否定的な目線には映らない世界もある
星咲 紗和(ほしざき さわ)
本編
私たちの日常には、何かを否定したくなる瞬間が数えきれないほど存在しています。ニュースを見て、政治や経済に対して不満を抱いたり、他人の言動に対して批判的になったり、自分の価値観や経験とは異なるものに出会ったときに、それを拒絶するような感情が湧いてきたりするのは珍しいことではありません。否定すること自体が悪いわけではなく、時には自己防衛や価値観の確認作業として機能することもあります。しかし、問題なのは、何でもかんでも否定することで私たち自身の視野が狭まり、重要なことを見失ってしまう可能性があるという点です。
例えば、障害者に対する視線について考えてみましょう。「障害者は生産性がない」という意見を耳にすることがあります。これは、ある種の偏見や無理解から生まれるものであり、彼らが社会に対して何らかの貢献をしていない、あるいはできないとする一方的な否定的視点です。しかし、「生産性」とはそもそも何なのでしょうか?それは本当に、私たち全員にとって最も重要な指標なのでしょうか?
この「生産性」という言葉は、経済や企業社会の中では確かに重要視されがちですが、それが人間の価値を測る唯一の基準であっていいのかは疑問です。誰もが常に何らかの形で生産的である必要があると決めつけることは、非常に狭い見方であり、そこには多様な価値観が存在するはずです。例えば、障害者が持つ独自の視点や、コミュニティの中で果たす役割、彼らの存在が他の人々に与える影響など、生産性という言葉では計り知れない価値があります。こうした「見えない価値」を否定的な視点で見逃してしまうことは、大きな損失です。
否定的な視点を持つことは、しばしば変化や新しいものに対する抵抗として現れます。新しい技術、社会の変化、多様性の尊重などに対して、多くの人々が初めは疑問や不安を抱くのは自然なことです。しかし、そうした不安が過度に否定的な形で表れると、私たちは変化を受け入れる機会を失い、自分たちの成長や進歩の道を閉ざしてしまうことになります。
たとえば、社会の多様性を受け入れられない人々がいます。多様性とは、人種や性別、年齢、性的指向、宗教、そして障害の有無など、さまざまな違いを尊重し、共に生きることを意味します。多様性を否定する人々は、しばしばその違いに恐怖や不安を感じ、自分たちのコミュニティや文化が脅かされると考えます。しかし、違いを拒否することで、実は自分たち自身の視野を狭め、他者から学ぶ機会や共に成長する可能性を捨ててしまっているのです。
一方で、物事を盲目的に肯定することもまた、問題を引き起こす可能性があります。何でもかんでも受け入れてしまうと、批判的思考や問題解決能力を失い、物事の本質を見誤ることがあります。だからこそ、否定でも肯定でもない、もっと広い視野を持つことが重要なのです。物事を否定的に捉えすぎるのでも、無条件に肯定するのでもなく、バランスの取れた視点で世界を見つめることで、より多くのものが見えてくるはずです。
たとえば、障害者支援に携わっている人々の多くは、単なる生産性の向上を目指しているわけではありません。彼らは、障害者が自分らしく生きられる社会の実現を目指し、彼らの存在そのものが社会にとって価値のあるものであるという考え方を大切にしています。こうした活動は、「生産性」という単一の指標では評価できないものであり、むしろ社会全体の成熟度や、共感力、包摂性といった別の基準で測られるべきです。
私たちが否定的な視線を向けるとき、そこにはしばしば恐怖や不安が隠れています。自分と異なるものに対して、理解できないことが不安を呼び、それが否定的な反応となって現れるのです。しかし、そのような感情が自分たちの内面から来ていることを自覚することができれば、否定するのではなく、理解しようと努めることで、より多くのことが見えてくるはずです。
最終的に、私たちは「否定的な目線」では見えないものがたくさんあるということを意識し、もっと広い視野で物事を見る必要があります。否定の先に何があるのか、何が見えなくなってしまうのかを考え、否定や批判だけに頼るのではなく、もっと柔軟な思考を持つことが求められています。否定の感情は、しばしば視野を狭め、物事の本質を見失う危険性を孕んでいます。それゆえに、私たちは時に立ち止まり、自分がどのような視点で世界を見ているのかを振り返る必要があります。
社会が変化し、さまざまな価値観が交錯する現代において、否定的な視点を超えた広い視野が私たちに必要とされています。世界にはまだまだ私たちが気づいていない「見えない価値」がたくさん存在しており、それを見つけ出すためには、否定でも肯定でもない、もっと中立的で柔軟な姿勢が必要なのです。
否定的な目線には映らない世界もある 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92
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