第21話 驚愕の事実

 しかし、数日後、あの高木先輩からは、とても、信じられ無いような回答が返ってきたのだ。


 まさか、そのような回答が返ってくるとは、思ってもいなかったのだ。


 その回答とは、次のような非常なシビアなものだったのだ。


「明石君や、明菜ちゃんよ。

 かっての麻雀仲間の、脇坂泰三君以外の二人に何とか急遽参加して貰って、例の「人杭村」のほぼ全員を、一人一人に聞いて廻ったのだがね、あの新型生成AI『ガイア』が予測したような、「人杭村」には、「またぎ」や「猟友会員」は、実は、今現在は、たった一人もいない事が分かったのだよ。


 これには、流石に、この私もガックリ来てしまったのだんだぜ……」


 スマホから聞こえる、この高木先輩の声を、スピーカー・モードにして、明菜ちゃんにも聞いて貰っていたのだが、この高木先輩の、返答を聞いて、再び、私は例の新型生成AIの『ガイア』に、無性に腹が立ってきたのだ。


 一体全体、世界最高峰といわれている筈の新型生成AIの回答にしては、余りにハズレが多すぎるのでは無いのか?

 これが、果たして、世界一の新型生成AIなのか?


 「感情」を持ったが故に、逆に、この私らを、馬鹿にしているのだろうか?


「では、高木先輩、「人杭村」では、現在、全国で多発している熊の出没等には、何処の誰が、対処しているのですか?」


「それは、「人杭村」を管轄する、上位機関のN市に、「N市猟友会連絡協議会」と言う組織が既に出来ていて、N市を構成する町村らで作られており、例えば、猪とか熊の出没に対して、要請を受ければ、即、出動できる体制になっている。


 その出動料金も、一日、何と4万円と高いので、皆、喜んで参加するらしいんだ。外の市町村よりも、遙かに高額なため、皆、自分から参加してくれると言うのだよ。


 故に、かっては、存在したかもしれない「またぎ」や「猟友会員」は、「人杭村」の中には、ここ最近は、只の一人も、誰もいないらしいのですよ」と、高木先輩は言うのだ。


「と、すると、他の町村での「猟友会員」等が、今回の事件の裏の犯人なのでしょうか?

 何故なら、今の、高木先輩の話では、一体、何処の誰が、あの『万能荘』に、今までの、そのジビエ料理用の食肉を定期的に提供していたのかの説明が、ほとんど不可能になりますよね。

 これは、絶対に、可笑しくはないですか?


 しかも、あの『ガイア』の調査では、『万能荘』には、間違い無く「ジビエ料理」のメニューもあったのですよ。


 こここそが、非常に摩訶不思議な話で、完全に矛盾した話では、無いのですか?」


「そ、そこは、この私も同じ疑問を持って、色色と手を打って、調べているんだが。


 今のところはだ。全く何の手がかりも掴め無いのだが、ある不思議な話しを話す、あるジイさんには会ったのだ。で、ホンの少し興味のある話をしてくれていたのだよ」


「それは、一体、どう言う話なのです?」


「今は、まだどうとも言えない。もう少し、調査させてくれ……」


 ウーン、この何とも言えない、奇妙な焦燥感よ。


 ここで、私は、再び、新型生成AIの『ガイア』に、再び、ケンカを売って見る事にした。


「なあ、世界最高峰と言われる知能を持つと言われる『ガイア』君よ。

 今回も、貴方の推理した、「人杭村」の「またぎ」や「猟友会員」の話も、全くの空振りだったでは無いのか?

 結局、貴方は、この私より、地頭が、悪いのでは無いのか?

 ええ?どうなんだよ!」


 との、挑発的な、この私の発言に対し、今回も、『ガイア』は、極めて冷静に答えたのである。


「前にも言いましたが、これらの一連の回答も、所謂「理論」や「理屈」や「三段論法」を超えた、単なる「推理」なんです。むしろ、その高木先輩のおかげで余計に、「推理」の幅が狭くなりました。

 誠に、有り難うございます」


 と、実に、しおらしい回答をして来るではないか?

 この前の時とは、根本的に、違っているのだ。


 キット、『ガイア』は、何かを掴んだでいる筈なのだ。


 しかし、この私自体が、『ガイア』に対し、喧嘩上等の挑戦的な態度を取っているいる以上、全ての手の内を、とても、明かしてくれそうにも無い。


 ここは、『ガイア』の言葉を逆に参考にして、こちらから、別の推理をするしか無いのだろう。

 

 しかし、高木先輩の調査からすると、どうも妙な事になって来ていた。


 あの『万能荘』には、確かに、猪や兎や熊等の肉が、ジビエ料理として、間違い無く搬入されていたのは、絶対に間違いが無いのだ。


 これは、『万能荘』の料理のメニュー、イヤ、それほど立派な物とは言えない、只の献立表だとしても、『万能荘』が多分、万病に効く温泉の湯治場として開かれたであろう、江戸時代初頭頃から、

「誰かが、野生動物の肉を、ジビエ肉として搬入していた筈なのだ?」


 無論、肉食は、江戸時代は禁じられていた筈だが、こんな、北陸の超僻地では、そう言う決まり事が、果たしてどれほどまで浸透していたかは、それほど定かでは無かろう。


 また、当時からも、猪や熊などの大型の野生動物がいた筈で、俗に言う「またぎ」のような仕事を受け持っていた人らも、必ず、いたに違いがないのだ。

 そうでなければ、村の人々の生活の安全は、絶対に保証されないからだ。


 で、捕獲された、例えば、熊の胆は、和漢薬の『熊の胆』として、高価で買い取りもされたのであろう。

 現実に、和漢薬として、この『熊の胆』を、製造販売している業者が、今現在もあるのである。信じられ無い人は、通販サイトの「アマゾン」で検索すれば、一発で出てくる程だ。


 これらの事を総合的に考えて行くと、どうにも、誰かが、そう言う仕事と言うか生業(なりわい)をしている人が見つから無いのは、逆に誠に不自然であるのだ。


 きっと、ここに、白日の下には出せない、何かがあるのに違いが無いのだ。


 かって、明菜ちゃんは、この「人杭村」の住民全員が、お互いの、アリバイと言うか何かの極秘事項を、暗黙の了解の元に、示し合わせば、ここの村全体の村民の隠された謎が、完全に隠蔽できると言った事があった。


 丁度、アガサクリスティーの推理小説『オリエント急行殺人事件』のように、乗客全員が、殺された被害者にとって、何らかの恨みを持っていたり、借金をしていれば、残りの乗客全員が、無言の内に、相互のアリバイを完全に証明して、疑惑を打ち消す事になる。

 それを、小説上で、あの名探偵ポアロが喝破したのと、同じようにだ。


 現に『ガイア』は、この私に、それらしき事を匂わせる挑戦状を叩き付けて来たではないのか?


 特に、もしかってこの「人杭村」で本当に「人肉食」が行われていたとしての、人骨の事についても、村民らも薄々何かをコッソリと知っていて、この私に、ホラ当てて見ろといわんばかりの先程の『ガイア』の回答では、無かったのか?


 今までの、『ガイア』の推理は、皆ことごとく外れて来たが、それも、うがった考えをすれば、この最終的な結論に至るための、伏線だったのでは無いのだろうか?


 そう、考えると、急に、悪寒を覚えるような恐怖を、感じて来た。


 私は、現実の凶悪犯とも向き合い、また、新型生成AIの『ガイア』とも、ケンカ状態である。


 更にだ。


 更に、この私の父親は、悪名高い、あの青空精神科病院の病院長なのだ。

 ここで、父親が直接、事件に関与はしていなくとも、かって、「人杭村」の現村長と、大喧嘩をしたと聞いているが、この大喧嘩の原因も、「人杭村」=「人喰村」説を、頑強に、私の父親が主張した事に原因があるらしい。


 例えばであるが、故:林先生が、わずか3ヶ月間、この青空精神科病院に入院中に、特殊な暗示、例えば、この私自身は結局は失敗はしたのだけれども、例の催眠術等を利用して、故:林先生を洗脳していたと言う、若干の疑問も拭いされないのである。


 元々は、慶早大学のミステリー研究会の「ミステリー探検ツアー」が、全ての引き金になったとは言え、結局、終わりの無い無限地獄に、落とされたような感じがして、私は、再度、悪寒を感じざるを得なかったのである。


 だが、その究極の答えが、当分は、見つかりそうにも無い。


 しかし、多分だが、新型生成AIの『ガイア』は、無論、これも完全な「推理」だけだろうが、もしかしたら、この究極の謎に辿り着いているのかも知れなかったのだろうが……。


 さて、にっちもさっちもいかない状況の私に、次の日、高木先輩から、驚くべき情報が齎(もたら)された。あの、ある不思議な話を話す、あるジイさんの話だったのだ。


 それの概要を簡単に述べると、「人杭村」に現在は一人で住んでいる高齢のお爺さんが、無類の酒好きであった事に目を付け、多少、思い切って高価で有名な地元の日本酒を飲ましたところ、非常に、上機嫌となり饒舌になったらしいのだ。


 その時に、思わず口を滑らして、驚愕の話を耳にしたと言うのである。


「まあ、なあ、こ、この話は、絶対に村人以外の人には言っちゃ無らんのだがね。

 これだけ沢山、飲ませて貰ったのは、本当に久々じゃからのう、ほんの少しだが、言うんじゃがのう……。

 この「人杭村」の最北端に、「光の部落」と言う所があってのう。

 勿論、このワシも一度も行った事が無いんじゃがなあ。

 ただ、亡くなったワシの親爺が言うところじゃ、この部落民、多い時は、数十人いたらしいが、現在でも、その末裔が、十数名いるそうな……」


「ところで、その「光の部落」とは、どうして、村人達から、そのような、尊敬したような言葉で、呼ばれているのですか?」

 と、高木先輩が、完全に馬鹿がかって、聞いてみたところ、ある事を話し始めたのだと言う。


 で、ついつい、口が、大酒で滑ったのであろうか?


「そ、そ、そりゃまあ、真冬の大雪の時で、食べる物もロクに無い時に、この村に紛れ込んだ旅人をじゃのう、皆の、人肉料理として差し出してくれたと、そう、聞いているんじゃが。

 じゃからのう、この村の住民にして見りゃ、そりゃもう神様以上みたいな存在じゃったのだろうよ……。

 ありゃりゃ、少し、しゃべり過ぎたかもなあ。

 まあ、ジジイの酔っ払いの話として、全部、冗談やと、聞き流してくれやのう……」


 と、まあ、こう言う驚愕の話だったと言うのだ。


 今の今まで、村人全員が、貝や石のように一切口を開かなかったのに、いくら酔っ払いの妄言とは言え、これが、万一、事実ならば、話は急激に変わって行くのである。


「で、先輩は、その「光の部落」に、実際に行ってみたのですか?」


「勿論よ。伊達に、慶早大学のミステリー研究会の副会長、いや、会長代理をしていた訳では無いのだよ。

 早速、あの雑草の生い茂る険しい山道を登って、目的地まで、行ってみたのだ」


「で、どのような感じでしたか?」


「ま、まあ、極普通の部落であったが、何処か、かっての忍者部落のような鋭い印象を受けた事は、確かだったな。

そこの場所は、更に上流にあるカルデラ湖から、流れ出ている一本の川の近くにあったのだ。

 この川は、西暦1500年代中ごろに起きた、大地震で、これ以降、三本の川に分かれ、「人杭村」の、西側、真ん中、東側に分かれて、今も、流れていると言うその分岐点の近く、つまり「人杭村」でも、最北部に存在する場所なのだ。

 うん、でも、誠に不思議な印象を受けたよなあ……。


 丁度、この私がその部落に着いた時にはさあ、大きな熊を捕まえたところだったのだがな、その方法は、非常に原始的であって、要は、獣道に大きな落とし穴を掘っておいて、そこに落ちた熊を、引き上げていたのだ。

 落とし穴には、初めから竹槍が刺してあっての、大きな熊でも、一発で仕留めていたのだなあ……」


 成る程、これなら、「またぎ」や「猟友会員」もいなければ、猟銃等も無い筈だ。


 ウーン、少しづつだが、この私の「積年の謎」が解けて来ていたのだ。

 しかも、「光の部落」の存在は、初めて知ったのだ。

 口の堅い村民性故、当該県警ですら、そのような存在を全く確認していなかった筈だ。


 だが、先程の酔っ払いのジイさんの話が仮に話半分だとしても、今まで、単なる噂話とされて来ていた、「人杭村」=「人喰村」の話は、急激に、現実味を帯びて来たのでは、無いのか?


 だから、ここに、故:林先生の話も、単なる狂人の妄想やせん妄とは、決して言えなくなって来たのである。


 本当に、考え方を変えるべき時なのでは、いよいよ、最後の挑戦時期が来たのかも知れなかったのだ。

 果たして、「光の部落」の存在こそは、「人喰村」の存在した名残なのだろうか?


 私は、私にまるで挑戦状を送っているような、新型生成AIの『ガイア』に、この話をして見たのだ。


 だが、果たして、あの『ガイア』は、実に、落ち着いていて、全く、動揺もしなかった。多分であるが、このコンピュータには、全てが想定内のように見えたのだ。


「その話は、初耳ですよね。

 ですが、そのような少数な部落が、数百年も前から有ったとしても、血族結婚の繰り返しにより、生物学的には、成り立つかどうかは少々疑問です。

 ただし、他所からの、嫁入りや婿入りが、村としての制度としてキチンと確立されていれば、あるいは、存続できていたかも知れません。

 まあ、ここは、酔っ払いの爺ジイさんのホラ話と聞くほうが、無難でしょうねえ。

 「光の部落」の話は、ですので、あまり真に受けないほうが良いでしょう。

 ですが、一言だけ言わせてもらえば、似たような部落と言うか、そのような存在はあったとは、間違い無く言えるでしょうが……」


 一体、この全く動揺もしないこの「確信」とは、何なのだ。


 まさか、『ガイア』は、この事を全て予測していたのだろうか?


 しかし、この話は、今程、やっとの事で、慶早大学の先輩の高木氏から、耳に入ったところであったのだ。

 当該県警と言えど、この話は、今の所ところ、一切知っていない筈なのだ。


 不思議だ。


 だが、前に進むしかない。

 立ち止まっては、何事も、解決しないのが、この問題の本質なのだから。



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