第3話 キャッチアップは3日で
結局、プロジェクトの準備は何なのか知る間もなくプロジェクトに放り込まれた。現地受け入れはまた別のマネージャがいる。人身売買のごとく井上から現地マネージャの日下に正人と別チームから送られて来た坂田は現地でに引き渡された。
日下は、このプロジェクトは東京オフィスとWest(大阪オフィス)が一緒になって実行するプロジェクトであり、その成否が今後のLDの活動の基本となる。と突然大きな話をし出した。
正人の聞いている話と大分違う。聞いた話によれば東京のパートナーがクライアントと喧嘩して出禁になったので、Westのパートナー森田が今後プロジェクトを担当し、その下で東京のチームが正人たちと一緒にプロジェクト推進すると。
つまり、東京チームは親分がクビになったんで、プライドを傷つけられまいとそんな話にでもしたのか。やれやれ先が思いやられる。東京とWestはもともと別会社のようなものだから当然ながら仲は悪い。まあ、もっとも誰の話も信用できないから、先の出禁の話すらあやしい。
他人のことよりもどうやってクビにならないか、今はそちらの方が優先だ。正人は余計な雑念は一旦横に置き、どうやって使える新人としてアピールするかだけに専念することにした。
日下は、
” 井上さんから聞いていると思うが、このプロジェクトでは物流チームを担当してもらう。坂田さんは物流のプロと聞いている。鈴木さんは電機業界のプロと。”
”座る席は、プロジェクトルームのどこでもいいけど、窓側の席はクライアント専用だからそれ以外で。”
” あと、全体ミーティングは来週の月曜朝、10時にあるので、準備してきているとは思うけど詳細スケジュールとタスク一覧、成果物一覧をそこで発表してください。私は次の会議があるので。”
と立て続けに言いたいことを一方的に言い残してプロジェクトルームを出ていった。
???????はてながいくつあっても足らない。準備って、物流って。
”坂田さん、何か話きいてます?私は何にも聞いてないけど。”
正人は坂田に正直ベースできくと
”いや、現地のことは鈴木さんに聞いてくれとマネージャから聞いている。”
あかん。完全に手詰まりだ。
プロジェクトルームは誰がLDの社員で誰がクラアントか全く見分け付かない。手当たり次第に聞いたらまずいことは素人の正人でもわかった。
日下が戻って来るのを待って正直に何も聞いていないことを訴えるしかない。もうクビ?一瞬そんなこともよぎった。
戻ってきた日下は、” だったら早く言ってほしかったな~。了解、今まで物流を担当していたメンバーを紹介する。彼らから今までの動きをナレッジトランスファーしてもらって下さい。来週からのスケジュール、タスク、成果物などのヒントがもらえると思います。 ” 日下は最初の印象と違ってフレンドリーな感じであった。
正人と坂田は金曜日の朝までほぼ寝ずに、来週月曜日に使う資料を用意した。物流の知識は本屋で使えそうな本を片っ端から買って斜め読み、あと坂田の知識をもとに何とかプロジェクトの計画書を書き上げた。
金曜日の昼過ぎ、プロジェクトルームの入り口に皮のパンツと黒いジャケット、胸元が開いた白いシャツの男が日下と話している。時代遅れのディスコダンサーか。何とも異様なスタイル。こんなまじめな事業会社にそんな服装をした人間はいないだろう。コンサルか?と考えを巡らしていると。
”おー君たちが期待のWestの新人さんかー。”と指をならして、正人たちを指さした。
何じゃそのリアクションは。アメリカの映画の見すぎじゃないのか?それともバブル時代の業界人?全く常識のレベルが違う。
彼は、プロジェクトを出禁になった東京のパートナーの代わりに一時的に責任者として東京オフィスから来ている川野というシニアマネージャだそうだ。
こいつも出禁になるのは時間の問題かじゃないのか?
川野は” 月曜日の資料レビューするか。見せてくれ。 ” 慇懃な態度で正人と坂田に言った。
坂田が印刷したばかりの資料を川野に渡すと
” 日下、これレビューしたのか? ”と川野がいうと日下は、” いや、まだっす。 ”とだけ。
” これだから素人さんは。ストーリーとコンテンツがマッチしてない。もうプロジェクトに入って3日は経ってるよなー。キャッチアップできてないじゃん。それでもシニコンかよ。"
"日下、Westだけどしょうがないから面倒見てやれ。来週、Westのなんとかいうパートナーがくるだろ。これじゃ奴さん恥かきに来るようなもんじゃないか。Westは使えませんって。 ” 森田パートナーのことか。
” はい。了解っす ” 日下はそういった。日下はしゃべり口調を変えているようだ。相手に合わせて。
川野がプロジェクトルームを去った後、
日下は正人と坂田に” いやーごめん、ごめん、見る前に川野さんに見られちゃった。川野さんはアンチWestだから気にしないでいいよ。修正点を書き出しておくから土曜日の昼までに直してメールで送ってくれる? ”
土曜日の昼ね~。正人と坂田は、大阪オフィスに戻るとまた徹夜かとため息をついた。
この世界では3日でキャッチアップが当たり前なのか。
第三話 了
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