7
天乃は風華と夏海の間ではしゃいでいた。
「いいなぁ妹。あたし一人っ子だから羨ましい。」
「ふふふ。たしかに妹も可愛いですね。でも、弟もすごく可愛いんですよ?」
「ふうかおねぇちゃん、おねぇちゃんなの?」
「そうですよ。今度うちのるっかと遊びますか?」
「あそびたい!」
天乃が顔を輝かせて即答するが、兄としては見逃せない。
「おい。まず俺に話通すモンだろーがよ」
「心配しなくても、うちのるっかに彼女はまだ早いので大丈夫ですよ」
風華は変わらずに柔らかい笑顔を浮かべているが、二人の間にバチバチと火花が散っているような。ここに来る前は仲睦まじく話していたはずでは? と夏海が首を傾げる。
「おにぃちゃん、だめ?」
妹に男の影がちらつくのを許せない兄の心など露知らずの天乃。
「だめっつーか……
「うちのるっかは紳士なので、自分より年下の子にも優しいですよ。」
「天乃に男の友達はまだ要らねぇ。」
「なんで! おにぃちゃんのケチ! いけず!」
こんなに天乃が頬をパンパンに膨らませて怒っているというのに、黒羽は変わらず「だめだ」の一点張り。
「ひどいお兄ちゃんですねぇ。うちのるっかの方が優しくて良い子ですよ。」
「じゃあ、陰峰も一緒に遊べばいいんじゃないの?」
「はァ?」
夏海の提案に黒羽が眉をひそめた。
「俺に混じって遊べってか?」
「だって、天乃ちゃんが風華ちゃんの弟くん……」
「琉夏です、夏海。」
「琉夏くんと二人で遊ぶの嫌なら、陰峰も一緒に遊べばいいじゃん。ね。」
こちらは兄妹両者の意見を聞いた上で提案しているのに、なぜあからさまに嫌な顔をされるか分からない。一緒に遊ぶのが嫌なら、二人で遊んでいる所を見ていればいいのだ。
「そうなの! おにぃちゃんもいっしょにあそべばいいの!」
天乃がそう言い出したことで早々に多勢に無勢と悟ったのか、黒羽が折れる。
「まァ……俺がいる時なら……」
「やったぁ! なつみおねぇちゃん、ありがとうなの!」
「天乃ちゃん、よかったね!」
にこにこと笑顔を浮かべる天乃。ここで夏海が、今なら黒羽も頼みを聞いてくれるんじゃないか? と考える。
「ねぇ陰峰」
「あ?」
「あたしの訓練相手してよ」
げ、と黒羽が顔をしかめた。
「断るつってんだろ」
「聞いた? 天乃ちゃん。あたし何回もお願いしてるのに断られるの。」
「てめ、天乃を盾にしてんじゃねェ」
今さら止めた所でもう遅い。既に天乃はまた頬を膨らませて兄を見ていた。
「おにぃちゃん! なつみおねぇちゃんにいじわるしちゃダメなの!」
「別に意地悪してるわけじゃねェよ……」
「じゃあなんでダメなの!」
妹相手にたじろぐ黒羽を見て、中々いい作戦だったと満足する夏海。珍しいものが見れて楽しんでいる風華と、やり取りに気づいた灯太。
「見ろよ太陽。夏海の方が一枚上手だったっぽいぞ。」
「んあ? あー、黒羽ちゃん、天乃ちゃんが絡むとチョロいかんな。」
騒動の蚊帳の外にいるからと、太陽も灯太も面白そうに傍観する。その間も天乃は黒羽に詰め寄っていた。
「やっぱりおにぃちゃんのケチ! いけず!」
「そーだそーだ、陰峰のケチ!」
二人に責め立てられ黒羽が耳を塞いだ。灯太に言われた通り、このまま押せばいけそうだと夏海が確信する。
「あーうるせーなァ、分ァったよやりゃいんだろやりゃあよォ」
「ほんとに!? やったぁ天乃ちゃん!」
「なつみおねぇちゃんよかったね!」
夏海が天乃と手を叩いて喜ぶ。ここまで粘った甲斐があったというもの。対する黒羽は面白くなさそうだ。
「テメェが一発で試験に受かったら、だ。そしたら考えてやる。」
「あら往生際の悪い。」
「うるせェ」
風華を黒羽がキッと睨む。
「つかコイツはテメェらが面倒見んじゃなかったのかよ。」
「戦闘スタイルが黒羽寄りだからお前が見た方が早いと思う。」
「あァ?」
灯太の返しに黒羽が片眉を吊り上げた。
「ハッ、
「よかったな夏海! 黒羽ちゃんがやる気出て!」
「テメェはすっこんでろアホ。受かってから首突っ込め」
「たしかに。人の事気にしてる場合じゃないぞ太陽」
「えええ……灯太まで」
黒羽の視線が冷たく夏海を射抜く。背中に少し緊張が走るのを感じながら、夏海はその気だるそうな表情を真っ向から見返した。
「大抵の人間は一回で受かる試験だ。別に難しいこたァ言ってねぇ。テメェが言い出して来たんだぜ? 飲めるよな?」
随分と挑発的な物言いに、夏海の負けず嫌いが掻き立てられる。こう言われて怖気づくわけがない。
「分かったわよ。けど、受かったら絶っっ対訓練見てもらうからね!」
「テメェも受かってから言えよ」
バチバチと火花を散らして睨み合う黒羽と夏海。ただ一緒に訓練をするかどうかという話でしかないのに、大袈裟な二人だ。
「なんでもいいけど、早く飯食わねーと太陽に全部食われるぞ。」
「あっ!! ほんとだ!! ちょっと太陽、あたしの分も残しといてね!」
「早いもん勝ち〜! 俺の誕生日パーティーなんだから、俺が一番食べていいだろ!」
「何言ってるんですか。ご飯は皆で食べるものですよ。」
食事を巡って太陽と夏海が騒ぎ出し、それを灯太と風華が諌める。恐らく全員、人の家だということを忘れているに違いない。
「…………。」
「おにぃちゃん」
「あ? 天乃、食いたいもんあったらちゃんと言わねぇとあのバカに食われんぞ。」
「あまのいっぱいたべたの! おにぃちゃん、みんないると楽しいね!」
満面の笑みを咲かせる天乃。妹が楽しいのなら、黒羽はそれだけで十分だった。
「……まぁ、な。うるせぇのも一人増えたしなァ。」
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燐陽鬼譚 七夕真昼 @uxygen
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