第21話 新卒面談
正人の苦手なものに新卒面談があった。大阪所属の時には会議室での面談で一日あたり5人程度、数日丸つぶれという日程であった。まったくの時間の無駄、そう思っている。東京での面談はCobit-19のおかげでリモートになり拘束時間は短くなったものの、AI診断なるものが導入された。
AIがはやりの最近なので、どんなものかと思えば、AIが診断するのは面談者すなわちこちら側で、圧迫面談になっていないか、セクハラ発言はないか、表情は先方に対して受け入れやすい表情をしているかなどどっちが評価されているのかわけがわからない。発言内容もタイプアップされて人事がチェックすることになっている。
そもそも正人は自分のように業務経験が豊富で、仕事の流れや企業文化についての理解がある人間がコンサルになるべきと考えていて新卒採用については否定的だった。タイトルが上がるにつれ、ファームの方針には逆らえず、いやいや対応していたものの、さすがにこのAI診断については憤りを覚えずにはいられなくなっていた。
正人は人事の坂井SMがぶらついているのを見かけたので、文句をぶつけてみたくなった。
” 坂井さん、あのAI面談何とかならないですかね。タイプアップされる文章の精度も高くなくて、勝手にセクハラキーワードとかパワハラワードに引っかかるとか、笑顔が足らないとか、こっちが評価されてるようでやりにくいっす。"
坂井もうなずきながら ”評判悪いんですよね。おんなじような文句をみんなから言われて。でも採用担当の山田パートナーからファームの評判を上げるために必要だとか。。。 "
"あのAIのソフト、NBC社のでしょ。山田さん、吞まされてるんじゃないの?" と冗談交じりに坂井に話すと。
"そうなんですよね。もともと山田さん、若い時にNBCの監査してたでしょ。監査はずれてから結構呑まされてるみたいなんですよ。 "
まじか、冗談から駒じゃないけどあのおっさん結構やってんな。 "まあ、いずれにしても評判が悪いって上にあげてくださいよ。"
坂井は正人の苦言に半分うなずきながら去っていった。坂井さん、ありゃ、なんもせんな。
新卒面談で辟易としていたのはAI診断だけでなく、帝大とか、稲慶大とか、二橋とか世間では一流といわれる多くの学生が全く同じフォーマットで話してくることだった。
わたしは、〇〇サークルのリーダーもしくはサブリーダーで、××の役割を担ってました。ある時、△△というトラブルが起きてサークル全体の雰囲気も悪くなったのですが、□□を私が率先してトラブルを解消しました。
ですと。さすがにリーダーとは嘘がつけないと単なるサークルの一員だった場合はサブリーダーと勝手に名乗るとかトラブルにはバリエーションがあるが、フォーマットはまったく一緒。フェルミ推定についても得意なもので、日本中の電柱の数や、道路の長さなどクイズ研究会かと思われるほどロジックや回答の仕方については淀みなく説明される。
学校なのか、就職塾?なのかの指導の賜物だろう。事業会社じゃないので、そんなの誰も欲していない。(いや、多くの面談者はそれで通しているらしい)
あまりにも面白くない。多分コンサルを楽して儲けられる職業ぐらいにしかとらえていないんだろう。お勉強ができるので受験勉強よろしくコンサルに就職するための対策もばっちりというわけだ。
正人はこのフォーマットに従った学生はすべて落とした。人事からは散々嫌味を言われたが、コンサルとしてほしいのは、準備ができないときに臨機応変に対応できる柔軟な姿勢と思考だとその都度説明した。
先のフォーマットに従った学生の多くは、正人の "で、コンサルになったあと次はどうするの?" に対しては "えー、、、、" とその場で考えるがたじたじとなって、適当に話すため、さらに突っ込まれると整合性がとれなくなる。つまり考えていないだけでなく、その場でも理路整然と考える余裕がないのである。だからその能力が必要なのだ。
リモートの面談といってもほとんどの学生は男子も女子もスーツ姿だ。たまに、セーター姿の面白いやつもいるが、大体そういう学生は面談も面白い。そもそもコンサルはスキルアップのステップに過ぎず、方法論を学んだらスタートアップをやりたいと。いいねー。
うちのファームにあなたが期待するほどの価値があるかはわからないけど、どろどろした世界を知っておくのも必要かもね。と思って通すとほぼ最終面談で落とされてしまう。
型にはまった判断基準しか持っていないアホなパートナーが多いからだな。と正人はいつもながら思う。でも、本当に優秀な学生がこんなファームで大切な時間を浪費して汚い世界を知るよりも、最初から自分の思う道を行って活躍し、次の時代を支えてもらった方がどれだけ世のためになるかと自分を納得させることにした。
そういえば、正人が入社したころ新卒として入社した学生たちの中で一部の優秀なスタッフはもうマネージャになっていた。ハードワーカーで有名な脂ぎったスタッフたちだったが、自分も気を抜いているといつか彼らの部下になることになる。油断はできない。
もっとも、ほかのファームをホッピングしまくってパートナーになった若いパートナーは山ほどいるし、別に実力でなくてもクライアントを呑ませてOne job partnerも何人もいる。年上だから年下だから判断基準もいつか消えてしまった。
映画で、強欲は善といったセリフを聞いたことがあったが、この世界もそれに近い。外から見る学生にはキラキラした面しか見えてないが、本当は人間の欲にまみれたどろどろの世界だということを知った上で来てほしいと思う正人だった。
第21話 了
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