火曜日の魔法Ⅰ 恋愛成就の魔法
板谷空炉
火曜日の魔法Ⅰ 恋愛成就の魔法
大通りの裏通りの目立たない所に、小さなアクセサリーショップがある。そこは木曜日から月曜日の九時半から十八時まで営業しており、火曜日と水曜日は定休日。──名目上は。
だけど実際には火曜日の六時から九時までと十八時から二十一時までも営業しており、その時間帯に買うと、店主が魔法をかけるらしい。そのため基本的には様々な層の人間が足を運びやすくなっているものの、誰もその話を信じない。
それもそう。だって、信じないように宣伝にも魔法をかけているのだから。私だって、ちゃんと信じた人にのみ魔法をかけたいもの。だからそんなこんなでやってるから、「謎めいている不思議な雰囲気の雑貨屋」っていう印象を持たれてる。まあ実際にそうだし、お客さんも木曜日から月曜日まではいい感じに来るから苦労はしていないんだけどね。
さてと、今日は火曜日か。開店休業みたいな日だから、クロワッサンでも食べながらゆっくり過ごそう。さすがにこんな日であっても、店主が寝ていたら一年に一回来るか来ないか分からない、魔法をかけてほしいお客さんに失礼だから。
まあ、こんな早朝に来るわけないよね──
カランカラン。
え、ドアの開く音? 嘘お客さん⁉ こんな時間帯に? 営業時間ではあるけどこの時間に来るのは初めて。とりあえずクロワッサン飲み込んで……。
「いらっしゃいませ、お早う御座います。本日はどうなさいました?」
見るとお客さんは若い女性で、ベリーショートの髪とワンピースがとても似合っていた。
「すみません、ここって火曜日だけ魔法をかけてくれるんですよね……?」
女性は緊張した様子で言った。そのため私は緊張を解くように
「そうです、ここは火曜日だけ雑貨に魔法をかけることが出来るお店です。」
と言った。すると女性は安堵した表情になった。
「ありがとうございます。実は今日、好きな人と一緒に出掛ける予定で、緊張して早く目が覚めてしまって……。」
恋愛成就の魔法、ね。というか出掛けるならもう既に脈アリ、というやつでは? 何度もこんな感じのお客さん見てるから分かるけど、実際に恋愛成就の魔法なんて存在しないし、あったとしてもこの子には必要ない。もしも必要だというなら、それはきっと──
「お客さんは、その好きな人とどうなりたいんですか?」
私は女性に問いかけた。すると、女性は顔を赤くしながら
「今までずっとチャンスを逃してきたので、私から告白したいと思っていて……。」
と言った。
ああ、本当にこの人には、あったとしても恋愛成就の魔法は必要ないみたい。
「お客さん、まず魔法をかけるには、この店の雑貨を買う必要があります。そうでないと、魔法をかけることができないからです。どれになさいますか?」
私が問うと、女性は店内の雑貨をじっくりと眺めた。そして長い時間迷い、二十分ほどかけて選び、私の元へ来た。
「これをお願いします。」
女性が選んだのは、小さな赤い宝石のついたネックレスだった。
──この人は、本当にセンスが良いみたい。
「分かりました、こちらのネックレスですね。では、魔法をかけるので少々お待ちください。」
そう言って私は、ネックレスに魔法をかけた。
魔法をかけるとき、必要そうな魔法のほかに、一回だけ購入した人がどうなったのかを知ることができる魔法を毎回かけている。それは、出来損ないの私ができる、私なりのもう一つの保証書のつもりだから。
今日は水曜日か……。昨日は珍しくお客さんが来たから、感覚がいつもと違う。と言ってもいつもの休日の通り、昼過ぎまで寝てしまったけど。さて、あの女性はどうなったのかな……?
私は水晶玉をカウンターの下から取り出し、女性の様子を見た。すると今はちょうど昼休みらしく、女性とその想い人と思しき人が話していた。
──へえ、昨日ちゃんと告白して、今オッケー貰ったんだ。やっぱり魔法なんてあの女性には必要なかったみたいだけど、お守り代わりになったのなら良かった。
さてと、これから私はお昼寝でもしようかな。
火曜日の魔法Ⅰ 恋愛成就の魔法 板谷空炉 @Scallops_Itaya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます