第4話

 3人のプレイヤーに決闘で勝利し、モリゾウは武器屋を後にする。M1851のレベルも勿論MAXだ。

 M1851の派生はM1860で口径が大きくなった。


「お、1860の派生先なんか二つあるやん。

 えーなーまー何出てくるか予想はつくけど」


 モリゾウは楽しそうに笑いながらM1851とM1860の2丁拳銃でスクショを撮る。その立ち止まった瞬間また四方を囲まれた。

 モリゾウはそれを無視してまた全員のスクショを撮って運営に報告を上げる。また文面も“確かに初心者PKをしましたが、こうも執拗に付け狙われて街中も四方を囲まれて行動を阻害された挙句ずっと決闘を申し込まれるのは些かやりすぎだと思う。彼等のこうした行為運営側が容認しているのであれば私はこの素晴らしいゲームを辞めざるをえない。

 同時にそれを取り締まることをしなかった貴方方とこのプレイヤー達を訴えようとも考えている”と書いて送り付けた。


「取り敢えず、これはテンチョー達に報告だな!」


 モリゾウは四方を囲まれて何か話しかけられ続けているにも関わらず無視してログアウトする。

 彼は直ぐにデータをファイルにしてメールに添付するとファニーキルカムズのリーダーとサブリーダーであり彼が大学生にもなって唯一親友とも呼べる程に縁深き他人がこの2人なのだ。

 リアルでも親交があり何ならバイト先の店長と店員だったりもする。

 メールはすぐに返ってきて、返信には《店に集合》の4文字であった。勿論、それは折り込み済みなので既に出かける準備は万端で、彼の借りている学生アパートから直ぐにバイト先に向かう。

 電車と徒歩を使って片道40分強、彼の姿はバイト先にあった。


「テンチョー可愛い可愛いバイト様の登場でーす。感涙に咽び泣いて時給5000円にして下さーい」


 そして、そんなアホなことを言いながら正面から入店。客はたったの2人で、その2人もショーケースに入っているゲームを見ながら手元のスマホと交互に眺めてる。

 無在庫転売ヤーか本当のオタクかどっちかでこの場合は後者である。


「このジーコ瞳クジってどーなの?」


 そして、カウンターショーケースの目玉商品として置かれた大量のジーコサッカー(パッケージ付き)を見ながらカウンター脇の椅子で暇そうに漫画を読んでいた店長に尋ねる。

 黒髪ロングで身長は180センチ超えの美人だ。体型も手足が長く、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいた。

 バニラ風味ニコチンレスのヴェイプを常に吸っており甘ったるい匂いがする。


「結構売れてだわ、意外に。

 週に2、3よ?」

「一本一万で!?

 やば。テンチョー在庫アホほど仕入れてましたよね」

「うん。

 いま戸田が裏で更に仕入れた奴やってるわ。それよか、あのメール何よ?めっちゃ面白そうじゃない」


 店長は時計を見ると時刻は19時を少し回っていた。


「まだ早いけど閉めるか。

 オタク共!どうせ買えねーんだから今日はもう買えんな!」


 店にいた2人の客に大声で告げる。2人は驚いた様に十三郎と店長を見る。


「あ、そうだ。

 お前等ジーコサッカークジやって来な!」


 店長がそう言うと2人は顔を見合わせそれからすごすごと一万円を出す。店長は適当に奥から2本持ってくると2人に投げ渡す。


「ほら、瞳当たると良いわね。

 さっさと帰りな!」


 心にもない事を言いさっさと客を追い出すとあっという間にシャッターを閉めてしまう。


「ひっでー」


 十三郎は笑いながら閉店業務を手伝い、ひと足先に奥に向かう。


「戸田さーん」

「あ、森野君。

 どうしたんだい?」

「店長に呼び出されましたー

 あと閉店したんでそれ、また明日一緒にやりましょ。俺シフト入ってんで」

「えぇ?また店長は勝手に……」


 戸田と呼ばれた男は額に浮かんだ汗をタオルで拭くとやれやれと持っていた段ボールを倉庫に戻す。事務室の机の上には検品をしている途中のジーコサッカー達が積まれていた。十三郎はそれ等を纏め、検品済みと書かれた段ボールが積まれている上に置く。


「店長、店にいた客に無理矢理ジーコサッカー売り付けて帰らせてましたよ」

「あーまー彼等はねー半分店長のファンだし」


 十三郎の言葉に戸田は笑い、倉庫に鍵を閉めた。ゲームショップGoD、此処が十三郎の務めるバイト先である。昔のゲームから最新のゲームまで売っているがメインはオンラインでの通販だ。客は日本に留まらず世界中におり、伝票にはヨーロッパやアフリカ等もある。

 戸田は更衣室で着替えて来ると告げて去って行くと入れ替わる様にレジ締めをした店長がやって来た。


「店舗売り上げはジーコ頼みよ」

「店舗で売り上げて、基本ない様なもんじゃないですか。

 店舗販売限定品が付くゲームが入った時以外、俺見た事ないっすよ。しかも、現金で買いにくる客さっきの客達位じゃないっすか」

「いーんだよ!

 偶にレジ使わねーと開け方忘れるし」


 だからこんなに時間かかったのかと十三郎が呆れた顔をすると店長はエプロンを事務室に適当に放り込む。


「それよかあのメールに付いて話そうぜ、バイトぉ?」

「えー勿論。

 戸田さん今着替えてるらしいんで来たら話しますよ。此処で話します?」

「いや、もう今日は閉めたし夕飯がてらどっか飲み行くぞー」

「良いっすね。

 俺も夕飯食ってねーんで賛成!」


 それから着替えた戸田と3人で近くの居酒屋に入る。3人で食べ飲み放題2時間3000円である。


「んで?

 何なのよあのメール」


 ひと段落ついたテーブル席、店長は上唇に付いた泡を親指で拭いながら十三郎を見た。戸田はメールを見ていなかったのでそれを確認する。


「え、凄い何これ?」

「アルティマ・トゥルー・ストーリーって、ゲームに新しく実装されたガンナーの武器がリアル系の銃なんすよ。

 んで、CoOと同じシステムで、ただし銃の解除は購入と進化?みたいな感じっす。

 例えば最初から十八年式村田銃とウェルロッドMk.2が貰えて武器屋で普通に機関銃とか置いてあるんすけど、普通に武器のレベル上げると次の武器が出るって感じっすねー」

「良いじゃん!楽しそう」

「このギリースーツは?」


 戸田が2丁拳銃の構えているモリゾウを指さす。


「ギリードゥって妖精のキャラっすね」

「あら、ギリードゥだからギリースーツっての中々マニアックね」

「え?店長知ってんすか?」


 店長の言葉に十三郎が驚いた様に見た。


「ギリードゥはギリースーツの元になったイギリスだったかな?そこ等辺の妖精だよ」


 店長に代わって戸田が唐揚げをつまみながら答えると店長は正しくはスコットランドよ、と補足説明をする。


「ま、面白そうだから私達もやるわよ」

「良いですね。

 僕も買おうかな」


 その後は3人の飲み会に転じた。

 22時ごろに十三郎がアパートに帰りシャワー浴び、ベッドに寝転ぶ。それからまたUTSにログインするとまだ四方を囲まれていた。また、決闘も挑まれている。

 モリゾウは名前を確認すると承諾し、目にも留まらぬ速さで兜のスリットを撃ち抜いた。ログアウトした人間は一定後にキャラが消えるがログインするとログアウトした場所に出る。

 なので、こうして囲っていればモリゾウは4人の前に出るのだが完全に彼、或いは彼女等は気を抜いていた。4人のログからは決闘申請は消え去っていたが、モリゾウのログにはバッチリ残っている。

 ログイン僅か3秒で決闘になり一撃で1人退場した。そもそもM1860の至近距離に耐えられる人間はいない。モリゾウは背負ったM1897を抜きつつ隣のプレイヤーと決闘を承認してやはり至近距離で頭部を撃ち抜く。


「また1人くらいやっとくか?」


 反対側のプレイヤーの決闘を承認した頃には2人は既に現実に引き戻されていた。そして、モリゾウから間合いを取るも、既に時間切れだ。

 間合いを取ったが故にモリゾウは狙い易くなり顔面に散弾をもろに受けた。

 モリゾウはM1903(パターゼンデバイス)を抜くと間合いを取った最後のプレイヤーと決闘を承認した。


「馬鹿め---


 プレイヤーが仕掛ける前にモリゾウは引き金を引いた。

 モリゾウは直ぐにステータスを開いてレベルを確認する。案の定今使った銃のレベルは全てMAXだった。


「あ、おっしゃ!

 ガーランドだ!此処からカービンだろ!ん?3つ枝伸びてんな。あれか?イタリアの。名前忘れたけど。

 U!S!A!U!S!A!」


 モリゾウがガーランドを掲げると小躍りし始めた。また、リボルバーの方はM1872と言う金属薬莢と.44ヘンリー弾を使うリボルバーとM1858というリボルバーが出る。


「これ、イエローボーイフラグ立ったぞ!」


 モリゾウはリボルバーを換装したあと、M1857を確認するとM1912になっていた。


「ショットガン基本このルートか。

 まーこの後はM37か?ショットガンはいいや。趣味じゃ無いし」


 モリゾウはガーランドを担ぎながらまた武器屋に入る。

 それから店長達に言われた防具の確認に入った。


「取り敢えず兜を……お、は?

 普通にテッパチあるやん。俺はブロディヘルメット派」


 モリゾウはそれを買うと頭に付けた。鋼鉄製の鉄帽なので、上方からの攻撃に対して防御力は上がるが対人戦ではあまり効果はない。

 モリゾウは一通りの防具を買って装備してみるが、装備するとギリードゥの身体であるギリースーツが見えなくなり、何なら部分的に見えているのでギリースーツの上から鎧を纏った変人みたいな格好になっていた。


「ダッセー!」


 モリゾウは爆笑しながらスクショを撮ると2人に送る。

 2人もダサいと返ってきた。それから防具を売り、他に何か面白いものはないか?と探す。兜の他にも防御力は無いが所謂強盗マスクことバラクラバやピエロのお面、能面などと言った物がありその中にガスマスクや暗視装置などがあった。

 ガスマスクの説明には“毒効果を無効化するが視界と持久力に制限を受ける。”と書いてある。実際、付けて走るとスタミナの減りが早くなり、また視界が狭まるのだ。


「ふーん。でも買うよねー

 暗視は?」


 暗視装置は片目用、両目の初期、最新の四目タイプとあった。そして、それぞれの説明もちゃんとある。例えば四目バージョンは“最新の暗視装置を四つ揃えて視界を確保。お値段も二つの二倍”と書いてある。

 二つ目バージョンはサーマルメイジャー機能を付けたAN/PSQ-42と呼ばれる最新鋭の暗視装置も売っていた。値段はかなりするがモリゾウが全財産払えば手に入れれた。モリゾウは迷わず購入した。


「最高やん。

 自慢するしかねぇ」


 モリゾウは暗視装置を付けるとスクショを撮り、2人に送り付ける。反応は無かった。


「あれ?もう寝ちゃった?」


 モリゾウはまぁ良いかと防具屋の外に出る。

 その格好は余りに剣と魔法のファンタジーを全面に押し出したUTSには余りに似合わない。なんなら、CoOでこんな格好をしたら間違いなくバカ呼ばわりされるだろう。

 店から外に出て、モリゾウは道のど真ん中でログアウトした。十三郎は電気を消し、寝る事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る