第18話

 内容を簡単に言えばワイバーンを殺すのに協力して欲しいと言う物だ。


「何よそれ?

 アンタ達が銃の使い方覚えれば良いじゃない」

「構えて狙って撃つだけだ。

 両手と眼があれば誰でも出来る」

「ま、儂等の様な腕前になるには数年掛かるだろうがね」

「私、帰ってもよろしいでしょうか?」


 テンチョーの言葉にエルフ達とメイドが告げた。この場でそのワイバーンに興味がある者はUTSプレイヤー側だけなのだ。


「待ってくれ!

 あそこを抜ければ、お前達の欲しがってる武器も出るかもしれないぞ!」


 その言葉に反応したのはギリードゥ3匹だ。


「RPGとかグレポンとか出るんか?」

「出てもそれが必要な敵は既に倒してますよ」

「しかも、グレポンよりRPGの方が嬉しい」


 テンチョーの言葉にトドマンとモリゾウが告げる。


「やっぱ対戦車ライフル欲しいよねー」

「つーか、鉄砲鍛冶は鍛治スキルは同じ?」

「細工師スキルが弾丸製造出来る根拠も欲しいね」


 テンチョー達はワイのワイのと盛り上がり出す。


「話も終わった様なので、私は失礼させて頂きます」

「儂等もこの銃の性能を試してみたいから失礼させて貰おう」


 エルフとメイドはいよいよ立ち上がって去ろうとする。そんな3人にテンチョーとモリゾウが思い出した様に告げた。


「トップダウって所のプレイヤー達はめっちゃ経験値貯まるけど、正直的撃ちにもならないから外のモンスター相手にした方が楽しいよー」

「あ、レバーアクションライフルあるけどエルフのお二人さんはいる?」

「貰えるなら貰おうかな。

 M1873かい?」


 シェリフがウムと頷いた。


「Yes!

一丁あげるからあとで2人で分けて。一回譲渡すればあとはポンポン出せるから。ただし、その先の銃出したい時はそれまでの銃開発するか、既に開発してる人に譲渡してもらってくれ。

 時間あれば後で俺が渡しても良いぞ」


 モリゾウの親切心にシェリフもアキも笑った。


「流石にそこまでは大丈夫だ」

「お前に借りを作ると面倒だし、ある程度は僕達にもゲームをさせてくれ」


 モリゾウは2人にグッドラックと見送り、クアトロ・セブンは深々と丁寧に頭を下げて出ていった。

 口が悪いがメイドと言う立場ロールする。故に慇懃クソメイドと言われる所以だ。


「んじゃ、私等はワイバーン討伐戦に参加で良い?」

「僕は異存無し」

「俺もー」


 テンチョーの問いに2人はオッケーと答える。


「んじゃーそーゆー事で。

 作戦決まったら伝えるから。そっちも作戦決まったら私に教えて」


 テンチョーはそう言うとそろそろ時間じゃと言いながら立ち上がる。トドマンもモリゾウもヤベヤベと立ち上がってホールを後にした。

 残ったUTSプレイヤー達は呆気に取られ、お互いに顔を見合わせるしか出来なかった。


「あ、彼奴等あんな適当で本当に大丈夫なのか?」


 ローブ姿のプレイヤーが隣のプレートアーマーのプレイヤーに尋ねた。


「分からん。

 だが、実力は確かだ。あの動画を見たろう?我々は彼奴等の倍以上の時間をかけても半分だ。彼奴等は7割も減らしてる」

「どう言う編成をとる?」

「あの3人を攻撃のメインに置いて、我々が囮兼地上に降りた際の攻撃担当だろう。

 足の速い奴と頑丈な奴は俺とGTSが用意出来る。お前の所は魔術師と錬金術師メインでサポートに徹して欲しい」

「私等ん所はどうする?

 足は速いが知っての通り弓メインと短剣や短槍だぞ」

「そうだな……

 あのモリゾウ?とか言う奴みたいに近距離から弓で射つのはどうだ?」


 UTSプレイヤー達があーだこーだと話し合い、作戦を詰めて行く。此処で彼等の間違いは此処に居る誰もが銃に付いての理解が非常に浅い事だろう。

 そして、その事も含めてテンチョーは分かっており笑っていた。ゲームショップ“ゴッド”で3人は自分達で作戦を話し合っている。


「彼奴等どーなると思う?」

「普通に射線管理とか考えなしで策立ててるでしょうね」

「まー一回彼奴等の完全指揮下でやって負けるのも良いんじゃ無いんっすかね?」


 3人はワイワイと話しながら動画サイトを見て行く。今日いたギルドチームのあげた動画を見る。

 革鎧のプレイヤー達、盗賊や狩人の職種を集めたギルド、偉大なる盗賊集団、通称GTSの戦術は基本的に静かに囲んで一気に叩く、一撃でやらなければ毒や麻痺と言った状態異常で相手のだ。

 だが、今回の敵にはかなり不利だ。高い探知力と索敵力、同時に非常に硬く一撃も強い。


「堪らんなぁー

 こいつ等足手纏いになりますよ」


 そんな動画を見ていた戸田が苦笑する。

 全員が弓矢を持って射っても魔術による付与を持ってしても射程が60から80メートルだ。十三郎ですら150メートル前後を取って戦っていた。


「このホグワーツ達の炎攻撃とか雷攻撃とかはどんだけ効くのかっすねー

 あのワイバーン炎吐くのに火炎弾撃ち込んで効くんすかね?」

「あのワイバーンの弱点は氷属性って書いてるからその時は氷の魔法使うんでしょ?

 一応あの動画でも氷魔法とか水魔法使ってたし」


 店長の言葉に十三郎はそこまで馬鹿じゃ無いかと笑う。


「まーどっちにしろ一回やって素直に負けて、2回目は私等が弾切れまで戦ってバトンタッチしましょう。

 あと、普通に私等と彼奴等で考え方が根本的に違うから向こうが銃を育てて頂戴でやるしか無いわね」


 店長は勿論、戸田や十三郎には向こうに合わせると言う概念はない。と言うのも余りにも戦術が違い過ぎるのだ。店長や戸田ならばマスケット銃黎明時代の戦闘を参考にしてどうにかこうにか思いつくだろうが、それをやるには余りにも店長や戸田と十三郎、ひいてはUTSプレイヤー達の意識の乖離、認識の乖離が酷すぎるためにまともな戦術を立てるのに何ヶ月かかるか?と言うレベルになる。


「取り敢えず、予習と復習でもう一回行っときますぅ?」

「そうねー

 もう一回彼奴の動き見ときましょ」

「弾、この前の3倍持って行って余裕持って戦える様にしよう」

「俺じゃあ5倍。

 手榴弾は正直使い所無かったのと本番でファンタジア共居るから無しで行ってみますわ」

「あーそうか。

 いや、持って行って。収束多めで」


 テンチョーを長にしっかりと作戦を考え始める。尚、現在3人は営業時間中だ。店には客が居ないので堂々とカウンターで作戦会議をしている。

 それから1時間ほど各挙動に対してどう言った行動をするかを綿密に打ち合わせをした。


「じゃ、今晩は2時間目安で攻略して本番に備えましょう」

「うっす」

「撃破しちゃダメよ。

 HPギリギリまで削って撤退よ。で、その映像を撮って他のクランの連中に配って私等の動きの参考にさせるわ」

「了解」

「りょーかい」


 こうして後にUTS全体に激震の走る事となる“銃強過ぎる問題”が勃発するのであった。

 後に運営と融資が再現性がない、ここでの再現性とは普遍的につまり誰もが同じ条件で達成が可能であると言う実証がないとして“たまたま偶然に出来た”と結論付けたが、それでも尚“銃の威力おかしく無いか?”と定期的に掲示板ではスレッドが立ち、SNSではUTS定番炎上コンテンツになってしまうことはこの時の彼等は知る由もなかった。

 また、CoOのプロプレイヤーと称するに相応しい人物達の気紛れにも似た“CoOでの愛銃を使ってUTSのボスに挑んでみた”動画もちょくちょく上げられる様に成りCoOプレイヤーの流入も増えた。

 それに伴いリアルマナーを通して“開発した銃を有償譲渡します”と言う行為が散見される様になる。勿論譲渡されたとしても十全に扱えるかどうかはまた別だし、各種カスタムパーツや弾薬費用は馬鹿にならない。

 特に連射武器に関しては論外と言わんが如くの大金を要求される。例えばトドマンが現状使うMG42は1発100円とすると250発で25000円になる。そんな2万5千円を物の数秒で撃ち尽くしてしまい、次々とこの2万5千円を前線で戦うモリゾウの為にせっせと撃ち込むのだ。

 更に後々に手に入るAP弾やその他特殊弾になればその値段も馬鹿上がりしていくので金食い虫にも程がある。

 誰がどんなタイミングで使っても同等の威力が出るが、相手がゴブリンだろうがワイバーンだろうが同じ威力、同じ属性、同じ射程だ。

 また、敵によっては銃弾そのものが通じなかったり殆ど効果が無く、効果のある弾丸は値段が跳ね上がるし、交換も中々大変な為に結果として銃は扱いづらくなる傾向にある。

 現にモリゾウ達が1番苦手とする相手は実はスライムだ。ファイアーボール等最初に覚えられる魔術や剣などの腹で核あるいはコアと呼ばれるところを潰せば容易く倒せるのだが、揺動するコアを狙撃するのは中々に難しい。

 どの位難しいのか?と言うとゴルフボール大の球が蝶の様にフワフワと動いているのでそれをそれを狙うのだ。

 因みにモリゾウはコレに関して当初はショットガンでコア付近の体液ごと撃ってコアを破壊、ないしは体液を吹き飛ばして体形維持を出来なくさせて無効化させていた。

 が、めんどくさいのと強酸性の体液であっても一瞬触れるぐらいなら履いている靴、初期装備ゆえに破壊されず最低限の防御力がある、のでコア近くを思いっきり蹴飛ばして無効化ないしはコア破壊をしている。

 また銃床によるゴルフよろしく素晴らしいスイングで飛ばすこともあった。


「ワイバーンの所に来るまでに意外に弾使ってたってのもありましたね」


 M1897を天秤の様に担いだモリゾウが告げた。

 あの作戦会議後にモリゾウ達は再び荒野に来ていたのだ。


「そうね。まーその消費弾薬も今回ので分かったし、弾薬所持重量とかも無いからボスに挑む前に装備変更して挑めば良いわね」


 テンチョーの言葉にモリゾウやトドマンは頷いた。


「道中のおすすめ武器はシャッガン!!だな。

 スライムから変なコウモリ?鳥?みたいな奴まで幅広く殺せる」

「スラグとバックショット有れば良いね」

「なんかよく分からん犬みたいなとか牛みたいなのか居ますもんね」

「あれ馬じゃ無いの?」

「テンチョー、ツノ生えてたしめちゃんこ筋肉質でしたやん」

「いやいや、モリゾウ君。

 馬もあんぐらい筋肉質な奴いるよ」


 3人はそんな馬なのか牛なの問題を話してながら装備変換をしていく。

 モリゾウはStG44とGew43、トドマンはMG42、テンチョーは九九式狙撃銃を用意する。武器や装備は変わらない。


「じゃあ、あれ馬っすか?」

「んー僕的にはアレは馬派かなぁー

 まーショットガンのスラグ弾で頭1発だったから何でも良いけどねー」


 こんなアホな会話が後に大問題となる動画の始まりだった。

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