Happy Birthday!!
1
「あ〜〜〜〜浮かばね〜〜〜〜」
机に肘を付き、両手で頭を抱える太陽。誰が見ても「悩んでいる」姿をこうも全力で表現する奴がいるとは、と真後ろからその様子をぼーっと眺める灯太。
「ね、ねぇ。太陽どうしたの?」
朝からずっとこの調子の太陽がさすがに気になったのか、夏海が遠慮がちに灯太に尋ねてきた。
「ああ。黒羽に別の技考えろって言われたらしい。」
「技?」
「あいつの燐廻術、十八番一本しかないから。」
「ああ……」
何となくうなずいたものの、夏海には今一つピンと来ない。使う燐光刀の型によって多少違いはあるものの、上官や先輩隊員から教わる燐廻術があるはずだ。
「なんで太陽は自分で考えてるの?」
「赤燐だとどうも俺達と勝手が違うらしくてな。教えてもらったものじゃ合わないんだ。けど周りに赤燐なんて支部長しかいないし、純粋な赤燐は支部じゃ太陽一人だ。」
だから、自分で考えるしかない。唯一持っている技も、怜亜とともに試行錯誤を重ねに重ねてようやく生み出せた。考えろと言われて「オリジナルの燐廻術できました」なんて、そんな簡単にできるはずもない。
「とはいえずっと悩む時間は無いしな。新しく考えるより、今あるものを自分に合わせてく方が俺は効率良いと思うけど。」
夏海も灯太に賛成だ。赤燐の事はよく分からないが、悩んで時間を潰すなら訓練を積む方がいい。
目の前では難しそうに唸る太陽。何か手伝える事ないかな、と夏海もつい考え込んでしまう。それでも太陽の事だ。明日には悩みなんか忘れてケロっとしているだろう。
腐れ縁の灯太も、夏海ですらもそう思っていたのだが。
一週間。飽きずに太陽は頭を抱えていた。今まで太陽が一つの事をこんなに長く考える事があっただろうか、と灯太は感心すら覚えてしまう。
「灯太くん、太陽に何かしてあげられないかな?」
机に突っ伏す太陽を見ながら、夏海が灯太に尋ねる。なんだか太陽の頭からプスプスと煙が出るのが見えるような……。
「うーん……とりあえず支部長を頼るくらいしか浮かばないな。」
「そっかぁ。」
「ところで夏海、今日太陽と黒羽の訓練を見に行こうと思うんだけど」
「ああ、そんな話してたもんね!」
何日か前に訓練用のカセットを提出してから、まだ手元に戻って来ていない。そのためここ数日は灯太、風華との訓練は休んでいた。
「太陽が悩みすぎて訓練どころじゃないってなってなきゃいいけど。」
物憂げに灯太が呟いた。
「それより。ちょっといいか?」
灯太が席を立って夏海を手招く。太陽に視線を向けつつも、夏海は灯太と共に教室の外へ出た。
「どうしたの?」
「少し話があって。風華達も呼んでくるから待ってて。」
言うなり、灯太が隣のクラスに顔を突っ込む。程なくして風華と黒羽も廊下にやって来た。
黒羽が夏海を一瞬見るが、特に何も言わず視線を外す。それすらカチンと来る夏海。しかし何か言われたら言われたでムカつく。
「悪いな授業前に。けど、今ならあいつ周り見えてないだろうからさ。」
風華がA組の教室を覗き、ああ、とうなずいた。
「黒羽の一言が効いてますね。ナイスプレーです。」
「んなつもりじゃなかったけどな。」
それで一体何の話なのか。夏海には全く予想がつかないが、風華や黒羽は何となく察しがついているようだ。
「来月、というかあと三週間くらいで太陽の誕生日だろ? 今年はどうしようかと思ってな。」
「えっ、太陽の誕生日来月なの?」
「五月一日なんだ。毎年祝ってるから、今年もそろそろ皆で考えようと思って。」
なるほど。だから夏海以外は何となく話が分かっていたのか。そのメンバーに自分も入れてもらえている事に、夏海は胸が温かくなる。
「パーティーを開いて食べ物を沢山用意しましょう。」
「おー、それでいーじゃねェか。解散」
「待てよ黒羽。場所まで決めておきたい。」
早速帰ろうとする黒羽の肩を灯太が掴んで止める。
「場所だァ……? 俺ん家。メシなら黒都に作らせときゃいーだろ。あとまだあンのか」
「黒羽がそれでいいなら俺はいいけど……」
「私も異論はないですよ。ケーキや装飾なら持って行きますし。」
「なら終わりだな。寝る。」
欠伸を噛み殺しながら黒羽が教室に戻って行く。学校に来て「寝る」とはどういう事なのか。
「……クロトって誰? アイツ、兄弟もいるの?」
「いや、黒都さんは黒羽の親父さん。ユニークな人なんだ。」
「自分のお父さんの事呼び捨てにしてるの!?」
どこまでも不遜な奴だと夏海が驚く。たとえ皆と一緒だとしても、黒羽の家に行くなんて……と思う反面、陰峰の長男が住む家だ。さぞかし大きいに違いない。そういう意味ではものすごく行きたい。住宅見学してみたい。
「太陽には内緒ですよ!」
「うん! 誕生日かぁ。あたしも何か太陽に渡したいな。」
何にしようかな、とルンルンで教室に戻って行く夏海。その後ろ姿を眺めていた灯太と風華が、顔を見合わせた。
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