第3話

 モリゾウが取り敢えず上位プレイヤー達が居ると言われた方角に走っている。彼がマップを開きその一直線上には鬱蒼と繁る木々しか見えない。

 先程買ったばかりのデ・リーズル・カービンを片手に獣道と思しき道を走る。暫く走っていると後方から何やら追いかけてくる様な気配が感じられた。

 モリゾウは長年の経験と先ほどの初心者プレイヤー達から考えるに普通にチクられたと見て良いだろうと判断する。

 モリゾウは走りながらインベントリから手榴弾と杭、罠線を取り出して即席のブービートラップを作ると獣道に仕掛け、手近な木に登った。


「木登りまで出来るたー凄いな」


 登っといて何だけど、とモリゾウは笑いながら罠の方向にカービンを向ける。

 デ・リーズル・カービン、デ・リーズルカービン、別名デ・リーズルコマンドカービンと呼ばれるこの小銃は見た目の特徴で言えばその太い銃身にある。500mlペットボトルかよと言わんほどに太い銃身を備えた騎兵銃クラスの小銃で使用する弾丸は拳銃弾の.45APC弾である。

 元来特殊部隊用に作られた小銃は静音性特化で有効射程も180メートル程しかない。また、その使用弾丸からM1911の弾倉を利用出来るため、モリゾウはあの街でこの二丁を選んだのだ。

 待つこと10分程。弓矢や短剣を抜いたプレイヤー達が音もなく一列になってやって来た。

 彼、或いは彼女等の装備は初心者のそれとは違って立派な物だ。先頭に2人、中段に2人、最後尾に3人と固まった7人編成だった。それぞれの塊は5メートル間隔ほどある。


「……」


 モリゾウは最後尾の魔術師かメイスを持った所謂プリースト、何やらローブを目深に被った不気味な奴に狙いを定めた。

 衛生兵、機関銃或いは対戦車火器、指揮官は努めて優先的に排除される存在である。そして、先頭の2人はモリゾウの仕掛けたブービートラップをに作動させた。

 このブービートラップは非常に簡素な作りで、ワイヤーを引っ張れば手榴弾の引張環安全ピンを引き抜いて安全レバーを勝手に解除してしまう物だ。

 単純ゆえに凡ゆる方法、場所に仕掛けられ、基本的に足止めレベルの嫌がらせでしかない。モリゾウもどうせ解除されると思っていたがあろう事か発動までさせてしまったのが嬉しい誤算であった。

 ピンが抜け、レバーが解除された瞬間、手榴弾は最早その場にいる生き物全ての敵になる。

 丁度中段の先頭を歩いていたら剣を抜いたプレイヤーが通りかかった瞬間に手榴弾は爆発した。

 中段のプレイヤー2人は直撃を喰らって即死、前方の2人のうち後ろに居た者はHPの3分の1になり、先頭にいたプレイヤーは後ろのプレイヤーが盾になり無傷だった。

 後段の3人組は悲惨で、魔術師は前面に破片を受け悲鳴をあげて倒れ、メイス持ちのプリーストは顔を抑えて転げ回り、ローブは喉元を押さえて後ろに倒れた。

 所謂放っておけば致命傷と言う奴である。


「おいおい、マジか」


 モリゾウは笑いながら慌てて振り返った前衛二人組の頭部に.45APCを叩き込んで木から降りる。


「よっ、ほっ、うぉ!?」


 途中足を滑らせて地面に尻から落着。


「イッてー……

 はぁ、やれやれ」


 モリゾウは死んだプレイヤー達に近付く。念の為にガバメントを抜いて。先頭2人は死亡。一番近くにいた短剣持ちプレイヤーの死体上に布袋みたいなアイコンが出ており、モリゾウはそれを触ってみる。すると、このプレイヤーが持って来たアイテムであろう、取得可能アイテムが全て表示された。


「お、なんかいっぱい入ってる。

 よく分かんねーな。投げナイフとあんの?貰っとこ。これ貰うねー

 あ、このロープとかも良いね。ランタン?おー何か面白そうなアイテム一杯あんな。ポーション、何でこんな一杯あるんだ?」


 モリゾウは意味わかんねーと笑いながらいるものいらない物を独自の偏見により選ぶ。

 次に弓矢を持ったプレイヤーだ。


「こっちは弓と矢。

 弓矢かーガンナーのステータスで使える弓は……あった。何で読むんだこれ?こ、こんぽうど?ぼう?こんぽうどぼう?」


 compound bow、コンパウドボウである。アーチェリーで使う弓といえば想像しやすいだろう。

 これもアップデートで実装された機械弓で要求ステータスに比べて射程の長さと命中率が高いが、使用する矢や特殊な器具が必要なのと弓自体の値段がべらぼうに高い為に実質的にこれを買えるプレイヤーはもっと良い弓を持ってると言う残念系武器である。


「これ貰うねー矢もねー」


 モリゾウがそう言ってから装備をしてみる。


「んだよコンパウドボウじゃねーか!

 なっつ。よく遊んだわこれで」


 モリゾウは笑いながら右手首にリリーサーの紐を括り矢筒を腰に付けた。


「おー良いね。

 今日から俺もランボーだわ」


 モリゾウは次に即死した中段のプレイヤー達を漁り彼等からは装備出来る盾とダガーを手に入れた。

 最後尾の3人組からは杖、魔導書、毒や麻痺等を付与できる薬瓶等だ。


「まーこんなもんで良いか。

 金も経験値も一杯手に入ったから初心者でも無いし。

 んじゃ」


 モリゾウはその辺にいるであろうプレイヤー達の亡霊に別れを告げてまた走り出す。因みにモリゾウが意味分からんとか装備出来んとか言って取らなかったアイテム達は売り払えば今のモリゾウならかなりな金持ちになれていたが、意外に抜けているモリゾウは気が付かなかった。

 なんなら、全て初心者プレイヤーですら見向きをしないアイテムばかり回収して行ったのだ。


「なんだアイツ?」

「舐めてんのか?」

「ガンナーだしギリードゥだよ」

「レベルはそこそこ上がってるけど、チュートリアル絶対やってないわよアレ」


 所謂幽霊状態のプレイヤー達は呆れ返っていた。この幽霊状態は自分が死んだ位置からある程度の位置までしか動かないがそこから周囲を観察して襲撃者のいるであろう方向やこうして漁りに来たプレイヤーを確認出来るのだ。


「名前は確かにモリゾウだな。

 全身苔野郎、これも外見に一致している」

「武器もライフルだったな」


 彼等も中堅以上のプレイヤーであり腕に自信があった。故にこうして自警団の真似事までしていたが、まさかたった一撃で死ぬとは思わなかったのだ。


「あの見たことも無い罠はなんだ?魔法か?」

「魔力感知に反応も無かった。

 物理罠もね」


 そう、これぞβテストには実装されていなかったギリードゥの能力の一つ、パッシブスキルの一つである“ギリードゥのイタズラ”と呼ばれるギリードゥを選んだプレイヤーが仕掛ける設置系オブジェクトや魔術は感知されない、と言うぶっ壊れ能力の一つである。

 もっとも、罠感知を扱うのは基本的にプレイヤーしかおらずPvEがメインにも近いのでPvPvEと謳っているがPvPが殆どが決闘めいた物になっているこのゲームでは極々一部の存在にしか使えないスキルである。


「チーターじゃ無いから

 銃も木の上から正確に頭に当てて来た。100メートルはあるよな?」


 即死した剣持ちのプレイヤーはモリゾウが落ちて来た木を指差した。


「ああ、あんな距離から当たるわけ無い。

 私も撃ってみたが50メートル位が精々だ」


 弓矢を持っていたプレイヤーも肩を竦める。勿論、彼女が銃の事を理解していなかったせいである。


「運営に報告してみる?」

「そうだな。

 掲示板にも流しておいた方が良いかもな」


 こうして彼等の誤った認識が独り歩きし、後に大変な事になるとはこの時彼等は勿論モリゾウすら思ってもみなかった。

 そんな我らが問題児、モリゾウは森を抜けて平原を走っている。目的の町まであと50分走れば着くだろう。

 そして、道中出会った、というか見つかったプレイヤーは全てモリゾウの不意打ちかつ実験めいた狙撃により死んで行った。勿論モリゾウはアイテム回収なんか興味無いので金と経験値だけで放置され、死亡したプレイヤー達は自身が移動可能な場所、大体半径15メートル程、からは姿を見付ける事は勿論、方角すら分からなかった。

 そんな辻斬りめいた行軍をしたモリゾウは街に着く頃にはレベルは20を超えておりレベルだけ見れば初心者はとうに超えている。


「よーし、着いた!

 疲れた!精神的に!」


 そして、街に駆け込んだモリゾウはその足で武器屋に向かう。武器の一覧から銃は若干増えていた。


「お、弾倉にベルトランク式の弾倉あるな。

 これは、MG34か?あ!こっちRPDだな!やっぱAKとかあるよなぁ!!

 でも、武器売りでは出てこねぇな」


 モリゾウは何でだ?と首を傾げると、不意に肩を叩かれた。


「あん?」


 モリゾウがウィンドウを閉じて振り返るとフルプレートアーマーの騎士達が3人モリゾウを囲うように立っている。


「貴様がPKばかりしているモリゾウだな」

「あー初心者PKはしちゃいけねーんだってな。

 知らなかったとはいえ、スマンな。初心者のPKはもうしてないよ」


 モリゾウが答えると通知が出た。其処には決闘が申し込まれました、と表示される。モリゾウは勿論拒否する。


「決闘を受けろ!」

「普通に嫌だが?」


 モリゾウはめんどくさそうに返事をすると商人の方を向いて再び項目を見る。取り敢えず、手榴弾と罠線、杭を購入する。

 手榴弾も殺傷系と非殺傷系も購入した。


「うーん、確かに愛銃は欲しい。

 AKは絶対カスタムして持ちたい。でも、現出条件が分からん」


 モリゾウの視界の端に次々に決闘申請が申し込まれているがこれを華麗にスルーしている。また、3人に囲まれているので移動も出来ないので、普通にマナー違反だしなんなら案内に言うと迷惑行為でBANされかねない。

 モリゾウは3人をスクショして運営に迷惑行為として報告しつつ自身の得物達を調べる。


「取り敢えず、十八年式から」


 モリゾウは改めて十八年式のステータス画面を開く。其処には確かにレベルと書かれていて、状態や射程、各姿勢による命中率、射程距離による命中率等が書かれていた。この命中率等は無風かつ気温20度湿度40%と書いてあるので此処の数値が変わるだけで命中率が大きく変わる。


「んー?

 このレベルってのが肝か?いや、俺自身のレベルも上がってる。

 ウェルロッドは……あ、カンストって書いてある」


 同じようにウェルロッドを開くとレベルの項目がMAXになっていた。

 モリゾウは命中率と連射力の兼ね合いからウェルロッドを多用したのだ。


「待て待て、こっからMAX武器はどーすんだ?

 ん?あ!何かページが付いてる!」


 モリゾウは完全に周囲のプレイヤー達を無視して1人大興奮しながらステータス画面を弄っている。

 そして、新しく出たページにはウェルロッドから伸びる枝があり、その先には新しい拳銃があった。


「なんだこの拳銃?ウッズマンか?」


 モリゾウが唯一伸びていた先の拳銃をタップする。


「あ、違う。

 ハイスタンダードHDM?なんだそれ。知らない。あ、解除された」


 HDMが解除されました、と表示され次にHDMを手に入れましたと表示される。

 そして、それを直ぐに装備した。


「うわ、重テェな!?

 つーか、22口径かよ!成る程、暗殺拳銃派生……あ、そーゆーことか!!」


 モリゾウはウヒョォーと何か分かったらしく銃を何丁か買った。一つはリボルバーコルトのM1851、SAAことコルトの世界で最も有名なリボルバーであるシングル・アクション・アーミーより前のリボルバーだ。

 モリゾウはこれをガンスピンさせてホルスターに仕舞う。周りにゴツイ騎士達がいるし、格好がギリースーツなので格好が全くつかない。


「おしおし。

 んでーメインはーM1903とパターゼン。このセットありゃ少なくともM1カービンいくべ!最低でもガーランドは行ける!」


 そして、次の瞬間モリゾウは決闘申し込みをOKした。この決闘システムはありとあらゆる場所でPvPが出来るが、周りの物やプレイヤーNPC等に損害が出ないと言う物だ。そして、承認された瞬間から始まる。本来はお互いに対面して、間合いやら細かい取り決めとかを話し合う。

 モリゾウは振り向きざまに背後に居たプレイヤーの兜、目のスリットに銃口を押し付けてHDMを10発全て撃ち込んだ。ものの3秒程で撃ち殺し、流れる動作でガバメントに持ち替えると右脇にいたプレイヤーに突き付ける。そして、ログにあるまた別の決闘申請を左手で許可して引き金を引いた。

 申請者は今まさに狙っているプレイヤーからでやはり同じように弾を8発撃ち込んだ。


「貴様!?」


 残ったプレイヤーは慌てて間合いを取った。


「おー!すげーな!拳銃だとお前ら位になると一瞬だな!」


 モリゾウはステータスを確認する。HDMとガバメントはMAXになっていた。

 確認するとHDMは分岐が二つある。どちらも取得不可で、また何から派生して来ているのか分からなかったがどうやらまた別の銃からの派生であった。

 プレイヤーは何か叫んでいたがモリゾウは完全にその声をシャットアウト。


「何だ?何が作れるんだ?

 まぁ、良い。んで、もう一丁は?」


 モリゾウがガバメントのステータスを開くと実績が解除された。

 “初めての異種派生”と書かれたそれは拳銃派生相関図とでもいえよう新しい表だった。そして、ガバメントのステータス画面であるにも関わらず、HDMやウェルロッド等の他の拳銃も表示されている。


「おいおいおい!

 すげ〜なこれ!スクショしよ」


 モリゾウは大笑いしながらスクショをする。

 それから現状買える拳銃を全て購入するとリボルバー、M1851やレマットリボルバーから派生して行く枝などがHDMなどの自動拳銃と統合しているのが見える。


「あーはー何だか、これは……

 あれだ。モンハンだ。モンハンの武器派生の更にややこしくしたバージョン!

 ガバメントとHDMから伸びた枝はウッズマンになる。ウッズマンの先ではまた別の拳銃と伸びた枝。

 しかもこれは何やら一段ズレて表示されてる未発見武器。店売り、エネミードロップ、だがウィキには敵から銃が落ちたと言う報告はないから店売りだ」


 モリゾウは腕を組んでぶつぶつ言いながら、考え込む。ヒントはある。HDMとガバメントでコルト・ウッズマンが出て来たのだ。両者の共通点を洗い出せばすぐに分かる。


「あ、もしかしてやっぱりこれ、あれか?

 設計思想とか参考元とか口径で新しい枝解除されるんか?

 このHDMとリボルバーってなんだ?」


 モリゾウはゲーム内から外部検索サイトにアクセスし、ハイスタンダード社の拳銃を調べる。

 すると出て来たのは先ずはデリンジャーピストル。小型で単発式ピストルで、様々な形があり、これはその中でも有名な一丁である。

 次にオートマグ。モリゾウは確信した。


「はい、オートマグ君出場決定」


 モリゾウは右手の拳銃をM1851に持ち替えて視界端に残る決闘申請を承認、ドアの位置に居たプレイヤーの頭にM1851の.32ボール弾を撃ち込んだ。

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