14:全世界☆ケモミミ推し宣言! 異世界で迫害されたケモミミは、現代日本で愛される
この世界へ送られたとき、ミミゲは決心した。もう決して、人間を信じはしないと。この世界にはびこる人間どもを残らず抹殺し、一族の無念を晴らすのだと。
ミミゲは戦闘服に身を包み、光の中へ飛び込む。悲しみと憎悪を押し殺し、はじけんばかりの笑顔を浮かべた。
「みんなぁ〜! ウチだよぉ〜! 今日のライブも、盛り上がっていこぉ〜!」
「うおぉぉぉ! ミミゲちゃーん!」
「キャー! こっち向いてぇー!」
「可愛い! 可愛すぎる!」
「モフらせてくれぇぇぇー!」
たちまち、熱気と歓声に包まれる会場。満天の星々のように輝くサイリウム。
ミミゲも最高のパフォーマンスと笑顔で、彼らの期待に応える。時折ふと、我に帰った。
……あるぇ? ウチ、なんでこんなことしてるんだっけ?
♦︎
豊かな森で暮らす、獣人族ケモミミ。
ミミゲは一族の末っ子で、みんなのアイドルだった。
「ミミゲ、おはよう」
「今日も可愛いね」
「なぁ、わしの演奏で踊っとくれよ」
誰からも愛され、もふられ、甘やかされる日々。ミミゲも笑顔いっぱいの歌と踊りでそれに応える。
そんな幸せな毎日は突然、終わりを告げた。
「お嬢ちゃん、ケモミミ族の仔かい? 良かったら、君たちが住んでいる村まで案内してくれないかな?」
森のはずれで遭遇した、人間の一団。彼らは旅人を名乗り、道に迷ったのだと言った。
「うん、いいよ!」
ミミゲは何の疑いもなく、旅人たちを村へ案内した。彼らの目的がケモミミ族を抹殺し、森を奪うこととは知らずに。
旅人たちは村に着いた途端に豹変し、目についたケモミミを次々に襲った。
生き残ったのはミミゲと、年老いた長老のみ。長老はミミゲに「全て」を託すことにした。
「ミミゲ、よくお聞き。今からお前を別の世界へ逃がす。その世界には獣人に寛容な国が多くてな、一族の伝承にもなっておる。『その国、我ら一族に寛容なる国なり。一族を寵愛する者多く、助け乞う我らにモフールの祝福を与えん』……と」
「嫌だ! 長老もいっしょに行こう!」
「この秘術は転移させる者一人につき、一人の術者がいないと使えんのじゃ。心配せずとも、お前なら向こうでも愛されるじゃろうて」
ミミゲは長老の手により、強引に別の世界へ飛ばされた。目の前の景色が消える直前、長老は部屋へ押し入った人間に切られ、倒れた。
「も……モミアゲ長老ぉーッ!」
気がつくと、ミミゲは知らない街に立っていた。森の木々のような高い建物、馬車よりも速い乗り物、珍妙な衣服をまとった人間。人間。人間。
どこもかしこも人間だらけ。ミミゲのような獣人は一人もいない。ミミゲは青ざめた。
「な、なんだよココ! 人間だらけじゃないか! なにが、『一族に寛容なる国』だよ! 伝承なんか嘘っぱちじゃないか!」
人間達は楽しそうに笑っている。まさに平和そのもの。一族を失ったばかりのミミゲは怒りに震えた。
「復讐してやる……こいつら全員に、みんなの苦しみを分からせてやる! もう人間なんか信じないぞ!」
半年後、ミミゲは大人気アイドルとして、ライブ会場のステージに立っていた。
♦︎
ミミゲが街に現れてすぐ、ミミゲの容姿を超リアルなコスプレだと勘違いしたヲタクくんがミミゲを撮影し、SNSに上げた。
写真は大バズり。その後もミミゲはヲタクくんに乗せられ、歌や踊りまで披露した。
「ミミゲ様! この流行りのダンスをやってもらえないでしょうか? お礼に、肉まんを捧げますので!」
「しょ、しょうがないなぁ」
「ミミゲ様って特徴的な声してますよね。ちょっと、この歌うたってほしいなー」
「い、いいぞ。ホットココアで手を打ってやる」
やがて、ミミゲはアイドル事務所にスカウトされた。人間の下につくのは屈辱的だったが、人類抹殺と生活費を稼ぐためにはやむを得なかった。
デビューしたミミゲは「モフれるアイドル」として大ブレイク。男女年齢国籍問わず、人気を博した。
♦︎
ライブ終わり、ミミゲは満足そうな顔で帰っていくファンを遠巻きに眺めながら、マネージャーにたずねた。
「なぁ、マネージャー。ウチ、こんなに愛されていいのかなぁ? ウチはみんなを騙しているのに」
マネージャーはミミゲから事情を全て聞いていた。ミミゲが異世界から来たことも、そこで人間に迫害されていたことも、一族を滅ぼされた復讐にこの世界の人間を抹殺しようとしていることも。
その上で、ミミゲにこう答えた。
「愛されて当然だ。君は、みんなのアイドルなんだから。僕や事務所がそうだったように、ファンのみんなも君の事情を知ったら分かってくれると思うよ」
「マネージャー……」
「君の世界の人間たちはバカだな。こんなに可愛くて歌って踊れるモフモフっ娘を迫害するなんてさ」
「ほ、褒めたって何も出ないぞ!」
もし、生きて長老に会えたら伝えたい。
伝承は本当だったと。自分は今、別の世界の人間たちにこんなにも愛されているのだと。
そう、ミミゲは思った。
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