モンスターハンターに憧れて

第17話

 UTS、ウルトゥルが攻略に行き詰まったのはエリアを守るボスが単純に強すぎるからだ。

 上空約15メートルを飛び回り、地面に降りても強靭な脚力と凶悪な爪、射程30メートルに及ぶ火炎属性を伴うブレス、半径2メートルの尻尾による攻撃等がある。

 攻撃単体や全体の動きからすればこのエリアボスのいる豪炎の荒野ステージにいるザコと同じだ。そんなエリアボスを前に3匹のギリードゥが岩陰に隠れて偵察していた。

 事の発端は1番端で双眼鏡を覗いているギリードゥ、モリゾウである。


「あれ、本当に倒せるのぉ?」


 ワイバーンがいるからいこうぜと言う安直な提案だった。

 このエリア自体リリース当初からあったが到達したのがリリースより一年目、そこから停滞する事2年が経ち未だに攻略が止まっている。

 そもそもこのボスに挑む推奨レベルが100レベル以上でそのレベルに到達しているプレイヤーは総人口の1%にも満たない。故に難攻不落であり、廃人ゲーマー達はどうにかしてこいつを殺すと息巻いているのだ。

 エリアボスを倒して新しいエリアを開けば全プレイヤーのレベル上限が上がる。そして、そのレベル上限が上がるエリアボスは現状のレベルをマックスまで上げないとダメなのだ。


「剣と魔法の連中が挑んでる動画見たけどHP半分くらいまでいけてたわよ」

「弱点は翼の皮膜、鱗の無い腹、目、あとは口かな?

 当たるなら鼻の穴とかも良さそうだね」


 トドマンがメモを作ったらしく、それをモリゾウとテンチョーに共有した。


「うへー

 取り敢えず、最初の一撃を何処に当たるかね」


 テンチョーがM21のスコープを覗く。


「目でしょ」

「目ですね」


 モリゾウとトドマンは何の迷いもなく断言した。


「トドさんと俺は飛んだら皮膜、降りたら目を狙って飛べなくなったら俺は足、トドさんは残った目や顔、腹、テンチョーは弱点狙撃ばっかはどう?」


 モリゾウの提案にテンチョーはうーんと暫く考え、それから頷いた。


「採用。

 動きは私は基本的に此処、モリゾウが動き回って囮、トドはちょこちょこ動きながらMGね。

 攻撃頻度はモリゾウが6、トドが3、私が1。

 武装はモリゾウがStGかM4、トドはMG42、私は九九式で行くわ。

 手榴弾に関しては地面に降りたら積極的に足に使って。あの巨大だから飛び上がる際に脚力も必要だったから足潰しても飛べないわ」


 モリゾウの提案を中心にテンチョーが素早く指示を飛ばす。それから自身の持っている手榴弾をモリゾウとトドマンに分配した。

 2人は言われた通りの武装に変換して準備を整える。


「勝てるとは思わないけど、負ける未来も見えないわ。

 行くわよ」

「「おう!」」


 こうして3匹のギリードゥが事前準備も殆どせずにエリアボスに喧嘩を売りに行ったのだった。

 結果としてはHPを3分の1に減らすか減らさないかでモリゾウが弾切れになり、3分の1に到達する直前にトドマンも弾切れに、テンチョーが撤退を決定して逃げ帰ってきた。


「いやー激闘1時間!

 滅茶苦茶硬い!」

「マジでハインドみたいな重装甲戦闘ヘリ相手にしてるみたいだったわね。負けはしなかったけど、勝てなかったわ!」

「P-SAMか、せめてRPGみたいなの欲しいね」


 3人は口々に己の感想を一頻り述べてボスエリア外にて反省会をする。

 今回の反省点は単に“弾切れ”つまりは弾薬不足だ。先週くらいに上げた、通称異世界のプレイヤー皆殺し動画に置いて沢山のコメントがつけられ、一部炎上したりもしていたが、その中でも多かった要望として“ドラゴンとかオークとかと戦って欲しい”と言う物だった。そして、その中でもモリゾウがどうやら誰も倒した事のないボスでソイツがワイバーンらしい、と実に雑な情報を仕入れてきたのだ。

 それが事の始まりで、動画を撮ってみたが見事に撤退してきたのであった。モリゾウは気が付いていないが、この攻略こそ運営が企図したガンナーの活用だ。そして、此処からが運営が企図していなかったのが初手がCoOを馬鹿くそやり込んだ廃人プレイヤー達が事前準備を殆どせずに挑んだ結果この戦果だった。


「次は事前準備しっかりして仕留めてやっからな!」

「対戦車ライフル出すの頑張ってみる?」

「僕はAP弾欲しいな」


 3人はそうして反省会を終えて去って行った。

 後日どうでしょう風に動画が編集されてアップロードされる。

 “激闘異世界!ワイバーン編”と題されたタイトルととことんどうでしょうをパクったオープニングが始まる。冒頭の主要メンバーによるだ無駄話まで再現され、一時間に渡る戦闘は30分程に切られて編集されて最後は6分の1の旅人で絞められた。

 オチまで含めて普通に面白いと言うCoOプレイヤーは勿論、新規で登録して見始めたUTSプレイヤー達は大慌てだった。

 当たり前である。現状最高レベルまで上げたプレイヤー数人を中核とし、フルパーティーを編成して漸く半分HPを削るのがやっとだったのに、この3人は大した準備も無くなんなら“またしても何も知らないモリゾウ君”とかふざけた登場までしたプレイヤーが一人いた。

 また情報共有にしても“どうやら皮膜と目と腹が弱いっぽい。空飛ぶし火を吹くし怖いなー”と言う雑な物だった。

 そして何よりも驚いたのが誰もバフやデバフを使わずに、何なら魔術と言う概念すらないかの様に戦っていたのだ。

 連携は完璧だがUTSプレイヤーからすれば其処は攻撃チャンスだと言うタイミングで攻撃しなかったり、其処での攻撃は効果が薄いと言うタイミングで仕掛けたりしているのもあった。

 その為、この動画はUTSプレイヤーに新たな希望を見出し、CoOプレイヤーには“異世界(UTS)普通に面白そう”と言う感想を持たせることに成功したし、運営が想定した通りにプレイヤー達が動こうとしていた。

 そんなことになっているとは知らない3匹の苔野郎達はそれぞれの視点を其々のチャンネルにアップロードしている。

 モリゾウのPOVは中々に激しく半世紀近く前の中東で起こったアメリカ軍のヘッドカメラやロシアとウクライナの戦争のヘルメットカメラさながらの迫力があった。

 ワイバーンの飛び上がる際の風圧とそれにより飛んで来る小石。至近距離をすり抜けて行く丸太より太い尻尾。そんなモリゾウの死闘を少し離れた今から見守りつつ射撃をするトドマンの視点はディスプレイタイプのモンスターを討伐するゲームを見ている感じだったし、そんな二人より更に引いた位置にあるテンチョーの視点はファンタジー映画の様だった。

 そんな3人の視点を切り替えて見れるのがクランチャンネルであり、この四つの動画をしっかりと見るとこの3人がどれ程連携に長けているのかがはっきりとわかるレベルの物でもある。

 三日後、3匹はトップダウの中央にあるギルド会館と呼ばれる場所にいた。此処はギルドを作ったりする際に訪れる場所でありまたギルドを結成した際のメンバー達が自由に使えるルームがあったりする。

 因みにギルドにはアンダースリーとラブスリーもいざという時の録画要員としてメンバー入りしているし、現状十三郎が動画編集をする際に史華と三好の3人体制でやる事が多いのでこの二人もメンバーになったのだ。


「こんな場所あったのねー」


 テンチョーが椅子の後ろ足だけで立ち、足をテーブルに乗せてギーギーやりながら天井を見上げる。天井にはUTSの中で語られている神話をモチーフに作られたステンドグラスが嵌めてある。


「初めて来た」

「だね」


 モリゾウやトドマンも同じ様に非常に行儀の悪い格好でステンドグラスを見上げている。


「何でファンタジーゲームなのにロケットみたいな絵が描いてんすか?

 設定ガバガバのバカすぎでしょ」


 モリゾウが1番最初と思われる絵はいきなりロケットの様な物で地球から飛び出していく絵になっているのだ。


「それは我々が宇宙から帰還し、この環境が様変わりしたこの星を開拓するのが主題だからだ!」


 そして、行儀の悪い3匹の後ろから豪奢な鎧や厨二病が好きそうな大剣などを背負ったプレートアーマー達が現れる。


「マジ?

 これ、そんな設定だったの?」

「そうだとも。君はキャラメイク後のプロローグを見てないのかね?」

「此奴が見る訳無いですよ師匠」

「モリゾウ様ですからね。仕方ありません」


 モリゾウが嘘だろと言う顔で驚いていると、1番後から来た3人のプレイヤーが吐き捨てる様に告げた。

 3人の内二人はエルフ、一人は人間であった。


「おーおー!シェリフにガンスリンガーにクソメイド!」


 モリゾウは椅子を後ろに倒し、床に倒れる寸前に後方回転受け身で立ち上がる。


「やぁ、モリゾウ君。

 ギリードゥと言う種族かね?」


 最初に手を差し出したのはダークエルフ。渋い声であるが、そのキャラは女だった。名をシェリフと言う。両方の腰にはM1858が下がっており服装も西部劇を思わせる黒いコートに鍔広のテンガロンハットを被っていた。

 雰囲気や物腰からリー・ヴァン・クリーフが演じる様な悪玉が似合いそうだ。


「そうっすね。

 なんだ、アンタとガンスリンガーはエルフでしかも女なんだ?」

「大した意味は無い。手先が器用で知力が高い種族がエルフだった。女なのはCoOが男だったからだ。

 そう言うお前なんか、性別が無いだろう」


 モリゾウの言葉に呆れ返った様に告げるのがノーマルエルフとか白エルフと呼ばれるエルフだ。名前はアキで、腰にはM1851を二丁提げている。シェリフと違ってこちらはライトブラウンのコートを羽織り、ちょっと捻くれた主人公と言った雰囲気だった。

 この二人はCoOでも有数の拳銃使いで早撃ちや跳弾を始めとした曲芸撃ち、ガンスピンと言った西部劇を彷彿とさせる二人だ。シェリフとアキの関係はアキが言う様に師弟関係と言うにふさわしい物だ。


「違い無い。

 んで、慇懃クソメイド様は何処でそんなメイド服手に入れたんだ?

 BARはトドさんから?」


 モリゾウは脇で無表情に立っているメイドに話を移す。メイド、クアトロ・セブンはCoOでも有名な“慇懃クソメイド”で、相棒はBARことM1918のカスタムガンだ。話す際は常に丁寧語で、表情機能切ってる?と言わんばかりに無表情。

 戦闘は長物たるBARを振り回して中近距離で戦うので最初の頃は“フローレンシアの猟犬もどき”とか“可愛く無い方のまほろ”とか言われていたがその内誰が呼んだか“慇懃クソメイド”と呼ばれる様になり、それが定着した。

 一説ではクアトロ・セブンが初参加したCoOで配信をメインにするYouTuber達のチキチキ障害物競走と言うブービートラップや塹壕、鉄条網等を設置されたコースを走って行く。

 その際に同じチームになったジェーンがコンビを組まされ、そこで“慇懃クソメイド”と言ったのが始まりだとされる。


「メイド服はテンチョーがくれました。BARはトドマンが」

「なら、俺からはお前にこれを進呈しよう」


 モリゾウがウハハと笑いながら一つの人形を取り出した。


「それは?」

「知らね。でもBARと言ったら人形だろ」


  モリゾウが差し出した人形はこの前のワイバーン戦をしに行く途中に遭遇した敵、荒野のオウンガンと言うレアモンスターが稀にドロップするアイテムであり、効果は呪術に対する抵抗値が+50される。対呪術師相手には必須のアイテムであるが呪術を扱う敵が殆ど出て来ない現状ではフレーバーアイテムに高い存在である。説明欄には“人類が空に旅立つ前、歴史を紡ぐ始まりの頃よりあった原始的宗教の神官が作った人形。その宗教の名前はもはや誰も知らず、また信仰も魔物達しかしていない。紐を集めて結んだだけの非常に雑な造りであるがその効果は非常に高い。”と世界観を読み解くには結構重要な事が書いてある。

 勿論モリゾウは興味も無いしクアトロ・セブンも興味が無いのでBARの銃口側にある負い紐用リングに結びつけて記憶の外に忘れ去った。


「好きなところに座りなよ。

 指定席は無いよ」


 テンチョーの言葉にクアトロ・セブンは空いている席に腰掛けた。

 丁度UTSプレイヤーとCoOプレイヤーで対面になる様な配置になる。


「それでー?

 改めて君達UTSプレイヤーファンタジアが我々に何のご用かな?

 私以外の人達にも説明して頂戴」


 そして、CoOプレイヤー達の代表と言わんばかりにテンチョーが口を開いた。

 ギリースーツに荒野のガンマン、メイドは正面に座るファンタジー界の住人達に視線を送った。

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