第25話 倍返し(キックアウト)(上)

正人は人事からの要請で新任マネージャー研修の一コマを受け持つことになった。社長曰く、業績低迷(TCPからの離脱が本当の原因だが)から脱するために人財(本当にそう思っているのか怪しいが)の育成に力を入れろとのお達しだそうだ。


国際物流をテーマに新任マネージャー30名ほどが6つのチームに分かれ、そのソリューションを2日で見出すというものであった。条件はBtoBの部品メーカー、工場の機能と場所、仕入先の場所、顧客工場と製品および必要数を渡し、自ら調査した上でのベストソリューションを出すというものであった。


正人は1日目の午前中、国際物流の要点、最近のトレンド、問題の説明、質疑に答えつつ、本当の顧客との仕事と思って対応するように指示をした。最低限の条件だけ示し、必要であれば質問するというスタンスで対応した。


物流の専門家も何人かいたが、これだけの問題を2日間という期間で対応するのはだれもが初めてだと思われる。


ただでさえ癖の強い人間が多いコンサルの世界で、こういったワークをこなすのは至難の業である。それも同じタイトルの人間が5人1チームとなると上下もないので、必ず問題が発生する。まあ、それを収めるのもマネージャの役割だが。


ITが強いチーム、戦略から攻めるチーム、オペレーション重視のチームなど様々。なかなか面白い。ITが強いチームのリーダーは声もでかく(声がでかいとは音量が大きいだけでなく、他人の意見をあまり聞かず自分の理論で動くタイプのこと。)、メンバーが困惑しているようだが、その中でどのように立ち回るかも一つの練習というわけ。我々の中では声のでかい奴は '自信くん' (自信ばかりで中身が伴わない)と呼んで、適当にあしらうのが常套である。


各チームから前提にない情報を取りに聞きに来る。当然ながらこれはクライアントとコンサルの関係で一番重要な行為なのだが、IT得意チーム(自信くんチーム)は一向に質問に来ない。前提やインターネットの情報だけでは解決できないように作られた問題なのだが、わかっていない様子。特に物流の専門家でなければWebだけでわからないことはたくさんあるはず、その場合、クライアントに聞くのが確実だ。それも評価の一部であることに気が付いていない。


1日目のワークが終わる前に、正人は自信くんチームの様子を見に行った。リーダーは、山畑というITソリューションチームのマネージャであった。


" 山畑さん、何か情報で足らないものとかあれば質問してくださいね。"と気持ち悪いぐらいにやさしく聞いてみた。メンバーが何やら言いたそうであったが、山畑の方を見てやめてしまった。


" なにかある? " メンバーに質問を促してみた。

が、山畑が先に " いえ、メンバーがWebで調査した内容で十分理解できています。大丈夫です。 "と遮られてしまった。さらに" この手の問題はネットワーク理論の基づいてERを使ってエクセルで解けますから。 "とあたかも邪魔をするなと言わんばかりの剣幕だった。

" あっ、そう。何か困ったことがあったら質問しに来てくださいね。 "と言って正人はその場を離れた。こりゃだめなパターンだな。見切ってしまった。


研修2日目、15時から各チーム20分のプレゼンと各講師の好評が10分行われることになっている。どのチームもほぼ徹夜だ。正人は各チームに声掛けをしながら進捗を確認することにした。


戦略サービスのマネージャがリーダーとなったところは戦略から、オペレーションサービスのマネージャーがリーダーとなったところはオペレーション中心といった非常にわかりやすい構成であったが、流石にマネージャーレベルだとなかなか見ごたえがある内容になってきている。正人は、正直うかうかしていられないという焦りのようなものを抱いた。


発表の順番については講師の専任事項なので、正人はあえて自信くんチームを最後に回した。ほかのチームのできをよく噛みしめて反省できるように。と。


各チームの発表が始まった。どのチームもよく練られている。オペレーションを得意とするチームは散々質問しに来たが、その分、ディテールまでよく考えらており、仮にこのままクライアントへこのチームを派遣してもクライアントも納得するのではないかと思うレベルであった。まあ、マネージャ5人いれば当然といえば当然だが、ただ、物流に関しては完全に素人だっただけにインコターム、各種規制、国際情勢も含め、2日でよくキャッチアップしたと感心するレベルであった。

また、自分のチームの深堀でできていない部分もきちんと自覚しており、もう3日もらえば完璧なものにできたのではとまで言い切った。こういった自信はコンサルならほしい。


戦略チームもオペレーションの部分で甘さはあるものの、よく考えられており、競合他社との差別化、モデル会社のクライアント戦略への追随などこれはこれで見ごたえのある報告であった。

報告を聞いていたMD陣もよく考えられているとの評価をしていた。(それぐらいしか言えないだろう。と正人は心の中で毒づいていたが。)


いよいよ自信くんチームの報告となった。


山畑が報告者となって報告をし始めた。普通はリーダーは一歩下がって別のメンバーに報告してもらうものだが、どこまでも自信くんなんだな。と思った。

自信くんチームは、ERに基づいて最適解を求め、その効果を算定し、従来のサプライチェーンの5%コスト低減の案を出してきた。そこまでならば正人も許せたのだが、山畑はここから更に各チームの欠点を上げ始めたのだ。


もちろん2日という短期間なのだから各チームとも未考慮点は多々ある。だが、各チームは不完全であることを自覚し、報告時に申告している。それには時間がかかると。

それをさらに指摘するとはなんとも大人気ない。


また、全チームの中で、このソリューションが最適解なのだとまで言い切った。これは看過できない。山畑以外のチームメンバーは苦い顔をして見守っていることから山畑の単独意見だろう。


MD陣も講評に困ったが、さして考えもあるわけではなく、他のチームと変わらないような講評であった、ただ、流石に他のチームに対する物言いは諫められたが。


最後に担当として、正人も講評することになっている。

" 山畑リーダーチームの報告は非常にロジカルでわかりやすい報告でした。たが、クライアント役である私に質問を一度もしに来なかったというのはなぜでしょうか。クライアントと会話なしにプロジェクトは成立しません。また、そこから条件の漏れが発生しています。関税、VATなど考慮されておらず、このロジックでは逆にコストが発生する可能性を持っています。もっと現実的に検討すべきでした。クライアントとのコミュニケーションが大切だということを肝に銘じてください。 "


ぴしゃりと言い放った。正人も大人気ないとは思いつつ、このまま終わらせると山畑は暴走して、対クライアントで失敗しかねないと考えたからである。


この後すぐ、そうなるのだが。。。


第25話 了

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