第5話

 UTSの非公式ウィキにある雑談掲示板ではモリゾウの事が話題になっていた。理由は簡単、初心者PKをする初心者がPKKチームを次々と返り討ちにして中堅が基盤とする街で平然とログアウトして行ったからだ。

 元来、プレイヤー達は宿屋で死んだ際のリスポーンポイントを確定するが、このモリゾウは宿屋に一度も入る事なく街のど真ん中でログアウトしていく。また、最後にモリゾウを囲んでいたクランが全員悪質な粘着行為として強制BANになった事も、事態を加速させていた。


“コイツとんでもねぇな”

“ガンナーで全員ほぼ一撃キル?んで、罠仕掛けても発見出来ない。

 チートでしょ”


 スレッドに次々と書き込まれていく。


“ところが、これ、ギリードゥの特殊能力と射撃ゲーマーじゃ誰でも出来るらしいぞ”


 URLには動画配信サイトでほぼ無名に近いプレイヤーの動画が貼られていて、その射撃能力は確かに50メートルほど先の敵プレイヤー射殺していた。


“下手くそじゃん”

“このゲームとUTSが同じシステムと言う証拠は?”

“お前公式情報見てねーのかよ。

 UTSはCoOの運営会社も使ってるバレットラインエンジンをガンナーの武器に使ってるって開発マネージャーがインタビュー答えてだろうが”

“にしたって此奴、300メートル位から頭に当ててたぞ”

“ほれ”


 次に貼られた動画URLはファニーキルカムズのモンタージュ動画である。

 次々と曲芸撃ちや超遠距離射撃、弓によるトリックショット等が軽快な音楽と共に流れていく。


“お、ウチ等の動画じゃない。

 見てくれてありがとう”


 そこにハンドルネームがテンチョーと表記された書き込みが出た。


“何だお前?”

“銃あるから私等もこのゲーム参入するよって挨拶。

 よろしくね”


 この書き込み以降、中堅プレイヤーが拠点とする街と上位プレイヤーが拠点とする街の双方で大規模なPKが巻き起こったのだった。

 渦中のモリゾウこと十三郎がそれに気が付いたのは大学とバイトを終えてゲームにログインした22時頃であった。


「うぉ!?なんかまた囲まれてる」


 モリゾウがログインすると周囲には大量のプレイヤーが並んでいた。一応モリゾウが移動しても別の場所には行けるように人1人が通れるスペースはあるが、それでもあまり良い気分では無い。


「お前がモリゾウだな?」


 その中でも派手な鎧を着た男が尋ねて来た。


「え?これ、ID見えないの?

 俺はお前等の見えてるけど」


 勿論見えている。モリゾウは自身の上を見るが、自分で自分のIDは見えないのだ。


「見えている」

「じゃあ聞くまでも無いだろ。馬鹿なのか?」


 モリゾウは頭の横で指を回し、それからブロディヘルメットを被る。するとメールが届いた。周りのプレイヤーの怒号やら何やらを一切無視してメールを開いた。

 差出人は店長ことテンチョーで、内容は此処に集合と添付ファイルと共に書いてある。


「あーん?

 此処いけば良いのかね?」


 PS.ブービーに注意と書かれていたのと地図に付いては森林だったので何があるのかモリゾウは理解した。

 モリゾウはガーランドを背負い、地図を開く。目的の森林とその方角を見定める。


「ふむ、これ上級の街じゃん」

「上級の街?

 城塞都市に行きたいのか?」

「送っていっても良いぞ」


 モリゾウの独り言を聞いたプレイヤー達が提案するがモリゾウは中指を立てる。


「うるせーな!

 何だお前等さっきから!さっさとゲームしに行けよボケ共!」


 モリゾウはそう言い捨てると走りだす。

 そして、集合と言われた森を目指す。プレイヤー達は慌ててその後を追いかけた。


「ま、待て!」

「お前に話があるんだ!」

「待たないし俺は無いもんねー」


 モリゾウはそのまま町の外に出てただひたすら真っすぐ走る。モリゾウの装備重量は最軽量。掛かる重さの内訳は7kg超であり、この場でマラソンをしている誰よりも軽い。

 故に何のブーストもないプレイヤー達は徐々に離されていく。モリゾウは少し振り返ってさらにスピードを上がる。本気ダッシュだ。

 モリゾウは途中林に入ると昨日PKで手に入れた撒菱を撒く。

 暫くしたら後方から悲鳴やら怒号が聞こえて来たのでモリゾウは満足してさらにスピードを上げた。

 それから40分モリゾウはよく分からない平原を走っていた。既に街で手に入れたマップの範囲外におり詳細な地形は分からないのだ。

 大雑把な輪郭と町の位置、主要街道だけしか表示されていない。UTSではこの表示範囲が基本的にそのプレイヤーが行ける簡易的なレベル制限表とも言われており、レベルが足らない者はこの表示範囲外地域では基本的に戦ってもやられると言う指標になる。

 故にレベルが上がっていけばこの地域にいるモンスターに対抗できるようになり、少しずつこの範囲も広がるのだ。

 なのだが、モリゾウは勿論此処に集合と送って来たテンチョーはこの法則を確実に無視しているだろう。勿論、遊び方は自由なのでそれを咎める事はできない。

 モリゾウは平原で争うモンスターやら野生の動物と言う枠組みの所謂魔物よりは弱いがプレイヤーと敵対する可能性のある動物、今回は狼の集団がゴブリンの一団と戦う様子等を走りながら眺める。


「おもしれー見てるだけでも楽しいな此処」


 モリゾウはCoOで見られる荒廃した市街地や砲弾により穴だらけの平原、燃え盛る軍艦が目に入るリゾート地等とはえらい違いだと笑っていると遠くに土煙が上がってるのが見えた。


「なんだ?」


 モリゾウは撒菱同様に手に入れた双眼鏡を覗く。UTSには基本的にその行動に対して2種類の選択肢が用意される。

 例えば罠。モリゾウのやった撒菱や罠線を用いた罠等の物理的な罠と魔術を使った罠の2種類がある。

 前者は威力を求めると設置する所用が大きくなるが、小さい物は秘匿率が非常に高い。対して魔術を使うと必ず魔術を使用したと言う痕跡が残るので罠感知等の対抗手段で簡単に看破される。

 双眼鏡が物的方法だとしたら、魔術的方法には遠見と言う魔術があるのだ。


「馬、だな。騎兵隊」


 横一列になって全員がキョロキョロしながら駆けている。顔までは見えないが纏う鎧などはモリゾウを追いかけていた連中の一部が着ていた鎧に似ていた。距離は1km近くあった。


「なんだなんだ?

 殺すか」


 モリゾウはガーランドと十八年式を取り出すとボロボロのダガーを地面に突き立て鍔に銃身を乗せる立木があれば良かったが木は此処から移動するには少しばかり遠い位置にあったので諦めた。


「距離は一キロ、風は……土煙は若干左に流れてる?

 無視しても問題無いな。こっちは?」


 草を摘んで落とす。右に流れた。

 つまり、こっちとあっちでは風向きが違うのだ。


「めんどくさ。

 まー良いわ。俺狙撃兵じゃねーし」


 弾着修正しながら撃つかとモリゾウは照尺をスライドさせて1kmに合わせた。狙いを付けて撃つ。

 双眼鏡を覗いて景況を見るも、当たり前だが弾着は見えない。何なら、肉眼で1kmは当然ながら豆粒なので狙いが正しいのかも分からない。


「当たんねーな。

 まーいーか」


 次、と照尺を950に落とし射撃。それを600メートル位までやって行くと漸く騎馬側も撃たれているのに気がついた。しかし、600にもなればモリゾウも肉眼で何とか狙いを定められる。


「遠い遠い、へへへ……」


 モリゾウはそう一人ごちて残り少なくなって来た11mm弾を詰める。構えて、引き金を絞ると初めて狙った位置にいた騎馬が倒れた。十八年式はレベルが上がる。見ると二十二年式連発銃が出た。


「おぉ!

 初めて見た!でも、当たるのかぁ?」


 距離は500メートルだ。狙いを定めて構える。そして、引き金を引くが誰も倒れなかった。続いて第二射。弾は馬に当たって乗っているものを落馬させた。

 レベルを見るとMAXになっていた。


「なんだ?馬殺しても経験値めっちゃ貰えるな。レベル高い奴の馬は経験値も美味いのか?」


 モリゾウは早々にこの連発銃を更新する。枝は新たに2つ伸び、一つはヘンリーM1866になっていた。これはリボルバーのツリーにあった現れていない枝であったそれである。


「あ、お前からイエローボーイになるんかい!

 あと三〇年式ゲットォ!!」


 モリゾウは直ぐに三〇年式を構えると漸くモリゾウを捉えた騎馬隊は突撃を開始した。しかし、まだ450m程である。モリゾウは慌てる事なく三〇年式を構えて狙いを定める。

 上下に揺動しつつも逆に言えばタイミングに合わせて撃てば馬の頭か、人間の腹より上の何処かに当たるのだ。


「よっしゃ!」


 そして、モリゾウはそれを狙い射撃したのだ。放たれた弾は真っすぐ馬の頭に当たり、馬は昏倒。乗っていたプレイヤーは投げ飛ばされ、倒れた馬は隣の馬を巻き込んでの大惨事。この全てのプレイヤーと馬の経験値はモリゾウと三〇年式に入る。

 モリゾウはガーランドに持ち替えて進路上に入るであろう騎馬に大して射撃して行った。モリゾウとの距離が50メートル段階でモリゾウから見て右翼は壊滅した。

 ガーランドは特徴的なパキャーンとクリップを吐き出して弾切れを示す。予備弾も無くなったのでM1912に持ち替えて約束の場所に向かって走り出す。ショットガンの利点はほぼ弾が共通なので弾の共通化がし易いのだ。


「あともうちょい!」


 それから追ってくる騎馬団にデカいトカゲみたいなモンスターをけしかけたり、馬でも奪ってみるかと乗っているプレイヤーだけ殺して馬に跨ろうして振り落とされたりすること30分。

 漸く集合場所に辿り着く。


「森に着いたーっと」


 モリゾウが現在地をスクショしメールを飛ばすと、直ぐに返信があった。曰く、1200ミル方向に真っすぐ、と書かれていた。


「拾ったコンパスにミル表記あったか?」


 モリゾウがめんどくさそうにコンパスを取り出すがミル表記どころか文字盤には赤い矢印とNと書いてあるだけだった。

 仕方ないのでテンチョーにミル表記ねーよと送ると視覚画面弄れと返ってくる。なので設定を開くと視覚の上部に方位角の表示と言う項目があった。

 デフォルトでオフにされているのだ。それをオンにして表記を度からミルに変更。また、位置座標の表示とあった。なのでこれもオンにして表記をMGRSに設定する。

 モリゾウは森に向かって歩き出す。既に夜を3回程迎え、4回目の夕方が終わろうとしていたのでモリゾウは暗視装置を付けた。

 サーマルメイジャー搭載であちこちに温度が高い部分が白く強調されて映し出されている。


「おー凄いな。

 ハハハ!」


 モリゾウはデ・リーズル・カービンを背負い、手にはガバメントを片手に森を進んでいく。道には完全に罠が作られており、落とし穴もあった。


「よー何だこれは?

 テンチョーかトドさんが作った奴だな。スゲーなこんな細工できるのか」


 枝と網、落ち葉と土で穴を隠しているが、サーマルには土の中の空洞のお陰で地面と偽装との温度差を反映していた。

 また、罠線等もくっきりとは行かないがよく見れば普通に見える。


「サーマルは救済措置かね?

 まーこんなん無くともCoOプレイヤーにとっては楽に避けれるけどな」


 モリゾウは罠線を跨ごうとして、足を止める。一歩下がり、その場に伏せると、落ち葉で巧妙に偽装されてもう一本の罠線が丁度跨いだ先にあった。


「あっぶねー!

 そーだよ、この罠テンチョーかトドさんのだからマジでこう言う死ぬ程いやらしい事してくるよな!」


 モリゾウは見上げるとRPGの弾頭が下がっていた。


「え、何でPG-7あんの?

 ま、良いや」


 モリゾウは巧妙に張られた罠を掻い潜り30分ほど進む。


「あ、モリゾウ君、そこで止まって」


 木の上からそう声をかけられた。モリゾウはぴたりと止まり上を向く。


「あ、やっぱりそれ買うよねー

 僕も買ったよ」


 木の上からブーニーハットを被ったギリースーツが降りて来た。手にはBARを握っている。


「何で君はチンハット被ってんの?」

「色々あってコイツが1番面白そうだったんすよ。

 てか、BAR使ってるんすね。トドさん」


 ブーニーハットのギリードゥことトドマンは手に持ったBAR、M1918自動小銃を見る。


「うん。17から19とこの18に派生したんだ。まーまだM60出ないんだよねー

 多分MG42が必要なんだろうけど、そこにどう辿り着くか分からないんだよねー」

「あーそれ多分系譜辿る系っすねー

 MG34に至る道ですよ」


 モリゾウが告げるとトドマンが困ったように笑う。


「そのMG34はどうやって行くか何だよね」

「あー、MG08でしたっけ?

 あれはどうっすか?」

「あーあそこから。ドイツの系譜なら其処スタートかなぁ?」


 あっちこっちとクネクネと歩くトドマンの後を全く同じルートで後を追うモリゾウ。


「じゃないんっすかね?

 MG08は出て無いっすか?」

「うーんそうだねー

 ベルト給弾式だとM1917位しか無かったなぁー」

「あー……あれはどうっすか?

 ホチキスの」

「1914かい?あれ、重機だし見てないよ」


 トドマンが苦笑する。


「違うっす。1908?ちょっと待って下さい。

 自分買ったっす」


 モリゾウがこれこれとストレージから一丁の機関銃を取り出す。ホチキスM1909軽機関銃だ。

 保弾板と呼ばれる弾を並べた板を装填する初期の機関銃である。


「これ?

 保弾板じゃないか」

「いや、これ連結させた保弾板で何ちゃって弾帯あるんすよ。

 んで、M1919とこのM1909育ててけば行けるんじゃないですかね?

 M1919から派生はなーんかFN系の機関銃行きそうじゃ無いですかー」

「あー確かに。

 ブローニング繋がりでそっち行きそうだねー」

「だから、安牌って話じゃ無いですけどコイツから派生しないかなーって。

 今小銃のツリーと拳銃のツリーやってるっすけどまー凄いそれかよ!みたいなの出て来たりしてるんで」


 モリゾウの言葉にトドマンは思い当たる節があるらしく笑って頷いた。


「確かにね。

 その銃、僕にくれないかな?」

「良いっすよ。此処から近くの街まで1時間近く掛かるんで」

「ありがとう。

 代わりに僕も君にBARまで渡すよ」


 2人はその場で銃の受け渡しをする。弾薬と保弾板も渡し、トドマンも同じ様に要らない弾薬を渡した。


「そう言えば店売の銃全然なかったけど、どうやったら増えるのかな?」

「え、何時からログインしてんっすか?」

「んーとね、テンチョーが出勤して来て僕交代した後から」

「え?トドさんまだ店にいるんすか?」


 モリゾウが驚いた顔をする。


「うん。テンチョーの指示だしねー」


 しょうがないよとトドマンが笑う。

 トドマンこと戸田とテンチョーこと店長の関係はかなり古くからあり店長には頭が上がらないそうだ。2人の関係はモリゾウも知らない程だ。


「あ、一気に更新された。

 スゲーな」


 モリゾウはおーっと感動した様に笑っていた。


「本当だ。

 取り敢えず、テンチョーと合流しよう」

「そっすねー」


 2匹のギリードゥは森の深部に向かって行った。

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