第16話

 三日間のデスマーチを終えた十三郎は動画をアップロードした。

 タイトルは“異世界VS現代軍!?ファンタジーゲームに銃が実装されたので撃ってきた”だ。

 テンチョーの考えたタイトルは“ゲー◯!異世界にてFPSプレイヤー斯く戦えり”だったので即断却下された。


「あ゛ー……暫く動画編集画面は見たくねぇ」

「アップロードいつー?」

「あー3時間後」

「動画編集って、こんなに大変なんですね……」


 全員がその場に倒れて動かない。

 現代はAIの発展もあり10TBある動画もだいぶ自動で切り貼り出来るが、それでも細部は人間の目が必要になる。

 また編集する動画自体も大雑把ながら人間が切ってからAIに任せないと動画が訳のわからない物になるのだ。


「くそー今気が付いたけど戸田さんと店長、俺等が動画編集してる時にレベル上げしてたらしい。戸田さん、MG42作ったわ」

「このゲームMG42も出るんだ」


 十三郎の言葉に史華が半ば呆れた様子で告げる。


「出るぞー弾倉の所にMG42とかMG34で使える50発とか100発の弾倉あったし」

「へー楽しそう」


 史華が興味を持ったのか上体を起こした。


「戸田さんだからアホみたいに当たってたけど、お前だと反動制御出来なくて大変な事なるぞ」


 機関銃、特に軽機関銃は重量が小銃の2倍から3倍はある。国防軍が正式採用している5.56mm機関銃MINIMI(C)が約8kgやFNMAGの発展改良型である7.62mm汎用機関銃MAGに至っては10kg近くある。

 そんな重量でも小銃弾やフルロード弾を高速で連射する兼ね合いから初弾以外全部当たらないなんて事もある。その為機関銃は極力二脚バイポットを立てるか何かしっかりした物に依託するか三脚を使用してしっかりと肩付けして撃つ。この際反動で肩付けがずれない様に殆どの機関銃のストックには左手を添える為の凹みや穴、また床尾板バットプレートに肩に保持し易いショルダーレストと呼ばれるものが付いている。

 そして、それらをフル活用しつつ機関銃を押さえ込んで撃つのが機関銃だ。故に構えて撃つだけでは絶対に当たらない。


「正直、マジで戦闘補助、あー史華の場合は最初の一匹ゲット用ならショットガンの方が良いぞ。上下二連のダブバルか、お前のネクロマンする距離次第ならまーオート5とかM1912とかが良いかもな。

 CoOと同じなら銃身長カスタム出来たら射程も変わるぞ」


 十三郎がパソコンを弄ってCoO非公式ウィキの武器一覧を見せる。


「カスタム、出来るの?」

「どーなんだろーな?

 でも、剣とかはカスタム出来るんだろ?」

「出来るわよ。

 鍛治スキルを入手して一定レベルを迎えたら打てる剣や防具の質が上がるよ」


 春の言葉に十三郎が成程と顔を顰める。


「んー鍛治スキルで銃カスタム出来るんかー?」


 十三郎が首を傾げるとスマホが震えた。

 見るとテンチョーからメールが来る。


「なんだー?」


 見ると“銃のカスタムと弾丸のカスタム方法知らない?”との事だった。


「鍛治スキルの他になんかスキルある?」

「あとはアクセサリーを作れる細工師ですかね。錬金術師のジョブか細工師スキルの最上位があると武器に魔力を込めた細工も出来ますよ」


 成程、と十三郎が頷き今の話を全てメールに打ち込み送信した。

 暫くするとテンチョーから返信が来た。曰くテンチョーが細工師を、トドマンが鍛冶屋を取って研究する。取り敢えず、開発した銃をお互いに渡し合いたいから来いとの事だった。


「さてさて、テンチョー様からのお呼び出しだ。

 場所はートップガンみたいな場所?何処だ?」

「最前線じゃない?

 トップダウ」

「おーこの前来た場所か。お前等も来る?」


 十三郎の質問に2人は顔を見合わせそれから行くと返事をした。


「1時間後だってよ」

「じゃあ、私帰ってログインするね」

「私持って来たからここでログインするー」


 三好の言葉に史華はニヤリと笑ってデバイスを見せる。

 それから3人は一時間後にトップダウに居た。

 3人が入ると既にテンチョーやトドマンは広場におり他のプレイヤーに絡まれていた。


「めっちゃ絡まれてる」

「うわー全員上位レベルプレイヤーだ」

「テンチョー達に殺されまくった人たちだろうな」

「どうします?」


 アンダースリーとラブスリーがモリゾウを見るとモリゾウはPOV録画を押す。モリゾウの頭部には録画中を示すアイコンが小さく表示された。


「おーい、テンチョー」

「お、来たなモリゾウ。

 Gew43まで作ったんだってな?」

「ええ、そうです。

 この後MP40まで出せたらStG44ですよ!」


 モリゾウは囲んでいるプレイヤー達を挟んでわりかし大声で話し合う。普通に煩いレベルだ。

 ギリードゥだと身長が150センチ程で固定され他のプレイヤーが定める170前後や160前後の身長には大きく劣る。故に人垣の隙間を通してこの小さな苔達は会話をしているのである。

 しかも、隙間なく並んでいるので普通に運営に報告すらば罰を食うレベルだが頭に血が昇っている廃人達は気が付いていない。

 モリゾウはそんな感じで他愛無い話をしまくって5分ほどクルクルと周囲を歩き、テンチョーとトドマンもそんな感じで歩いていた。


「もーいっすかね?」

「ええ、5分もやってりゃ迷惑行為で報告すりゃ普通に行けるでしょ」



因みに内側からもトドマンが録画してたりする。


「じゃーコイツ等纏めて報告するんでー」


 モリゾウとテンチョーの会話でその場にいた全員がしまったと言う顔をしたがもう遅いのだ。


「馬鹿がよぉ!!!

 こちとらクソガキ、気狂い、クソインキャしか集まらないと噂のCoO上位プレイヤー様だぞぉ!!!!

 場外乱闘ばっちこいじゃアホ!!」


 テンチョーが悪魔の様な高笑いと共に実にカスな宣戦布告をしていたが、これは録画されていない。そして録画された動画はモリゾウとトドマンにより運営に報告される。

 後日彼等は皆一応にレベルダウと所属するクランへの罰則、プレイヤーネームが違反者を示すオレンジ色に半年間なる等の中々に重たいペナルティが課せられた。


「因みに、この行為も私達のチャンネルで上げるからよろしく」


 モーセの様に人垣を割ってテンチョーが告げる。それからあっちいこーぜーと悪魔の様に高笑いをしながらモリゾウ達を引き連れて広場の端っこに陣取った。


「動画編集お疲れ様」

「お礼は時給アップで良いですわテンチョー」

「早速だが、CoOのプレイヤー達にメール送って布教したんだよ」


 モリゾウの戯言をテンチョーはまるで聞こえなかった様に話を続ける。余りのスルースキルにアンダースリーやラブスリーは違和感に気が付かなかった。


「おい、このテンチョー俺をスルーしやがったぞ」

「モリゾウ君、大事なお話中」


 抗議するモリゾウにテンチョーがシーっとわざとらしいモーションと共に注意する。


「クソ腹立つ」


 モリゾウはそれに中指を立てて抗議した。


「声をかけたのはシェリフとガンスリンガー、マガトにキリングメイド。リッパーに声は掛けたらもうやってるって事で暇ならそろそろ来る」


 テンチョーの言葉にモリゾウが誰だそれ?と言う顔のラブスリー非常に簡潔に説明した。


「CoOに居るプロプレイヤー達最高に逝かれた連中だよ。

 テンチョーとかトドさん位スゲー」


 モリゾウの言葉に僕はそこまでじゃ無いよと本気で嫌そうな顔をしたがモリゾウは訂正しなかった。


「そんな人達がこのゲームに来るんですか?」

「来ると思うわよ。

 シェリフとガンスリンガーはM1873あるしM1851とかM1858あるって言ったらかなり興味津々だったね。

 マガトのATRフリークは対戦車ライフル撃てるぞって言ったら出てから呼べって言ったわ。慇懃クソメイドはリッパーの口説き次第かしらね。BARはあるって言っておいたし」


 テンチョーがそう説明していると遠巻きに見ていた上位プレイヤー達がザワザワと騒がしくなる。

 見ると純白の当世具足を纏ったプレイヤーが歩いて来ていた。プレイヤー達は慌てて道を開けそのプレイヤーを通す。


「つ、辻斬り伊周!」


 それに反応したのは他でも無いラブスリーである。


「南蛮胴に烏帽子形兜。

 マントまでしちゃってー」


 そんな鎧を評しているのはテンチョーだ。


「アンタ、もしかしてテンチョー?CoOの?」


 プレイヤー、辻斬り伊周が尋ねる。顔は目より下を覆う目の下頬と呼ばれる物で、厳しい顔つきで髭まで付けられていた。


「そーそー

 アンタはジェーンでしょ?」

「そうよ。こっちだとコレチカよ」

「よろしくー」


 テンチョーが握手を求め伊周もそれに応えた。


「あんた偉い嫌われてるわね」

「レベル高い奴にこれでもかって決闘吹っかけたらこうよ。

 アンタ達の噂も聞いてるわ。私よりも酷いわね」


 ハッハッハッと笑う2人にトドマンとモリゾウは顔を見合わせた。


「伊周さんは、CoOだとどんな武器使ってたんですか?」

「拳銃とナイフ」


 ラブスリーの質問にモリゾウが即答した。


「あと、飛び出すナイフ」

「バリスティックナイフだね。スペツナズナイフとも言うけど」

「バリスティック……弾道ナイフ?何ですかそれ?」


 トドマンがよく分からんと言う顔のラブスリーにバリスティックナイフについて説明する。なんて事はない。超強力なバネを柄の中に仕舞い、ボタンを押せばブレードが相手に向かって飛んで行くと言う代物だ。

 ナイフの距離で戦っていたらまさかの槍の間合いになる、と言う不意打ち武器である。勿論、ブレードが外れたら手持ちは無くなるか予備の武器になるのでメインで使うには中々慣れが必要になるだろう。

 しかし、そんな武器と通常のナイフ、そして拳銃だけだ通り魔的にキルしまくっているのがジェーンだ。CoOでついたあだ名が“ジェーン・ザ・リッパー”つまり切り裂きジェーンだ。


「因みに不定期でジェーンから指定時間内逃げ回るって企画やってる。結構大好評でCoO配信者とか参加募ってる。

 ウチ等のチャンネルにも上がってるでよ」


 モリゾウがチェケラとラブスリーに告げる。


「因みにモリゾウ君はジェーンに毎回反撃しに行って惜しいところで負けてるね」

「その動画は俺の個人チャンネルに上がってるから」


 チェケラと再びモリゾウが告げた。因みにモリゾウの個人チャンネルは“モリゾウちゃんねる”と何の捻りもない物でCoOだと弓やクロスボウ、先に上がったバリスティックナイフ、手榴弾と言った色物過ぎる武器でのファニーキル集や愛用しているAKによるかっこいいキル集、たまたま見つけた他の配信者や有名プレイヤーの後を延々と付けて行って時には邪魔したり、時には手助けしたりする動画を投稿している。


「しかし、CoOでは切り裂き魔、UTSでは辻斬りって、まともに戦えんのか貴様はー」


 テンチョーの言葉に何処行ってもスナイパーのお前が言うなと伊周が呆れ返っていた。


「それはそうと、何をするんだ?」

「あ、そうだそうだ。

 モリゾウ、録画」


 テンチョーが忘れてたとモリゾウに告げる。モリゾウははいなと録画開始。自分を最初に入れてから顔半分だけずらしてテンチョーを見せる。


「映ってますかー?」

「映ってるから退けおまえ」


 テンチョーがモリゾウの後頭部を叩き、カメラの前から退かす。


「さて、私等の動画見てくれたかしら?

 突然だけど半年後位を目安にここ、ウルティマ・トゥルー・ストーリーで塹壕戦やりましょうって話。

 古き良きオフ会みたいな感じで集合場所はこのゲーム、内容はこのゲームでCoOみたいな撃ち合い。勿論、魔法、剣、弓このゲームにある全てを使って良いわ。

 ルールはただ一つ、バーリトゥード何でもあり。死んだり死なせたり、殺したり殺されたりしよう。

 勿論UTSプレイヤーも良いぞ。銃相手に剣で立ち向かったり、魔法相手に銃剣突撃してみたり、きっと楽しいぞぉー!絶対面白いぞー!」


 テンチョーは例によって悪魔の様な笑い声をあげ、モリゾウは上手い事カメラを引いてラブスリーとアンダースリー、伊周を流してから最後に自分を映して録画を終えた。それから編集とアップロードは明日以降だと告げる。

 それから銃を譲渡し合い、モリゾウはアンダースリーにM1912を渡した。


「取り敢えず渡しとくわ」

「ありがと」


 そんな2人の様子を見ていたラブスリーが少し興味深そうに地面に並べられた機関銃やライフルを眺める。


「どれが1番強いんですか?」


 そんな質問をした物だから脇にいた伊周があーあと声を上げた。


「それは1番聞いちゃいけない質問だよ、ホント」


 そして、アンダースリーがやっちゃったねぇと仕方ない子を見る様に肩をすくめ、首を左右に振った。

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