第7話 2 out change

バッキーのプロジェクト準備に取り掛かった正人はEP(EngagementPartner)の山下とメンバー選定に取り掛かることにした。とは言っても山下からは ”ほな、適当に選んどいて。調整はしますよってに。メンバー候補メールしといてな。” と基本は丸投げだ。自分のボスである森田をはじめ牛山、木野といったWestのパートナーたちとあべって ( avalableな状態、現在空いている様 )いるメンバー候補を聞き出さないといけない。


各パートナーのアシスタントと調整してミーティングからか。。。。気が重い。今ではアサイングループといった組織ができて、プロジェクトメンバーアサインの調整するようにはなっているが、それでも結局は各パートナー子飼いのメンバーを出してもらうためにはパートナー行脚は欠かせない。

牛山から大阪のパンビーム(プレミアム上場の大手電機メーカー)出身の情報システム系シニコン(シニアコンサルタント)馬場と木野から中小事業会社人事部出身の人事系シニコン高田を出してもらうことになった。シニコンだから1を言ったら10やってもらえるとよいのだが。まあ、そんなにうまくはいかないな。


牛山曰く、”天下のパンビームのIT部出身やから楽勝やろ。”、木野は”人事のことなら高田にまかせとき。”だそうだが、どんなもんやら。あべっているにはあべっている理由があるのは当たり前。使いにくいとか、態度が悪いぐらいならましで、本当にいけてない奴だったらどうしよう。もちろん優秀なスタッフならば儲けもんだが、実際にそんな玉に当たったことは稀である。


バッキーの長田と打ち合わせすることになり、馬場と高田を引き連れてミナミの坂田商事に向かった。まさに各事務所の集まる一帯だ。御堂筋線の心斎橋駅を降りてミナミの街へ歩いて行った。馬場は曲がりなりにも大阪人なので”この辺、やばいっすね”と早速口に出す。高田は大阪人ではあるものの、区民ではないのであまり知らないらしく "えっ、何がですか。” と。


受付で電話すると事務のスタッフが出て、長田が受付に迎えに来た。 ”鈴木さん、訪問いただきありがとうございます。奥に会議室がありますのでこちらへ。” いつも丁寧だ。相変わらずこの地域にマッチしないエリートサラリーマン然とし、ピシッと3ピースを着こなしている。それが余計に怖いのだが。


長田と業務要件範囲と日程を打ち合わせし、来週から現場のヒアリングすることになった。 坂田商事を出て帰り道、正人は ”馬場さん、議事録を作って、今日の夕方までに僕に送ってくれる?”と当たり前のようにいうと、馬場は "えっ聞いてなかったからメモしてませんよ。”、じゃ、何しに来たんじゃと言いたいのを堪えて、高田にも同じお願いをしてみた。高田は "はい。わかりました。"とあっさり。そうだよなー。普通は。シニコンなんだから。


オフィスに戻って、ミーティングをすることにした。

正人は ”高田さんは議事録づくりと、スケジュールの概要からWBSに落とす作業を始めてください。馬場さんは人材管理と給与システムのアーキテクチャを現状の想定?妄想で一度書いてみてもらえませんか。現時点では一般論で構いません。”

すると馬場が、"えーっと、アーキ図ですか、どっかベンダー呼んでいいっすか。” と。"いや、まだ、構想の前段階だから想像、いや妄想でいいから馬場さんの考えで書いてみて。” と正人。同じことを2度言わせるとはいい度胸だな。こいつ。

馬場はさらに "いやー。アーキ図書いたことないんすよね。” やったことあるかどうかなんて聞いてない。やってみろや。と心の中で怒鳴ってみるものの、口に出したらパワハラとかになるんだろうな。


仕方がないので、できそうな仕事はーと考え直し。 ”一般的な人材管理システムと給与システムの機能ブロック図はかける?” 、馬場は "人材管理とか給与とかわからないっす。" 


だめだこりゃ。わかるわからないじゃなくて、どうやったらできるか考えるのがコンサルだろ。調べてみるとか考えはないのか。この時代Webに情報はごろごろしている。いかん。切るなら早い方がいい。できない理由を並べる奴とは仕事はできない。ずっと尻ぬぐいするなんて身体がもたない。

一応、山下にもメールしたが、反応なし。イコールお好きにどうぞってことだな。

仕方がないので牛山に電話することにした。

”牛山さん、馬場さんなんにもできません。リリースしたいんですが。”

それに対しあっさり "あ、そう。やっぱだめか。大手メーカー出身のIT社員はなんもできへんってほんまやな。前のJOBでも1週間で返品されよったわ。今度は1日か。出てってもらいましょか。明日、一緒に面談でてもらってええ?じゃ、13:00にオフィスで。” と一方的に話したかと思うと電話を切ってしまった。


牛山さん使えないの知ってたな。そんなの廻すなよ。馬場も2つ目のJOBで即クビか、パンビームでもベンダーに全部丸投げしてたんだろうな。誰だこんなの雇ったの。正人はこころの中で愚痴りながら馬場の分の資料も含めてをせっせと作っていた。こりゃ今日も徹夜だな。同じ大阪市内に住んでるのに、JOBのEM (Engagement Manager )をやるようになってから平日は週に何日も帰ってない。コンビニで今日も下着を買いに行くことになる。普通なら浮気でも疑われるところだが、毎回、毎回汚れた下着を大量に持ち帰っているせいかそれすらもない。これからは会社に下着を置いていくか。


翌日、牛山と正人は会議室で馬場を待っていた。なんで別チームメンバーのクビきりの場に同席させられるのか、正人はあまりいい気はしなかった。仕方なしに事実だけを列挙するだけにした。

最後に牛山が馬場に、 ”前回も話したが、PIP(Performance Improvement Program) の教育を受けたあと、次のJOBで務まらなかったら別の仕事を探してもらうということだったと思う。まだ、試用期間だから履歴には傷は付かんやろ。何か言いたいことはあるか。”

それに対して馬場は "いや、特にないです。パンビームではこれで行けたんですが、コンサルじゃベンダーとか使うのはダメなんですね。わかりました。"

そんな話じゃない。なんでもかんでもベンダーにやらせていたら俺たちの役割はなんなんだ。コンサルはメーカーとは違う。いや、メーカーでもそれじゃだめだろ。

牛山は、”じゃ、人事には言ってあるので、手続きは人事とお願いします。”

なんとも簡単だが、コンサルを維持するのに健全な新陳代謝は不可欠だ。早く次のスタッフ探さないと身体がもたない。

正人は人を切ることに対して何とも思わない自分に驚きもしなくなっていた。


第7話 了



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