Happy Birthday!!

「あ〜〜〜〜浮かばね〜〜〜〜」



 机に肘を付き、両手で頭を抱える太陽。誰が見ても「悩んでいる」姿をこうも全力で表現する奴がいるとは、と真後ろからその様子をぼーっと眺める灯太。



「ね、ねぇ。太陽どうしたの?」



 朝からずっとこの調子の太陽がさすがに気になったのか、夏海が遠慮がちに灯太に尋ねてきた。



「ああ。黒羽に別の技考えろって言われたらしい。」


「技?」


「あいつの燐廻術、十八番一本しかないから。」


「ああ……」



 何となくうなずいたものの、夏海には今一つピンと来ない。使う燐光刀の型によって多少違いはあるものの、上官や先輩隊員から教わる燐廻術があるはずだ。



「なんで太陽は自分で考えてるの?」


「赤燐だとどうも俺達と勝手が違うらしくてな。教えてもらったものじゃ合わないんだ。けど周りに赤燐なんて支部長しかいないし、純粋な赤燐は支部じゃ太陽一人だ。」



 だから、自分で考えるしかない。唯一持っている技も、怜亜とともに試行錯誤を重ねに重ねてようやく生み出せた。考えろと言われて「オリジナルの燐廻術できました」なんて、そんな簡単にできるはずもない。



「とはいえずっと悩む時間は無いしな。新しく考えるより、今あるものを自分に合わせてく方が俺は効率良いと思うけど。」



 夏海も灯太に賛成だ。赤燐の事はよく分からないが、悩んで時間を潰すなら訓練を積む方がいい。


 目の前では難しそうに唸る太陽。何か手伝える事ないかな、と夏海もつい考え込んでしまう。それでも太陽の事だ。明日には悩みなんか忘れてケロっとしているだろう。


 腐れ縁の灯太も、夏海ですらもそう思っていたのだが。






 一週間。飽きずに太陽は頭を抱えていた。今まで太陽が一つの事をこんなに長く考える事があっただろうか、と灯太は感心すら覚えてしまう。



「灯太くん、太陽に何かしてあげられないかな?」



 机に突っ伏す太陽を見ながら、夏海が灯太に尋ねる。なんだか太陽の頭からプスプスと煙が出るのが見えるような……。



「うーん……とりあえず支部長を頼るくらいしか浮かばないな。」


「そっかぁ。」


「ところで夏海、今日太陽と黒羽の訓練を見に行こうと思うんだけど」


「ああ、そんな話してたもんね!」



 何日か前に訓練用のカセットを提出してから、まだ手元に戻って来ていない。そのためここ数日は灯太、風華との訓練は休んでいた。



「太陽が悩みすぎて訓練どころじゃないってなってなきゃいいけど。」



 物憂げに灯太が呟いた。



「それより。ちょっといいか?」



 灯太が席を立って夏海を手招く。太陽に視線を向けつつも、夏海は灯太と共に教室の外へ出た。



「どうしたの?」


「少し話があって。風華達も呼んでくるから待ってて。」



 言うなり、灯太が隣のクラスに顔を突っ込む。程なくして風華と黒羽も廊下にやって来た。


 黒羽が夏海を一瞬見るが、特に何も言わず視線を外す。それすらカチンと来る夏海。しかし何か言われたら言われたでムカつく。



「悪いな授業前に。けど、今ならあいつ周り見えてないだろうからさ。」



 風華がA組の教室を覗き、ああ、とうなずいた。



「黒羽の一言が効いてますね。ナイスプレーです。」

「んなつもりじゃなかったけどな。」



 それで一体何の話なのか。夏海には全く予想がつかないが、風華や黒羽は何となく察しがついているようだ。



「来月、というかあと三週間くらいで太陽の誕生日だろ? 今年はどうしようかと思ってな。」


「えっ、太陽の誕生日来月なの?」


「五月一日なんだ。毎年祝ってるから、今年もそろそろ皆で考えようと思って。」



 なるほど。だから夏海以外は何となく話が分かっていたのか。そのメンバーに自分も入れてもらえている事に、夏海は胸が温かくなる。



「パーティーを開いて食べ物を沢山用意しましょう。」


「おー、それでいーじゃねェか。解散」


「待てよ黒羽。場所まで決めておきたい。」



 早速帰ろうとする黒羽の肩を灯太が掴んで止める。



「場所だァ……? 俺ん家。メシなら黒都に作らせときゃいーだろ。あとまだあンのか」


「黒羽がそれでいいなら俺はいいけど……」


「私も異論はないですよ。ケーキや装飾なら持って行きますし。」


「なら終わりだな。寝る。」



 欠伸を噛み殺しながら黒羽が教室に戻って行く。学校に来て「寝る」とはどういう事なのか。



「……クロトって誰? アイツ、兄弟もいるの?」


「いや、黒都さんは黒羽の親父さん。ユニークな人なんだ。」


「自分のお父さんの事呼び捨てにしてるの!?」



 どこまでも不遜な奴だと夏海が驚く。たとえ皆と一緒だとしても、黒羽の家に行くなんて……と思う反面、陰峰の長男が住む家だ。さぞかし大きいに違いない。そういう意味ではものすごく行きたい。住宅見学してみたい。



「太陽には内緒ですよ!」


「うん! 誕生日かぁ。あたしも何か太陽に渡したいな。」



 何にしようかな、とルンルンで教室に戻って行く夏海。その後ろ姿を眺めていた灯太と風華が、顔を見合わせた。

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