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そうこうしている間に、広い邸宅が見えてきた。芝生の敷かれた広い庭は、人を呼んで遊ぶもよし、色々な物を買ってきてバーベキューをするもよし。そのままキャンプをするのも申し分ないだろう。
「わ、おっきい家……」
(だけど、造りは一般的な家と似てるっていうか……。由緒ある陰峰の家だから、もっとお屋敷っぽいの想像してたけど違うんだ。)
黒を貴重とした品のある鉄製の門は、夏海の背丈よりもずっと高い。門の前まで来ると、黒羽が暗証番号を入力して鍵を開ける。ゆっくりと両側に開いていけば、目の前に白く輝く玄関まで続く大理石の石畳。
こんな豪邸を前にして太陽達がまったく動じないのは、それくらい黒羽の家に遊びに来ている証拠だろう。夏海はずっと感動してばかりだ。
「お邪魔しまーす!」
元気よく入って行く太陽の後に続く夏海。ふと門の横にある表札が気になった。
「柴矢……?」
なぜ陰峰の表札ではなく柴矢なのか。気になったものの、それを黒羽に尋ねるほど仲良くなってはいない。もし聞ける時があれば聞いてみよう、程度に留めておくことにした。
石畳の先には、これまた立派で重そうな玄関の扉。黒羽が開け、客人を通すより先に自分が入って行く。
「こんにちは!!」
中に入るなり、太陽が挨拶をする。広い廊下によく通る声が木霊した。数秒経って、奥の方から誰かが走ってくる。
「たいようおにぃちゃん、いらっしゃいなの!!」
「天乃ちゃん!! ちょっとおっきくなったんじゃない!?」
とたとたと駆け寄ってきた小さな女の子を太陽が抱き上げた。肩から下げられたおさげがゆれ、黒く丸い瞳がキラキラと輝く。
「あ、おにぃちゃんもおかえりなさい! とうたおにぃちゃんも、ふうかおねぇちゃんも、いらっしゃいなの!」
どうやらこの幼女が黒羽の妹らしい。くりくりとした目が、最後に夏海を見た。
「おねぇちゃんは、あまのとはじめまして?」
「あ、うん! 夏海って言います! よろしくね?」
「なつみおねぇちゃん!」
太陽に抱えられたまま、天乃がきゃっきゃっとはしゃぐ。子供が大好きな夏海は今すぐ天乃を撫で回したい衝動に駆られるが、お兄様の目の前だ。そうしたいのをぐっと堪え、今は笑顔だけにしておく。
「わぁ。皆、待ってたよ」
天乃が走ってきた方から、細身の男性が歩いてきた。きちんとスタイリングされた茶髪に、天乃と同じくくりっとした黒い瞳。
「パパ!」
太陽の腕から降りた天乃が男性の足にギュッとしがみついた。ということはつまり、この男性が黒羽の父親だ。
「え、似てな──」
思わず口から出た言葉を夏海が慌てて飲み込む。それにしたって驚くほど似ていない。黒羽の陰鬱で嫌味な空気が目の前の男性には無いどころか、どこからどう見たって爽やかイケメンパパだ。
「もう準備はできてるんだ。案内するよ。」
「あんないするの!」
あまりじろじろ見るのは失礼だと思いつつ、つい壁や天井を見てしまう夏海。光を反射する大理石の床などもはや水鏡だ。
「わ、すげぇ!!」
リビングに入ると飛び込んで来たのは、テーブルいっぱいに並んだご馳走と飾り付けられた広い室内。一階と二階が吹き抜けられ、正面は大きな窓というよりガラス張りの壁だった。
「黒羽くんの頼みだから張り切っちゃった。たくさん食べてね。」
「全部柴ちゃんの手作り!? さっすが黒羽の父ちゃん!!」
料理を前に顔を輝かせる太陽。その肩に、灯太がポン、と手を置いた。
「そういうわけで、誕生日おめでとう。」
「へ?」
「おめでとうございます。」
急に灯太と風華に祝われ、太陽が目を白黒させる。
「お前の誕生日パーティーを開くのに黒羽の家に協力してもらった。今の今まで気づかれないなんてな。」
太陽とて忘れていたわけでは……いや、すっかり忘れていた。試験の事ばかり考え、自分の誕生日など頭から抜け落ちていた。
「おめでとう太陽!あたし達皆でケーキを買ったから、楽しみにしててね!」
「ケーキ! すげぇ楽しみ!」
ケーキという言葉に太陽が顔を輝かせる。友人から貰う物は基本何でも嬉しいが、やはり食べ物は格別だ。
「たいようおにぃちゃん、おめでとうなの! おにぃちゃんだけまだいってないの! ちゃんというの!」
「えー……オメデト」
妹に催促され、渋々黒羽も祝いの言葉を口にする。その様子を黒都が微笑ましそうに見ていた。
「それじゃあ、僕は少し仕事を片付けてくるから、ジュースとか足りない物があったら天乃ちゃんに聞いてね。天乃ちゃん、お願いできる?」
「うん! まかせて!」
張り切る娘の頭を撫でて、広いリビングを後にする黒都。部屋を出る直前に、黒羽を振り返った。
「そうだ黒羽くん、ちょっと意見を聞きたいんだ。少しいいかな?」
「……」
無言で黒羽がうなずき、父の後に続く。二人で黒都の書斎に入ると、神妙な面持ちで黒都が話を切り出した。
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