⑤ ミガシとキペ





「・・・ほらきた。ほら、言ったでしょ御意見役っ!


 あーあ。なんかもう『スケイデュ』の半分以上が赤目ひとりに片付けられちゃって・・・。

 あーそら怒るよなぁ、あぇ? ちょ、御意見役っ? なに考え――――」


 交戦の金属音ひとつ響かせずにバタバタと倒れゆく様をじっと見ていたスナロアが、ぱからんと鳴らして統府議閣を横目にその場へ向かう。


「ゆくぞボロウっ! 

 赤目は・・・赤目は「忘れな祭」のことなど考えてはいなかったのだっ!」


 んー、ってなるボロウ。

 なにその「私としたことがっ!」みたいな顔は、ってなる。


 それでも民衆の至宝、そして『なかよし組合』の重役が赴くのだからその手綱を横取りするわけにもいかない。それに何より向かう先にはフラフラな村の長・赤目がいるとなれば心は静かに従うだけだ。


 声を張れば届くそこでは、兵力に頼るのは無意味と悟った副団長が前線に立ち赤目に言葉を投げていた。


「謀反を企てる不可思議なる青年よ、わたしは『スケイデュ遊団』副団長を務める者。

 見ればどんな奇術を用いたか知らぬがこの有様。しかし毒かと思った煙幕の中の兵は生きているように見える。


 わたしはそなたが味方ならずとも敵ともならぬ者と判断し前へ出た。

 この通り、武器も預けてだ。


 青年よ、そなたは何者か。そして何が目的か。

 返答いかんでは通してもかまわん。


 ・・・・・・・かまわんっ!」


 迷いを打ち払うように、そして警戒する背後の部下たちに指示するように副団長は声を張る。


 疲れた姿がカムフラージュであれ本音であれ、ヒトならざる力を持っていることはもう確認済みなのだ。また、その白髪の男がその気になれば毒を撒くことくらい容易いながらもそうしなかったのには理由があるはずと考えたのだろう。


 統府高官の暗殺が目的なら止めるつもりだ。しかし一人で中央域突破を目論むここまでの覚悟と殺せるのに殺さない志を見せつけられると、どうにも「悪党」と切り捨てるには早計である気がしてならなかったらしい。


 そして決意と覚悟のある者であればつまらぬ嘘など吐くまい、とバカ正直に尋ねたまでだ。

 とはいえそれが、正直であることが、愚直であることが、心と心を通わせる最上の架け橋であることを証明する。


「あは・・・はぁ、はぁ。よかった、『スケイデュ』はみんな紋切り型の鉄面皮ってワケじゃないんだねえ。


 僕の名は赤目。忘れな村の長をしている者だよ。


 副団長さん、ご指摘どおり僕らに殺意はない。

 報せに来たんだ。僕たちという存在を。」


 そこでがくん、と膝を付く。

 死ぬほどの失血でなくとも、正しく血液が循環してなお余りある負荷がその身には掛かり過ぎていた。メタローグの完全血聖の名残も順応していない赤目にはその力の四半分も働いてくれなかった。


「そうか。・・・だがこれより『ファウナ』『フロラ』の侵攻から守らねばならぬ兵を挫いた罪は軽くないぞ。


 ・・・赤目を捕えよっ!」


 戦いに来たわけではない、それはわかったが、未だ姿を見せぬ両・反統府組織の出現を前に中央域を守る『スケイデュ』兵を失った今、希望を捨てるなという方が酷なのだ。

 そんな、たった一人で甚大な打撃を与えた赤目に捕縛の縄をかけようと兵が寄る。


 そこへ。


「私の友人に何か御用か、『スケイデュ』諸君。」


 ぱからん、とその後ろから透る声を突き刺すように解き放ち、スナロアは副団長から赤目に閉ざした目を移す。


「ふふ・・・変わったね、スナロアさん。」 


 ウルアよりスナロア存命の話は聞き及んでいた『スケイデュ』はそこで、赤目のこぼした名前と視線の先にいるユクジモ人へ戸惑いを見せる。


「スナロア・・・殿、であると?」


 みんなのヒーロー・スナロアともなれば疑うことさえ軽々にはできない。

 ただ、疑う余地もなくそこにあるのが神徒スナロアだと思うのは、誰あろう自分が、その心が「間違いない」と太鼓判を押してしまうからだろう。


「御意見役、ちょ、ここは任せましたよっ!


 ・・・・ったく赤目っ、君はこんな無鉄砲なことする性分じゃなかっただろっ! 

 あれ赤目?・・・はぁ、寝てるのか。


 ・・・えっと、すまない、この辺りに医法所はないだろうか。」


 手近にいた『スケイデュ』兵に包帯まみれで片足引き摺りのボロウが尋ねる。


「すぐそこに・・・いや、おまえは一体・・?」


 気さくな口調とヒトあたりの良さが軽妙に映る兵は思わず「敵かもしれない」ボロウと言葉を交わしてしまう。

 そしてそんな勝手に罪悪感が伴わないことに少し、笑えてしまう。


「ふふ、ありがとさん。説明は御意見役に頼んでくれるかい?


 ・・・ん? ウィヨカっ? コリノも来てたのか?」


 ウィヨカを背負いこちらへ走り来るコリノへボロウは事の顛末を簡潔に伝える。


 忘れな村サイドとしては赤目の気絶によりその本望はここで潰えてしまったものの、ボロウが引き継ぎスナロアへ、そして『なかよし組合』へと繋がれるのだからムダ足ではなかった。


「承知したボロウ、赤目を連れていくがいい。コリノ、ウィヨカも連れていってくれ。


 ・・・さて副団長よ、私を信じて聞いてもらいたいことがある。」


 赤目を担ぐボロウ、ウィヨカを背負うコリノを促すスナロアはある意味赤目のような、しかし異なる「存在」の力を解放する。


 それは風雲急を告げる事態にあってまるで揺るがぬ圧倒的な自信と力強さを兼ねながらも、軽やかに沁み渡る声とをもって聴く者すべてを惹きつけてしまうものだった。

 名誉ある肩書きに寄り掛かるそれとは違い、やさしくも厳しい父のような温度で支配するのがこの男の特殊な性質なのかもしれない。


「・・・。礼を欠くこととなれば詫びる心はわたしにもある。

 だが、・・・鵜呑みにするほどお人好しでもあれぬ。」


 副団長の男も統府の議員・議長と話をするくらいはあった。


 だから判るのだ。風圧というのか大波というのか、取り巻く空気そのものが有無を言わせぬ重みとなって押し寄せてくる「存在感」がこの男にはあったから。


 それでも今は同志が倒れねばならない決定的な有事。主観に手抜かりを許してはならない非常事態だった。


 しかし、それも受け入れるスナロアは瞳を閉ざしたままほのかに笑んでみせるだけだ。


「もっともだ、副団長。盲信せよと言うつもりもない。体験は説明を求めぬもの。


 ただ見ていればよい。


 北域よりやってくるのは狂気ではない。

 それは私が、いや、私たち『なかよし組合』が、『ファウナ』が、『フロラ』が、そしてここにいぬ者たちが待ち望んだ希望だ。


 貴公らも目にする。

 それは奇跡という名の行進だ。


 ふくく。もしその名で呼べぬなら私を捕えればよい。先の赤目たちとて抵抗はすまい。」


 見ていろ、とその男は言う。

 何かしてくれ、と頼むでもなく。


 何もしないという時間が、そして流れる。


 大事な兵を半分も機能不全に追い込まれてなお、

 バカげた話を、と嘲笑に付したいはずのこの状況下でなお、

 そうしてみたいと思わせる。


 見せてもらいたい、と思わせる。


 静かにほほ笑むユクジモ人の、嘘かもしれない「奇跡」を信じて。




「すまぬ、どいてくれっ!」


 すまぬと言いながら搔き分ければ負傷者の出る剛力の巨躯は丘を埋め尽くす群衆をかいくぐり、そして声を放つ。


「逃げるな風読みぃぃぃぃっ!」


 どよめきたつ民衆は地を割る怒号に道を譲り、その男の視線の先を辿る。


「・・・弱りましたね。職務放棄する男だとは思いもよりませんでしたよ。


 ふふ、ハユ、大丈夫です。きっとミガシは誰か悪い輩に唆されているだけでしょう。ええ、私を憎むというよりあなたを助けたい一心なのでしょうね。


 でも心なさい。あなたは他とは違った特別な存在なのです。そのために涙を呑み歯を食いしばらねばならない場面に他人より多く出くわすことになるでしょう。


 ハユ。私はあなたがそれらを乗り越えられる強い男だと知っています。大義の前の犠牲とは、弱き民のそれではありません。己をも犠牲にする、という屈強な意志がもたらす決意を意味しているのですよ。」


 マイペースといえば牧歌的に聞こえるそれも、『スケイデュ遊団』団長が名指しで怒鳴る中で保たれれば安らぎにも似てくる。


 そしてハユの心を諌めるジニの言葉には夢見る少年をいざなう艶美な響きがいくつも散りばめられていた。


「・・・はい。

 わたしは団長に強く育ててもらいました。きっと、この任が果たせたのならきっと、そのご恩を返せる気がしているんで・・・あれ? ヒナミさん。」


 ささやかな暗器となる装弓だけを左腕に忍ばせ、旅行客とおよそ見分けがつかない格好に着替えたヒナミはそこで隣へ滑り込む。


「厄介なことになったものだ。『ファウナ』は一体なにをしているのやら。


 ・・・とにかくハユくん、きみのその気高い決意には間違いなくミガシも喜ぶだろう。

 だがそれは今じゃない。わかるね、ハユくん。」


『フロラ』用の通路を出た時からヒナミは『ファウナ』を囮としてしか考えていなかった。

 そのため振り返りもせずただひたすらに旧大聖廟を目指していたようだ。


 なまじシクロロンの説得劇を目にしていたら今この時に間に合わなかっただろう。


「ヒナミぃっ! やっと見つけ―――――」


 そうミガシが雪辱に湧く声を上げた時。


「きゃあああああっ!」


 よく響く女たちの声は遅れて鳴る男たちの声を引き連れて


「なん・・・そ、・・・ハユうぅぅぅっ!」


 その場にいるすべてのヒトの視線を空へと移し


「なっ、・・ふざけ・・なんだアレはっ!」


 旧大聖廟めがけて一直線に飛んでくる「何か」へ


「・・・私は先に行きますよ、ヒナミ。」


 釘付けにする。



「―――――なああああああああああっ! ニポぉっ、これどうやって着地するのーっ?」


 もう完全に握力と腕力だけで引っ掴まるキぺが泣きながら訴える。


「―――――はーはっはっはっはっはっ! チペぇっ、ヒトはねえ、空を飛んだんだよっ!」


 空を飛ぶ。


 甘美なその理想だけを、だけを考えて作ったヤシャ号に導かれるニポはあんまりその先のことは考えていなかったらしい。


「それは聞いたよぉぉぉぉぉっ!」


 だのでもうこれは、もうこれは本当にマズい、と判断したキぺは


「ちょ、あんた何して・・・」


 ぶっ飛ぶヤシャ号から手を離し


「わかんない。・・・でも、今の僕ならきみを守れる。」


 ニポを引き上げぐるんとその身で抱きくるめ


「なあ、チペ。あたいね・・・ホントはあんたのこと――――」


 そのやわらかな感触に、すこし、すこしだけ、微笑み


「ニポ。舌噛んじゃうから黙ってて。」


 ぐるる、と聞こえる声に耳を貸す。



 そして。



 ずっ・・・どおおおおおおおんっ!



「きゃあああああっ!」


 激突したヤシャ号は旧大聖廟の二階部を遠慮なく破壊する。


「うおおおおおおっ!」


 砕けた瓦礫は容赦なく降り注ぎ頭を抱える避難民たちを打ち鳴らす。


「ちょ、ハユくんっ!」


 それは旧大聖廟に近い者から重く大きな石壁を落とし、


「・・・致し方ないですね。ヒナミっ、来るなら来なさいっ!」


 命を奪わずとも負傷者を生み出した。


「ハユうぅぅぅっ!」


 そんな飛び散る砂利屑を大男は意にも介さずただ走る。

 その大きな拳より大きな石レンガが片腕より軽い少年を狙っていたから。


 そこへ。

 


 ずっ・・・・もおおおおおおんっ!

 


 ヤシャ墜落に遅れて降ってきたのはヒトだった。


「い、い、医法師をぉぉっ!」


 あちこちでその衝撃に血を流す者たちが助けを呼ぶ。


「おいっ、・・・・ハユっ、ハユっ!」


 あれほどに大きく雄々しかったその背中さえ観光客に紛れてしまうほど小さくなるミガシの先には、気を失っている少年があった。


 だから。


「どけえええええええいっ!」


 横たわる無抵抗なハユなどこのパニックでは踏み潰されてもおかしくない。


 その最悪の、悔やむに悔やめぬつまらぬ可能性を打ち払うかのようなミガシの咆哮が鳴り渡る。


「ハユっ!・・はぁっく、・・・よかった、生きていたか――――」

「きゃああああっ! 生きてるぅぅぅっ!」


 そんな感嘆も引き裂く声が、ミガシのおかげで出来上がった空間のあっちで響く。


「・・・つぅ。あ痛てててて、・・って、ニポっ?


 ・・・ああ、無事か。


 ・・・ってハユっ?」


 なぜか無事なキぺがニポの息を確かめ、きれぎれに聞こえていた懐かしい名前を辿って見た先には、


「・・・え、ハユ?・・・・・ハユうううううううっ!」


 そこでは紛れもない、捜し求めて無事を祈ってずっと会いたくてすごく心配してずっとずっと、忘れる事もなかった最愛の家族が見知らぬ大男に抱きかかえられていた。


 だから。


 だから、キぺはちょっとニポを放ったらかしにして


「ハユっ・・・・・ハユっ!」


 ふれたくて、抱きしめたくて、


「ハユ!・・・あぁ、ハユっ!」


 駆け寄る。


 ・・・。


 なのに。


「寄るな『ファウナ』ぁっ! 貴様らなぞにハユは渡さんぞっ!」


 誰もが、兵団を含めあらゆる組織が「勝てない」と断じる豪勇・ミガシがハユを寝かせて突如降ってきた男に立ち塞がる。


 ミガシの叫びが拓かせた空白の丘は、皮肉にもハユを巡る闘いの場と化していた。



「・・・あれ? あちょ、ちょちょ、御意見役っ!」


 赤目を医法所に寝かせてきたボロウが旧大聖廟の騒動に目を凝らし、ほぼ崇拝しているスナロアの肩をばしばしと叩く。

 スナロアは涼しい顔をしていたが胸中は大混乱だ。


「ふくく。ようやく来たな、我らの標。」


 当然、旧『今日会』にも関わっていたスナロアはニポの開発したヤシャ号の機能は知っていた。ニポ自身もおっかなびっくりで試したことのない「飛行」とはいえ、モク大好きのスナロアにとってモクが信じたニポのウデだからこそ驚くことはない。保護遺産がかなり吹っ飛んじゃっても。


「はい? じゃなくて、いや、そうなんでしょうね、キペくんってのは。

 いやでもそうじゃなくて、あそこで敵意むき出しにしてるのって・・・ここにいるはずの団長・ミガシですよね?


 ・・・ナニ考えてんだあの天然なんでも受け入れ大将軍はっ! 勝てるはずがないだろっ、コリノでさえどうかってのにあんな細腕で何ができるってんだっ!」


 天然なんでも受け入れ大将軍・キぺをそれでも案じるボロウは走る。

 スナロアから熱い視線を受けているとかそういった理由からではなく、ただ、助けたかった。

 助けなければ、死ぬはずだから。



「え?・・・あ、そっか。いや、えっと、僕はキペといいます。ハユのお兄ちゃんです。ふふ。

 あの、ハユは? あの、ハユは無事なん――――」

「黙れ外道がっ! 暗足部がハユの兄を仕立てようとわざわざ希少な黒ヌイを雇ったというわけかっ! くくく、手抜かりが手抜きにしか見えぬぞ『ファウナ』っ!


 お前らが知らぬ本物の兄の特徴は俺にしか分からぬっ! 安い代替えでこの俺の目をごまかせるとでも思ったかっ!」


『ファウナ』と名指しされても説明に困るほどキぺは暗足部の装衛具を指の先まで着こなしている。

 そんな誤解は仕方ないながらも、こうも頑なにハユへの接触を嫌がるとなれば言うまでもない、この大男もハユを利用して何かを企んでいるに違いなかった。


 それは、ハユの命すらも顧みない非情で歪んだ正義にすぎない。


 だから。


「ハユを・・・返してください。」


 投擲の弾をすら超えるスピードで叩きつけられてなお無傷の男は


「ハユは・・・ハユは返してもらいますっ!」


 ぐるるるるるるると鳴る声を纏い


「笑止っ! 付け焼き刃の骨痩せ兵がこの俺に敵うと思っているのかっ!」


 風より疾くミガシの前に立つ。


「・・・ハユは、僕の光だ。」


 その常人を凌ぐ異常な速度と安定感に怯むミガシも、守るべき未来をその身に見たハユを背にすれば誇りがすべてを拭って放てる一撃がある。


「黙れ若僧っ! お前のではないっ! 俺たちの光だぁっ!」 


 一撃で内臓を破壊するバファ鉄性の板拳を振りかぶり、ミガシは全力で放つ。


「無駄ですよ。」


 なのに、


「ふざけ・・こ、くそっ!」


 太く重いその剛腕を、骨にぶつかれば発生する破振効果をまるで意に介さぬ青年は左手ひとつで押さえてしまう。


「・・・ハユを、返して。」


 手のひらの肉くらいでその衝撃が、破振効果が食い止められるはずなどなかった。

 直撃すれば神経にさえ作用するからこその武器なのだから。


 だから、


「ふんぬっ!」


 だからミガシは打ち込む。


「意味がないんです・・・・・・音は僕を、困らせない。」


 それも受け止められる。


 板拳の破振効果が無効化されているとしても、目に見える明確な筋力差が生み出す結果は分かりきっているはずだった。


 それなのに、それなのに暗足部の男は打ち消してしまう。


「バっ、バケモノがっ!」


 勝てない。


「ふぬっ!・・・・・・くそっ!」


 そうはっきりと


「ハユはっ!」


 感じたことのない完璧で完全なその確信が


「ハユは絶対に渡さんぞっ!」


 もう体の隅々にまで行き渡っている。


「このっ!・・・くそっ! くそっ!」


 それでも、


 それでもそれでも、


 それでもそれでもそれでもっ!


「・・・手加減が限界なら、どいてください。」


 ただ一心にその余裕に満ちた顔へ放つ重量級の板拳すべてが


「手加減だとっ?・・・くっ! なぜだあっ! なんだお前はああああああああっ!」


 腫れたような蠢く血管を浮かべ


「僕は・・・ハユのお兄ちゃんです。」 


 太く膨れ上がった青年の手に


「ふざけるなバケモノがぁぁぁっ!」


 受け止められる。


「・・・でも、」


 打ち払われるでもなく、防ぎ凌ぐでもなく


「ハユはっ! ハユはこの俺が守り抜くっ!」


 受け止められる。


「あなたはきっと、・・・・・・でも、寝てて下さい。」

 

 そして。



 ずどん。



「あぅ・・・・」


 自らの骨の折れるもかまわず、血の止まるもかまわず、肉の千切れるもかまわず


「あなたは悪いヒトじゃないと思うもの。」


 青年の拳が槍より鋭く装甲具をひしゃげてミガシに放たれる。


「・・・うぅ・・あ・・・」


 そして大きな男は小さな暗足部の男に倒れ込んだ。

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