第19話
結果から言えばワイバーン攻略第一回目は見るも無惨な大失敗に終わった。
「なー?
私の言った通り10分持たなかっただろ?
次の飲み会はお前達の奢りだかんな!」
ギスギス感の強いUTSプレイヤー達と違ってギリードゥ3匹は実に気楽なものだった。
「1時間は待って欲しかったなぁ」
「流石に1時間は欲張りだったっすねぇー
でも言うて30分も持たないのは、流石にヤバいですよ」
「しょうがないよね。
彼等は銃の特性やワイバーンのAIに付いてなにも理解が浅いからね。
その証拠に前衛ピンチになった瞬間テンチョーに狙撃援護求めてたしね」
ワハハと笑いながらモリゾウ達はビールを飲む。
「あんた等、分かっていながらなぜ教えてくれなかった!」
「俺等が一から十まで教えてお前等がはいそーですかと素直に聞くのかよ。
この後19時から俺等が3人で行って2時間であのワイバーン落とせるなーってなった動画あげるから見て研究してね。
俺等其々の視点は個別チャンネルで、俺が編集して解説まで入れた動画はメインチャンネル上がるから。
こっちはそこそこ切ってるから全編丁寧に見たいなら俺等個人が上げた動画の方を見てくれたらいけると思うわ」
モリゾウが質問あったら俺等の誰かに聞いてくれと告げた。
モリゾウ達の動画は後5分程で配信される。
「お前達が各人の動画をこの場で俺達に解説してくれ」
UTSプレイヤーの1人が手元の何かを操作すると水晶玉の様な物を模したプロジェクター的なものが反応して映像が浮かび上がる。
世界規模で有名な配信サイトが表示されて操っているプレイヤーが入力しているのだろうファニーキルカムズのチャンネルに飛んだ。
「テンチョー」
モリゾウの言葉にテンチョーがハイハイと手を挙げた。
「まずは全般見て。
そこから各視点でそれぞれが解説してくわ」
公開されるまで、全員が各々の準備をする。
先ずはモリゾウが編集をした動画だ。
“えー、今回は前回に引き続きあのクソ忌々しいマンハント型ハインドかよと言わんばかりに強力なワイバーンの各挙動や特性を改めて検証して行きつつ、まーこの後一緒にやるUTSの攻略組達に資するデータ取りをしにやって来ましたーってな感じで始まります”
真っ黒い画面に白い字幕共にモリゾウのそんなやる気のない前説が入り、場面転換する。
“じゃー基本的な流れはこの前と一緒。
後一撃で死ぬかもーなHPになったら撤収よ”
画面端で九九式狙撃銃を担いだテンチョーが告げた。
“俺が最前衛で囮兼アタッカー、トドさんが俺やテンチョーの支援、テンチョーは弱点狙撃と全体指揮”
モリゾウは其々のポジションを、ポンチ絵付きで説明を入れた。
さらに補足で其々3人の行動範囲と射撃距離、位置が追加されていた。
具体的に言えばモリゾウとトドマンが半円でいう80度と160度の位置におり、テンチョーがその間と言う位置どりをして居る。
“んで、此処にファンタジア共を入れるとこうなる”
ファンタジア展開予想展開図(テンチョー作)と描かれた手書きの絵が表示された。
モリゾウとワイバーンの距離を大凡150メートルとして最長で300メートルの間で離れる。その更に外のトドマンは300から400メートルの間、テンチョーに至っては400から800の間で行動する。
しかし、そんな3人よりも更に前衛に出て居るのがファンタジアと呼ばれたUTSプレイヤーである。
「ファンタジアって俺たちの事か?」
UTSプレイヤーの1人が顔を顰めながら聞く。
「おう。
UTSプレイヤーは基本ファンタジアとかUTS側とかそう呼んだり表記してる」
「なんか嫌だな。
お前等も同じゲームやってんだからファンタジアじゃん」
プレイヤーの言葉にモリゾウはテンチョーを見た。ファンタジア呼びし始めたのはテンチョーだからだ。
「私等はCoOの延長で此処に立ってるし思考行動原理もCoOよ。
でも貴方達は剣と魔法とたまに弓でしょ?私等にはそんな思考無いのよ。ファンタジーな思考が無い。貴方達にはある。そこの差よ」
テンチョーが答えるとモリゾウはそう言えことと告げた。
動画の説明図に0から80くらいの距離と描かれた位置にファンタジアと書いてある。そこから更に“サムライバスターとスリーラブ、アンダースリーによる修正”と字幕が入り0から80の表記が0から50に変えられていた。
“俺より前に出られるのキチィな”
画面はワイバーン攻略直前に戻る。モリゾウがグルグル肩を回し、StG44の弾倉を引き抜くと弾を確認してチャンバーチェックも行った。
“しょうがないよ。
彼等は文字通り近接戦闘部隊なんだから”
トドマンもMG42を肩に担ぎながら告げる。此処で指す近接戦闘部隊とはミリタリー用語の歩兵や戦車などと敵と交戦する際に直接照準距離で戦闘を行う部隊てはなく、所謂CQCを始めとする徒手や剣や槍などの白兵武器による攻撃をメインとした部隊であると言うことだ。
“確かに。
じゃあ、自分等も彼奴等と協同する際は白襷して戦います?”
“止めろよー縁起でも無い”
“彼等攻撃に失敗して全滅したじゃん”
モリゾウの言葉にテンチョーとトドマンは大笑いしながらやらんと告げた。
白襷とは、旧軍の伝統的な夜戦を行う際の彼我識別の為の目印であり1番有名なのは日露戦争時の第三次総攻撃だろう。第一師団第二旅団長麾下特別編成された特別予備隊が第三軍司令官の乃木希典肝入りで編成された兵士達が目標に付けていたので「白襷隊」とも呼ばれたのだ。
彼等は別に剣や槍で戦ったわけでは無いが夜陰乗じて突撃を敢行し、陣地占領を目指したこととあと一歩で攻略できそうだった物の被害甚大で撤退を余儀無くされた。
因みに此処での全滅は部隊が作戦遂行能力を喪失したと言う意味での全滅であり白襷隊は死傷者多数で深夜には負傷者や生き残った者達を収容して撤退して居る。
3人は準備が整った為にワイバーンの支配領域に侵入した。
“ワイバーンはこの石がポツポツ置かれた線超えると襲って来るし、此処から引けば追ってこない。
ただし、ブレスとかは普通に撃ってくるから逃げる際はこの線より更に後方に逃げる事”
モリゾウが足元の特徴的かつ目立つ様に並んだ石の線を指差しながら告げた。そして、今一度モリゾウはトドマンとテンチョーを見る。
“オッケー”
“こっちも”
テンチョーとトドマンが手を挙げると、モリゾウは頷く。
“じゃ、行きまーす。
LD通過ー”
モリゾウがラインを超え、その後にトドマンが続く。それから少し遅れてテンチョーが通過した。
「LDとは?」
「line of departureの略。
攻撃開始線って意味よ」
テンチョーが解説する。
動画はモリゾウが拳銃を抜くと適当に撃ち始めた。暫くすると何処からともなくバサバサと風切音が聞こえ、巨大な影が見えてきた。
「でかい音を出せば彼奴はそこに飛んで来る。
そして、音の発生源を狙って来るわけだ」
画面内のモリゾウは撃っていた拳銃、オートマグ3をワイバーンに向けて撃つ。
弾は当たるも距離が遠すぎる為、その甲殻に弾かれる。モリゾウは弾切れになったオートマグを脇に捨てると背負ったStG44に持ち帰る。
StG44、口径は7.92ミリで使用する弾はGew43の57ではなく33なので中間弾薬に該当する。
威力は3人の中で最も低いが、連射性と機動性が高い。また先に手に入れたM4やM16と違って攻撃力も高い。
故にモリゾウはStGを握って居るのだ。
「そう言えば何であんた等バフとかデバフ乗せないんだ?」
「その概念がないのとそういうの関わってこなかったから理解が出来ないからだよ。
此処で有用なバフは何かな?」
トドマンが質問者に尋ねる。
「基本的にモリゾウさんには回避率上げる支援系バフですね。
テンチョーさんには攻撃力と隠匿性上げる為のバフを掛けます。トドマンさんには防御でしょうか?」
「あとは銃に氷属性のバフ乗せてダメに属性載せれば強いと思う」
UTSプレイヤー側があれやこれやと言っていく。
「銃に氷属性のバフ乗せて弾は氷属性になるのか?」
モリゾウがどんな理論やと笑う。
「乗ると思います。
弓でも普通の矢は氷属性バフかけた弓で射つと属性ダメージが付与されます」
「へーそれはどんだけ効果発揮するの?」
「大体弓矢だと30本ほど撃つと効果が切れます。ダメージ倍率が高ければ高いほど射てる矢の数は減ります」
モリゾウの質問に術師なのだろうローブを纏ったプレイヤーが答えた。
「攻撃に相乗させるバフ要員は基本テンチョーに回すか」
「そうね。
モリゾウは回避と足の速さあげるバフ掛けましょう。挑発的なバフはあるの?」
テンチョーの質問に術師は頷いた。
「ありますよ。
一定時間敵のヘイトを強制的に集めます」
「いーじゃん。
テンチョーが射撃する際に俺にそれ掛けましょう」
「そうね。
バフの射程はどのくらいなの?」
テンチョーが尋ねると術師達は困った様に笑う。
「理論上は射程は無いです。目視圏内なら行けるはずです」
「ならスコープ覗いて撃てる様にすりゃ良いんじゃね?」
「そうね。
練習しなさい」
モリゾウの提案にテンチョーが告げた。
「練習しなさいって……」
「あ、今回は君等主導でやったけど、次は僕ら主導で行くね」
抗議しようとしたUTSプレイヤー達にトドマンが断言する様に告げる。
「ワイバーンを殺したいと言うお前達の我儘を叶える為に俺が協力してんだ。
お前等の指図で前回の作戦を遂行した。結果、作戦は瓦解……いや、作戦なんて言うにも烏滸がましい。
我々は目的を達成する為に手段を変える必要がある。
その一環で次は我々が指揮を取る。お前達の指揮は余りに杜撰だ。手持ちの駒を研究し、考えろ」
トドマンが告げるとモリゾウは頷いた。
「ほんじゃーまー
一丁、いつものやっときますぅー?」
テンチョーがパンと手を叩いて立ち上がる。するとトドマンとモリゾウが立ち上がった。
「気を付けぇ!!!!」
そして、トドマンが怒鳴りつける様に告げると全員が立ち上がる。
「只今から、ワイバーン攻略隊編成完結式を実施する。
部隊長臨場、部隊気を付け!」
「気を付けぇ!!」
トドマンが告げるとモリゾウ怒鳴り付ける様に告げる。UTSプレイヤー達は先程からずっと気を付けをしたままだ。
モリゾウはテンチョーの前に立つ。モリゾウは踵を合わせて敬礼をする。テンチョーはそれに合わせて敬礼をした。
「各部隊長集合完了!」
「休め」
モリゾウの報告にテンチョーが告げるとモリゾウは休めと告げた。
「はい、おわりー」
テンチョーが告げるとモリゾウは椅子に腰掛け、トドマンも腰掛けた。
「お前等みーんな私の指揮下ね。
基本方針は私達が考える。作戦は私が説明する。意見があれば聞いてあげる。私は私の持てる全てを目的達成の為に使う。
お前達は目的達成の為に私に付き従い、全力を尽くせ。
私はお前達と違って妥協はしない。
だからバフ要員は狙撃兵の様に適時適切なタイミングで掛けろ。剣持ってる連中の攻撃タイミングや引くタイミングもコンマの狂いもなくやれ」
テンチョーの言葉にUTSプレイヤー達は生唾を飲む。
「これは遊びだ。
仕事じゃねぇんだ、死ぬ気でやれ。遊び舐めんなよ」
モリゾウが真面目なトーンで告げ、トドマンも頷いた。
「正直、解説なんかいらねぇんだよ。
俺達の動きを見てお前等が何処になら自分が1番能力発揮して俺等支えれるのか考えろよ。
俺等がお前等のためにどうすりゃ良いかじゃなくて、お前等が俺等と任務の為にどうすりゃ良いか考えろ」
モリゾウが告げ、トドマンも頷いた。
「次、私達はお前達が例え全滅しようが我々はワイバーンを殺す。
これは我々がお前達の我々に対する依頼を達成する為だ。我々の目的はワイバーンを殺す。
それを重々承知して欲しい。そして、この戦いはライブ配信をする。君達も勿論良い。
故に全力でやり給え。此処が分水嶺だ」
テンチョーが静かに告げる。
「我々はCoOでもかなり有名なプレイヤーだ。日本大会で優勝経験もある。
世界ランクもいった。
そんな我々が3人で倒せるモンスターだ。お前達の不甲斐無さはCoO界隈に知れ渡る。CoOプレイヤー達は興味を持ち始めた。
お前達の頑張りが、今後このゲームにおけるお前達の立場を決める。我々のおもちゃになるか、我々のライバルになれるか。
頭を使えよ。腕の立つCoOプレイヤー相当頭がおかしいぞ」
モリゾウの言葉にテンチョーが今日は終わりだ、と告げるとログアウトした。トドマンも頷いて去っていく。
「じゃ、作戦が決まったらテンチョーから事前説明あるから。それまで俺等の動画しっかり見ておけよー
マジで見とけよ?冗談抜きで。テンチョーもトドさんもああ言ったけど、俺的には“皆んなでやろうぜ”って思いあるんだわ。
あの2人、マジでガチ勢だからよ。ちょっとの妥協も許さねーの。とくに今みたいな目的とか達成とか言い出したら本気なのよ。
故に死ぬ気でやろうぜ?遊びこそ死ぬ気でやろうぜ?
なんか分かんなきゃ俺に聞いてくれ。窓口はサムライバスターだ。んじゃ、死ぬ気で遊ぼうぜ!」
モリゾウは親指を立てるとログアウトしていった。
「攻略組って呼ばれてさ、調子乗ってたわ」
「ホントだな。
何だよ、これは遊びだぞ。仕事じゃねーんだ。死ぬ気でやれって」
「昔のタレントが言った名言?らしい」
プレイヤー達は乾いた笑いをしながら、改めて動画を見る。
「選抜掛けるか。
今まで以上の」
「だな。
リハで何度も行くか」
「ああ、あの苔野郎共に調子乗られるのも癪だしな」
それから作戦発表がされるまでの間、参加ギルドは精鋭中の精鋭を絞る事となった。
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