第28話 翳り

正人は例のプロジェクトからリリースされ、晴れて自由の身になれたが、売り上げが1/4になるという痛い目にもあった。プロジェクト中は営業できず、そのプロジェクトに専念するしかないのだが、ゼロからの営業となるとこれまたお金になるまでに時間がかかる。目標売上の80%だと来年年明けのボーナスは期待できないな。下手したら0かも。まあ、60%を切っていないから首にはならないとは思うが。


例のプロジェクトはプロジェクトで社内で相変わらず問題になっているようだが、まだ品質管理部門が動きだしていないようなので、幸か不幸か本当の要注意JOBにはなっていない。正人にはどうでもいいことではあった。


先月、業績賞与と称してグローバルに株式がストックオプションで交付された。正人の持ち分は年間の売り上げに対する配布分などを合わせて4万株になっていた。が、株式評価は$11になっている。つまり株数は4倍になっているが、評価額は2倍程度。また、自社株買い付けにおいて、金利分負担などとキャンペーンを打っている。なんか、安売りされているようであまりいい気持ちはしない。


上場以来、株式評価が下落を続けており、あまり市場にはよく受け入れられていないようで、今年の年始はグローバルの社長とCFOが交代するようなこともあった。


正人達日本のファームには一切の変化がないようだが、日本の業績がグローバルで米国、英国に次いで売り上げているので、米国本社からはその期待も大きいようだ。知りもしない癖に、終わったJ-SOXがこれからの儲けビジネスだとか。


日本のノルマは昨年の20%増となっていたが、クリアしていた。もちろんJ-SOXなんて一昨年の話で、売り上げの何%もない。AIの方がすでに売り上げを超えている。


日本ではコンサル業は上場企業においてまだまだ知れ渡っていないので伸び代があるとは思うが、我々からすると単なる高級人材派遣。いつまでも業績が伸びるとは思えない。


米国のファームはAIの普及と機能の増強で、アナリスト、コンサルタント、シニアコンサルタントの採用を絞り、ファームによっては採用どころか在籍者の首を切っているらしい。

まあ、彼らの仕事のほとんどはAIで間に合ってしまうので理解はできなくもないが、下働きなくして一人前にはなれないので、自分で自分の首をしめていないか?とも思ってしまう。他のファームからの横滑りを狙っているんだろうが。


年末だからなのかもしれないが、MD連中の動きが慌ただしい。会計は1月~12月なので、締めに向けて忙しいのは毎年のこと。ただ、いつもと何かが違う。


正人は担当JOBが少なくなったため、いつもよりゆっくり年末年始を迎えることができた。家族とフロリダのディズニーランドへとコンサルらしいちょっと自慢できる旅行だった。米国のハイウェイでもTCXの看板は何度も見たし、テレビの宣伝でも何度も見た。少し誇らしく思ったが、こんな宣伝見てコンサルティングを頼んでくるクライアントもいまい。と少し不思議に感じた。


年が明ければ米国はすぐに稼働なので、株式市場も始まっている。TCX $8さらに下落を続けている。あの宣伝はクライアント対象ではなく、株主募集というところか。


年明けのクライアント訪問前にと、準備のため年明け早々オフィスに正人は行った。どうせ誰もいないだろう。と思ったが、実にMD達が顔をそろえている。おかしい。隙あらばスタッフよりも長く休みを取って海外からリモートで年始のミーティングをやっている連中がオフィスに集まっている。絶対何かある。


こういうときは森田に聞いてもどうせ "知らん” しか言わないから山下に雑談から入って話を聞いてみることにした。

" 鈴木はん、年始やというのに働きものやなー。" 、”それって、京都の方得意の嫌味ってやつですか。でけん奴はそれぐらい働けっていう。 " 、" かないまへんなー。鈴木はんには " バッキーの一件からそんな冗談を言える状態にはなっていた。

” MDの皆さん、年明け早々お忙しそうなんですが、何かありましたか。 " 山下にはストレートに聞いた方が早い。

" ああ、アメリカで会計が締まらへんよって手伝ってるんよ。伊藤はん、山田はんは年末からあちらに行ってます。彼らUSCPA持ってますよって。後の日本のMDは計算ですわ。内容はアナリストレベルの仕事ですけどな。あっこれ、みんなに言わんといてくださいね。株価に影響するので。 " 本当にそう思っているかも疑問な笑みを浮かべて言った。

まあ、なんて正直な。山下自身ももう、引退まで1年を切っているのでほぼ高みの見物なのだろう。もともと、退職金は公認会計士協会預かりだし、ここで潰れても、関西でいくらでも仕事はあるだろう。


紺屋の白袴じゃないが、元監査法人の会計が締まらないとは。。。。そりゃまずいな。


昔からProphetを導入して会計を管理していたが、グローバル上場時にA6 OPUSにヴァージョンアップしたといっていたが、Prophetチームから米国の要件がくずなんで使い勝手が最悪だとか、監査法人からシステム改善の指摘を受けたとか去年聞いたような気がする。


結局去年は監査法人に莫大は金額と時間を使って締めたとも聞いた。その結果が、社長とCFOの交代だったようだ。新しいCFOはデニー比喜だった。一旦、TCPを出たものの、州知事には立候補せず、知らぬ間に米国TCXのMDになっていた。以前、日本のLDを飲み込んだことが評価され、ここまで昇り詰めたのだろう。


数か月後。株価は$1と20セントになっていた。監査法人がdisclaimer of opinionを出したのだ。つまり、' 意見不表明' 2年連続で締まらなかったことと、システム改修が完了していないこと。システム要件に理解が及ばない要件が含まれることなどから決算できなかったことを示す。

監査法人も嘗てはライバルだっただけに嫌がらせの意味もあるのかもしれないが、流石にこれだけの嫌がらせは公にはできないだろう。


LDの時と一緒か。正人はもう特に驚きはしなかった。


第28話 了







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