第12話
モリゾウの弓テクニックは凄まじい物だった。上位プレイヤーでバスターズと言うクランを持っているバスターナイトや兄のサムライバスターから見ても目を見張る物だ。
このゲーム、物理演算もかなり再現度が高い。その為、弓矢に至っても基本的に10メートルとか20メートルで使うのだ。30メートル過ぎて当たるとなるとかなりの腕前が必要になり、モリゾウの使ったコンパウンドボウが最近、それこそギリードゥと銃が実装された際に共に来た初心者救済を謳った高性能弓矢であった。
しかし、弓は初心者が買うには高く、矢も特殊な物なので常用するには些か高い。総じて初心者がこれを手にして常時運用する段階で、中堅と言うに相応しいレベルになっている。
「お前、それどうやってんだよ……」
「CoOで死ぬ程練習しんすよー
いやーマジで苦行でしたわ。CoOで実装されてそっから猛練習。ファニーキルカムズで使う様に」
「あー、高校2年だよねー」
アンダースリーがなつかしーと笑う。
「そーそー!
あん時なー夏休み全部潰れたもんなー」
「ねー私も何か観測だの的係だのでずっと矢で撃たれてたもん」
「あん時のお前が居たから、今の俺がいるんやで」
アンダースリーの言葉にモリゾウが告げるとアンダースリーは笑った。
「マジで感謝しろ」
「えーえーそりゃーもう、スリー様が居たから高3の時の全日本大会で優勝出来ましたわ」
「アンタだけだよ。
周りが環境武器使ってテンチョーさんやトドマンさんですら環境武器使ってるのにボウ片手に連キルからのファニーキルしたのは」
2人が思い出話に花を咲かしている側でサムライバスターはその該当動画がフラッシュバックした。
理由は簡単。日本でもニュースで取り上げられていたからだ。eスポーツが世間に認められ早久しいが、全日本大会と言えば国体クラスに有名な大会だ。そんな国体、陸上競技で言えば100メートル走でティラノサウルスの着ぐるみを着て出場し、日本記録出して優勝したレベルの話である。
「なぁ、モリゾウ」
そんなモリゾウに最初に仕掛けたのはバスターナイトだ。
「あん?」
「あんた、今ギルドには入ってないだろ?」
「まーな」
「なら、俺達のギルドに入らないか?」
バスターナイトの言葉にモリゾウは笑って答える。
「入んないよ。
テンチョーもトドさんも始めたから明日、もう今日か。今日か明日には“モリゾウ、クラン作るわー何かいい感じにやっといてー”って言ってくると思うし。
今、テンチョーとトドさんで上位レベルにめちゃんこ喧嘩売って動画ネタ大量に集めてるし」
モリゾウは今度はモシンナガンを構えて空に狙いを定める。そして、何かを見つけたらしく引き金を引くと空から大きめの鳥が落ちてきた。
「うぉ、あの鳥殺せるのか。
何これ?鳥?ワニみたいな顔してるけど」
モリゾウは消えていく鳥、正確にはモンスターの一種で屍肉食いの名で呼ばれる無害なモンスターである。
「ここら辺のモンスターはカスだな。
明日もう一回あのクソ蛇殺しに行くか?」
「何だそれ」
「ヒュドラ?とか言ってた奴っす」
サムライバスターの言葉に首を傾げる。
「ヒュドラ?
お前、もう暗き彷徨う森に行ったのか?」
「何スカそれ?
何か寂れた炭鉱街みたいな街の坑道っすよ。最初は骨とゾンビしか出てこなくて、途中から二足歩行のワニ野郎になって、バス部屋前にガイル?ゲイル?忘れたけどソイツがヤマタノオロチだーって騒いだかと思ったら蓋開けりゃ突然変異の8つ頭のヒュドラでしたーってくそ下らねぇ依頼だったっす」
ヒュドラの頭一つでボルトアクションなら1発でMAXに、M4なら二つでMAXと告げるとバスターナイトやサムライバスターは額を押さえた。
「そんな場所でそんなクエスト出るなんて聞いてないぞ……」
「新規のクエストなんじゃないか?アップデートの」
2人はモリゾウを置いて勝手に盛り上がり始めた。
モリゾウは話終わり?と言わんばかりに女子2人を見た。
「で、この後どーするの?
もうてっぺん回ってるから解散?」
「そうね。
私、明日の朝一限からあるからログアウトしようかな」
「私も午後からだけど、眠たいしなー」
「んじゃ解散するかー
部長と弟君、また遊びましょー」
「明日、昼飯奢るから今の話詳しく聞かせろ!」
「はーい。
お疲れっしたー」
モリゾウはバスター兄弟とアンダースリーに別れの挨拶をしてログアウト。
デバイスを取って起き上がる。
「三好のアパートここから近いの?」
十三郎は隣で同じ様に起き上がった三好を見る。
「うん。そうよ」
「んじゃ、送ってくわ」
「ありがとう。でも、大丈夫よ?」
三好は少し嬉しそうに、しかし遠慮するように告げた。
「いやー流石にこの後三好が事件に巻き込まれたら俺の寝覚が悪い。
それに明日の朝飯兼昼飯買うつもりだし」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
モリゾウは財布とスマホを片手に、三好と共に家を出る。
完全に深夜であり明かりは街灯とコンビニ、ポツポツとある飲み屋ぐらいしかない。人通りは住宅街が近いと言うのもあって全くなかった。
「森野君って、木下さんとすごい仲良いのね」
「おう。
中学からの腐れ縁だな。彼奴、ゲームの腕はそこそこだけど動画編集とかクソ上手くてさー今も良く手伝ってもらってる。」
「へ、へーその、2人は付き合ってるの?」
三好の言葉に十三郎は一瞬鳩が豆鉄砲をくらった様な顔をしてから、大笑いした。
一頻り笑ってから十三郎はすまんと謝り首を傾げた。
「どーなんだろ?
付き合ってはない。でも、俺の親も向こうの親も俺等が付き合ってると思ってる」
「どう言うこと?」
「お互いの家によく遊びに行ったりしてたんだよな。んで、親同士も仲良くなってー
別に否定するのもアレだし、変に意識するのとギクシャクするし、そっからズルズルと今に至る見たいな?」
十三郎の言葉に三好が驚いた顔をしていた。目を見開き、何と言っていいのかと言うフリーズに近い感想を持ったのだろう事は十三郎は容易に想像出来る。
「まー俺としてはね。
全然付き合っても良いし、多分、俺の自惚れじゃなきゃ向こうも俺と同じ事思ってるよ」
十三郎は周囲を見回し三好に耳を貸せと告げる。
「これ、内緒なんだがな。彼奴、大学デビューする際、俺の1番お気に入りのグラビアアイドルと同じ髪型と同じタイプの眼鏡に変えたし、服装も俺が好きなタイプの服装よくしてるからな。
こりゃマジだぜ」
十三郎は内緒なと少し茶化す様に告げた。
「そ、そう、なんだね」
「おう。
三好は俺のタイプじゃないけど、美人だし器量も良さそうだからモテると思うよ。
大学だから恋人の1人や2人、作るのも手だな」
「森野君も、もし、気になってるなら木下さんをしっかり確保しとかないと他の人に取られちゃうわよ。
私のマンションここだから!今日はありがとう!」
三好はそう告げると十三郎は少し驚いた顔をする。それからニッと笑った。
「違いねぇ。
じゃあまた明日な三好」
エントランスに向かう三好の背中に十三郎は礼を述べるとコンビニに向かった。
十三郎と三好がそんな事をしている同時刻、UTSの上位レベルプレイヤー達は迷いの森にて立て籠もってPKしまくっているプレイヤー達の情報をバスターズのリーダーであるバスターナイトとその兄サムライバスターから手に入れていた。
「彼奴等、CoOのファニーキルカムズだ」
「何だそれ?」
「全日本eスポーツ選手権のFPS部門で3連覇した3人組クランだ!
リーダーで女ゴルゴ13のテンチョー、ワンマンアーミーで1人で最前線担当したトドマン、そして変幻自在トリックショットのモリゾウ!
弓矢で300メートル先の走ってるプレイヤー頭射抜いたり、飛んでるヘリのパイロット射抜いたりしてる動画見たことあるだろ?」
サムライバスターの前にいる各ギルドの長達に動揺が広まった。
界隈が違うとは言えゲームをやってれば名前はそれなりに分かるレベルの有名選手だ。3人とも顔出しNGでスポンサーも殆ど付けていないが月に数本出される動画は毎回凄腕のキルやアホ過ぎる企画等を上げているのだ。
モリゾウのトリックショット集、テンチョーの凄腕狙撃集が人気だ。
「それで、森に籠ってるのはテンチョーとトドマンだ」
バスターナイトの言葉に全員が納得した。
と言うよりも納得せざるを得なかったのだ。森を歩いていたら罠に引っ掛かり、罠を解除して進むと何処からともなく飛んでくる狙撃により死亡する。狙撃に追い立てられる様に逃げた先は機関銃の真ん前で蜂の巣にされる。
これを森のあちこちでやられたのだ。おかげでこの場にいる全員が既に3回は死亡していた。
「モリゾウって奴は居ないのか?」
「ああ、彼奴は今ログアウトしてる。
だが、彼奴もこのゲームにいる。この中でもあった事ある奴いるだろ?
彼奴、コンパウンドボウで200メートル位先のゴブリンに同時に矢を四つ当てたんだ」
バスターナイトが動画をその場にいる全員に開示した。
其処にはモリゾウがToTと言って披露した技が最初から最後まで映っている。
「何だこれ?
嘘だろ……どうやんだよ」
「何のチートよこれ」
弓を背負った者達が呆れた様に告げる。
「俺も後から調べたんだ。ToTってミリタリー界隈の言葉で、タイム・オン・ターゲット、日本語に直すと同時弾着射撃って呼ばれる撃ち方らしい。
本来は複数の別の場所にいる大砲が同じ時刻、同じ目標に同時に弾を撃つ方法らしくてな」
サムライバスターがネットで見つけたToTの動画を見せた。其処には自衛隊がToTとして8門の大砲で富士山の絵を描くと言う良く見るそれの映像だった。
「これを弓の射角と矢を引く力を加減して撃つと、これが出来るって事か?」
映像を見た1人が尋ねる。サムライバスターは無言で頷いた。
「確かに、現実にも居るわよ。
弓矢でトリックショットする人。調べたら海外の人がやっていたし、私も真似た事あるわ」
弓を持ったプレイヤーが告げる。
「でも、出来なかったわ。
何の実用性も無いし、矢に術を付与して撃ったほうがまだ賢いわ」
「ああ、彼奴は“なら俺もそれ覚えれば1人で砲兵隊出来るな”って笑ってたな」
サムライバスターの言葉に全員が震えた。
200メートルはこの場にいる誰も攻撃出来ないのだ。範囲の魔術を付与された矢を放たれたら一方的に攻撃されてやられるしか無いのだ。
「でも、ファニーキルカムズは全員ギリードゥの種族だ。特にモリゾウはこれだけの技術を持ちながら“弓はお遊び”とか言っていた。
魔術はスクロールで覚えれると言ったら“高いのか?”だぞ。
このゲームに対して興味がまるで無い。近々ファニーキルカムズでギルドを作るからってギルド勧誘も断られた」
周りのプレイヤー達はざわついた。バスターズは確かに新しく出来たギルドであるがその実力は折り紙付きである。
「ファニーキルカムズ、ギルドが出来たら大変な事になるぞ」
「遂にPK専門ギルドが出るのか?」
「彼奴等と交渉しよう。
交渉役は……」
全員の視線がサムライバスターとバスターナイトに集まる。
「俺がやろう。
決裂しても責任は取れんが、それでも良ければだが」
「なら、連絡役になってくれ。
流石にアンタだけに全責任は被せれん」
プレイヤーの1人が告げると他のプレイヤー達も頷いた。
「分かった」
こうして夜分の密会は終わったのだった。
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