初戦闘

 僕は少年と向き合うと、緩めに拳を握り、構える。

少年が銃の引き金を引くのを先読みして、体を右に傾けて避ける。

僕の身体は頑丈な方だと思うが、師匠程硬いわけではない。

そんな僕が銃を持っている相手に勝つ方法。それは武装解除。少年から銃奪い、素手での戦闘に持ち込むのみ。

どうやって銃を奪うのか。それは銃弾を避けながら間合いを詰めていくしかない。

それではどうやって銃弾を避けるのか。銃とは火薬を用いて銃口から鉛玉を打ち出す道具である。銃弾は銃口からしか出ない。つまり、弾道は打つ直前の銃口を見る事である程度予想できるのである。

三発目、四発目、五発目、避けながら距離を詰めていく。


五発目を避けた時、僕と少年の距離は約1.5メートル。

一気に距離を詰め、銃のノズル部分を右手、少年の手首を左手で握る。少年が焦って引き金を引いた瞬間、銃口を上に向けさせる。

空に打ち出された銃弾。それが落ちるまでに制圧する。


まず、左手で少年の手首を捻る。

少年は顔を顰めながら痛みに耐えかねて銃を落とす。

それと同時に股間に膝蹴りを一発。その瞬間。少年は顔を青くする。

その機を逃さず、さらに顎に蹴りをも一発。


少年は顔を青くしながら気絶した。口からは泡を吹いている。

流石にやり過ぎたか?でも一度痛みを覚えさせておかないとまた手を出してくるかもしれないし……

そんな言い訳を浮かべながら一応、気絶しているかどうか確認する。

喉仏は動いていない。

完全に気絶している。


 それからはソフィアの縄を切って、ソフィアを解放した。


「あれ?思ったよりもケロッとしてるね。」


「慣れてるからですね。」


何?この子日常的に攫われてたの?」

通りでケロッとしている訳だ。

ソフィアは特に動揺も何もせずに真顔だった。


というか何をやらかしたら日常的に攫われるのだろう。

そこが一番気になる。


「まあとにかくあなたに怪我が無くてよかった。」


自分のことを何も気にしないソフィアに若干の心配を覚える。


「ソフィアは自分の心配した方がいいよ。」


自分のことを気にしろと諭すがソフィアはほとんど聞いた様子がない。

 

「大丈夫よ。それにしてもなんでこんなに追い回されてるんだろ。」


「それは僕が一番聞きたい。」


というか理由もわからないのに追い回されるとか一番キツいだろ。ソフィアは僕が考えるよりも可哀想な人間なのかもしれない。


「まあ、こんな感じでいつも攫われるから、明日から私が攫われても気にしなくていいよ。」


そこは気にするよ。そう突っ込みたくなった。


「いや、流石に同居人が攫われたらビビるよ。というかもっと自分を大切にね。」


「私、誘拐体質なの。毎日攫われるのよ。そんな私を守り切れる?無理でしょう?今までの護衛の人だってみんな心折れてたもの。そんな私の護衛なんかにあなたの青春を使って欲しくない。迷惑かけたくない。」


「いや、使う。」


僕は即答する。


「やめた方がいいと思うわ。」


「やめない。」


「あなたの身が持たないし……」


ソフィアの言葉を遮る。


「言っておくけどね!同居人が誘拐されてるのを見て見ぬふりをするのってめっちゃ胸糞悪いんだよ。何?朝起きてソフィアがいなくて攫われてて、そのまま学校行けって?教室着いてから隣の席見てあ、ソフィアいないんだったな。とか考えるの?

僕はやだよ。気分悪いもん。」


「そんな気分悪いってだけでどうにかなる問題じゃ……あなた、死ぬかもしれないのよ。」


「知るか。まあ気分悪いってのもあるけど、一番の理由は、こんな護衛とかで心折れてたら僕は一生強くなれないからだね。」


「強くなりたいの?もう十分強いと思うよ。」


「まだまだ弱いよ。僕の師匠はね、僕の一万倍くらい強いからね。そんな師匠に追いつくためにはせめてこの護衛くらいしっかり務めないとね。」


「ふーん。」


「それに今日戦ってみて思ったけどこの護衛って役目、強い相手と戦えて楽しいね。普通じゃこんな銃とか持った相手とは戦えない。だからさ、僕はこの状況を楽しんでるんだ。だから僕の迷惑になるとか考えないで、自分のことくらい大切にしてよ。」


するとソフィアの表情がふっと緩む。


「海野くん、優しいね。君いい先生になれると思うよ。」


初めて名前を呼んでくれた嬉しさと先生という謎のチョイスに戸惑う。


「あ、名前で呼んでくれた。先生、ねえ……まあそのうち……それじゃ帰ろっか。ちなみに今何時だと思う?」


「6時くらい?」


「7時。ここから家まで帰ってまた学校行くこと考えたら結構ギリギリ。ちなみにソフィア、持久走って得意?」


「苦手よ。」


「わかった。走ろう。」


「話聞いてた?」


「さあ行くぞ!」


僕とソフィアは家まで走るのだった。

途中でソフィアが力尽きて僕がおぶって帰ったのは別の話。

ちなみに学校には遅刻した。

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