第20話 コンサルの道徳心

正人は、北海道の一件からしばらくJOBを回してもらえずオフィスで提案書づくりや下調べをする時間が多くなっていた。完全に森田からお灸をすえられた状態だった。


暇つぶしにオフィスのGA(総務)の藍田さんと雑論をしていた時、面白い話を聞かせてもらった。


” 鈴木さん、オフィスピリコって知ってますよね。お菓子で有名なピリコがオフィスに従業員福祉の一環として置いていて、従業員が買ったら100円を入れるっていうやつ。最近はPaiPaiなどのキャッシュレスに対応したり、200円のもあったりするんですが。"


正人は間食の習慣もなく、甘いものが苦手なのでさほど関心はなかったので、お付き合い程度にうなずいた。


" ああ、ガムやクッキー、アイスにポテチなど小腹がすいた時にとっても便利ですよね。” どれも、食べないけどね。と心の中では思いながら。


" 費用の回収率がオフィスで全く違うんですよ。福岡、名古屋はほぼ100%なんですが、大阪が60%、東京に至っては40%以下です。"


"へー、お金を入れない人がいるってことですか。それも大阪と東京は。"


そういえば、東京の少し年上のSM(シニアマネージャー)がどうせ回収できなきゃ会社が払うんで、我々が払う必要がないようなこと言ってたな。もともとメンタリティの低い人間だと思っていたので、まあ、そんなレベルだろうと。


”それだけなら、まあ、人間性の低いプラクティス連中のことなのでありそうなこと。。。。。あっ失礼しました。" 藍田は慌てて謝った。


正人は心の中で、そりゃそうだろう、俺だってプラクティスだよ。バックオフィスは俺たちのことをそう思ってるんだな。とちょっとむっとしていたが、とりあえず作り笑顔で。


" で、続きはなんです? ”


藍田はバツが悪そうな顔をしながら続けた。" オフィスピリコの会社が統計を取っていて、企業のランキングを作って、その情報を売っているらしいって噂が立ったんですよ。こんな情報が洩れたら信用問題になりますよね。なので、噂としながらオフィスピリコの管理会社へ連絡して回収率についての情報を開示しないよう慌ててに覚書を交わしましたよ。過去に遡って開示しないと。一部のパートナーしか知らないですが。"


藍田はつづけた。 " オフィスピリコは4大ファーム以外にもコンサルファームやSIerに収めていて、この件で口封じで交渉してきたのはどうも、まだTCPだけのようです。先方はそんなことを言われたのは初めてですって言ってましたから。真偽のほどはわかりませんが。"


こんな情報がまた、週刊誌にでも漏れたら大変だ。スタッフの人間性(もともとコンサルには人間性はないと正人は思っているが)が疑われ、ファーム単位で比べられてしまう。

回収率が4大ファームでどの位置づけにいるかはわからないが、少なくとも40%とか60%とか自分の子供には言えないレベルだろう。恥ずかしいだけでなく、間違いなくビジネスに直結する。また、ハイヤリングにも影響するだろう。


正人は無駄を承知で聞いてみた。 ”で、ほかのファームはどれぐらいの回収率だったんですか。 "


藍田は、” オフィスピリコ側は集計やランキングの存在事実は認めず、ただ単に覚書に調印しただけでした。もしかするとTCPの杞憂だったのかもしれませんが。"と答えた。


まあ、杞憂ならそれで問題ないが、ちょっと位置づけを知りたいなという個人的な好奇心はあった。うちは良くも悪くも真ん中かな?


ブルーロックの沢田と半年に1度ぐらいのペースで呑みに行くが、この件についても話が及んだ。


"鈴木さん、そんなの当たり前じゃないですか。もともとブルーロックじゃ、投入口はシールが貼られているし、キャッシュレスのQRコードも目隠しされてますよ。多分、総務が全額払ってるでしょうね。うちのバックオフィスはプラクティスの人間性をよくわかってますよ。プラクティスのスタッフに自主的に払えって、ありえなくないですか。道徳心なんてもの持ち合わせた人間なんていないでしょ。私も鈴木さんも含めてね。だから、うちは回収率100%です。そんな覚書不要ですって。 "

流石ブルーロック。今までいろいろあっただけ自社の社員のことはよくわかっている。


正人は、このレベルの道徳心は俺だって持っていると言いたかった。じゃ、どのレベルの道徳心ならなくても許されるんだみたいなことを聞かれたらまともに答えられないなとも思い返した。スタッフを単なる工数として考えていて人としてとらえていないし、相手に対しての思いやりなんて、ビジネスに結び付かなきゃ忘れてしまっている。


人間として腐ってるな。最近つくづくそう思う。


第20話 了

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