第8話 はしごを昇る

ショーパブ バッキーの人材管理、給与管理システムプロジェクトは順調に進み、要件定義が完了した。バッキーの現地責任者である長田と毎週ミーティングを重ね給与制度、業務要件、システム要件は決まった。

旧態依然としたタイムカードからスマホによる出退勤システム、なかよしこよしで決まっていた給料査定も持っているスキルによって等級化することで依怙贔屓(えこひいき)なしに査定することになり、毎月の給料明細とともに毎月見直される。給料が下がるであろう一部の年寄タレント?からは不満の声もあがったが、若手を中心におおむね受けが良かった。

正人はクビにした馬場の代わりに林という銀行出身のシニコンを入れ、高田とともに3か月目の中間報告の報告書作りをしていた。中間報告にはオーナー、長田に対して山下、正人で報告をすることになる。


資料があらかたできたので山下にレビューをしてもらおうと正人が電話をすると。山下は "ああ、来週の中間報告の資料やな。メールで送ってくれるか?” 一応メールでは送っておくか。いやいや山下のことだ、メールで送っても読まないだろう。何とか話をつけないと。どうしても資料を見ながら打ち合わせしたいと伝えると ”今日はホテルに泊まっているからフロントに預けといてんか。 ”と言った。山下の住んでる滋賀にあるホテル?それも自宅近くじゃないか。?


仕方ないので、ホテルまで行くか。片道30分、在来線に乗って遠路はるばる ”お持ち” することにした。万が一レビューを受けないものなら中間報告の時に後ろから刺されかねない。([後ろから刺される]とは、クライアントへの報告時、味方であるはずの仲間内から非難されて、恥をかくだけでなく、プロジェクトから外される、評価時に低評価の実績となるなど痛い仕打ちが待ち受けている。)

携帯から電話するが、山下は出ない。


フロントに話をして、山下の部屋番号を聞くことにした。個人情報云々、ホテルの方針としてなどなど永遠断り続けたが、そんなことで引き下がっていてはコンサルは務まらない。重要な会議の打ち合わせがあるので、とこちらも名刺を提出したり、泣き落としたりして "普通はだめですよ。” と言いつつ教えてもらい、ロビーの内線から電話した。

"鈴木です。今ロビーにいますので、少しレビューしてもらえませんか。"

”ほんまに来たんか。資料読んどくさかい、フロントに預けといてくれまへんか。”

なんのために来たと思ってんだ。パートナーには逆らえないが、簡単に引き下がるわけにはいかない。" 悩んでいることろがあるので、相談したいのですが。 "、”まあ、明日オフィスではなそか。じゃ、フロントに預けといて。”と話すと一方的に電話を切った。

仕方ない。フロントに報告書を預けることとした。また、30分かけてオフィスに帰ることにするか。


フロントに背を向けたとき。見覚えのある着物姿の女性が入ってきた。どこで見たか。。。。しばらく思いを巡らせると。

”あっ” 思わず声が出てしまったが、去年末のクリスマスパーティーで山下と一緒に会場をうろうろしてた北新地のクラブのママだ。それで部屋に入れてもらえなかったか。噂では聞いていたが本当だったか。


コンサルは三大欲求の内、睡眠欲を極限まで制限される職業なので、ほかの欲求に偏る。食欲も食べ過ぎると外見が保てないので、高級料理に凝り固まり最後は・・・・と先輩には聞かされてはいたが、ここにお見本があるってことか。そういえばその先輩も昼休みに食事に誘ったら ”ちょっと行くとこがある” と言って昼休みに風俗店に行っていたのを思い出した。呑み会の後にクライアントとおっパブで騒ぐなんて自慢話も聞かされた。


いろいろ考えるところはあるものの、オフィスに戻った正人は邪念を払い、報告書を仕上げることにした。明朝、山下にレビューをしてもらうためアシスタントに予約のメールを入れた。

翌朝、山下と資料の確認をした。山下は昨日のことなど覚えていなかったように、”おっ 資料できましたん。みましょか。” と一緒にディスプレイに向かって資料を通しで確認した。 "問題は、給料制度の見直し案やな、長田はんはどない言ってはるの。"

正人は毎回、長田と打ち合わせしながら進めていると説明すると。 "まあ、長田はんが了解してるならいいんとちゃいますか。"と。以外とすんなり。

正人のボスである森田がレビューするときは、”てにをは” まで一字一句追い込んで来るが、こんなに楽でもよいのだろうか。今日も徹夜を覚悟していたが、今日は早めに帰られそうだ。

”では、ドラフトとして長田さんにも報告書送っておきます。来週の報告会、よろしくお願いします。報告会後、オーナーと山下さんは会食だったと思いますので、報告会はうちのオフィスでいいですか?” と正人は確認すると。

”それで調整してください。”とすんなり。

報告会は来週の月曜日夕方になったので(ただ単にその後吞みたいからだろ。って突っ込みはもうしない。)今週の土日はゆっくり休めそうだ。


正人はまだ、気が付いていなかった。これがはしごを昇ったってことだとは。


第8話 了


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