第23話 間違ったGreed(下)

正人はいろいろ頭を廻らせていた。どんなシナリオがあるのだろうか。

まずはプロジェクトサイド

1. 三橋はプロジェクトにもうこない。まず間違いない。

2. コストオプティマイズの3人もプロジェクトに来なくなる。先方との契約解除になる可能性大

3. ことが公になってプロジェクト全体が止まる。 これは多分ない。以前のこともあるので、やらかせない(やらかしたことを公表できない)だろう。


正人はつぎに自分への責任についても考えてみたが、いや、やめておこう、クビや減給、デモーション、いずれにせよ良いことはない。対策は、、、、上に泣きつくか、誰かのせいにするか、ロクなことはないし、会社から正式に咎められるのならば、それをしたところでいずれ自分の居場所はなくなる。(たとえ、別のファームに行ったところで情報は伝わるので一緒。)


ということで、何かが起こる前に先手を打っていかないと自分の首が締まると直感、人繰りをし始めた。顔見知りのSMやMにアベっているメンバーを聞き出し、最悪突然コストオプティマイズの3人がいなくなった場合、3~4名でリカバリーするとしたら誰を使えばよいか検討し始めた。三橋チームの山田APに声を掛けるのは流石に無理か、でも専門家はあそこしかいない。他のチームから地頭のよい連中を何とか3名ほどピックアップした。ただ、これはあくまでもプランBだ。最適解は三橋のチームから3名ピックアップだろう。


いろいろ考えていると高田が飛んで来た。 ” 鈴木さん、コストオプティマイズの3人がクライアントのところに来ていません。三橋さんに連絡しても電話に出ないです。チャットもメールも一切返答がないです。"


ついに始まったか、予想はしていたものの、突然話は始まる。 " いつから三橋さんに連絡し始めたの "

高田は飄々とした態度の正人に少し驚きながら、 " 今日の朝、コストオプティマイズのメンバーがクライアントのところに来ないので、携帯で連絡したんですが、出ないんすよ。その後だから今日の10:00ぐらいでしょうか。最初、誰にもつながらないのでスマホが壊れたかと思って、オフィスへ戻ってきたんです。 "


" なるほど。 " いたって冷静な正人の反応に、高田は唖然としていた。 "ちょっと考えるから、とりあえずオフィスで待機していて。 "とだけ伝えた。


ほどなく1通のメールが、' 管理会計のチーム体制に関わる連絡。リーダーを三橋Pから山田APに変更。'


流石、コンサルファーム、やることが早い。なんて感心している場合ではないな。正人は今がチャンスとばかり、山田APへチャットした。


' 山田さん、沢田自動車のJOBでお世話になった、鈴木です。農業協力組合のJOBの件で人繰りの相談に乗っていただきたいので、お話させていただけないでしょうか。'


' 今、少し立て込んでいるので、APA(associate partner assistant)に調整をお願いしてもらってもいいですか。' 早速返信があった。スピーディな対応はありがたい。


APAに連絡し、夜の9時に対面で話しをすることになった。


夕方、高田に明日の予定を見て、クライアントとの特に重要なミーティングがないのを確認させた。その上で、クライアントのメンバーに2日ほど自社でまとめて作業するとの連絡を入れさせた。明日はオフィスで作業をするようにとだけ伝えた。

高田は何とか事情を知りたかったようだが、一言だけ "まだ、何もわからない。 "と冷たい口調でいくことが精いっぱいであった。


山田APは初っ端、" どこまで知ってる? " と聞いてきた。こういうときはあまりしゃべらず " ほぼ。 " とだけ話した。そうすれば相手はどんどん話してくる。森田のマネだ。


山田APは三橋Pの後釜だからQAから全体像を聞いているのだろう。聞いたところによると三橋Pは昨日のパートナー会議で正式にクビになった。ただ、事情聴取があるため、任意での聞き取りのための来社はあると。


他のファームでも同じスキームで悪さをしていたらしく、自分の知り合いが作った会社へ空発注(正確には、少ない人数であるにも関わらず上げ底で派遣)して、知り合いと私腹を肥やしていたらしい。

前のファームでは証拠までは突き止められなかったが疑惑により押し出されたようだ。

多くの社員は別ファームからやってくるので情報は伝わる。QAの誰かが事前に聞いていたのだろう。今回は3つのJOBで証拠が集められ逃げ切れなかったようだ。JOBの損害金額を会社に弁償するとともにクビというわけ。コストオプティマイズは、刑事訴追受けない代わりに解散(メンバーはかわいそうにとも思うが、、、、)するらしい。

TCPは会社の評判もあるので、通常なら横領なのだろうが、公にはしないようだ。関係するクライアントには社長が説明に行くらしい。


山田APは(彼自身には何の落ち度もないが)負い目もあり、3人の代替メンバーを出してくれた。まあ、コストオプティマイズのメンバーよりはましだろう。利益率も上がるので、一安心だ。


しかし、人は見かけによらない。学者先生かと思っていた三橋Pがそんな脂ぎったおっさんだったとは。

そして、結局、正人はQAから何のお咎めもなかった。


正人はまた1つ、コンサルの闇を見たような気がした。


第23話 了



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