第24話 上場と没落のはじまり
TCPはコンサル部門を切り離すことになった。監査をしながらのコンサルでは何かと利益相反などややこしいことが発生してビジネスを広げられないというのが名目だ。そして、分離して独立するための資金を集めるためグローバルパートナー会議を経て、米国で上場することとなった。
実際にはパートナー陣が、手元にお金が欲しいだけなのだろうと邪推をする正人であった。今までは利益の山分けだったものが給料に代わるだけで、多少は株主に配当はするもののほぼ何も変わらない。上場と同時に莫大な資金を手に入れるのだろう。
パートナー陣はタイトルこそMD(Managing Director)に代わりこそすれ、何も変わらない風だった。
一つ大きな問題が発生する。
上場するということは会計監査が必要ということになる。親会社だった会計監査法人に監査をしてもらうと今までと何も変わらなくなってしまう。できるだけ重要顧客の少ない監査法人に依頼しなければならない。そして、名の通った監査法人でなければならない(株価を引き上げるために)。つまり、今までライバルであった監査法人に監査を依頼することになる。そしてできるだけクライアントが被らないところを選ぶ必要がある。
結果として、クライアント業界があまり被らないブルーロック監査法人に依頼することになった。先方の方が売り上げレベルも高く、ライバルとしては文句ない巨人であるが、TCPは製造業、金融に強いが先方はサービス、インフラに強いためクライアントが被らない。でも、旧敵だからお手柔らかとはいかないだろうな。
TCPは上場時にTCXとして(略語のまま)上場を果たした。上場を記念してマネージャ以上には一定の株がボーナスとして配られた。1株$20、正人は10,000株をもらったので、20万円なりか。正人は正直株とかどうでもよかった。どうせ簡単に売れないだろうし、現金の方がどれだけよかったか。
もう一つの大きな問題が。
ここから正人達、現場の人間は説明廻りに忙しくなった。社名変更の理由と上場によってクライアントへの影響がないことなどなど。ただ、クライアントからは監査ファームからの離脱により口座がないため、新設せざるおえず、面倒くさがりな部長や平取が窓口のクライアントは契約を切ってくるところまで出てきた。役員陣が廻っていったが、それでもいくつかは取りこぼしてしまった。
’ やれやれ、こんなことでビジネスを落とすとは。多分、新規顧客は名前の知らないTCXなんていうコンサルファームの提案なんて聞きもしないだろうな。 ' 正人はそう心で呟いた。
実際、今までは黙っていてもRFP(提案依頼)が飛んできていたものの、改名後は、さっぱり。毎年、プレミア上場企業の役員(CFO)宛に送っていたアンケートの回答率も50%から20%に低下してしまった。これじゃアンケート結果をまとめても信ぴょう性もなにもあったものじゃない。
正人は想像していた以上に改名と監査からの分離がビジネスに与える影響が大きいことを実感した。
MD層は慌ててTCXのロゴの隣に小さく、formerly TCP(以前はTCPという社名でした。)とつける始末。みっともない。名刺を渡す度に、説明しなければならない。パートナーの懐のために社名を変えたんですけど。とは言えないが。
知名度を上げるための手段として、テニスプレーヤーのスポンサー、プロゴルフ大会のスポンサー、新聞の見開き広告と次から次へと打ち出していった。おかげで当初よりは " ああ、ゴルフ大会のスポンサーででかでかとロゴがでていましたな。 "とか、”新聞の広告で派手に出てましたね。"とか認知は拡がっていったが、今一つクライアントのイメージは ' そのお金、我々から出てるんですよね。 ' 感がぬぐえず、逆に印象を悪くしているような気がした。
独立して初年度の会計締めのとき、トラブルが起きた。
クライアントに展開するERPパッケージのプロフェットを自社にも導入しているが、現預金や請求、支払いなどの証憑とシステム上の金額が一致しないという問題が発生していた。このままでは締まらない。グローバルで発生しているため、原因追及など時間がかかるが、このままでは決算できず、株価に影響を与える。グローバルのMD陣は仕方なくブルーロックと協力して、手作業での決算を迎えることとなった。
紺屋の白袴とはこのこと。ありえない。コンサル会社、それも会計監査系の会社の決算が閉まらないとはどういうことか。公にできるはずもなく、何とか期限までに締めることができたものの、人でによった作業のため、決算作業も、そして監査する側への支払も通常の数倍に上った費用が発生した。
正人は、こんなことが起きているとは知らなかったが、もしも知っていれば ' グローバルにもあほなパートナー、いやMDがたくさんいるのか。 ' と毒を吐いていただろう。
クライアント廻りで辟易としていた正人であったが、これがまだ、序の口だったと知るのはもう少し先のことだった。
第24話 了
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