第15話

 十三郎が史華と春の3人で地獄の動画編集をしている最中、店長と戸田は例の森にいた。

 森を勝手に占領し、勝手にブービートラップと掩体だらけの陣地にしてしまった。誰にも怒られる事はない。

 何故ならここは暗き迷いの森と呼ばれる森林で、上位レベルのプレイヤーも一歩間違えれば一撃で殺されるレベルのモンスターがウヨウヨしているのだ。


「なーんか、全然ファンタジー達来なくなったわね」

ファンタジーモンスターなら来てますよ、ほら」


 トドマンが指差した先には赤い頭巾の様な物を被ったゴブリン、レッドキャップゴブリン達が居る。


「違うわよ。

 プレイヤーよ、プレイヤー!

 それはそうとしてあのブービートラップ壊す猿共は殺しちゃって!」

「アイマム」


 トドマンが苦笑しながらMG08/15から更に進歩してMG34を構える。この機関銃はゾロターン社の作ったMG30、ゾロターンM1929を元に作られた機関銃を元にマウザー、或いはモーゼル社が開発したベルト給弾式の汎用機関銃だ。

 傑作汎用機関銃の名も高い機関銃は非常に高価かつ工作工程も多い、そして何より戦場では些か綺麗好きすぎた点がこの銃の欠点である。

 故に後にMG42と呼ばれるドイツ軍二大機関銃の片割れが生まれた。トドマンは今これを目指しているが、プレイヤーが全く来なくなったのでレベルが上がらないのである。


「じゃーな、赤猿」


 トドマンは狙いを付け、トリガーの上端を引く。ダンと1発弾が出ると、レッドキャップゴブリンの頭が弾ける。

 対してレベルが上がらないのはそれ程までにこの銃が必要とする経験値が多いのだ。


「全然レベルが足らない!

 モリゾウ君の見つけた坑道行きましょうテンチョー」

「確かにそーだなー

 此処はもう美味しく無いわねぇ。私の方もMk.14EBRの出し方が分からないわ」


 テンチョーがM14にスコープを付けたM21を掲げる。


「場所わかる?」

「はい。

 モリゾウ君からスクショ貰って僕の方にマッピングしてます」


 トドマンの言葉にテンチョーが行くぞと告げる。2人は目的地に向かう為に歩き出した。森のブービートラップはそのままだ。

 こうして、この世界にとんでも無く危ない森が2箇所できた。もっとも、定期的にポップするゴブリンがゆっくりと時を掛けてそのブービートラップ達を自らが引っ掛かって解除してくれるはずだ。

 2人は駆け足で行動へ向かう。モリゾウから貰った情報はその宿場町でヘルメットとツルハシなど掘削ツールを買うと坑道探索の依頼が出る。

 2人はモリゾウが行った行動をそのままトレースすると店を出て婆NPCに話しかけられ、そのままクエストが始まる。

 それに伴い2人は頭にランプ付きのヘルメットを被りガスマスクと耳栓を付けて入って行った。銃弾は大量に買ってある。トドマンの8mmマウザー弾は8000発、テンチョーは7.62mm×51弾を3000発用意した。モリゾウ曰く“兎に角弾は大量に持って行った方がいい。ヒュドラまでは良いがその後に困る。Mk.2手榴弾1発で頭が一つ吹き飛ぶ。それとサプレッサーか耳栓は絶対に必要。暗視眼鏡あれば楽かも”との事だ。

 なので2人とも20発の手榴弾を持っているし、M24柄付き手榴弾とその弾頭を纏めた収束手榴弾も用意したそうだ。


「序盤と中盤は骨とゾンビだけ。中盤は数が増える」

「終盤はトカゲ野郎、リザードマンとか言うモンスターが出て来る。

 これは3から5の集団で現れる得物は剣と言うか斧というか、変な武器を待っていたらしいです」

「要領が得んな。

 どういう事だ?」


 テンチョーが眉を顰める。


「モリゾウ君が描いた絵が此方」


 トドマンが此方にとテンチョーにモリゾウの絵を見せる。その絵は斧の様な物の先にギザギザの石のような物を付けた絵だ。


「彼奴、絵心無いな」

「ですね」


 2人はモリゾウの絵を見ながら苦笑しながら進む。道中はサプレッサーを付けたガバメントや手斧、円匙でゾンビやスケルトンを殺していく。また、道中の鉱石についても回収する。モリゾウが主要な目立つ場所は全部取ったと言っていたが全て復活している。


「モリゾウはこれ何に使ったんだ?」

「彼はそっち方面全く興味ないからねー

 木下さん、このゲームだとなんだったけな?こっちでもアンダースリーだったかな?

 彼女曰く、鍛冶屋に持っていけば武器や防具にしてくれるらしいですよ」

「ふむ。

 個人的には弾の種類が増えて欲しいわね。今の弾だとただのFMJだから精度が出辛いのよね」


 テンチョーが弾を1発掲げる。7.62mm×51弾のFMJ、これはM60弾と呼ばれる弾で普遍的な物で国防軍も自衛隊時代から使っている弾だ。


「弾のカスタムしたですね。

 FMJも良いですが、APも欲しいですね」

「そうねー

 私はマッチグレード弾欲しいわ。.300BKとかあるし弾をカスタムする方法も絶対あるわ。

 モリゾウが東側の銃を欲しがるように、私は弾丸のカスタムや銃のさらなるカスタムをしたいわ」


 2人はそんな話をしながら先を進む。既に1度目の簡易リスポーン地点の小部屋にやって来たのだ。


「この部屋が最初のセーブポイントね。

 一応、リスポーン地点の更新をしておくべきね」

「ですね。

 モリゾウ君も此処で更新してるし」


 2人は更新すると次の階層に行く。

 モリゾウはこの時点で武器達のレベルが上がって行ったが、2人が此処まで来るまでに使っている銃達はレベルがカンストしているので上がらない。


「あそこを降りたらゴールまで後ちょっと」

「確かに、モリゾウがいう通り飽きるわねここ。

 ヒュドラはトドにあげるわ」

「分かりました」


 2人の流れる様な動きは、モリゾウが探索しつつ進行した時の動きをトレースしていても早かった。

 曲がり角のクリアリングや敵を仕留める動作、その全てが洗練されている。モリゾウやその周囲の者に元軍人上がりと嘘か本当か分からない冗談を言っているだけある動きであった。


「お、ガスが出てるな。

 ここが最下層だな」


 テンチョーが明らかに紫っぽい煙が混じるいかにも毒と言わんばかりの空気に苦笑しながら告げるとトドマンも頷いた。


「こりゃ毒ですね。

 個人的に毒は黄緑なんですけどね」

「じゃあ、紫は?」

「猛毒です」

「どちらにしろ毒じゃねーか」


 2人はそんなことを言いながら先を進む。道中のリザードマンは発見され次第速やかに始末される。

 因みにモリゾウの描いた下手くそな絵は意外にも的を与えた描写であった。


「モリゾウ君、意外に絵心あったね」

「そうね。

 わりかし正確だったわね」


 2人は内心でモリゾウに謝りながら問題の八つ頭のヒュドラがいる扉の前にくる。

 装備を確認し、モリゾウと同じ格好をした。


「このクソダセェ盾本当に居るの?」

「さぁ?

 でも、モリゾウ君と同じ格好するのが安牌じゃないですか」


 2人は中程で手に入れた祝福の盾を背負い、小屋の中に入る。中に入ると、1人お男が死にかけていた。


「コイツがガイルか?」

「ゲイルですよテンチョー」

「ならコイツに回復薬に渡せば良いのか?」


 テンチョーはホラと回復薬をゲイルに投げ渡す。


「貴重な回復薬を済まない。

 俺はゲイル。見ての通りの冒険者だ」


 それから、モリゾウから聞いていた情報と合致した内容をゲイルが言う。勿論、モリゾウは話は聞いていない無かったので大した情報は無い。


「彼奴、この話聞いてなかったってほんとこのゲーム興味ないのね」

「そうですね。

 魔王軍の尖兵だの何だのって、このゲーム攻略してる人達にとっちゃかなり重要な情報でしょ?」


 モリゾウのいい加減なプレイに2人は呆れ果てていたが、まぁ、良いかモリゾウだしと諦めた。


「取り敢えず、ヤマタノオロチ?の討伐とか言うクソ舐めたクエストが発生したから行くか」

「ええ、これでMG42までレベルアップしてくれれば良いですけど」


 トドマンがMG34を担ぐ。テンチョーもM21を担ぐと中に入った。中には8つ頭の蛇が居た。


「ヤマタノオロチ、その外見的特徴は?」

「8つの頭、8つの尻尾、目は鬼灯の様に赤く、腹は自身の血で爛れている。でしたか?」

「その通り。

 だが、目の前の奴は頭が8つだけしかない。

 目は黄色、此処から見える範囲で尻尾は見えんが8つある様には見えんな」


 M21を覗きながらテンチョーが告げる。


「8つ頭のヒュドラ、その言い方は確かに正しいかもですね」

「ああ、ヒュドラ、またはヒュドラーは基本的に9つの頭だからな。

 ヒュドラの変異体、または突然変異かしらね。このゲームのヒュドラはまだ確認されていない。

 モリゾウの話では、あれは首を落としても再生しなかったそうだ」

「はい。

 ヘラクレスは退治の際に首を落としたそばから傷口を焼き止めして再生をしないようにしたとか」


 トドマンが焼夷手榴弾系も持ってくれば良かったかな?と苦笑する。


「自己再生の能力が無いんじゃ無い?

 本来ならそう言う能力があるヒュドラがこのゲームを進めた先に居るんじゃない?」

「成程、つまりこの八つ頭が試金石」

「そうね。

 このクエストがいつからあったのか知らないけど、ガンナーの職がないと多分アレかなり苦戦するんじゃない?」


 テンチョーが地面に絵を描く。


「私達ガンナーが遠距離から頭を叩く、モリゾウの話だと150メートルも距離開ければ奴の探知外、今の場所ね。

 で、このゲームだと銃を持ったプレイヤーがこのレベルに来ると多分CoOの中堅くらいよね」

「はい」

「ソイツ等ならスコープ付けた狙撃銃なら150から200ならダメージを与えれるだろう?」


 テンチョーの言葉にトドマンが確かにと頷いた。


「そして、頭を一つ潰したら他の頭はガンナーが射撃して近付く近接戦闘部隊、此処では文字通りの近接戦闘よ?」


 テンチョーの言葉にトドマンは分かってますと笑う。


「魔法使いとか剣とか持ってる奴等が落とした首を焼きに行けば良い。

 この連携を運営はさせたいし、今後はこう言う連携が必要になる敵が多く出て来るんだろうな」


 テンチョーはニヤリと笑う。

 そんなテンチョーを見ながらトドマンはまたなんか悪いこと考えてると思ったが何も言わない。


「取り敢えず、本当にあの変異種が再生しないか確認するか。

 トド、やっちまいな!」

「アイアイマム」


 トドマンがその場に伏射の姿勢を取る。そして、左の頭から順に頭を撃っていく。MG34は頭を四つ潰して漸く半分になる。

 ヒュドラは暴れながら毒を吐き出した。情報通りね、とテンチョーが頷いた。


「半分潰して頭は半分か」

「銃の時代が進んだり強力になると必要な経験値が馬鹿上がりするわね」

「まーそれだけ強力ですからね。

 モリゾウ君曰く、M4で頭2つ居るって話だし」


 とんでも無いな、とトドマンは残る頭を順に潰していく。そして、最後の一つを残して暫く様子を見る。


「このまま一旦置いておきます?」

「そうね。30分交代。トドが先に休憩して良いわよ」

「分かりました」


 トドマンがうなずきモリゾウと同じ様に離脱をする。残ったテンチョーはヒュドラの探知外からその体を観察する。M21のスコープを覗き、扉前から横に移動しながらこの巨大な生物がそもそもどっから来たんだ?と言うゲーム上突っ込んでは行けない処を気にし始めた。


「ん?彼奴、尻尾が見えない理由がそもそもあれか!」


 その答えは単純だった。何かの穴に引っ掛かっているのだ。故にヒュドラはその場から動かないのだ。

 戦い終わったらあの穴を覗いて見たいとテンチョーは頷き、それから破壊された頭の根本、つまりは首などを観察する。再生する様な兆しはなく赤くグロい映像になっているだけだった。


「さて、そういえば彼奴の話だとレベルアップした後にステータスを振ると足が速くなったり腕力が上がるとか言ってたな」


 テンチョーもモリゾウ同様にステータスを一切上げていない。勿論、トドマンも同様だ。理由は簡単。ステータスを弄る必要を感じなかったからだ。

 そして、モリゾウは安易に上げたが、テンチョー的にはもっと銃とこの世界に適合したステータスの割り振りがあるのでは無いか?と考えている。

 もっともステータスの割り振りをし直す方法も毎月一回全パラメーターをゼロにして振り直すチケットと名前変更権を貰えるのだ。勿論、使わなければこれを売り払って金に変えることができる。余り高い値段でも無いので殆どの人間は売り払う事もなくアイテムボックスの其処に大量に溜まっているのだ。


「さて、ステータスをどうするか、よね」


 テンチョーはステータス画面を開き、各項目の説明を読み込む事にした。

 目の前には首が復活しないヒュドラが暴れ狂っている。

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