第20話
エルフ2人とメイドが1人。
最近UTS界隈でも有名になってきたウェスタンエルフと慇懃クソメイドである。苔三人衆と呼ばれるギリードゥ達に加えてCoOから三人衆が呼び込んだ3人に加え、此処に新たに2人やってくるのだ。
「遅くないかね?」
「20分の遅刻で御座いますね」
「メールにもメッセージにも出ない」
そして、そんな3人は始まりの街にて待ちぼうけを食らって居た。
そもそもなぜこの3人なのか?と言えば3人の後ろに並ぶ十数名のUTSプレイヤー達のせいでもある。
「あと5分待って来なきゃ、僕らだけでやろう」
アキは不機嫌そうな表情を一切崩さずに告げた。
「そうだね。時間は有限だ」
「それではその旨を言いに行って参ります」
シェリフの言葉にクアトロが頭を下げるとUTSプレイヤー達の方に歩き出す。その直後、新人と思しき2人のプレイヤーがやって来た。
「ごめーん遅れたー」
「君のせいで僕まで遅刻だよ」
2人は十八年式を背負ったドワーフとヒューマンだ。ドワーフの方は極限まで体を小さく作ったのか小学生低学年も斯くやという具体である。ヒューマンの方は逆にこれと言った特徴も無いまでにテンプレートな欧米人という顔立ちだ。
「遅いぞMi-75!マガト!」
悪いと思っていないのだろうヘラヘラとした表情のドワーフことMi-75通称ミナコ、そんなドワーフを僕は悪く無いと心の底から思った顔で見て居るヒューマン、マガトだ。
「いやー性別男と女間違えて作ってた直しててさー」
「僕はそれに付き合わされていたんだよ。
それでどうするの?」
この2人に対して何を言っても無駄だと理解して居るアキは追求をやめ話を進めることにした。
「モリゾウの奴があいつ等に銃の連携を教えてやれと丸投げしてきた」
「新兵教育だよ。ブートキャンプって奴さ」
アキの言葉にシェリフが続ける。
「彼奴、軍経験ないじゃん」
「だから君達に丸投げしたんだろう?」
「僕、退役軍人だけど伍長で辞めたよ?」
「私は戦傷で名誉除隊、戦傷と名誉除隊の権限で二階級特進の軍曹だけど分隊指揮能力無いでーす」
2人が笑いながら答える。
この時代、自衛隊は国防軍に改定され制度もアメリカ軍を参考に大きく変わった。軍人としての地位は憲法によって国民の権利に保障され、傷痍軍人は基本的に名誉除隊の上生涯様々な特典が付与、通常除隊でも公務員への就職斡旋や他の職業にも有利になる枠が与えられるなどの得点がある。
「モリゾウ曰く“指揮はテンチョーが取る。お前等ペーぺー上がりだからペーペーの動き方教えろ”って言ってたぞ」
「彼奴ほんとクソ腹立つ。
いつか吹き飛ばしてやる」
Mi-75が悔しそうにグギギと握り拳を作り天を睨む。
「でも、まぁ、彼の頼みなら仕方ないよね」
「そうね。本当にね」
2人は苦笑にも感謝にも似た声色で告げるとメイドを見た。慇懃に頭を下げ2人を出迎える。
「やぁ、クアトロ。あっちで見ないと思ったらこっちでメイドをやってたのかい?」
「はい。
あちらは些かメイドは浮きます故」
荒廃した近未来都市に真っ白なレース付きのエプロンドレスは似合わないのだ。
「そりゃー……ねぇ?」
「まったくだね。
じゃあ、ガンスリンガーとシェリフが此処に居るのも?」
「まぁね」
「アサルトライフルやバズーカより、弓や剣の方が我々に近いからね」
アキやシェリフも頷いていた。
「ま、良いか。
君等も手伝ってくれるのだろう?」
「ああ、そのつもりだよ」
「知識は無いがな」
「お二人と違って軍人の知識は無いですが、銃撃戦への心得は後ろの方々よりもあるつもりなので」
3人の言葉にMi-75とマガトはまーやるかと笑った。その後、このブートキャンプはネットにアップされMi-75とマガトのチャンネルは盛り上がる。
ブートキャンプから1週間後、モリゾウから彼等に作戦説明をするぞと招集が掛かる。
トップダウのギルド集会所、参加ギルドの代表と代表が話を聞いておくべきと判断した者達、エルフのガンナー、メイド、純白の武士にミニマムドワーフとやる気のなさそうなヒュームも居た。
「おーミナコとマガトじゃん。
お前等も来るの?」
「行かないよ。
でも、ある程度は教えたからね」
「グレランかATM出たら参加するよ」
2人はそんな感じで笑って居るだけだった。
「多分グレランと使い捨てのATロケットが先じゃねーかな?
俺の予想ではグレラン系はカップかピゴット式?あの小銃の銃口先につける奴が当初出て来ると思う。
対戦車手榴弾の走りはあるからそっち路線も考えれるぞ」
モリゾウが俺的にはM1バズーカかPIATが怪しいと笑う。
「なるほどねー
私の愛銃ダネルちゃんはまだまだ遠いかー」
「先にM79だろうな。
んで、チャイナレークのポンプ来て、北だか南アフリカの作ったマルビンだっけ?あれじゃねーかな」
Mi-75の言葉にモリゾウは俺の予想展開と話を膨らませていく。そんな2人にマガトも加わった。
「ATRは?」
「まー弾は見つかってる。
多分M1918タンクゲベーアがATRだと最初だろうな。個人的にはK弾とかも出てきそうだから、Kar98とK弾の組み合わせでルート開拓されてもおかしく無いと考えてる」
因みにモリゾウが駄弁ってる裏ではトドマンとテンチョーが何やらデータをあれこれやっている。
「取り敢えず、銃出たら教えるわ。
お前等もそこまでのルート開拓出来るようにある程度は進めとけよ。
武器だけ渡しても発展性ないからそこに至るまでは自分で開発しなくちゃダメだからな。
シェリフとガンスリンガーやクソメイドみたいにそれしか使わねぇなら良いけどお前等絶対そう言うタイプじゃねぇし」
モリゾウが釘を刺したところでトドマンがパンと手を叩いた。
「今から作戦説明を実施する。
着席」
トドマンの指示にモリゾウはトドマン達の方に移動し、参加しない教育係達は壁際に移動した。
「おはよう諸君。
今回の作戦全般指揮を担任するテンチョーだ」
テンチョーは睥睨する様に全員を見回す。
「前回、我々は諸君等に乞われ、諸君等の指揮下で戦った。結果は言わずもがな、案の定と言うか、まぁ、私が想定して居た通りにお粗末にすぎる結果だった」
テンチョーが呆れたように笑うとトドマンがその場にいる全員にファイルデータを送る。モリゾウも初めて見る作戦計画だ。
受け取って開くとなかなかのボリュームのデータが表示された。モリゾウはいつもより少ないと喜び、他のプレイヤー達は何だこの量はと驚いていた。
「いかんせん、敵の情報が余りに現実と乖離して居るのと情報収集に苦労した。
あれから何度か情報収集の為に私とトドマンで挑み弱点を再度洗った。具体的には目と鼻、口と喉、腹の柔らかい箇所。何処が一撃で最も効率的かつ的確にダメージを与えられるのかも調べた」
モリゾウは表または鏡とも呼ばれる1枚目をまじまじと見る。
“ウルティマ・トゥルー・ストーリーにおける荒野のワイバーン攻略協同攻略に関する計画”と非常に長ったらしい計画名が書いてある。
2ページ目からは本文が始まっていた。
“目的 ウルティマ・トゥルー・ストーリー(以降UTSと表記する。)プレイヤーと協同し荒野のワイバーン(以降ボスと表記する。)を倒し、UTSにおける活動範囲を広げることにある”
と表記されて居る。
「何だこれ……」
「うわぁ……凄いなこれ」
「事業計画書みたい」
何かのトラウマを引っ張り出されたり圧倒されたりしたプレイヤー達を尻目にモリゾウは自身の役割などを書いてある属紙や付紙などを確認していく。いつもの事なので読み方もわかって居るのだ。
モリゾウはじっと作戦計画を見る。暫くしてから顔を上げる。
「え、何スカこのクソ何も無い計画」
モリゾウの言葉にテンチョーにウムと頷く。
「そもそも計画立ててやる程内容が無いんよ」
「何も面白く無い。トドさん、こんな親父ギャグ罷り通ってて良いんですか!!」
「ハハハ。
いやー僕も正直これ以上に思いつかなかったんだよね。テンチョーは寧ろよくここまで書けたよ、褒めてあげてよ」
トドマンの言葉にモリゾウはテンチョースゴーイと気のない言葉を送る。
「そう言う訳だ。
作戦なんか基本基礎の徹底としか言えん。逆に言えばそれさえ出来れば誰でも勝てる訳だ。
距離感、適切なヘイト管理、厳格なタイミング。この三つを守れば簡単に倒せるのが荒野のワイバーンだ。
逆に言えばこれができなければお前達は負ける」
テンチョーの言葉にUTSプレイヤー達は息を呑む。彼らから見ればこの内容が全く無いと言われる計画ですら十分過ぎるほどに研究されて居るのだ。
「あの、CoOではこれよりも分厚い計画になるのか?」
1人のプレイヤーが困惑した様子で尋ねる。テンチョーとトドマンは顔を見合わせ、それからモリゾウを見る。モリゾウはホレと何かなデータファイルを送り付けた。
「は?」
そのデータ容量もさることながら本文と添付ファイルの量にも驚愕する。
作戦内容は実に下らない、有名Vtuberと有名配信者のコラボを襲撃してその様子を後日アップロードすると言う物で、当然ながらこの企画には相当のファンと言う護衛も参加しており、それをたった3人で襲撃して帰ってくると言うまさに一昔前のFPSのような内容だった。
作戦地域とその研究だけでページにすれば100枚を超え、それから戦力相対比、そこから考えるお互いの利点欠点、それらを鑑みての各種プランとどのタイミングで仕掛けて来るのか、また予想される参加プレイヤーやクランなどの特性や慣用戦法などなど凄まじい量の枚数になるであろう計画書がある。
「これ、テンチョーが全部?」
「いや、正確に言えばモリゾウが地域見積、トドが情報見積作って私がそれらをもとに作戦見積作って計画にした。
私やトドの足元にも及ばねーけど、モリゾウかなり作戦のイロハはわかってるからな。
前線ではマジでモリゾウの命令聞けよ。じゃねーと私らの弾がお前らにも当たることになる」
プレイヤーは地域見積と書かれたファイル、つまりは100ページを軽く超えるそのページをマジマジと読む。襲撃予定地となる何たらの平原一帯に付いて行った事もない彼ですら図と写真、地図と言った添付ファイルから容易に理解出来、それらを持って襲撃ポイントとなるだろう目標の動向を予想した理想の位置を割り出して居る。
「因みにこれは成功したのか?」
「おうよ。
この回だぜ。後で見とけよ見とけよー?」
モリゾウがそのファイルと動画リンクを全員に送る。全員がそのファイルの容量に驚いていた。
「その動画を見ながら各見積を見て行くとかなり面白いよ。
まるで未来を予想したかのように動いていくからね。ドンピシャでハマって行って実に痛快だよ」
シェリフが動画リンクを見るといやはやと笑う。
隣のアキは面白くなさそうにフンとリンクを消す。彼も一応参加していたが、見事に出し抜かれたのだ。
「そろそろ作戦の説明をしたらどうだ?」
アキがモリゾウを睨むとモリゾウは楽しそうに笑った。
「怖い怖い。
テンチョー、作戦説明しましょー」
「そうね」
テンチョーは頷くとパンと何処から出したのか指図棒を取り出した。
「作戦説明と、言うほど大層なものは無いが、作戦説明を実施する」
この地図を見よ、テンチョーが空中に浮かび上がる地図を指した。レーザーポインターにもなる指図棒を使って説明を始めた。
まずは戦場の位置、敵を丁寧に説明する。地理や地形的特性を説明する。殆どの者はそんな事知っていると言う顔で話を聞いている。
前提条件の均一化であり、これは必要な事項だ。
「さて、敵だ。
道中の雑魚についてはモリゾウがやる。ショットガンで片付ければファンタジアが剣で切ったり、槍でついたり、弓矢を射るより早い事が分かっている。
お前達も知っての通りゴブリンや変な牛やらだが「アレは馬っすよ」
テンチョーの言葉にモリゾウが手を挙げる。
「ちがう、あれは鹿だ。
元のは初心者用の森にいるビッグホーンハインドって鹿の荒野にいるワイルドビッグホーンハインドって名前だよ」
UTSプレイヤーの1人が呆れた顔で正解答えるとモリゾウ達は鹿かよ!と笑う。
「あんな凶暴な鹿堪んねぇな」
「もうちょっと鹿っぽい所を見せろよ」
「あ、よく見たら尻尾が鹿だわ」
3人はスクショを凝視しながら文句を垂れる。
「まーどちらにせよ雑魚だ。気にするな」
テンチョーがため息を吐きながら告げ、次と切り替えた。
「本題はこいつだ。
スーパーハインド」
テンチョーが告げると後ろに並ぶ面々はフッと笑う。
「
UTSプレイヤーの1人が首を傾げる。
「Mi-45で調べろ。
Mi-24にもあるが、原型機のMi-35をモデルにMi-24スーパーハインドと同じ様な改良した奴だ。
まぁ、各国のスーパーハインドが耐用年数迎えたから開発されたインド産のバカ強いクソ安い、そしてクソ頑丈って言う夢の様な歩兵の悪魔だよ」
「そして、我々の中ではワイバーンのあだ名になってる」
テンチョーとトドマンは感情が死にきった様な声色で告げた。
「まー23ミリもスマートロケットもないから随分と彼奴よりは弱いけどな」
「それでも30口径ライフル弾と手榴弾で殴り合うのは正気の沙汰じゃないよ」
2人はそう笑い合う。
「それで、そのスーパーハインドはどう倒す」
UTSプレイヤーが尋ねる。
「簡単だ。
我々がヘリを落とす。落ちたらお前達が殴るんだよ。
得意だろう?そう言うのは。
攻撃タイミング、撤退はモリゾウの指示でやれ」
「アンタらの攻撃タイミングでオレ達が攻撃するのか?」
「そうだ。
お前達からすれば不可解な行動もあるだろうが、それを1から全て説明すると攻略が数ヶ月から年単位で遅れる」
テンチョーの言葉にモリゾウとトドマンが頷いた。
「因みにモリゾウの指示は絶対だ。
逆らったらその場で殺す。SP通過は今週金曜の2000、2045までにAtP到達、AtPに於いて命令補足、2100にLD通過。2200頃任務完了予定だ」
後は資料を読み込んでおけとテンチョーは説明を終わらせた。
モリゾウ達は楽な任務だと笑い、トドマンも頷く。そして、不安な顔をしているUTSプレイヤー達を残してログアウトして行った。
「見ろよマガト上等兵」
「何です、ミナコ軍曹」
「初めて命令下達に参加した新兵達を思い出す顔よ」
「ですね軍曹」
そしてマガトとMi-75は笑いながらそんなUTSプレイヤーを指差して笑っていた。
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