G-03:「2007年10月06日」
「本日、2025年5月6日。エイトミリオングループにて活躍をされたあと、現在はタレント、作詞家、プロデューサー、コスメプロデュースなど、多方面で事業を展開されている
つけ流しのニュース動画から、
書きかけのアイドルニュースを閉じ、別フォルダを開く。エイトミリオン、指宿リノ、2007年。通常月ごとに分けてあるフォルダの中には、
◆ ◆ ◆
――リノちゃん、合格おめでとう! よかったら、ちょっとお話聞かせてもらってもいいかな?
「ありがと――あっ! えっと……(筆者の記者パスを見る)板野さん、ですね? 本番での応援、ありがとうございます! 指宿リノ、板野さんのおかげで合格できました!」
――え? 私はただ、会場の端っこにいただけだよね?
「も~、そんなことないですよぉ! 板野さん、会場の皆さんのムードを変えてくださいましたよ? だってわたし、何度も板野さんのほうを見てましたよね?」
――気のせいじゃなかったんだ、あれ。
「そうですよぉ! オーディションだし、もちろんみなさんの目も厳しかったですけど、板野さんの目はもっとすごくて、『見抜いてやるぞ!』、って感じで。だからわたしも、『板野さんに応援してもらうぞ!』って燃えてました!」
――ははは。じゃ、まんまとやられたってことだね。特にあの……
「サビのとこですよねっ!」
――え、そこまでわかってたの!?
「はい! サビに入った瞬間、板野さんの目がキラーンって変わって、そしたら板野さんの周りの方の目つきも、まるでオセロみたいにパタパタって変わったんですよ! 本番じゃなかったらわたし、絶対ガッツポーズしてました!」
――全然気づかなかったな。そんなに?
「それはもう! なので、板野さんや周りの皆さんから、たくさんのパワーをいただけました!」
――これは光栄、と言ったほうがいいのかな。けど、リノちゃんはほんとにすごいね。他の子は自分のことでいっぱいいっぱいな感じだったのに、そこまで見えてたなんて。
「いえいえ、まだまだです! 板野さんを味方につけたくていっぱいいっぱいだったし、会場の方の……七人くらいかな? には、結局最後まで応援してもらえませんでした。もちろん全員なんて無理だってわかってますけど、ここがスタートなんだし、そのくらいの意気込みで行かなきゃ、って思ってましたから!」
――なるほどねぇ。リノちゃんならきっと、この先も活躍できるんだろうな。応援してるからね!
「はいっ! わたしも、板野さんにごあいさつできて嬉しかったです! 板野さんにいっぱいいい記事を書いてもらえるよう、がんばりますっ!」
◆ ◆ ◆
ファイルを閉じる。
結局このデータは、世に出せなかった。
そこに何かを感じたのか、あるいはあれだけ他者の視線を的確に拾っていたのであれば、板野のリアクションから何かを察したのかもしれない。
エイトミリオンに加入後、
初めてリノと接したそばから、その底知れない輝きを放つ、
アイドルとは、人々からの応援を受けてこそ。当たり前といえば当たり前だ。とはいえ、それを肌で感じ、意図して実践、いや誘導しきれるものがどれだけいるだろうか。しかもリノはあのとき、わずか十五歳。デビューすらしていなかったのだ。
すでにしてあの感覚を備えていた天才がこの先アイドルという戦場に出たら、果たしてどのようになってしまうのか。インタビューのさなかに抱えた気持ちは、期待と言うよりは恐怖と形容するほうが、よりわかりやすかった気さえする。
そんなリノが、やがてエイトミリオンにおける伝説となり、ついには政界進出まで決意したわけである。もはや板野にしてみれば、さもありなんとしか言いようがない。
ふと新たな記事ファイルを立ち上げ、【指宿リノが示す未来(仮)】と題した。が、思わず苦笑する。本文をブランクの状態のまま保存し、閉じた。
大きく伸びをし、コーヒーをひと
そして板野は、中断していた記事を立ち上げ直した。
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