黄金と人形
「ええと、つまり、僕にこの人形を売ってほしいと」
「最初から、何度も申し上げている通り、そうです」
奇術師と人形の旅の途中、ある春のこと、公演を行った黄金の街――かつては金鉱山で一財を成し、今は金属の細工物で有名だそうだ――の宿屋に、大真面目な顔をした役人がやってきて、奇術師にそう言った。
人形を、売ってほしいのだと。
何度断っても食い下がる役人に、奇術師は辟易していた。どうしても無理なのだと言ってもまったく聞き入れてくれない。ここまで頑固な人を見るのは久々だ。
人形は、たまに首を縦に振ったり横に振ったりしながらその光景を眺めていた。
金糸がふんだんに織り込まれた、黒をベースにした制服を着た役人は、
「我が領主の娘君は、大変あなたの自動人形を気に入ったようです。ぜひほしい、とおっしゃっております」
「そんなこと言われても、この人形は僕のアシスタントです。こいつがいなければ、僕は公演を進めることができません」
人形がそうだそうだと頷く。
役人はそれを意に介せず言う。
「最近では、自動人形と一緒に子供を育てることが推奨されていると言うではないですか。娘君はまだ自分の自動人形を持っていません。どの自動人形も、娘君のお目にかなわなかったのです。しかし、昨日のあの公演を見て、娘君はこれだ、と思ったのだそうです」
昨日の公演といえば、昼の中央広場で行ったものだろう。地面を構成するすべてのレンガにすらも黄金の模様が彫られているその広場は、黄金の街を象徴するものだった。それほど金を大切にしている黄金の街にちなんで、フィナーレでは金色の羽を上空から降らせた。今回も大変な好評で、拍手が鳴り止むことはなかった。
その広場には、確かに、豪勢な領主の館がすぐ近くにあった。その窓から、人形を買いたいとか言っている領主の娘が見ていたのであろう。
「そうですか……」
奇術師も、ある種の自動人形が子供の成長に寄与するらしいというのは知っている。人間の成長とともに、自動人形のパーツを換装してサイズを大きくしていったりもするそうだ。でもそのような自動人形は、それを目的として作られたものだ。自分のアシスタントとして作られた、こいつとは違うはずだ。第一、この人形は成人型だ。変化させることは可能だが、これ以上外見を成長させる余地はない。
「でも、これ成人型ですよ」
奇術師は、これで役人も諦めてくれるのではないかと思ったのだが、
「それでもよいとのことです。とにかく、この自動人形をそばに置きたいのだと」
役人はなおも言う。
「今朝からずっと、あの人形がほしい、と泣いております」
「その娘さん、何歳なんですか」
「七歳です」
「七歳か……そりゃ泣くかもしれないな……」
人形は、それを聞いて悲しそうな顔をしていた。奇術師は、お前が悲しむことなんかなにもないだろ、と小声で人形に耳打ちする。
そのくらいの年齢なら、モノがほしくて駄々をこねることもあるだろう。あるだろうがそれとこれとは話が別だ。
役人は、条件に不満がありましたら、と言う。
「自動人形でしたら、同じ構造と見た目のものをこちらで用意します。新しい人形のトレーニングにかかる費用も負担いたします。また、トレーニング期間中の収入も保証します。それなら、問題ないのではないでしょうか」
「それは……ずいぶんと本気なんですね」
「この街を去る前に、ご一考いただけると幸いです」
役人は一方的に告げて、去っていった。
扉が閉まる音がして、宿の部屋には奇術師と人形が残された。
この街には一週間ほど滞在する予定ではある。その間に数回公演を行い、その後に街を後にする、つもりだった。
奇術師は残ったアイスコーヒーを飲み干して言う。
「お前と同じ体積の金でお前のことを買いたいってさ」
あの役人が提示してきた最低金額がそれだった。その上、奇術師が望めば、それ以上の金を払ってもよいとは言っていた。
世界最高のパフォーマーの一人、と目されている奇術師といえども、そもそもマジシャンはそれほど儲かる職業ではない。何より、得たお金は次の公演の準備に使ってしまうことが多い。
だから、その金額は、奇術師にとって見たことのないものであった。というよりも、人形と同じ体積の金がどれほどになるのか、まったく見当がつかない。
「それだけあったら、何が買えるんだろうな」
奇術師が何の気なしにつぶやくと、人形が血の気を引かせていたので、
「売らないよ!?」
奇術師は隣に座っている人形の手を取った。その手はひんやりしているけれども、人間だったら汗ばんでいたりするんじゃないかな、と奇術師は思った。
「売るわけないじゃん」
人形は手を離して、照れくさそうに頭をかいた。
「お前のことを買いたいやつは定期的に現れるけどさ、ここまで本気のひとは初めて見たな」
精巧な自動人形は、市場で高い値段がつく。それは事実だ。たとえば、いつもオーバーホールを頼んでいる人形師が作るオーダーメイドの自動人形なんか、奇術師の稼ぎでは到底買えないようなものだという。
でも、この人形は、奇術師が自分のために造った特製のものだ。他の用途に使うことは設計段階から考えられていないし、使えるはずもない。
何より。
何より、奇術師はこの人形を気に入っている。
だから、売るわけなんか、ないのだ。
「いやでも、もしお前があの領主の家で、その……娘さんと一緒に暮らしたい、って言うなら、僕は止められないけど」
人形には自由意志が設定されている。こうやって奇術師についてきてくれているのも、人形の意思によるものだ。だから、万が一奇術師の元にいるよりも、誰か別の人のところにいた方がよいと判断するなら、そうなる。
当然、奇術師には人形を停止させる権限を持ってはいる。でも停止させられるだけで、自由に動かせるわけではないのだ。
奇術師の問いに、人形は首を横に振る。
「そうだよな」
奇術師はふかふかのソファに転がり込む。人形はその横に座る。
「よかった」
もうそろそろ夕飯食べなきゃだよなあ、と、奇術師はつぶやく。
人形はそれを、黙って見守っていた。
夕食はルームサービスだった。しかも、街の領主が料金を持ってくれるのだという。おそらく、二人がここから逃げ出さないようにという意図なのだろう。なにはともあれ、外に出なくて済むので楽だった。奇術師はステーキとサラダとパンを頼んだ。あれだけ不躾な歓待を受けたのだ。もらえるものくらいはもらっておきたい。どれもそれなりにおいしかったのだが、役人の言葉がずっと気にかかっていた。もちろん検討しているわけではない。どうすれば角を立てずにきちんと断ることができるのかを考えていたのだ。
その間、人形は部屋に備え付けられていた紅茶を淹れてくれていた。インスタントのコーヒーは、この部屋にはないようだった。ポットに規定量の茶葉を入れ、沸騰したお湯を注ぐだけといえばそうなのだが、奇術師は、人形が淹れてくれたものの方がおいしいのではないかと感じていた。今日の茶葉はあっさりとした味が特徴的なので、ミルクは入れない。
人形は水分に関しては摂ることが可能なので、食後に一緒に紅茶を飲むことにした。白いカップに入った紅茶を飲みながら、人形が首を傾げたので、
「え、これまずかったか?」
と奇術師は尋ねた。奇術師としては、特に味に問題があるとは感じていなかった。むしろ普段よりもいい茶葉なんじゃないか? と思っていた。
人形はまた首を振る。そうじゃないってことか。じゃあなんだ?と思案していると、人形は紅茶を飲み干して、カップを片付け始めた。
「なんなんだよいったい……」
当然、人形が奇術師の問いに答えることはない。
休む準備を始めた人形に、奇術師もあわてて紅茶を飲んだ。たしかに、後味が若干渋い気は、してきた。
人形は眠らない。完全なスリープモードに入るには、奇術師のコードとキーが必要になる。所有者によっては、夜になるたびにスリープモードに入れる者もいるとは聞くが、奇術師はそうはしなかった。奇術師の荷物には高価なものも多い。夜に盗みなどがあったらたまらない、というのもあったが、一番の理由は、人形が完全に停止してしまうと、自分が一人きりになったような気持ちになるからだ。
だから、人形はこうしてベッドに横になって休んでいる時でさえも、停止しているわけではなく、たまに寝返りを打ったり、寝息を立てたり、する。
目を閉じて横になっている自動人形は、人間で言うと、まどろんでいる状態に近いのだと、かつて人形師は言っていた。
夢現の境で、人形は何を考えているのだろう、だなんて思いながら、奇術師は眠りにつく。
次の日の朝、奇術師が目を覚ますと、人形は部屋から姿を消していた。
どこかで倒れているのではないかと探し回ったのだが、部屋の隅にもベッドの下にもいないし、念のため見てみたけれども廊下にもいない。
「え? もしかして? 誘拐!?」
もしかしたら、あの役人に誘拐された可能性もある。
あれだけ金を積もうとしていたのだ。強硬手段に出てもおかしくはない。
「というか、まさか」
自分が売られようとしていると思い込んで、逃げ出したんじゃないのか。冗談のつもりだったしそういう流れだった。人形もそれを理解しているとは思っている。でも言ってしまったことは事実だ。
もしそうだとしたら――自分には探す手立てがない。
人形が、自分の元から姿を消す、だなんてこと、考えたことが、なかったから。
所有者によっては、逃げられないように制限をかけていたり、居場所がわかるような措置を施していることがあるが、奇術師はそのどちらも必要がないと考えていた。
というよりも、そうやって縛ることによって、人形が『ほんとうの意思』を発揮しなくなるのではないかと思っていた。
人形がいなくなる。
人形には自由意志があるのだから、可能性としてそのようなことはある、だなんて悠長なことをかつて言っていたけれども、いざ実際にそうなると、何をしていいのかわからない。
奇術師はモーニングサービスとして持ってこられたオムレツとスープとパンを無視して部屋の中をうろうろと回っていた。
誘拐? 脱走? 落ち着け自分。何をありえないことを考えている。
そんなことより、現実的な、解決策を、考えろ。
とりあえず、カウンターにいるスタッフに、朝方何か見なかったか聞いたのだが、朝方、人形がひとりで外に出ていったのは見たのだという。
「なんか……役人的なひとはいませんでしたか? きらきらした服を着た」
「入ってきたひとは誰もいませんよ」
この証言を信じるなら、人形は自分の意志で外に行った、ということになる。あの必死さだ、役人にスタッフが買収されている可能性もなくはないが、そこはひとまず、このスタッフの職業倫理を信用するとしよう。
オムレツを半分ほど食べたが、食べた心地がしなかった。もう仕方ない、と、奇術師は部屋から飛び出した。
警察などの公的な機関は役人の息がかかっている可能性がある、と除外して、奇術師はひたすら街を探すことにした。大通りに出ると、朝だというのに人で溢れていた。
一昨日公演を打ったおかげで、奇術師と人形の顔は街に売れていた。やたら実物よりも格好よく作られているポスタービジュアルを指すと、ああこいつね、と街のひとたちは言ってくれた。だけれども、今日人形を見かけたという人間はなかなか見つからなかった。
焦ってもどうしようもないことはわかっているのだが、胃がきりきりするような不安感に苛まれる。あいつ、いったいどこに行ったんだ?自分に何も伝えずにいなくなるなんて、何を考えているんだ? 事件や事故ではないならいい、とにかくそれだけが願いだった。
「あの、この自動人形見ませんでしたか? モーブピンクの髪で、僕よりちょっと背が低いくらいで、白い服を着ているやつを」
と街の人たちに聞くたびに、これが現実じゃなければいいと思う。ほんとうは人形はここにいて、見えないだけで、そう、自分のマジックで見えなくなっただけで、ここにいるんだと。
太陽は空高く昇り始めていた。手がかりはなにも見つかりそうになかった。それはそうだ。こんなに大きな街で、たったひとりを探そうとしているのだから。
腹が減った、ふらふらする、何か食べる時間が惜しいが、人探しにはエネルギーが、いる。
何も胃に入れないよりはマシだから、コーヒーでも飲むかと、コーヒースタンドでテイクアウトしようとしたときに、店員が、
「あれ、この前の奇術師さんじゃないですか?」
と声をかけてきた。
「そうですけど」
「あの、アシスタントの方は今日は一緒じゃないんですね」
「今探してるんですよ」
苛立たしげに奇術師が答えると、店員は、
「今朝、領主の館の方に走っていくのを見ましたよ」
この道を真っ直ぐ、と店員が指すので、奇術師はありがとうございます、と走り出そうとする。ちょっと待って、コーヒー持ってってくださいよ、と店員が言う。
コーヒーを一気に飲み干して、奇術師は領主の館に急いだ。熱いブラックコーヒーが奇術師の目を覚まさせた。
そうだ、誘拐されていないにしても、人形が自分の意志で領主の娘の元に向かった可能性は、ある。どうしてそれに気がつかなかったのだろう。困惑と、かすかな怒りがある。それなら、その旨を伝えてくれればよかったのに。黙って行くことはないだろう。喋らないにしたって、感情を伝える方法ならいくらでもあるのだから。ジェスチャーだったり、絵を描いたりすることができるのだから。
奇術師は走った。汗ばんできて、ジャケットの袖をたくし上げる。もっと走りやすい靴にすればよかった。石畳を足で蹴る。息が切れそうになる。体力には自信があるほうだったが、こんなに必死に走ったのは、久しぶりだった。
半刻ほど走ったところで領主の館に辿り着く。外壁から窓の飾りまで、すべてが壮麗な金の装飾で彩られているその館は、見る人が見れば一日中だって観光できる場所だが、今の奇術師にその余裕はない。
エントランスで、奇術師は門番に話しかける。
「あの、すみません」
門番は、ああ、この前すばらしい公演をなさった奇術師様ですね、何か用ですか、と答える。のんきなものだ、と思いつつも、平静を装いながら、
「こちらに、僕の人形は来ていませんか?」
「ええ、朝一番にいらっしゃいました。今は領主の娘君と遊ばれております」
奇術師は、そうか、と思う。
やっぱり、こっちの生活のほうがよかったのだろうか。当然、待遇はこっちの方がいいだろうし。自分も悪くはしていなかったと思っていたのだが、相手からの言葉によるフィードバックはなかったことだし、ほんとうに満足していたのかはわからない。
人形は、ここを選んだのか。
自分の隣ではなく、子供と一緒に成長していくことを。
そうなると、新しい人形を作らなければならない、それはさみしいことなのだが――と思っていたところ、ロビーにばたばたと足音がする。
「お待ち下さい!」
昨日の役人が、豪奢な服を身にまとった小さな女の子を追いかけていた。そして、その少女は、人形の手を引いて走っていた。
あれ? どういうことだ?
少女は奇術師の目の前に人形を連れてきた。金糸や銀糸が織り込まれた、まるで王族のような服を着た――というか、着せられたのだろうか――人形は、それでもいつものようにはにかむような笑顔を見せていた。手には、おままごとセットだろうか、木製のスプーンを持っている。ご丁寧に、これにも金の装飾が施されている。
「ええと、これは、どういう……」
困惑する奇術師に、少女は胸を張って言う。
「お迎えが来たんでしょ、この子が教えてくれたの」
この子、というのは人形のことだろう。人形はしゃがんで、手に持ったスプーンを少女に返す。少女は人形の頭をなでてから、
「たくさん遊んでくれたから、もういいわ。飽きちゃったの」
ポケットから、金で作られているのだろう、花がいくつもついた繊細な細工物の小枝を取り出す。高価なものだと見て取れるが、少女はためらいなく、それを人形の胸ポケットに入れた。
「これあげる」
人形は目を丸くしたが、
「このお人形さんね、お花くれたの」
少女はくたくたになったピンク色の花をポケットから取り出して、奇術師に見せてくれた。ずっと持っていたのだろうか。人形はよく、他人に花をあげることがある。この花もそうで――少女はきっと、この花を気に入ってくれたのだろう。
「だからお返し」
人形は胸ポケットから金の枝を取り出して、しげしげと眺めた。奇術師が横から覗き込むと、枝の端にはこの街の名前と、おそらくは少女のものであろう女性名が刻印されていた。
少女は人形に立ち上がるように促す。
「ばいばい」
少女は人形に手を振る。人形は少女に一礼する。
まるで公演の終わりであるかのように。
それから、少女は来た通路をまたすたすたと走って戻っていってしまった。
そこに残されたのは、奇術師と、人形と、少女を追いかけてきた役人だった。
奇術師は、あっけにとられている役人に話しかける。
「こういうことで、いいんですかね……」
「娘君が満足されているなら、それで……」
役人はどこかほっとしたようにつぶやいた。
この度はご迷惑をおかけいたしました、なにかお礼でも、と言う役人の提案を断って、奇術師と人形は宿に戻った。宿のスタッフには、何も問題ありませんでしたと伝えた。
「それにしても、どうして黙って出ていったんだ」
ベッドに腰掛けて、うつむく人形の隣に座って、奇術師は言う。
少女に着せられたのであろう豪奢な服を着たままの人形は、髪のモーブピンクと金糸のコントラストのせいか、いつもよりもなんだか、光って見えたのだが、目に見えて落ち込んでもいた。
「心配、したからな……」
そう言うと、人形は奇術師の方に向けて、右手で数字の一を作ってみせる。どういう意味だろうか。ああ、なるほど。
「一日だけ……?」
それから、泣いているようなジェスチャーをする。そういえば、あの七歳の娘が泣いていた、とかなんとか、役人は言っていた。
「ひとりぼっちで泣いてただろうから、遊んでやったってことか?」
人形は大きく頷き、大きなマジックが成功したときのように晴れやかに笑ってみせる。
なるほど、これはこいつなりの彼女に対する思いやりだったんだ、と奇術師は思う。
彼女のものにはなってやれないが、一日くらいは遊ぶことができるのだ、と。それこそ、伝えてくれればそのくらい許してやるつもりだったのだが。
「じゃあなんで僕に言ってくれなかったんだ?」
奇術師がそう言うと、人形はテーブルの方へ歩いていき、置いてあったカトラリーセットからスプーンを取り出して、右の手のひらの中で消してみせた。
「どういうこと!?」
マジックがどう、ではなくて、この行動の意味が知りたい。と思っていたら、人形はもう片方の手からスプーンを現させて、わあ、と驚いたような顔をする。
「僕を驚かせたかったってことか?」
人形は花が開くように笑って、奇術師の隣に座った。そこに温度はないけれど、あたたかな心があることを、奇術師は知っている。
自分に黙って消えたことはともかくとしてーーこいつの今回の行動は、人形が自分の意思でやったことなのだから、否定したくはなかった。
奇術師は、公演の後に観客が笑顔になっているのが好きだ。
そして、今回、人形はあの少女を笑顔にした。
それも、ひとつの魔法じみたマジック、なのかもしれない。
「お前って優しいんだな」
奇術師が実感を込めてそう言うと、人形がもう一度大きく頷くので、
「知ってるよ」
と頭を撫でてやった。こうしていると、なんだか、人形がいつまでだってここにいてくれるような、気がしてならない。
人形はしばらく撫でられていたが、そのうち奇術師の手を取って、自分の胸に当てた。心臓の鼓動の代わりに微かな駆動音がして、ああ、こいつは人間じゃないんだな、と思い知る。
だけど。
いや、もしかしたら、だからこそ。
「お前が優しいのは、よく知ってる」
だって、僕と一緒にいてくれるもんな、というのは、発されることなく、どこかに落ちていった言葉。
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