第27話 倍返し(キックアウト)(下)

山畑のやつ、新人マネージャ講習の件を根に持ってパワハラで訴えてるんじゃないだろうな。ふとそんな邪な気持ちを持ってしまった。

リスクマネジメント部門からの呼び出しを受け、正人は森田に話したことと同様、事実だけを伝えた。小林というMDだったが、どうもはっきりしない。返ってこないというか、こちらの話を聞いていないのか。反応が今一つない。この次のステップを聞いても" これから検討する。 "のひとことでなんとも頼りない。


後から聞いた話だが、小林パートナーは監査出身で、それも監査から飛ばされて来たらしい。窓際族(MDでもそんなのいるのか。)だったらしく、監査のメンバーに聞いてもよいうわさは聞かない。


結局、数か月経ったが、なんの音沙汰もなくどうやらうやむやになったようだ。まあ、それはそれでよいのだが。


山本製函は株主総会に向け、5月に入ってどうやら役員の動きがあるようだ。パンビームからの天下りで専務以下役員は総とっかえ。プログラムの主なオーナーであった大竹常務も監査役へと' 上がった ' つまり、用なしと。


新しいプログラムオーナーは数年前パンビームから来た平取が、常務へ昇格とともに就任するとのことだった。コンサルのプロジェクトにはこういった人事変更が大きく影響する。吉と出るか、凶とでるか。


クライアント側のリーダーも経営企画の伊藤課長が部長代理に昇格し、担当することになるらしい。正人は少しやりにくくなるな。と思った。未だに仲良くなれない。

伊藤課長の配下のメンバーとは仲良く呑みにいく間柄にはなっていたものの、伊藤課長がその席に来ることは1年経った今でもない。大竹常務からの叱責を根に持っているのだろうか。


株主総会を終え、新体制でのプログラムとなった新しい飯田常務への説明や他の役員への説明などで時間を費やしたが、何とか大きな変化もなく乗り越えられた。と当時は思っていた。


飯田常務はトップダウンではなく、アメーバーのように個々の組織が役割を持ち、責任とともに活動するという経営哲学者の理念に従いプロジェクトを運営すると宣言した。

つまり、わしは何もせず、お前らがお前らの責任でやれ!ということらしい。


どうもパンビーム側で大竹常務のトップダウンのプログラム運営が不評だったらしく、パンビームの創設者の理念を取り入れ組織運営をするようにと飯田常務は釘を刺されたらしい。これは正人の前職の仲間からの情報だった。


週次のリーダーミーティングで飯田常務に対して経営管理チームの報告をした時、小さな変化があった。今まで伊藤課長(今は伊藤部長代理)が常務に対して向かい合って報告していたが、今回は飯田常務と伊藤部長代理が我々に向かって座っている。


いつもと同様な報告を終え、常務の好評をいただく番になった。

飯田常務は " プロジェクト活動ご苦労様。うまく進んでいることは先の全体会議からもよくわかっている。今後は伊藤部長代理が私の代わりに管理していくことになるので、次回からは伊藤への報告としてください。 "と締めくくった。


つまり、伊藤部長代理がこのプロジェクトの全権を手に入れたことになる。やりにくい。ミーティングのあと、珍しく伊藤部長代理が正人のところに来て、話しかけてきた。 " 鈴木さん、いつもプロジェクト運営ありがとうございます。山畑さんに聞いたところ、山畑さんがプロジェクトに戻ってくるらしいじゃないですか。また、一緒にプロジェクトができてうれしいです。 ” と意味深げな笑みを浮かべ去っていった。


山畑が帰ってくる?何も聞いてない。答えないかも知れないが、森田に聞いてみた。森田はいつものように、 " 知らん。山畑は鬱から復調して事務所にいるとは聞いているが、プロジェクトに戻すとは言っていない。お前がいるのに戻したらまた、パワハラするだろ。 ” 真顔で冗談いう森田は慣れないと冗談なのか、本気なのかわからない。長年一緒に仕事しているので、一応冗談だとはわかっていたが。

???何が起きている?


正人は翌週、プロジェクトルームに山畑が顔を出した。

" 鈴木さん、お疲れ様です。今週から復帰することになりました。先ほど伊藤部長代理には挨拶してきました。よろしくお願いします。 ” 山畑はちっともよろしくという顔でなく、嫌な笑みを浮かべて挨拶してきた。


なんだ?これ。 " 森田さんからは聞いてないけど、今週からプロジェクトに復帰することになったんだ。 ” '聞いていない。' コンサルとしては言ってはいけないことばだったが、思わず口から出てしまった。


森田に電話で確認したが、" テックの意向なので承諾した。うまくやってくれ。 "とだけ。まったく。


サブリーダーとして山畑は復帰したが、以前とは全く違って非常に積極的だ。スタッフに指示をするが、正人の意向は全くの無視。スタッフはどっちの指示を仰げばよいのか右往左往する始末。めちゃくちゃだ。2週間もするとスタッフから直接Helpがでた。


" 山畑さん、復帰されるのはいいけど、私がリードしているので、スタッフに指示するときには私に計画と意図を伝えてからにしてもらえないでしょうか。スタッフの皆さんも優先度をどのようにとってよいのか困っているようなので。" と直接、山畑に意見した。


" 伊藤部長代理から正人さんはこのプロジェクトを外れるから、私にリードするように話がありましたが、伊藤さんから話なかったですか? ” と山畑は見下すように言った。それと同時に森田から電話が。


" 伊藤部長代理から鈴木さんのクレームが入った。飯田常務の了解は得ているので、山畑とリーダーを交代させてほしいとのことだった。荷物をまとめてオフィスに来い。 "


あまりにも突然の出来事で理解に苦しむことだらけだが、森田の指示は絶対なので、オフィスで森田と話しをすることにした。


" 潮目が変わるとはこういうことだ。伊藤部長代理との関係構築に失敗したようだな。山畑となんかあったのか?多分、奴が動いたんだろう。"

思わず、新人マネージャ教育の時のことが浮かんだ。


なるほど。プライドは人を動かすとはよく森田に言われたが、あの一言を根にもつとは。敵は後ろにも居る。今まで人を押しのけてきた正人であったが、逆に痛い目にあったのは初めてだった。


倍返しか。いや、倍じゃすまないな。


第27話 了




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