これってデート?
1
太陽の活躍(?)もあって、料理の大半が無くなった頃にリビングに戻って来た黒都が天乃を膝に乗せて会話に混ざった。
「うちの会社は昔からおもちゃを作ってるんだけど、黒羽くんは全然遊んでくれなくてねぇ」
「んなガキ騙しで遊んでもつまんねーだろ」
「パパ悲しいなぁ」
しょんぼりと眉尻を下げる黒都を、天乃が振り返った。
「あまのはパパのおもちゃすきだよ!」
「天乃ちゃんありがと〜!」
小さな娘をぎゅっと抱き締める黒都。微笑ましい様子に思わず夏海の頬が緩む。こんな無愛想でいけ好かない兄に、愛らしい妹がいることが未だに信じられない。
「柴矢製のおもちゃは私の弟もよくお世話になってますよ。もちろん私も。」
「あたしも! 誕生日に買ってもらったりしてた!」
にこにこと笑顔で話す風華と目を輝かせる夏海に、黒都の表情が明るくなる。
「本当かい? 嬉しいなぁ、頑張って会社を大きくした甲斐があるよ」
父親がこんなにも嬉しそうにしている横で、息子は依然として冷たい態度のまま。
「陰峰も遊べばよかったのに。もうおもちゃ遊びできる年じゃなくてかわいそー。」
「あ? テメェみてーに玩具で喜ぶガキじゃねェだけだ」
「うっわ、子供の時から可愛くない奴!」
いがみ合う黒羽と夏海だが、それを眺める黒都は楽しそうだ。
「けどそんな所が天羽さんそっくりで可愛いんだよねぇ。彼女、出会った頃からずっと無愛想でね」
「チッ、クソうぜェノロケが始まったから帰れテメェら」
父親の話にあからさまに顔をしかめる黒羽。そのまま本当に太陽たちを追い出す。
「ははは。黒羽ちゃん照れんなよ! 貴重な話だろ!」
「うっせェ」
「あだッ」
揶揄った太陽の臀部に黒羽の蹴りが綺麗に入る。今日のパーティーの主役だという事を完全に忘れているに違いない。
「日も傾いてきてるし、お開きにはいい時間だろ。暗い中風華たちを歩かせるわけにも行かないからな。帰ろう。」
腕時計を確認しながら灯太が言った。夜に出歩く事は禁じられてはいないものの、機関に所属している隊員としては警戒してしまう。
「ケツが割れちまう……おうちまで歩けるかしら。とぅーたおんぶして」
「ケツは元々割れてるだろ。自分で歩いてくれ」
太陽の申し出は虚しくも即座に断られた。
見送る気が無いらしい黒羽は、太陽たちが別れを告げると惜しむ様子も見せずに玄関を閉める。彼らしいと言えば彼らしいが、そんな態度にやはり夏海は苛立ってしまう。
「なんなのアイツ。ほんとヤな感じ。」
「ああ見えて心開いてくれてるんだ。黒羽の性格だと、どうでもいい相手を家に招いたりしないからな。」
灯太の言う事も合っているのかも、とは夏海も思う。それにしたって、親しき仲にもっと礼儀を持つべきではないだろうか。
太陽の誕生日会から数日が過ぎた頃。未だに太陽は頭を悩ませていた。誕生日会では気晴らしにならなかっただろうか、と今日も頭を抱える後ろ姿を見ながら夏海は思う。
「灯太くん、太陽大丈夫かなぁ。」
「そのうち元気になるだろ。放っといていいぞ。」
友人が言うなら間違いないのだろう。とはいえ、好きな人が悩んでいれば気になってしまう。
「太陽、大丈夫?」
「ん?」
話しかけた夏海を太陽が見た。そのままぐでりと机に寝そべり、気の抜けた声を発する。
「もーーさ、なーんも浮かばねーの。頭で考えても意味無いことは分かってんのよ? でも、ずっと考えちまうってゆーか」
「そっか。あたしも、試験の事考えると不安になっちゃうな。陰峰との約束もできた分余計にさ。」
苦笑する夏海を前に、太陽が身体を起こした。
「じゃ、気晴らしに遊びに行こーぜ!」
「え? い、良いけど。皆で?」
驚きながらも尋ねた夏海に、太陽がいいやと首を振る。
「灯太たち誘ったら俺がずっと遊んでるって思われちまう! 二人で行こーぜ!」
もう思われてるのでは? という疑問は、太陽の誘いがすごく嬉しい夏海にとって小さなものだった。
「分かった! いつ行く?」
「今週の日曜日! あ、予定あったらごめん」
「ううん、大丈夫。日曜日ね! 楽しみ!」
太陽と遊ぶ約束をした夏海は、うきうきと心を弾ませながら自分の席に戻る。まさか、太陽の方から誘ってもらえるとは思っていなかった。今から日曜日が楽しみで楽しみで仕方がない。
(もしかして、これってデート⁉︎)
ついそんな考えがよぎり、しばらく授業の内容が頭に入ってこなかった。今すぐ風華に話したい所だが、灯太たちには内緒の約束だ。試験が終わった後なら話してもいいかもしれない。
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