G-04:ホンネで語って

 今日もあたしはステージに立つ。

 何度も歌った歌で、何度も踊った振り付けで、あたしの色ライトブルーのペンライトの数を数えながら。


あー! 昨日ぶり〜、うわこいつまた来たよ、鍵開けありがとっ。毎回毎回先頭にデブ……最悪!まきのんセンターでデカい体ゆらして汗だくでペンラ振ってくれてたよね隣の女の子かわいそうだったな……見えた見えた二人分のデカさなんよ振りも完璧だったんじゃない下手なダンスしてさぁ。? コールも先陣切って空気読まずにおっきい声出してくれててマジ感謝迷惑だよぉ〜。何のポーズで撮る? お任せ? じゃあ一緒にハート作ろっ」


「おつおつ! 会社終わりに来てくれたん? スーツ姿もイケてるじゃん私服ダサすぎっしょ!。あっきー最初ペンラ赤かったから浮気かふざけんな?? って思ったよぉ。前のグルの赤があたし以外の推しなん? 後でチェックしちゃお〜〜。え? うん、こないだくれたハンドクリームの匂いだよ、めちゃいい匂いだよね、癒し! ポーズどうする? あ、ピンでいいのね、おっけ〜」


あぁーーーっ名前なんだっけ!! ぽっきゅん久々すぎーーあっぶねマジもっと来いし!! やばー! 元気してた? あれ、前に会った時って受験前だったよね、どうだった……きゃー! おめでと!!! じゃあ憧れのキャンパスライフマジガチ羨ましすぎるんですけど……だね〜! ゆあは高卒だから、ゆあの分も充実さしてほしいなっ。おお、そっかバイトするようになったんだね〜〜、いっぱい会いに来てねお金落としてってね!! でもお勉強も頑張るんだぞ勉強よりゆあに会いに来い!! ポーズ、頭なでなで? ふふ、合格おめでと〜〜」


 ライブの後の特典会で、チェキ券片手に次から次へとやってくるファン。でも、あたしのファンはそこまで多くない。だから何回もおんなじ人と喋るし、時には他に待ってる人がいないからってチェキ券複数枚一気に使って結構長いこと喋り続けることもあるから、名前あだ名だってその人がどんな人かだってだいたい分かるし覚えてる。


 あたしの3倍4倍の列をさばくリーダーのるみちんは、一生懸命特徴をメモしながら会話してチェキ撮ってサインをしていた。あたしもメモしなきゃ覚えられないくらいいっぱいのファンに並ばれてみたい。

 まあ、あたしの頭じゃ、メモしたところであの半分も覚えらんないと思うけど。

 

 るみちんはあたしが着たかったピンクの衣裳に身を包んで、会場の半分以上をピンクに染めて、それでも嫉妬とかって感情が湧かないくらいに可愛いし、努力家だし、メンバー全員のことを気遣ってくれて、完璧すぎて、ちょっと意味分かんない。


 そんなすごい人、いる?


 憧れだけど、尊敬してるけど、裏があるんじゃないかって思っちゃう。

 あたしみたいに、心の中でクソみたいなこと言いながら、それを隠して笑ってるんじゃないかって。


 もうあたしの列はすっからかん。

 何度も回してくれる太客が何人かいるんだけど、今日はそのうちの二人しかいないから流石にずっと誰かがいるって状況になるのは無理だった。

 まきのんは鍵閉めの最後の客になるタイミングを見計らって、待つことにしたらしい。


 あたしは後ろにある柵によっかかりながら、ぼんやりとるみちんの方を見ていた。

 ソロパートも多くて、踊りも激しくて、今日は特にガチ歌だったからきっと疲れてるだろうに、メイクも崩れてなくて、キラキラで、本当にすごいな。


 あたしはこうやって、よくるみちんのことを見ていた。見ているのはファンからも丸見えだから、るみちんにも筒抜けで、だからあたしはるみちん推しを公言しちゃってる訳なんだけど。


 なんか、今日のるみちんはちょっと変だった。

 何が変かは分からないけど、いつもと、少し違う気がした。


「るみち〜ん! ハグして撮ろっ」

香水付けすぎじゃない?えー!いいよー!ハグハグ! マジくさいんだともかちゃんいい匂い〜〜!けど」

「えっ?」

「え? どうかした?」

「や、ちょっと……え、今なんて言った?」

「何、って……香水付けすぎじゃない?いいよー!ハグしよ! マジくさいんだけどともかちゃんいい匂いする〜〜!って言ったんだけど……え、あれっ?」


 うそっ、るみちんが……るみちんがすっごいこと言ってる……!


 やっぱりあたしの考えは合ってたんだ。るみちんだって完璧じゃなくて、心の中で言っちゃいけないこと思ってたんだ。


 特典会場はシーンってなって、あたしはるみちんと、るみちんに暴言吐かれたお姉さんと、マネージャーさんをチラチラと目で追った。

 お姉さんはブラウスの胸の辺りをギュッと握り締めて、プルプル震えてる。

 るみちんは真っ青な顔をして、やっぱりプルプル震えてた。


 これ、どうなっちゃうんだろう……るみちん、脱退とかなったら泣くんだが!


「る、るみちん……もっと、もっと言って……!」

「へぁ?」


 キラキラ目を輝かせたお姉さんの放った言葉に、るみちんは聞いたことない間抜けな声を出した。


「完璧天使のるみちんにののしられたいって……ずっと思ってたの……まさかバレてたなんて……るみちん最高! もっと! もっとくださいいいいい」

ええええええええええええええ?!?! なにキモいなにキモい!! やだ……マジくさいしやだ……マジくさいし!! 触んないで触んないで!!」

「ご褒美しゅぎるぅぅぅ」


 わあ、るみちん、良かったね。

 心の声が表に出ちゃってもオッケーなこと、あるんだあ!


 この日から、るみちんに罵られ希望を出すファンが激増し、あたしのるみちん尊敬ゲージはますます上昇するのだった。


 そしてるみちんの恩恵に授かって、あたしもちゃっかりまきのんを罵っている、えへ。

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