初めてのクエスト

第7話

 モリゾウ達は目的の街に着いてログアウトする。街はうらぶれた宿場町の様な場所で夜とは言え人通りは全く無く、活気もない。

 取り敢えず、宿場にて部屋を取りログアウトしたので彼等の復帰ポイントはこの宿場町に固定されたのであった。

 モリゾウ達が現実世界に戻るとその時刻は既に2時を過ぎていたので、十三郎は慌てて寝る事にした。翌日と言うか本日も大学があるのだから。

 十三郎が目を覚ますと7時を少し過ぎている。今日の授業は午前の後段、10時過ぎからなのでまだ時間があった。


「朝飯どーすっかなー?」


 十三郎が伸びをしながら冷蔵庫を開けるが何もない。

 仕方ないとシャワーを浴びて着替える。それからスマホを確認すると、メッセージが着ていた。


「部長からだ。

 何々、時間があれば部室に来ること?はぁ、まぁ、授業終わったら行くか」


 十三郎はパソコンの前に座ると昨日と言うか今朝と言うかまでのUTSで手に入れた情報の纏めに入る。

 街ごと、正確にはプレイヤーのレベル帯ごとに店売りの品が変わり、そして、目的の銃を入手する為には複数の銃を育てる必要がある。

 時代が進むに連れて育てる必要が出てくる銃は違うし、増える。別系統との組み合わせもある。


「ヘンリーライフル手に入れるのにまさかの二十二年式必要とはね。お前の方が後発だろうが!と言うツッコミは言わない約束か?

 マスケット銃系はそう言えばないな。手榴弾もいきなりMk.2だったし。ん、テンチョーから貰った上級者プレイヤーが多い街の店売りに柄付きあるのか。M26もだ。

 何だろう?んで、弾はロケット弾やミサイル。あー、あのブビトラこの弾から作れるのかあれ、この表、RPG-2があるやん。これ、めっちゃ突っ込まれるぞ。

 CoOのミリオタガキもいるからクソめんどくさいんだよなー」


 因みにRPGはロールプレイングゲームの略では無く、ルチノーイ・プラチヴァターンカヴィイ・グラナタミョートの略であり日本語にすると携行式対戦車擲弾発射機であり、良く聞くロケット・プロペラルド・グレネード、ロケット推進擲弾ではない。

 また、この表にあるPG-2弾頭はPG-7弾頭の様にロケット推進もし無いので完全にロケット弾に枠に入っているのは間違いなのだ。


「M1909みたいな細かいところまで調べてると思ったらこう言う凡ミスもするのな。

 まー、それ言い出したらヘンリーもそうか」


 モリゾウはうーんと伸びをして時計を見ると9時を少し回っていたのでそろそろ出るかと学校へ行く支度をする。道中マックで朝マックを購入して学校に向かい、教室に入るとまだほとんど人はいなかった。そして、マックを食べながらパソコンを開くと本日の授業で使うレジュメや教科書を準備しながらスマホを弄る。

 スマホでUTSウィキを覗き、そこの掲示板を何の気無しに覗くと大荒れに荒れていた。理由は簡単。テンチョーとトドマン、そしてモリゾウのせいであった。

 昨日だけでこの初心者3人が屠った中堅から上級プレイヤーの全員のLvを足すと余裕で5000は超えていたし、何なら殆どが超遠距離か遠距離(どちらもUTSプレイヤー視点)で頭部を正確に射抜いて来たので高い防具や加護を付けても意味がなかったと言う。

 また、このせいで3人はチートだと言われ運営にも何十件ものチート報告が上がり、運営は死んだ際の再現ムービー、所謂キルカムと共に“チートやそれに類するグリッチ等の使用は認められませんでした”と言う返信を送られたそうな。

 また調整が可笑しいと言う苦情についても“現状、実装から1ヶ月以内の期間で一件の威力調整に付いての苦情も来ておらず、同時に対人戦闘のみの威力調整は困難なので対エネミー戦においての情報も収集してからガンナー武器に付いては調整致します”との実質的な“調整しねーよ”と言う返信もあった。

 十三郎はアホらしいと鼻で笑いCoOの掲示板を見る。こっちはUTSについて一切触れられていないので逆に安心する。

 ファンタジーゲームに興味ある奴はほとんどいないのだ。


「そう言えば、銃剣は買ったけどちゃんとした近接武器欲しいな。

 普通の武器とか見てみるか?ダガーで良いけど」


 十三郎がやる事リストを作りながらそう言えば付け足した。

 そんな独り言を呟いていると隣に誰かが座る。1人の女子学生である。


「おはよう森野くん」

「あー三好かー

 おはよー」


 三好春、十三郎と同じ学年で同じサークルだ。学部も学科は違うが同じなのだ偶によく会うと言う存在が三好春である。

 清楚系美人で優秀と言う感じの少女で多分モテると思うと言うのが十三郎の感想。高嶺の花と言うか話しかけづらいと言うか、と言う感じの存在だ。


「ひーまにあった……」

「お、史華ーまた寝坊かー?」


 そして、同じ様に春と挟む様に座るのが木下史華だ。十三郎と同じ中学で高校の際に同じFPSをしていたと言う事で話が合い高校3年間の腐れ縁かつ同じ大学に進学して来た同級生でインキャ眼鏡女子だ。大学になり遅まきながらファッションや化粧にも手を出し始め手始めに十三郎の好みの服や化粧でいる。十三郎と同じサークルにも所属しておりCoOもやっている。

 ただし十三郎の様な腕は無く下手な横好きで続けているカジュアルプレイヤーだ。


「あ、うん。

 ゾンビモードで格闘武器だけでどこまで行けるかやってた。

 シゲくんは?」

「あー俺はちょっと面白いもんみつけてなー」


 そこでチャイムがなり教授が入って来た。


「ま、詳しくは昼話しするわ」


 十三郎は取り敢えず話を切り上げて目の前の課目に挑む事にした。

 授業が終わると三好が話しかけて来ようとして他の学生に捕まる。十三郎と史華はそんな三好とその友人達に邪魔しない様にさっさと退出する。


「飯どーする?」

「午後は何も無いし帰り道にあるマック行く?」

「あー朝マックだったんだよ。

 麺類、うどん食べたい。サガミ行こうサガミ」

「サガミ?良いよ」


 2人はうどん屋のチェーン店に入る。

 席につき2人はメニューを決め、先程授業前の話題になる。


「それで、シゲくんの見つけた面白いものって何?」

「ああ、ウルティマラティオストーリーってゲーム知ってるか?」


 十三郎が自信満々に尋ね、史華が一瞬怪訝そうな顔をした。


「ウルティマ・トゥルー・ストーリーじゃなくて?」

「あー?そうだったかも。

 なんか、剣と魔法のすげー有名な奴」

「ウルティマ・トゥルー・ストーリーよ。

 通称ウルトゥル。ヘカートシリーズに間違えて言う人初めて見たよ」

「何でも良いよ、名前なんか。

 兎に角知ってるな?」


 十三郎が本題はそこじゃねぇと本筋に戻す。


「うん。

 一応、私もやってる」

「そーなん?

 まー俺もついこの前始めたばっかなんだけどさ。そこにガンナーってジョブあるだろ?」


 十三郎の言葉に史華は納得した。

 史華は流行っていてお勧めされたのでUTSをやり始めたタイプだがしっくり来なくてキャラメイクを作り込み最初の辺りで数時間プレイしてからやらなくなったのだ。

 グラフィックは綺麗だし、かなり精巧に作り込んでいたが1人でプレイするには些か寂しさが優ったのだ。


「あーできたらしいね。

 最近やってないから分かんないけど、大型アプデ入ったって1ヶ月くらい前に言ってた」

「早い話がそのアプデで銃が来たんだわ。

 CoOと全く同じシステムだった」

「へー、すごいじゃん。

 でも、なんか全然当たらないって聞くよ」


 史華が少し前のめりになる。


「そら、CoOとかやった事ない奴は当たんねーよ。史華くらいの腕でも立射胴体150当てれたらいい方だろ?

 伏射で300だと当たれば良いとかだし」

「そうだねー」


 史華がお冷を飲みながら頷く。当たり前だがCoOでも敵に弾を当てるのはかなり難しい。あのゲームでも基本的に殆どの撃ち合いはかなりな至近距離で発生する。

 サバゲーと同じ距離だとよく言われ、勿論しっかり狙ってシステムを理解すればその距離はどんどん開く。事実、十三郎含む上位のプレイヤー達は平均交戦距離が150から200メートルであり、300メートル離れても基本的に弾を当てられる。狙撃メインだとその距離は更に伸びて800や600メートルがザラだし、中には1km超えて狙撃してくる化け物もいる。

 対して史華の様なカジュアルプレイヤーは基本的に50メートル100メートル、遠く離れて300で何とか至近弾を出せる程度である。

 その為、CoOの基本的な交戦距離は50前後で、偶にスナイパーを使えば150とかになるのだ。


「史華でそれなのに、いきなり銃なんか知らない様な魔法使いや剣士にゃ、酷ってはなしよ。

 んまぁ、連中がクソ雑魚なのはどーでも良くて」


 十三郎がそう告げた所で店員が注文の品を運んで来た。きつねうどんとたぬきうどん大盛りだ。


「きつねの方ー」

「俺っす」

「たぬきでーす」


 店員が十三郎の前にきつねうどんを置き、史華の前に十三郎の丼より1.5倍デカいどんぶりを置いて去って行った。

 それから十三郎はうどんを食べながらUTSにある銃達が如何にマニアックで、それでいて解除する為に苦労しつつもそれが楽しいかを語る。

 食事を食べ終えてからも2人は暫くそこで駄弁ってから店を出た。


「で、今ファニーキルカムズで調査してる感じよ。

 ある程度したら動画出すつもりだけどな」

「じゃあ、私もその動画見て面白そうだったら銃買ってまたやってみようかなー」

「おう。

 楽しみに待ってな」


 十三郎は俺こっちだからと史華と別れて帰宅。そして、速攻でUTSに潜った。

 最後にセーブしたのがうらぶれた宿場町で、外に出ると実に閑散としていた。NPCもまばらにしかおらず虚ろな目をしている。

 テンチョーとトドマンは既にログインしており何処かに行ってるらしく街にはいなかった。モリゾウは取り敢えず街の武器屋に向かう。武器屋の品揃えは確かにグレネードや弾薬が変わっている。

 それからやる事リストを開いて一つづつ検証だ。近接武器はウィキ通りの物が並んでおり、その中に携帯円匙と書かれた物がある。つまり、軍隊が持っている折りたたみ式或いは小さいスコップだ。


「おーいーね。

 鉈、円匙、十字ツルハシ、剣円匙、ノコギリとオノも買っとこう。こんだけあれば俺も掩体構築出来るな。

 あとは格闘用のナイフ。お、これで良いや。暗殺者の短刀」


 モリゾウはそれらを購入してから今度は防具屋に向かった。防具屋には頭装備と腰回りの装備を見に来た。腰回り、特にベルト系は腰にぶら下げられるアイテムが増えるので持っておけと昨日テンチョーからアドバイスを貰ったのだ。

 そして、ギリースーツと言っても過言ではないギリードゥの姿に似合う弾帯と言うベルトがあり、それを購入した。

 頭部防具には様々な帽子などがあり何やら“炭鉱夫のヘルメット”と言うヘルメットがあった。説明書には“炭鉱夫が坑道を掘る際に被るヘルメット。正面にはランプが付いており暗い坑道でも手元がはっきり見える。色は黄色か赤。戦闘には向かないが、無いよりはマシ。”と書かれていた。面白いのでそれも購入し、店を出る。


「アンタ、冒険者だろ?」


 店を出るとNPCに話しかけられた。

 正気のない顔をした婆さんだ。


「ぼーけんしゃ?」

「ああ、そうだ。

 アンタもあの坑道に行く気かい?

 辞めておいた方がいい。アンタみたいな一攫千金狙った奴が何人もあの鉱山に挑んでみーんな帰って来ないんだ。

 アンタも命が惜しけりゃ行くのを止めときな」


 NPCの婆さんはそれだけ言うと去って行く。そして、モリゾウの視界に“特殊クエスト:帰らずの鉱山が開始されました”と表示される。どうやらサブクエスト的な物の発動条件を達成してしまい、勝手に始まったのだ。

 尚このクエストは実は未発見のクエストであり、発生条件はこの町でツルハシと炭鉱夫のヘルメットを買う、でありこのどちらも序盤の街で手に入る。なので、誰も見つけたいなかったのだ。


「おーい、何すりゃ良いんだー?」


 モリゾウは先ほどの婆さんに話しかける。


「ああ、アンタか。

 あそこに行くのは止めときな」


 婆さんはそれだけしか言わない。

 モリゾウは顔を顰め、取り敢えず婆さんが入るなとしか言わない坑道に向かう。


「まー良いか。

 一から武器を育てるにあたりにモンスターとプレイヤーとでの苦労の差を調べるのもやる事リストに書いてあんだ」


 モリゾウはやれやれとM1カービンを取り出した。

 相棒はMP28と拳銃をどうするか?と悩んだ所何やら新しく使える拳銃があった。


「お?何だこいつは?」


 タップするとそれはオートマグ3だった。

 オートマグシリーズは説明するまでもないデザートイーグルと並んで有名なマグナムを発射する自動拳銃だが、その3はなんとM1カービンと同じ.30カービン弾を発射するのである。


「あれー?

 普通にオートマグ1は?」


 見ると3から一つ伸びた枝がありそれはまた別の拳銃へと繋がっていた。何となく、モリゾウはこの系譜が読めた。


「ダーティハリーかい!」


 やれやれと笑いながら武器屋に戻り弾倉と追加の弾を購入してから改めて坑道に向かった。せっかくなので頭に先ほどのヘルメットを被り、接近戦用に携帯円匙(ロシア軍モデル)と言う物を選ぶ。

 坑道は薄暗いが所々にしっかりと明かりがついる。勿論、それだけだとかなり見落とす様な暗さでありモリゾウは暗視装置を付けていた。頭のランプは付けていない。

 黄色ヘルメットを被ったギリースーツはモサモサと坑道を進む。


「お!何かおる」


 なんか、とは具体的言えばモンスターだ。この坑道、当たり前だが高レベルプレイヤーがメインの地域なので敵もかなり強い。

 モリゾウは150メートル先に見つけた骸骨の頭に狙いを付けて射撃。骸骨は頭が弾け飛びその場に崩れた。モリゾウも銃を取り落としてその場に蹲る。


「み、耳がァ!鼓膜破ける!」


 当たり前だ。トンネルの中で爆竹を鳴らす様な物だ。モリゾウはええいとガバメントの弾を2発抜くと耳の穴に詰める。顔は真っ黒の不思議な生物だがなぜか耳はある。もっとも、それは触ると“耳”と分かるが外側から見ても何もない。取り敢えず耳の穴に弾丸を詰める。


「ガニースタイルだ」


 それから奥に進むと出てくるのは骸骨とゾンビだけだ。

 また、時折壁の熱反射量が変化しており其処をツルハシで殴ると鉱石が落ちた。


「これが一攫千金の?

 金塊じゃねーの?」


 モリゾウはそんなことを言いながらもしっかりと見える範囲の鉱石を回収した。

 そんなこんなで1時間ほど歩き、モリゾウは下層に向かう梯子を見つけた。木製の梯子でそれを降りた先はより一層暗かった。また、空気も澱んでおりモリゾウはガスマスクを被る。


「そう言や、テンチョーが鉱山とか火災とかのガスは何の効果も無いって言ってたな。

 なんか、気持ち息しやすい気がするけど、まーそこはゲームよな」


 実際、この階層から有毒ガスが漏れており解毒や防毒等の準備が無いと気がついた時にデバフにかかり、地上に戻る前に死ぬと言う意地悪仕様だ。

 モリゾウが進むと敵は相変わらずのゾンビやら骸骨だった。モリゾウの敵では無い。途中、宝箱や鉱石を見つけ回収したりしていると何やら盾を手に入れた。


「盾だ。

 えーっと、何々?祝福の盾」


 何やら神々しい絵が描いてある中盾だ。

 説明書には“敬虔な鉱夫が親父に頼んで聖書の一節を絵描いて貰った盾。聖なる祝福が施され、薄暗い中で落盤に怯えながらこの盾を心の支えに穴を掘り続けたのであろう。仄かに暖かく心が安らぐ”と書いてあり効果としては装備するとゆっくりとHPを回復するとあった。

 モリゾウは取り敢えず盾を背負い探索を進めて行く。

 ちなみにこの盾、何種類か種類があり全て同じ効果を発揮するが入手した場所により絵柄が違う。モリゾウの手に入れた盾は


「んー坑道に入るなって言われただけで入って見たけどぶっちゃけ何すんのかわかんねぇな」


 モリゾウはめんどくさくなり、M1カービンの経験値を見ると3分の2は溜まっていた。


「ここまで1時間半ちょいか。

 効率は悪いな」


 モリゾウは非常に不服そうだが、実際にはかなり効率が良い。理由として、そもそも銃が要求するレベルアップまでの経験値がべらぼうに高い。実際、M1カービンで上位レベルの保有する武器の要求値とほぼ同じだ。ツリーで見るとまだ序盤も序盤だが、それでこの要求値である。

 勿論、モリゾウはそれを知らない。

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