5
何戦目かを終えた所で、黒羽が突如燐光刀を消した。
「疲れた。」
「ええ! まだ三戦しかしてねーのに!」
太陽としてはやっと身体が温まってきた所だ。休憩には早すぎる、と抗議するが、あからさまに嫌そうに黒羽に睨まれた。
「体力底無しのテメェと一緒にすんな」
「いやいやいや、黒羽ちゃんが体力無さすぎんだって」
黒羽は序盤から持ち味のスピードで動き回るが、体力が無い故に持続性に欠ける。本人も短期戦を得意としているため、体力が有り余る太陽の訓練相手としては相性が悪い。
太陽もそれを承知で頼んでいるため、仕方なく休憩スペースに向かう黒羽に続いた。
「休憩ついでに評価頼む!」
スポーツドリンクを呷る黒羽の隣に腰掛け、太陽が手を合わせる。
「回避が遅せェ。あと反撃。」
黒羽に喰らいついている太陽を、黒羽はまだ遅いと言う。
「くぅ……やっぱり?」
指摘された太陽は気を悪くするどころか、黒羽に同意した。
「十八番頼りが抜けねぇな。さっさと他の技考えろ。」
「ですよねぇ」
太陽の得意技である『燐火大輪』は、燐光刀で相手の燐に触れ、暴発させる技だ。燐を暴発させた餓鬼の身体は爆ぜ、加減できないせいで燐化髄晶も粉々になる。
それを人に使えばどうなるか。太陽が一番分かっている。だから、黒羽との戦いでは使えなかった。
隊認試験は対人戦ではないが、試験に使用される機械には燐晶石による燐の回路がある。機械を破壊すればもちろん弁償だ。
「他にはなんかある?」
「いや、これができりゃ受かんだろ。」
「おお! 黒羽ちゃんに言われると自信が湧くぜ!!」
顔を輝かせて喜ぶ太陽には、「次で受かるとは言ってねぇ」と訂正する黒羽の声は聞こえていない。太陽が人の話を聞かないのはいつもの事なので、黒羽もそれ以上は放置する。
(つっても、回避は出来てんだよな……。受からねぇ方がおかしい気もすんが……。)
親友の話を適当に聞き流しながら、黒羽なりに太陽が合格できない理由を考えてみる。ギリギリだとしても躱せるなら、生存率は問題ないはずだ。撃破数も今までの試験を見る限り足りている。
「な、黒羽ちゃんはなんで夏海入れんのやなの?」
友は相変わらず呑気な男だ。黒羽が真剣に考えている横で、そんな事を聞いてくる。
「……機関最強目指すつったのはテメェだろ。なんでわざわざ足引っ張る要因作んだよ」
夏海はまだ訓練生だ。ただでさえ太陽が試験に受からず歯痒い思いをしているのいうのに、これ以上悩みの種を増やされては困る。焦っているわけではないが、できる限り早く隊としての実績が黒羽は欲しい。
(向こうの隊より使えるって証明できりゃ、俺の猶予も伸びるかもしんねぇ……。)
「夏海一人でこっち来たっつーからさ。俺ら仲良くなったし、仲間ができるって嬉しいだろ?」
だからたまに、この能天気な男をど突いてやりたくなる時がある。否、ついど突いてしまう時もある。本当に受かる気があるのかと何度問いだたした事か。
「出たよ。お人好しのお節介。仲良しこよしが目的じゃねェだろーが」
仲良くなったから仲間という理屈が黒羽にはいまいち理解できない。誰彼構わず仲良くなる太陽だ。その理屈でいけば、今後も神上隊(仮)に隊員が増え続けるという事になる。
「だいたい、テメェの事もままならねェのに他人の面倒見てる場合じゃねェぞ」
「大丈夫だって! 次はぜってー受かるから!」
太陽が自信満々に笑うが、その言葉を聞くのもこれが一度や二度じゃない。いつになったら有言実行するのか、と黒羽はため息をついた。
「ハッ、嫌でも俺がシバいて受からせてやる。灯太の奴も我慢の限界だろーしなァ。」
「お! 頼りにしてるぜ黒羽ちゃん!」
「うるせー。さっさと立てよ。」
休憩は終わりだとばかりに黒羽が立ち上がる。回避訓練の続きだ。まだまだ動き足りない太陽は「待ってました!」とカセットを握った。
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