第29話 輪廻転生
結局、TCXグローバルはCh11を申し立てた。
株価は20セント、日本でいうところの整理枠に入っている。
こうなるとグローバルでのコントロールは効かなくなり、各国で身の振り方を考えることになる。もともと欧州と米国法人は仲が悪いので分かれることは想定していたが、日本がどちらにつくか、もしくはさらに別の道を選ぶのかは皆の関心となっていた。アジアの法人は動きが早くそれぞれの国でばらばらとほかのファームと統合されていっている。日本法人は業績もよく、クライアントも理解があったため、Ch11中ではあったがそのままビジネスは続いていた。このまま再生はないだろうというのが大方の見方で、多分、他のファームに売られていくことになる。
LDからTCPになった時と同様である。
スタッフはどこそこは嫌だなとか、どこそこは名前がいいとか、気楽なことを言っているが、ディレクタになっていた正人としては、統合後、自分の居場所があるのかどうか(重複する機能はどのファームもいらない)が最も関心事。
コンサルファームはLDが消滅したときに多くが監査法人から離脱し、独立した組織としていたが、監査法人、コンサルファームそれぞれにメリットがあることから再度コンサルファームを飲み込む動きが活発で、QxD、D&X、デトロイト、TCPの4大監査法人が候補だ。
ブルーロックはデトロイトとの統合が有力であり、D&Xは既に結婚相手が決まっているらしい。元の鞘に収まるTCPが有力だと思っていたが、どうやらTCPは既にグローバルに有名なIT企業のJCNとの統合を模索しているらしく、出来の悪い元旦那とはやり直したくないらしい。つまり、残るところQxDが落としどころだろうか。多分、再建計画提出期限の年末までには正式報告をTCX本部にしなければならない。
QxDはコンサル分離後もわずかながらアドバイザリー部門とリスクマネジメント部門を保有しており、補完関係からしてもTCX日本と相性がいい。
幸い、既存顧客とは良好で業績も良好であったため、8月には統合の目途がたったようだった。日財新聞に大々的に広告がでるとともに、事前にスタッフにQxDとの統合が発表された。とりあえず、オフィスも何も変わらず、もともとのQxDのリスクマネジメントとアドバイザリー部門が入ってきた。
看板はQxDに、レターヘッドもQxDになり、TCXのレターペーパーは廃棄場所に山積みとなった。そういえば、こんな風景前にも何度か見たな。
噂によると従来QxDにいたスタッフは無条件で1ランクupしたらしい。イナゴ連中だけでなく、人をつなぐためにはこういった姑息な手段が常套手段のようだ。
正人はふと考えた。パンビームの下請け会社に入社、LDに転職、TCPに統合、TCXとして監査から独立、QxDへ統合と数えてみると転職は1度しかしていないのに、務めた会社は5社になった。
履歴書に書くときにいちいち説明が要りそうだな。事業会社では理解不能な転職歴なので、多分書類選考で落ちることになる。。。。
LDからTCP、TCPからTCXに変わったときと同様、クライアント行脚が必要だったが、昔からのクライアントからは、" 鈴木さんも大変ですね。 "と同情されてしまう。
もう、バッキーのようなプロジェクトもできないな。と思いつつ、そういえば山下はQxDに受け入れてもらえなかったというような噂を聞いた。MD陣の中でも移れなかった人がいたようだ。移れなかったのか、それとも処遇が気に食わず出て行ったのかはわからないが単純に統合されたわけではないことは分かった。TCXのMDからQxDのパートナーになるのには数千万いるらしい。
ただ、居なくなった人たちも4大監査法人のどこか、もしくは周辺のファームにいるのはほぼ同じであった。何かあればまた、戻ってくるかもしてないので、軽々しく悪口は言えない。
外から4大監査法人に入ってくるのはハードルが高いが、4大監査法人でぐるぐる回るのは評判が悪くない限り簡単である。
逆に、若くないマネージャー以上はそのループから抜け出るのも実は難しく、結局このループの中でしか生きていけないのではないかと思う。今と同じサラリーを転職して得られる会社はほとんどない。
正人の家に、英語の分厚い封筒が送られてきた。TCXの保有株の所有権を保持するか、それとも放棄するかといったものだった。どうせ、権利を行使しても1万にもならない。権利放棄のサインをしてはるばるアメリカまでお返事を返すことにした。
TCXとの関係もこれまで。ということだ。
第29話 了
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