 思わず飲んでいたお茶がむせてしまいせき込む。私の目がおかしくなければ、今間違いなく口に運ぶ直前でスプーンに乗ってあったアイスが一瞬で消えたのだ。

「これ美味しいでござるなぁ」

「あ、あんた、マスク外さずにどうやって食べてんの!?」

「これは、忍法マスクtoマウスの術でござる」

「術名だっさ!!”to”って何!?」

「これは前置詞のtoでござる」

「英語の先生か、お前は!!」

「家庭教師の仕事を前にしたことがあるでござる!」

「はぁ?!・・・あ、古典を教えてたのね。それなら納得」

「英語でござる」

 嘘だろこいつ・・・。

「ま、まぁあんたの過去はどうでもいいわ。そうよね、休憩の意味なんて分かんない・・・か。”ホ別いちご”も分かってなかったし」

「・・・」

 何を思ったのか、忍者はパフェに乗っていたいちごをフォークで刺して私に差し出した。

「イチゴ好きなのでござろう?遠慮しなくて良いでござる」

「別にイチゴが好きなわけじ「遠慮しなくていいでござる!!!!!忍法!!マスクtoマウスの術!!!!!」

「むぼごぉ!!!!??」

 急に口の中にイチゴが!?

「日本人は遠慮しがちでござるなぁ・・・」

「お前も日本人だろ」

「イチゴ美味しかったでござるか?」

「・・・うん。まぁありがとう」

 何考えてるかよく分かんないやつだけど、多分気を遣ったんだろう。

「・・・美味しかったんでござるか?」

「え?うん、まぁ」

「拙者のイチゴが?」

「・・・」

「甘かったでござるか?どんな味でござったか?」

「惜しむんだったら食わせるなよ」



 ようやく食べ終わり会計に進んだ。

「ここは拙者が出すでござる」

「お茶代ぐらい出すから」

「いや、本来行きたい場所があったのでござろう?それを拙者が勘違いしてここに連れて来たのだから、当然払うでござる」

「あ、あんた・・・」

「それに、スーパーDXストリームハイパージャンボ苺トルネードペガサスパフェとお茶。食べる量が多かったのも拙者でござる。ほとんどの時間、拙者が食べる時間だったでござろう?」

「まぁそうね・・・」

 結局会計はこの忍者に出してもらった。店を出た後、私はお金がないから行く当てがないことを思い出した。でも今更この忍者に、ネカフェ代かして欲しいなんて言えない。

「もう夜遅くなるし、真っ直ぐ帰るでござるよ」

「帰る場所なんてない。はぁ・・・今日は野宿かな」

「野宿なんて女子おなごには危険でござる!」

「ネカフェ代ないから」

「なら拙者の所に来るでござるか?」

「え・・・?」

 これは僥倖だ。もうこの際何でもいい。少しでも寝れる場所があれば、どんな場所だって・・・!

「ありがとう。じゃあ連れてってくれる?」

「御意!」

・・・まぁこいつ、私とそんなに年齢変わんない感じする。18か19とかそこらだろう。汚いおっさんに抱かれて眠るより、歳が近い奴の方が嫌悪感は少ない。



「ホテルじゃないのかよ!!」

 案内された場所は、地雷原から随分離れたキャンプ場だった。そこにはテントが張られていた。

「昨日はあの近辺で寝ようとしたら、おまわりさんに怒られたでござる・・・」

「そ、そう・・・」

 キャンプ場か。初めて来たけど、こんなに広いんだ。あたりを見渡すと、共有キッチンとトイレはあった。しかし他のお客さんはいないようだ。この空間に二人だけ。なんだか不安になってきた。もしかして私、騙されてる?ここで無理矢理襲われたら・・・。考えただけでゾッとしてきた。いくら寝る場所が欲しいからって、安易に付いていくべきじゃなかったかも・・・。

「夜食が食べたくなったらカップラーメンがあるでござるよ!」

いつの間にか忍者は、焚火をしてお湯を沸かし始めていた。

「あ、ありがとう・・・」

「そういえば、まだ名を言ってなかったでござる。拙者、”雲隠 忍くもがくれ しのぶ”と申す!」

「・・・”綿平 爾雷わたひら じらい”」


「よろしくでござる!!」

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地雷ちゃんと忍び君 即興 @Sokkyo_Writer

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