第8話

 モリゾウは一層目に潜って早2時間漸くM1カービンはM2カービンに進化した。


「このゲーム、今の所フルオートは其処まで必要ねーんだよな。

 つーか、M1A1はどーした。空挺仕様」


 モリゾウはM2に進化したカービンからMP28を育てる事にした。

 MP28の外見はMP18に良く似ている。細部を見れば違うが、ぱっと見は似ているのだ。使用面で大きく違う物はセミオートフルオートの切り替えが可能になった事だろう。

 モリゾウはセミオートに切り替えてゾンビや骸骨を倒して行く。表層階より纏まって現れる事が多くなる。

 勿論、先に攻撃可能なモリゾウにとっては何の障害にもならないし当人は纏まって出てくるから一回の戦闘で入る経験値が増えてラッキーとしかおもっていない。

 因みに、ゾンビはご存知死者の遺体等に悪霊や魔術的要因により動く事で生者たるプレイヤーやNPCを襲うのだ。

 骸骨ことスケルトンも似た様な理由で前者はスケルトンに肉が付いた事で打撃にも対応可能であるが筋肉のせいでスケルトンよりも全体的に動きが遅い。逆にスケルトンはゾンビと違って打撃には脆いが速度が速いのと魔術耐性が高いと特徴が別れている。

 そして、この特攻がバラバラかつマップ全体が薄暗い、ガスもある為並のプレイヤーは対処が難しくなるのだ。

 成るのだが、モリゾウは当然として他のプレイヤーすら検証出来ていない人型特攻が付いているので人間由来の存在で一定以上の防具や障害が無ければ銃とその弾丸由来の有効射程内ならば弱点部位たる頭部や心臓に当たればクリティカルヒットをし、ある一定以上の口径と銃ならば腕や指等の末端部位を吹き飛ばすことも可能だ。

 勿論、モリゾウは当然知らない。が、CoOのノリでやっているのでこれが良くも悪くも合致してしまっている。


「雑魚いのは良いんだけど、つまらん。

 人間みたいに逃げないし避けないもんな」


 モリゾウは飽きたと言いながら、左手にツルハシを握り右手にオートマグを握っていた。MP28はマックスになったのだ。地上より数が多いので同じ時間でマックスになったのである。


「MP38出て来たのは良いけど、PPshとかって……あ、もしかして」


 モリゾウはステータス画面を開く。尚絶賛戦闘中であるが、緩慢な動きのゾンビやら振りが大きいスケルトンの攻撃は全て円匙で弾き頭部に角を叩き込んだ。

 携帯円匙(ロシア軍)の正式な名前はMPL50と言い、近年良く見る折りたたみ式ではなく短いスコップだ。

 故に受けをまともにやらなければゾンビやスケルトン程度の掴み攻撃や攻撃を流して反撃できる程度には強力である。

 そんな感じで敵の攻撃を雑に避けながらステータスを確認する。MP28まで完成させてその先の枝からリボルバー側に伸びる不明の枝があるのだ。


「つまり、ロシア系拳銃を出さなきゃペペシャへの道が無いわけか。

 店売りが、ホントに起点でしか無いからマジで困るなこのゲーム。楽しいから良いけど!」


 モリゾウはうんざりした様に溜め息を吐き、新しい階段を見つける。


「取り敢えずここに来るまでにMP28は一弾倉とちょっと、オートマグは2個弾倉か。

 降りる前に弾詰めておくか」


 新たに弾倉を作り、準備を整えたモリゾウは二層目に降りる。得物はM2である。

 銃を構えて前進。目に付いたゾンビやらスケルトンやらの頭に弾をぶち込みながら進んでいくと何やら小部屋があった。

 開けると中はランプとベッドの置かれた部屋で荷物整理用のトランクボックスもある。簡易セーブポイントである。ダンジョンにはこう言った物があり所謂リスポーン地点だ。


「取り敢えず一旦ログアウトして報告するか」


 十三郎はM2まで進化した事とロシア系銃器少なすぎる問題として店長と戸田にメールを送った。

 それから時計を見ると16時を回っている。小腹が空いたと冷蔵庫を見るが何も無い。


「ジュースもねーじゃん。

 炭酸欲しい」


 十三郎はそんな事を言いながら財布を片手に外に出た。外はまだ明るいがそろそろ日が暮れてくる、そんなオレンジの様な青の様な灰色の様な色だった。

 十三郎は近くのドラッグストアに向かう。デカデカと“スギ”と書いてあり花粉症持ちである十三郎は此処によく花粉症の薬を買いに来るので何だかなと言う思いをするのだ。

 それからコーラやジンジャーエールなどを書い、序でに小腹を満たす為にスナック菓子を手に入れる。それから暫くカップ麺コーナーやシャンプーリンスコーナー等をウロウロした後にレジで会計を済ませ家に戻って再度あの坑道に向かう。


「3階にセーブポイントあったからもう後3階層位あるのか?

 めんどくさーな」


 モリゾウはクリア条件なんだよとぼやきながら道を進む。セーブポイントの小部屋から先、敵の形態が少し変わった。

 今まではゾンビやスケルトンだったのが二足歩行のワニの様なトカゲの様な物になったのだ。

 これはリザードマンと呼ばれるモンスターで腰蓑の様な衣装の他に手には石や骨で作った原始的な武器を持っている。

 表皮の鱗は硬く、並の武器では傷がつかない。


「おー怪人蜥蜴男だな」


 モリゾウはそんな事を言いながらこちらに気がついていないリザードマンに狙いを定める後頭部を狙い撃てば、頭を破裂させた。


「あら、M2カービンは余裕なのね」


 銃声に気が付いたらリザードマンは直ぐに反応してモリゾウの方に走り出す。

 その速さはスケルトンの比ではない。


「おーはえー」


 しかし、距離は300メートル近くあるのだ。ウサインボルトですら10秒切るのがやっと、リザードマンを持ってしても10秒以上は掛かる。

 モリゾウは残りの3匹を何の動揺や恐れもなく冷静にヘッドショットを決めた。


「さてさて、怪人くん4匹はどの位の経験値かな?」


 ステータス画面を開くと、6分の1程溜まっていた。


「あー、意外に多いな。

 此処案外レベル上げにもってこいだな」


 何度も言うが此処は上位レベルのプレイヤー達がメインで活動する場所だ。そして、スケルトンやゾンビですらレベルで言えば50前後、中堅プレイヤーと同等程度のレベルである。リザードマンに当たっては80を超えているのだ。

 モリゾウのレベルも相当数上がっているがなんのバフやデバフ等支援を使わず、何なら防具も頭に被ったレベル1クラスのカス装備で挑む場所ではない。

 因みにモリゾウに至っては初心者が買う初級回復用のポーションを3つしか持って来ていないし、それをインベントリのアイテムに入れっぱなしなので直ぐに使うことも出来ない。

 なので背負っている盾が現状モリゾウのHPを回復出来る唯一の手段である。

 モリゾウがこんな舐めプを出来ているのは単に銃とその特性を理解している長年の経験、プレイヤースキルの高さによる。

 他のプレイヤー、例えば史華がこれをやると銃弾が当たらずに肉薄され、パニックに陥って死ぬだろう。

 そんなモリゾウは鉱石と宝箱を回収しながら進むと4層へ降りる階段を見た。

 再度弾を弾倉に詰めて下に降りると、何やら大きな扉がある。

 そして、脇には小部屋。モリゾウは小部屋の方に入った。部屋はセーブポイントであり先程の小部屋と作りは変わらない。ただし、ベッド脇の床に傷付いた男が1人虫の息で座り込んでいた。


「お、何かおる」


 モリゾウはM2を構えて男に近付く。


「誰だ?

 ああ、お前も、この鉱山に挑んできた……グッ、無謀な冒険者か」

「あー……まぁ、似た様なもんだな。

 何してんだアンタ?」

「あ、ああ、ちょっとドジってな……

 あんた、回復薬とかないか?」

「回復?

 あったかなぁ?途中で変な瓶とかは拾ったけど」


 途中で拾った変な瓶は魔力を回復したり、バフをかけたり、解毒剤だったりする。モリゾウは3つしかない回復薬の一つを男に差し出す。

 男はそれを飲むと先ほどの傷が癒え、辛そうな表情が和らいだ。


「貴重な回復薬を済まない。

 俺はゲイル。見ての通りの冒険者だ」


 それからNPCゲイルのストーリー進行に関わる話が始まるのだが、モリゾウ的には何の興味もないのでステータスを開いてアイテム整理や武器のレベル把握をし始めた。

 このクエストは何度も言うがモリゾウが初めて見つけた物であり、まだ誰も知らないクエストなのだが、考察とか銃のツリー解明にしか興味のないモリゾウはわりかしこの世界の根幹に関わる重要な単語を平然と聞き流していた。


「そう言うわけだからこの先進むも戻るもアンタ次第だ」

「ん?あ、おう。

 で、この先何がいるんだ?」


 モリゾウは話が終わったと見るとステータス画面を閉じ、ゲイルに尋ねる。


「だから、8つの頭を持つ大蛇だ。

 俺の見立てではありゃユニークエネミーの一種、ヤマタノオロチだな」

「そうか。

 そりゃ怖い」


 モリゾウは蛇のバケモンか、と納得するだけだ。アイテム欄を開き、手榴弾系を確認する。手榴弾はブービートラップの為に大量にあったので行けるやろ、と気軽に考え取り敢えずリスポーン地点を更新する。

 そして、大きな扉の前に移動した。


「あんた、さっきの話を聞いてまだ挑む気か!?」

「倒さねーとこのクエスト終わらねーだろ!!」


 尚、モリゾウは話を一切聞いておらずステータス画面を開いていたので知らないが“特殊クエスト:帰らずの坑道”はクリアしておりこの扉を潜った瞬間に“緊急クエスト:ヤマタノオロチ?を討伐せよ”が始まるのだ。

 そんな事を知らずにモリゾウは完全舐めプスタイルで扉を潜った。案の定“緊急クエスト:ヤマタノオロチ?を討伐せよ”が開始される。


「おお?なに?マジででけージャン?」


 モリゾウは目の前でトグロを巻くヤマタノオロチを見上げる立ち上がった近さは5メートル程で、モリゾウを見る八つの頭は其々舌を出して威嚇する。

 モリゾウは取り敢えず、と言わんばかりにM2カービンで一頭の鼻先に銃弾を叩き込む。


「何とか器官みたいな奴が蛇の鼻先にあるんだろー?それがサーマルみたいな代わりするって」


 モリゾウの射撃は狙い通りで、一頭の頭は痛みに悶え、他の頭がモリゾウにかみつこうと襲ってくる。


「うぉ!!」


 モリゾウは慌ててそれを走って避ける。モリゾウがヤマタノオロチから間合いを取ると追撃はして来ない。

 モリゾウは攻撃を何度かして逃げると言う行動を取った間合いを図った。ヤマタノオロチは自身から150メートルほど離れたら追って来ない。

 他にも探知範囲が頭8つ分ある為にかなり広いのも分かる。


「手榴弾届かない。

 ずっと射撃かよー」


 狙いを定めて単発射撃。

 この安全圏から射撃をしているとヤマタノオロチは威嚇はしてくるが攻撃して来ないのだ。勿論、この位置から攻撃が出来る武器は限られている。

 弓矢は勿論、一部の魔術のみだ。初期実装の時は。勿論、新職種や武器の実装には入念に吟味され社員達にやって調整が入り、βテストにおいてプレイヤー達に最終確認させるのだ。

 そして、その過程で運営側は大きなミスをした。此処に至るまで、CoOのシステムをそのまま放り込み最高峰FPSとまで言われた性能をまんま実装してしまったが故に起きた勘違い。


“銃って結構当たらないな。当たれても50メートルか。よし、このまま実装しよう”


 此処に至るで誰も何も勘違いしたまま進み、そして、CoOの上澄、いや底の泥にも劣らない廃人共に見つかったのだ。

 ヤマタノオロチはこの距離から急所であるピット器官を延々と撃たれて続ける。探知外及びピット器官の損傷、ギリードゥのアクティブスキルによりモリゾウの姿を捉えることができないのだ。


「やだぁー飽きるぅー」


 モリゾウは文句を言いながら全ての頭のピット器官を撃ち抜いていく。


「てか、HP分かんないの腹立つ。

 頭グズグズになるまで撃ってれば死ぬか?

 つーか、何かの漫画で頭潰しても復活するとかあったけど、そんなことしねぇよな?」


 モリゾウは完全にその場に伏せてMPL50を突き立て脚代わりに射撃をし始めた。M2カービンの弾倉5個分、計150発叩き込んだところで頭が壊れた。


「おー!!やったぞ!!」


 モリゾウはガッツポーズした。

 M2カービンを確認するとレベルはマックスになっていた。


「おーM3かと思ったらM4じゃん!

 じゃあ、この後にM4A1か?ま、良いや。M4まで来たらテンチョー許してくれるやろ」


 モリゾウはKar98kを取り出して構える。そして、狙いを定めると再度ピット器官を狙撃する。


「やはりフルロード弾。30カービンなんざクラウツのコートすらぶち抜けねぇ雑魚ですわ!!」


 モリゾウはそんな勝手な事を叫ぶ。この元ネタは複数あり、朝鮮戦争で中国義勇軍の着ていたコートだったりするが、どちらにしろ弾が当たっていないだけだったりする。

 勿論、弾自体はフルロード弾よりも威力や射程は落ちる。なので、Kar98kで撃つとM2カービンで撃つより確実に少ない弾数で撃破出来る。

 現に90発程で再び頭部を破壊できたのだから。


「お!頭一つでKar98kがMAXなったやん!」


 Kar98kの後に出てきたのはGew41という自動小銃だった。


「しかもこれ、モーゼル版じゃん!

 すげー、このデータよく作ったな。バカじゃん。気持ち悪いミリオタいるんやなーUTSには。感謝と嫌悪感しかないわ」


 モリゾウはGew41(M)を構えると次々に弾を撃ち込んでいく。やはり90発程で頭部破壊出来、経験値MAXになった。

 この時、ヤマタノオロチに挑み早2時間が過ぎている。解決が見えてきたモリゾウは早くもGew41の次の銃、Gew43を手に入れたのだった。

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