第10話

 モリゾウはウシャンカを被って走り出す。取り敢えず、1番近い街へ向かうのだ。そこでファーステイへ直ぐに向かう為の方法を探す算段らしい。勿論、その方法はある。

 モリゾウは1時間程走って上位レベルプレイヤー達が集まる攻略の本拠地、城塞都市トップダウへ辿り着く。


「マジ、移動手段よ……」


 モリゾウは入り口である門の脇で寝転んでいた。

 暫く寝転んでいたが起き上がるとリスポーンポイントの更新をして武器屋に向かった。武器屋に入るとそこそこプレイヤーがおり、モリゾウは少し感動した。


「おー、武器屋めっちゃ繁盛してるやん」


 モリゾウは武器商に商品を見せろと告げ、一覧を確認する。

 取り敢えず、場所によって変わるという商品一覧を見るのだ。そして、一覧を開く前に“赤きルートの解放”と出る。


「赤きルート?」


 モリゾウは首を傾げ、一覧を見るとKar98kの下にモシンナガンがあった。


「モシンナガンやんけ!!

 赤きルートの解放がなんかわからんけど!!」


 モリゾウは即座にモシンナガンを購入し、弾、7.62mm×54R弾を600発と7.62mm×39弾に5.45mm×39弾を其々300発と各々弾倉を10個づつ買った。気が早いにも程がある。そして、モシンナガン用にスパイクバヨネットも購入した。


「あとはナガンとかトカレフ欲しいな」


 残念ながらどちらも出ていない。

 モリゾウは仕方ないとモシンナガンを背負いロシア国家を歌いながら外に出る。次に向かう先は防具屋だ。

 防具屋に入り、一通り見て行くと兜の項目にヘルメット(ソ連)とMASKA-1ヘルメットが追加されている。またリュックの項目に一品追加されていて、雑納(ソ連)と書いてあった物を買う。

 他にも各国のポンチョがありソ連と書かれた物を買い雑納と共に装備した。


「出来た!

 WW2ソ連兵!」



 モリゾウは万歳とモシンナガンを掲げ、うん?と首を傾げた。理由は単純、モシンナガンが些か長い気がしたのだ。


「なんだ?」


 モリゾウはモシンナガンを隅々まで確認する。店の前の道、ど真ん中で。


「んー?何だ、これは?

 違和感はこれか!此処が悪いのか!何だこれは!?変な単位!」


 タンジェントサイトと呼ばれる所謂照門にある射距離がメートル法でもヤードポンド法でもない独自の単位が使われていたのだ。

 このモシンナガンは所謂M1891であり、モリゾウが知っているタイプはM1891/30と呼ばれる1930年に改訂されたタイプの騎兵銃タイプをモデルに作られた少し短い物なのだ。


「あー!これあれだわ。

 帝政自体のモシンナガンだわ!つーことは、これを進化させ無いといつもの1930タイプは出てこ無いのか。

 あーはいはい」


 モリゾウはなるほどなるほどと頷き背負っていたリュックやポンチョを仕舞う。


「これじゃ完コスじゃ無いな」


 モリゾウはため息を吐いてモシンナガンを背負い歩き出す。


「んでーなんかワープポイント的なアレが欲しいんじゃ」

「おいお前!」


 そして、歩いているとプレイヤー達に囲まれる。

 モリゾウはそれこの前見たーと嫌そうな顔をした。


「はーい、そこのお前でーす」

「お前!森の中で陣取ってるプレイヤーの仲間だろ!!」


 直ぐにピンと来た。


「あーテンチョーとトドさん。

 まだやってんのあの2人?で、お前等はあの2人にぶっ殺された系のプレイヤー?」


 モリゾウは大爆笑しながら居並ぶプレイヤー達を笑い飛ばした。


「お前!チートでも使ってるのか!」

「なら運営に通報しろよー

 どーせ、テメェが敵わないから文句言ってるだけだろーあの2人CoOでもかなりキモい腕あるからなー

 俺もあの2人には負けるけど、普通にお前等位なら拳銃でも余裕で殺せるわ」


 バーカと煽り倒すと決闘を申し込まれた。モリゾウは普通に首を傾げる。


「何でなんの得にもならねー決闘を俺がしなきゃいけねーのよ。

 俺お前と違って忙しいのよ。ファースン?何だっけ?兎に角最初の街に行かなくちゃいけないけねーんだよ。

 お前等だって一々ゴブリン相手にしねーだろ。俺にとってお前はゴブリンだ」

「なっ!」


 モリゾウは認可し、二十六年式拳銃で目の前のプレイヤーの頭を撃ち抜いた。至近距離でダブルタップ。頭部にクリティカルヒットしたのでプレイヤーは一撃で死亡する。

 豚すら殺さないと馬鹿にされた銃ではあるが、至近距離で当たれば死ぬのだ。


「そう言えばお前等馬持ってたよな。

 持ち物にあるだろう?馬。どれだ馬の所有権?」


 モリゾウはアイテムを漁る。回復薬やよくわからないポーション等を回収していく。


「馬は他人に譲渡出来ないぞ。

 あと、ファーステイに行きたいなら移転屋にいけ。金は掛かるが、お前がソイツ殺した金でも充分にお釣りがくるぞ。

 あの赤い屋根だ」

「お!マジか!

 助かるわーあと30分で約束の時間だし」


 サンキューとモリゾウは言われた場所に走って行く。店に入り、カウンターに向かう。


「ファースタン?始まりの街まで!」

「ファーステイでございますね。

 金貨一枚を頂きます」

「たっか!

 ぼったくりかよ」


 モリゾウは笑いながら金貨をカウンターに置くと受付嬢は奥の部屋へ、と。モリゾウは言われた部屋に向かい中に入ると大きな魔法陣が描かれていた。


「おーどーすんだこれ?」

「ああ、魔法陣の真ん中に立って。

 この魔法陣はファーステイが行き先だけど大丈夫かい?」


 入り口近くに座っていたローブを着た職員のようなNPCが何やらポーションを飲み、行き先の最終確認をする。


「ああ、問題ない。

 送ってくれ」

「じゃ、じっとしてて」


 そう言われると光が徐々に強くなり、そして目も開けられないほどに強くなる。

 モリゾウも目を閉じ、若干の浮遊感に襲われた。それから、目を開けると景色は変わっていない。


「何か変わった?」

「ええ、トップダウから始まりの街ファーステイにようこそ」


 先程のように職員がいた。


「おー早いな。

 これ、街ならどこでも行けんの?」

「基本的に転移魔法陣が繋がっていれば行けます。

 距離に応じて金額は変わりますが」

「なーほーね。

 めっちゃ使えるなコレ」


 モリゾウは時計を見るとまだ20分近くあった。

 転移屋から出てリスポーンポイントを更新する。それから一度ログアウトした所でメールが来た。差出人は史華で内容は一緒にUTSやろーぜと言う物だった。

 十三郎は一旦トイレ休憩をしてコーラを飲むと始まりの街の武器屋の前にいると送って再度ログイン。


「さてはて、そういや二十六年式のレベルは上ったろ」


 モリゾウが武器屋に移動しながらステータスを確認すると案の定マックスになっていた。あのヤマタノオロチ改めて八つ頭のヒュドラも中々に良い経験値稼ぎにはなったが、拳銃を育てるには些か条件が悪すぎる。

 対人は今の所相手が馬鹿なのか何故か剣の間合いの更に内で決闘を仕掛けたり銃に有利な距離で突撃を仕掛けて来るので不意打ちや一方的な射撃で勝てるのだ。


「おー!S&WのNo.3じゃん!」


 そして、二十六年式の後に出てきたのはスミス&ウェッソン社のM3またはNo.3拳銃だ。

 それのロシア輸出モデルが出て来た。


「あ、これアレだ。

 絶対此処からナガン来るぞ。絶対来る!」


 ヒャッハーとモリゾウは小躍りし始める。

 側から見れば完全に変な奴だった。


「.44ロシアン弾とかマニアックだな。

 ノーマルタイプも出るんかぁ?スコフィールドとかも」


 モリゾウがステータスを見ると派生が2つある。


「おー、君、シゲくん?」


 モリゾウがNo.3をクルクルとガンスピンしているとプレイヤーに話し掛ける。見るとローブを纏い、鍔広の魔女帽子を被っていた。


「おー?あ、史華?

 俺、変わらずモリゾウ」

「そうそう。

 私もアンダースリー」


 アンダスリー、名前を入力する際木下をもじってアンダーツリーにしようとして打ち間違えた何気が付かず、そのまま今に至るまでこの名前を使っている。


「それ何の種族?」

「私はダークエルフ。

 職業はネクロマンサー」


 ほら、とアンダースリーがステータスを開示する。


「あーお前そう言うの好きだもんなー

 それどーやんの?」

「ステータスで表示するって所押すと見せれるよ」

「おー、あ、これか?」


 モリゾウが操作するとピコンとステータスが表示される。


「え、めっちゃレベル高いじゃん!?

 もう、レベルだけ見たら中堅超えて上位レベルだよ!ステータスめっちゃ低いけど」

「あーレベル上げてもアンマ良いことないけどな。モシンナガンとかもよくわからんけど店に並んでたんよなー

 あ、テンチョー達に自慢しよ」


 モリゾウはウシャンカを被ってモシンナガン片手にスクショを撮って送る。


「ステータスに割り振らないのは何か意味あるの?」

「何それ?」

「いやいや!筋力とか知力とか色々あるからそのポイント振りなよ!

 CoOとはまた別なんだから!」

「あーそーか!

 これ、RPGだったわ」


 モリゾウは何あげればええんや?と尋ねる。


「プレイスタイルによるからなーでも、モリゾウ君はアーチャー系参考にしたら?

 筋力と技量メインで上げるの。あとはー俊敏性と魔術使うなら知力も上げるのが良いかも」

「あ、そうそう。

 魔術ってどうやって使うの?俺も何か魔術使えるらしいけどそれ使うまでもない敵とかプレイヤーばかりだったから一回も使ってないんよなー」


 モリゾウはよっこいしょと地面に座る。アンダスリーもその向かいに腰を下ろした。


「チュートリアルしなかったの?」

「あーしてない。

 何処でやるのか知らんし、銃の方が好きだもん」

「そんな回答初めて聞いたわ。

 まー良いや。杖ある?」


 モリゾウは分からんとアイテム欄を探すと1番下に星の付いた杖と言う物を見つけて取り出した。


「杖ってこれか?」

「え!何それ初めて見た!」


 杖は木の細い棒の先に星型の宝石が付いた物だった。


「えーっと、“ギリードゥ達が人間達の使っている杖を見よう見まねで作った杖。妖精独自の魔術が無意識で織り込んであり、ギリードゥ達が自分達で作るので同じ形、大きさは無いし、店舗販売もしていない。他種族が使用すると確率で魔力暴発で死ぬ”ってさ。

 バカじゃん」

「えー凄い可愛いし欲しーなー」


 ステータスは市販で売っている最高品質の杖と同じ能力で、ギリードゥが使うと1.5倍の力を得るというパッシブスキルも付いている。

 ただし、ギリードゥは最初から使える魔術に攻撃が可能な物が無いのでいきなりの攻撃魔術無双も出来ないし、ギリードゥが他の魔術を覚える為に必要な知力は他の種族より高く設定されている。


「えーギリードゥ、凄いピーキーな種族じゃない。筋力とかはヒューマンと同じ、魔力保有量は妖精族やエルフに匹敵、まぁ、これは妖精種だから当たり前か。

 知力は、だいぶ低いね。魔術系が苦手なドワーフ系と同じ。器用は種族で1番高いヒューマンと同じ、俊敏力も獣人と同じでこれも高いわね」

「へーそりゃすげーな。

 じゃー高いところ上げまくるか」

「それでも良いんじゃ無い?体力も少し上げた方が良いかも」


 モリゾウはアンダースリーと共にステータスを上げると、俊敏器用爆上げで中衛くらいなら楽々できる筋力と硬さを手に入れた。


「銃は仕舞って、弓か杖を待っといたら?

 目立つよその銃」

「じゃあ、この前ゲットしたコンパウンドボウとこの子供杖装備したこう」


 モリゾウはコンパウンドボウを背負い、右手に杖を持つ。


「なんか、アホっぽい子供みたい」


 アンダースリーが苦笑する。モリゾウはほーれーとスキップしながら杖を振り回す。

 モリゾウの腰にはS&WのNo.3が下がっている。


「ん、メールだ」


 アンダースリーがそう言うとモリゾウにもメールが来る。


「俺にも来た」


 差出人は三好で、今何処にいるのか?と書いてある。時間を見ると22時を20分程過ぎている。


「フツーに忘れてたわ」

「い、急いで行こう!」


 モリゾウ達は噴水のある広場まで向かうと、3人のプレイヤーが何故か坐禅を組んで座っていた。

 モリゾウはアンダースリーの腕を掴んで彼等の正面にあったベンチに腰掛ける。


「さてはて、あの3人に声かけるの嫌なんだけど」

「わ、私もちょっと嫌だなー」


 モリゾウはイェーイとアンダースリーと共に後ろのチーム坐禅を写しながらスクショを撮り、部長と三好に送る。

 暫くすると、大鎧を纏った武士が立ち上がり周囲を見渡す。そして、メールの画像とモリゾウ達の姿を見比べそれから走って寄って来る。


「貴様!森野!」

「こっちではモリゾウでーす。

 こっち、アンダースリーこと木下ちゃん」

「そうか、それはそうと遅いぞ貴様!

 集合時間位守らんか!」


 部長、サムライバスターがモリゾウを指さすとモリゾウは反省してる様子が全く無い反省してまーすと頭を下げた。

 

「全く貴様は……」


 もう良いと部長は溜め息を吐くとこっち来いと2人を連れて行く。


「そっちのエルフが三好、ラブスリー」

「よろしくねモリゾウ君、アンダースリーさん」

「あーい」

「よろしくお願いします」


 サムライバスターは残る1人を見る。


「コイツは俺の弟で上級ランクのプレイヤーである「聖騎士のバスターナイト。よろしく新人さん」


 サムライバスターの言葉を遮って握手を求めて来たのでモリゾウはその手を握る。


「君、もしかしてギリードゥ選んじゃったの?」


 バスターナイトが苦笑しながら告げるとモリゾウは首を傾げた。


「ああ。

 まー種族は何でもよかったけど、これが1番銃にあう姿だったし」

「銃!?職業はまさかガンナー選んだのか?」

「うむ。

 CoOからそのままデータ持って来たからまー当たるわ。今AK目指して漸く足掛かり掴んだんよ。

 ほら、これ頼まれて作ったM4A1。俺あんま好きじゃ無いんだよね。ふみじゃなくてアンダースリー……ナゲーなスリーで良い?」

「あ、うん。

 良いよ」


 モリゾウはサンキューと頷いてM1872を差し出す。


「スリーってCoOでリボルバー使ってたっしょ?店でも買えるけど、だいぶ高いから上げるわ。リロードはSAAみたいな感じ。

 .44ヘンリー弾は300発あるからそれもあげるわ。俺もう使わねーし」


 モリゾウがホイホイとアンダースリーに渡す。


「おーありがとー

 カッケー」


 アンダースリーはM1873を装備するとクルクル回す。


「これ、どんくらいで当たるの?」

「CoOでお前が当てられる距離はバッチリ当たる。俺なら50メートルで当てれるぞ」


 モリゾウはS&W No.3を構える。


「えー!?そっちの方がかっこいい!」

「あーもうちょっと待てば多分……

 あ、そうだ。お前、俺と決闘しろ。お前をNo.3……めんどくせぇからロシアンで良いか。ロシアンもスコフィールドになると思う」


 モリゾウが決闘申し込みってどうするんだ?とステータスを弄りながらバスターナイトを見た。


「君、俺は上級ランクだぞ?」

「俺だってレベルなら上位らしいぞ。

 ほら」


 モリゾウがステータスを見せる。


「なっ!?

 モリゾウ君少し前に始めたばかりって!」

「おー上位レベルのプレイヤーPKしまくったらこうなった」


 モリゾウがふふんとロシアンをクルクル回しながら答える。


「な、なるほど……

 君が一昨日からの騒ぎの元凶か……」


 バスターナイトがステータスを弄るとモリゾウに決闘が申し込まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る