第11話

 モリゾウは決闘を受けようとして指を止めた。


「これ受けたら直ぐに開始する?

 なんか準備あるならそれやっても良いぞ。全力の上位レベルのプレイヤーと戦ったことないんよね。

 距離はどんぐらい?ロシアンなら多分60メートル離れたらヘッショ出来んと思う」

「ふざけるな。

 直ぐで良い」

「はーい」


 モリゾウは頷いて承認を左手で押す。そのままヒップショットで喉元に弾が当たった。


「あー外れた」


 モリゾウはやっちまったなーと笑いながら親指で喉元を押さえて蹲るバスターナイトの頭を撃ち抜いた。


「いやーやっぱガンスリンガーとかシェリフみたいな射撃は無理だな。

 この距離でも外れる」


 モリゾウはドレドレとステータスを確認する。


「おー、レベルMAXだ。

 どれどれ?」


 モリゾウはツリーを見ると、確かにスコフィールドとナガンリボルバーが出た。


「おー!!

 来たぞ!来たぞー!!」


 モリゾウはナガンを装備し、銃口にサプレッサーを取り付ける。

 するとピコンとアイコンが出た。


「何だ?」


 “初めてのカスタムを達成しました”と出た。


「カスタムて。

 ま、良いや」


 モリゾウは嬉しそうにナガンを側はスピンさせてホルスターに収める。


「もっかい弟さんと勝負したら次の拳銃なるんかね?」

「しねーよ。

 お前、それもうチートだろ」


 サムライバスターが呆れ返った様子で告げる。


「チートじゃ無いっすよ。

 仕様ですよ。欲しければ買えば良いんっすよ。武器屋にあるんで」


 モリゾウが武器屋はあっちと指さすとサムライバスターは武器屋に向かった。


「ラブスリーも欲しければ買いに行ったら?」


 モリゾウはあっこと指さす。


「いや、私は良いかな。

 魔法使い、正しくは魔術師ですし」

「へー俺も魔法持ってるよ」


 モリゾウが例の杖を取り出す。

 星のついた杖だ。


「つーか、魔法どうやって使うんだ?」

「杖持って、使いたい魔術の名前言えば杖の先から出るよ」


 アンダースリーが苦笑する。


「まじ?

 ウィンガーディアム!レビオーサー!」


 モリゾウが杖をアンダースリーに向けるが何も発動しない。


「ハリポタの魔法は使えないわよ。

 そもそも魔法じゃなくて魔術よ」


 ラブスリーが苦笑しながら告げる。


「自分の魔術は一応、ステータスの固定表示で表示出来るわよ」

「へー

 どうやんの?」


 モリゾウがステータスを弄り、使える魔術の一覧を固定表示した。

 暫くモリゾウがステータスを見て何かを考え込んでいる。


「どったの?」


 そんなモリゾウにアンダースリーが首を傾げる。


「いや、ちょっとセコ技思いついた」

「セコ技?」


 モリゾウは表示出来るステータスの一つに設定呼び出しのショートカットを作る。それを自身の視界のど真ん中に設定した。他人からは見えない。


「銃をまっすぐ構えた位置に何でも良いけどショートカットを作ればスマホゲームみたいに出来るんじゃ無い?」

「あーそれ無駄だよ」


 アンダースリーが苦笑して首を振った。そして弓矢を取り出した。


「私、ネクロマンサーだからさ本領は敵の死体が出来てからなんだよねー

 で、当初は攻撃魔法とか無かったから弓矢で殺してたんだよね。んで、弓矢もCoOと同じ方式で構えのブレとかも一々計算されてちょっとでもブレると全然当たらないんだよね。

 だから、点置いてそこ狙うってやると逆に動く敵とかだと当たらないんだよね。

 モリゾウ君は今のままの方が良いかも」

「なるほどなー

 セコ技は使えんかー」


 モリゾウは笑いながらリボルバーをクルクル回すとサムライバスターが帰って来る。また、バスターナイトもやって来た。


「クソ、何で奴だ!」

「これで俺も銃を手に入れたぞ!」


 2人がモリゾウ達の処に集まる。


「で、何するんすっか?

 前衛3、後衛2っすからまーパーティーとしてはバランス良いと思いますけど」

「後衛は3だろ。

 ネクロマンサーは後衛だ」


 サムライバスターが困った顔をした。バスターナイトも頷く。


「いや、俺っすよ。

 目の前に人いると射線被って邪魔なんで自分も前に出ますよ。人の形してれば頭一撃で死ぬんで梅雨払い任せてくださいよ。

 それに後衛は2人で十分ですよー」


 モリゾウがピースを作る。


「魔術師とネクロマンサーで」


 何かを感じ取ったらしいアンダースリーがそんなことを言い出した。


「任せてくださいよー」


 そしてモリゾウがすかさず答え、2人はビシバシグッグッとやる。


「取り敢えず、さっさとやりましょーよー

 もう23時ですよー」

「お前が来るの遅れたせいだろ!」


 サムライバスターが貴様と睨み付けるがモリゾウは笑うだけだ。


「取り敢えず、私これ撃ちたい」

「俺もナガン撃ちたい」


 モリゾウとアンダースリーはさっさと行きやしょーよーと謎の踊りをし始める。


「分かった分かった。

 俺もこれを撃ったみたいし、近くの草原行ってゴブリン撃とうぜ」

「よっしゃー

 最初に誰が撃つか決めましょー

 じゃんけんしましょ、じゃんけん」


 モリゾウがじゃんけんと言い、サムライバスターとアンダースリーがポンと手を出した。あいこを2回、1抜けでアンダースリー、次はサムライバスターで最後がモリゾウだった。


「私の勝ち、何で負けたか明日までに考えて多てください。

 ほな、頂きます」


 アンダースリーはモリゾウにやーいやーいと煽る。


「キー!

 この中じゃ俺が1番上手く銃を扱えるんだー!」


 モリゾウはそういうと駆け出す。


「あ!あの苔野郎一番乗りする気だ!

 追え!」


 アンダースリーが叫ぶとモリゾウを追いかける。


「待て!リーダーは俺だ!勝手に行くな!」「てか、兄貴まだパーティーも作ってないぞ」

「部長!早く追いかけないと!」


 アンダースリーに遅れて3人も走り出す。一行は街の外に出て行く。


「クソ!あんなモサモサな癖に何であんな速いんだ!」

「高レベルだし器用と俊敏中心に振ってるからじゃ無い?

 さっき、私がそう上げるよう助言しちゃったし」


 段々と遅れ始めたアンダースリーが告げる。


「そ、それにしたってあれは元々上げてないと」

「普通にレベル上げて無かったから普通にさっき全ブッパしてたよ」


 ラブスリーと並んだアンダースリーが答えるとラブスリーが驚いた顔をする。

 当たり前だRPGでレベルアップと言えばステータスの割り振りがセットなのだ。しかし、モリゾウは根っからのFPS畑の人間でレベルアップ=使える武器が増えると言う認識しかない。

 また、自身以外にも武器のレベルがあり、そのレベルが上がれば武器が解除されるとなったらモリゾウは完全に自分のレベルなぞ忘れていた。

 また銃が強すぎるので自身が弱いと言う認識も無いのと、アイテムによるデバフ無効もあり全くもって気にしていなかったのだ。


「も、モリゾウ君って本当にCoO好きなんだね」


 事情を聞いたラブスリーが少し呆れた様な顔で告げる。


「まーあのゲームで生きてる様な人だしねー彼」


 アンダースリーが苦笑した所で、何かを見つけた。立ち止まって指で輪っかを作り覗く。遠見の魔術と言う初歩的な物だ。簡単に言えば望遠鏡だ。


「居た!ゴブリン!」


 アンダースリーがM1873を構えるがトウとその前にモリゾウが立った。


「お前じゃ遠過ぎる。概算150はあるぞ。

 15まで近づかないとお前じゃ当てられんぞ」

「わ、分かった」


 アンダースリーがハッと我に帰りM1873を片手に歩き出す。

 モリゾウはすぐ後ろに付いて拳銃、しかもリボルバーの講義をし始めた。


「M1873は金属薬莢式のリボルバーだ。

 反動は自動拳銃の比じゃない。握りが甘いと手の中ですっぽ抜けて取り落とすぞ。あと、シングルアクションだ。ハンマーを下げないと撃てないから注意しろ」

「分かった。

 他に注意点は?」


 アンダースリーがハンマーをハーフコックの位置に置く。


「今の位置はハーフコックだ。もっと下に下げろ」


 モリゾウの言葉にアンダースリーは手元を見て更にハンマーを下げる。カチンと止まった位置は完全に引き金を引けば撃発出来るポジションだった。


「照門はハンマー先端、照星は銃口先端。

 一直線に合わせて狙え。あの猿、こっちにケツ向けてる。お前のその長い杖をモノポット代わりにしてもいい」


 35メートルほど来ると全員が息を殺して成り行きを見守る。アンダースリーは右手に持った長い鎌に見える長杖を地面に立てる様に刺すと右手に持ったM1873を添わせる。

 モリゾウが持ち方が違うと、アンダースリーの手の上から持ち方を教えるとアンダースリーの視界に“セクハラの場合は右のボタンを違う場合は左のボタンを”と表示され、モリゾウの視界には“その行為は相手に対するセクハラの疑いがあります”と表示された。


「あーウゼェなんだこれ?」

「武器とか持たないで他のプレイヤーに抱き付くと警告出るんだよ。私の方でキャンセルすれば消えるよ」


 アンダースリーが左側に出たボタンを押すとモリゾウの視界からも表記が消える。


「おー消えた。

 んで、話戻して、こう構えろ。左手で棒を握り込み握把の左側に当てろ、そうだ」


 アンダースリーが正しい握りが出来たと思ったモリゾウが坑道で手に入れたい石をゴブリンの頭に投げ付ける。35メートル、レーザービームかよと言わんばかりに真っ直ぐに飛んだ石はゴブリンの後頭部にあたり注意を引く。


「んじゃ、がんばー」

「うん」


 怒ったゴブリンはアンダースリーを認めるとニヤリと馬鹿にした様に笑い駆け出す。真っ直ぐに。

 しかし、笑うのはアンダースリーの方だ。真っ直ぐと走るゴブリンは非常に狙い易くモリゾウの教えてくれた方法と合わさって手ブレも無い。


「撃て」


 モリゾウの合図にアンダースリーが引き金を引くと、撃鉄は落ちて鉛玉を発射した。


「おー」


 ゴブリンの頭部はものの見事に吹き飛んでポリゴン片となり消え去った。


「ネクロマン!」

「あ、そうだ」


 モリゾウがすかさず言うとアンダースリーが杖を消え去ろうとするゴブリンの死体に向け何か呪文を掛けた。するとゴブリンの死体は消え去らず、頭部が無い状態で立ち上がってアンダースリーの方をじっと向いていた。


「うわーグロ」

「まーネクロマンサーだからねー」

「ネクロマンこわー」


 モリゾウが頭部が無くなりポリゴン片で固まっているゴブリンの周りをウロウロしながら観察していく。


「次は俺だな」


 サムライバスターが十八年式を構えながら笑う。拳銃よりライフルを買ったらしい。


「部長、取り敢えず木を撃つ練習からした方が良いですよ。

 最初マジで当たらねーんで」


 モリゾウがあっちにいるよと300メートル先のゴブリンを指さす。


「あんな遠くで当たるのか?」


 バスターナイトがモリゾウを見る。モリゾウは笑いながら答えた。


「俺なら当てられるぞ。

 部長は絶対無理だけど」


 モリゾウはモシンナガンを取り出す。


「舐めるなよモリゾウ!

 俺だってサバゲーとかやってるんだ。射撃の基礎くらいは、ある!」


 サムライバスターはフンと刀を抜いて地面に突き立てると鍔に銃身を乗せた。


「おーそれっぽい。

 外れたら明日のランチは部長の奢りで」

「ふ、バカめ!」


 サムライバスターが引き金を引くと銃口は跳ね上がり、ゴブリンから1メートル近く右の地面に当たった。


「下手くそー明日のランチゴチでーす。

 モリゾウさんが君達射撃ド下手カスプレイヤーにプロゲーマーの超絶神技スナイパーってのを見せてやりますよ」


 モリゾウが片膝立ちになり、モシンナガンを構える。

 息を吸い、軽く吐いて止めると引き金を引いた。ドンと銃口が跳ね上がるがまた、ピタリと元の位置に戻り銃口が元の位置に居る頃にはゴブリンの頭は吹き飛んでいた。


「何で当たるのー?」


 アンダースリーが手元のM1873を見ながら構える。


「経験の差ですわ。あとCoOは照星と照門の間合いが1番長い小銃系が一番当てづらいぞ。

 射距離50だと拳銃の方が当てやすいまであるからな。

 なのでー拳銃にストックついてる奴とかコンパクトSMGが1番狙い易いくて当たりやすいって裏技ある。

 まー威力低いのと拳銃弾ってので閉所くらいしか目立たないけど」


 モリゾウは視界の端に音もなく走ってくる狼を捉え、ナガンを抜いてかまえる。

 距離は30メートルだ。引き金を引くとハンマーが引かれ撃発する。ナガンは基本的にダブルアクション式なのだ。

 弾は狼の頭部に当たる。


「うぇーい、はいざこー」


 モリゾウは笑うとナガンのステータスを見ると全く溜まっていない。


「えー?ウェルロッドよりも経験値すくないなー

 ゴミカスゥ」


 モリゾウがうぇーいと背負っていた弓を構えて矢を番える。それからほぼ真上に引き絞りながらキョロキョロと見回し、それから矢を放つ。そして、角度を変えて矢を更に3つ放つ。


「何してんだお前」

「あっち」


 モリゾウが指さす先にはゴブリンが居た。距離は200メートル。

 全員がゴブリンを眺めていると四つの矢が同時に頭部や首、肩などに突き刺さった。


「うぇーい。

 対ゴブリンToT成功」

「あー、それ私何度か食らった奴」

「そうそう。

 CoOで俺がボウ担当だからねー

 弓矢については一家言あるよ」


 モリゾウは手にしたコンパウンドボウを背負い直すとニヤリと笑う。


「お前、なんだよそれ……」


 バスターナイトが驚いた様な顔をしていた。


「この世界にこんくらい出来る奴いねぇの?」

「いねぇよ!

 普通は矢に魔術乗せて分裂させるんだよ!」


 バスターナイトはふざけんなと叫びそれから主に矢を使った攻撃方法を教えてくれる。UTSのアーチャーは基本的に現実世界のアーチャーとは全く違い、アーチェリーに近い。比較的近距離の敵を狙撃するのだ。

 そこに魔術を乗せて攻撃力を増したり、矢を分散させて多数を攻撃したりするのだ。また、長距離の敵や動く敵を相手に対しては矢を追尾させる魔術も付与する事で当出る事が出来る。


「へーじゃあ、俺もそれ覚えて今のやれば1人砲兵隊ごっこ出来るやん」

「何する気だよ」

「でもモリゾウ君、ギリードゥだと其々の魔術覚えるの知力がかなり高く無いとダメみたいよ?」


 ラブスリーが幾つ?と聞くのでモリゾウはステータスを見せると、ラブスリーは苦笑した。

 曰くその30倍は必要だとか。


「じゃ、やめたー

 もっと、こうパッと覚えれる方法ないの?

 金はPKしまくったから幾らでもあるんじゃ!!」

「ならスクロールしかないな。

 高過ぎてほとんどそれで覚える人いないけど」


 サムライバスターが腕を組んだ。


「初歩的な魔術、ファイヤーボールですらメガポーションと同じ位だからなー」

「あーそれ滅茶苦茶高いっすねー」

「メガポーションって幾らすんの?

 てか、どんだけの回復量?」

「初心者用の1番最初に貰うポーションが50だとしたら店売りが店売りポーションで100、その上位版がハイポーション。これが500で上位レベルプレイヤーでもこれ飲めばHPの8割は回復するね。

 んで、メガポーションは1000回復する。上位レベルのタンク役が1本か2本持っているレベルで回復するし、値段も相応だね。大体金貨5から7枚くらい。

 片手で足りる分の量でも中々に痛い出発になるよ」


 アンダースリーの言葉にモリゾウはフムと首を傾げた。


「まーおいおいで良いか。

 弓とかお遊びだし」


 モリゾウは弓を背負った。

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