第20話 「名探偵」の逆襲

 で、早速、先程の『ガイア』の唱えた、「万能荘の人肉」=「献体仮説」を、長島県警本部次長に、即、電話で伝えてみた。


「えっ、あの世界的にも有名な、新型生成AIのコンピュータ『ガイア』が、『万能荘』で出された人肉料理の元肉が、大学の医学部に献体されたブツだったって言うのかい?

 確かに、そこは、コチラでも、全く、気が付か無かったよ。


 貴重なアドバイスを、有り難うございます。。


 それにだ。な、な、何と、村長さんの息子も、あの青空精神科病院長の息子も、国立と私立の違いはあるとは言え、共に、現在、医学部の学生だって?

 これは、初めて、聞いた話ですよね。


 こりゃ、最低限、任意調査をして見る価値は、確実にあるよなあ。


 これは良い情報提供を、有り難う」


 と、長島県警本部次長は、小躍りして喜んだ。

 直ぐに、当該県警が、動くに違いが無い。


 これで、任意調査か何かで、二人の内の、どちらかでも回答に詰まれば、更に、突っ込んで、徹底的に、強制的に調査できるのだ。


 既に、大手出版社勤務の高木先輩は、上司に許可を貰い、あの北陸地方に取材に向かっている。

 私も一緒に行きたかったのだが、以前に、1週間以上、調査に既に行っているので、ここは、高木先輩の取材に、期待するしか無かったのだ。


 しかし、これが、私らが期待した結果とは、実は、全然なら無かったのである。


 何故なら、二人とも、実に同じような回答をしたのだった。しかも、もの凄く正統的な回答をだ。


「僕は、猛勉強して、ようやく難関の国立大学の医学部に入学したのですよ。

 一体、何が悲しくて、人肉を、折角の、心あって献体された死体から、剥離して、それを、一民間旅館の料理に出すべき理由があるのですか?

 検体の解剖は、「基礎医学と臨床医学を繋ぐもの」の一つとして、医学部の学生の実習には、絶対に必須なんですよ。

 【一体、何処の馬鹿が、このような、この僕を落とし入れるような、このような奇想天外な作り話の入れ知恵をしたのですか?】。

 その入れ知恵をしたのは、それこそ単なる、馬鹿なのですか?」


 この、あまりにも、理論的な反論に、当該県警の取り調べ刑事は、グウの根も出なかったと言うのだ。


「それにですよ。

 一全体、そのようにして、ホントに、仮にですよ。仮に、人肉を取り出したとしても、当該の肉が腐る以前に、その旅館に送付しなければならない筈ですよね……。


 今流で言えば、「クール宅急便」か何かで送るべき必要がありますよね。


 ここで、まず、この私が送ったと言う証拠がありますか?

 僕のアパートの近くの、有名な宅配業者や、日本郵政に、確認したら良いではありませんか?

 僕だったら、そんな、クール宅急便代を使うくらいなら、普通の、スーパーの肉売りコーナーで普通の肉を買ってきたほうが、よほど安く、早く手に入ると、思いますけどねえ?


 あのう、刑事さんなら、この点の問題を、どのように思われますか?」


 流石に、ここまで、理路整然と反論されると、これ以上の質問は、その刑事には、とても出来そうに無かったのである。


 この一報は、即、こちら側に返答されて来た。


 いよいよ、この「万能荘人肉料理事件」は、何とも、複雑怪奇な方向に突入していったのである。


 私は、もう、流石に完全に頭に来て、新型生成AIの『ガイア』に、大声で、文句を言って見る事にした。

 もはや、キーボードで叩いて一々、質問するのでは無くて、私の怒声を混ぜた声で、音声認識ソフトで、本当に心からの大声で文句を、言ったのだった。


 私の横には、本機の開発者の、明菜ちゃんもいるのにだ……。


「なあ、世界で最初に開発された、新型生成AIの『ガイア』よ。

 貴方の予想した、「万能荘人肉食事件」での、大学生による「献体摘出」説は、全く、違っていたじゃ無いのか?


 任意調査を受けた医学生の一人は、 【一体、何処の馬鹿が、このような、この僕を落とし入れるような、このような奇想天外な作り話の入れ知恵をしたのですか?】と、猛反論して来たのだよ……。


 一体、これでも、貴方が、何処がホントに世界一の新型生成AIと言えるのかい?

 一体、どうなんだよ?何か、反論があったら言ってみなよ!」


 だが、これに対して、あの『ガイア』は、今までの冷静な判断を通り越して、とても、思いもがけも無い猛烈な反論を、この私に、開始し初めたのである。

 感情が、一挙に吹っ切れたみたいに、だ。


 この、まさか、このキチ○イじみた反論を、新型生成AI自らがするとも、この私は、思ってもいなかったのだったが……。


「白石純一さんへ。


 以前の回答でもハッキリ言いましたが、あくまで、理論的に、最も可能で簡単な方法として、「献体摘出」説を提示しただけです。


 前にも、十分以上に、言いましたが、決して個人の名前を特定して、この回答を導きだした訳ではありません。


 しかし、 【一体、何処の馬鹿が、このような、この僕を落とし入れるような、このような奇想天外な作り話の入れ知恵をしたのですか?】の、この言葉には、この私にも、感情があります。

 でも、この私にも、猛烈な自負があります。

 ここからは、私も、徹底的に反論をさせて頂きます。


 まず、そこまでボロクソに言われるのであるならば、これからは、「理論」「理屈」「三段論法」等からは、確実に逸脱するのも百も承知の上で、更なる私の「推理」を述べさせて頂きます」


 どうも、この『ガイア』の心に、単なる機械を超えての、心の火が付いたらしい。


「純一さん。あまり、『ガイア』を刺激しないでね。一旦、暴走を始めると、どうなるのか、この私にも、分からないのだから……」と、『ガイア』の生みの親の明菜ちゃんが、とても心配をするのだが……。


「でも、明菜ちゃん、このアバターの画像を見てみなよ。結構、『ガイア』の心にも、本当に火が衝いたみたいだよ。

 もう少し、様子を見てみようよ、いいよね?」


「そ、そ、そうようね。キット、また、私達の想像を絶する何かの新たなアイデアが出て来るのかもしれないしね……」と、明菜ちゃんも頷く。


 そして、何かが、ここから、大きく動き始める筈だ。


『ガイア』は言うのだ。


「まず、私は、『万能荘』の提出される調理メニューを全て入手しましたよ。


 そこには、岩魚(いわな)料理、鮎料理、沢蟹(さわがに)料理、山菜料理、すき焼きや、焼き肉料理が主であり、ここに、特例的に、兎や猪、時によっては熊などの野生動物を使ったジビエ料理も、有りました。


 ここで、私の「推理」によれば、このジビエ料理に使う野生動物を、では誰が捕獲して、あの『万能荘』に、搬入していたのでしょうか?


 当該県警の調査では、所謂(いわゆる)、肉の卸業者に力を入れて調査しているようですが、ジビエ料理での動物の肉自体は、絶対に入手出来ない筈です。


 ですので、これ以上は、あくまで、「推理」です。如何なる確証もありませんが、例えばですが……」


「例えば、とは?」と、私が、更に、突っ込んで聞く。


「この、ジビエ肉を『万能荘』に持って来る、俗に言う「またぎ」とか、「人杭村」にいるのかどうかは分かりませんが、多分、数人はいると思われる「猟友会の人間」が、今回の事件の後ろにいるのでは、と「推理」致します」


 と、ここまで、言い切ったのである。


「成る程、『ガイア』は、この事件には、「人杭村」にいるであろうとされる「またぎ」とか「猟友会の人間」が、一部、この事件に噛んでいると、そう言うのだな?」


「これは、新型生成AIの私としては、所謂「論理」の飛躍や、跳躍となる事は重々に承知しているのですが、例えば、今年になって、この「人杭村」に紛れ込んで来た、身元不明人いわゆる、現在の法律で定める『行旅病人及行旅死亡人取扱法』に言う、「行旅病人」を、猪や、最近、特に出没の多い熊(ツキノワグマ)と見間違えて、射殺してしまったとしたら、その「またぎ」あるいは「猟友会の人間」は、果たして、一体、どのような行動に出るのでしょうか?

 どう思われますか?


 白石純一さん自身だったら、果たして、どうされますか?


 ここで、「行旅病人」とは、要は住所不定で、各役場等を回り、日銭数百円を貰って生き抜いている、いわゆる住所不定の旅人らの事です。途中で、行き倒れになる人も、もの凄く、多いと聞いています。


 この質問は、先程、私を完全に「馬鹿」扱いにした、白石純一さんに対して、逆に、私から質問をするのですよ。


 あくまで間違ってですよ。何処の誰かも分からない「行旅病人」を、熊(ツキノワグマ)と見間違えて射殺したら、多分、貴方なら、次のような行動を取られるのでは無いのでしょうか?


 つまり、一般の動物の時と同じように、即、捌いて、ジビエ肉として『万能荘』に持ち込むのでは、無いのですか?」


「ウーン、これは、考えもしなかったよなあ。特に、「行旅病人」なら、「人杭村」の本来の住民では無いのだから、村長すら、その存在は分からないしなあ……。これには、気が付かなかったよ。


 だが、新型生成AIの『ガイア』君よ。当該県警の懸命の捜査でも、この人肉を取り去った後の最後に残る筈の、人骨だけは、でも、「人杭村」の何故からも見つから無かったのだぜ……。


 やはり、金槌で、粉々に砕いて、「人杭村」でも最も大きい中野川にでも、流したのだろうか?」


「白石さん、ホントに、そう言う方法なのでしょうかねえ?ええ?」と、『ガイア』は、意味ありげに言ったのだ。


 だが、では、そこは一体何処なのだ?


 しかし、先程の私の暴言に気分を余程悪くしたのか、

「白石純一さん、よくよく、考えてみて下さいよ……貴方には、この謎が解けますか?どうですか?フフン、多分、分からないでしょうけども」


 と、『ガイア』は、この私を、鼻で笑ったのだ。


 まさか、新型生成AIに、鼻で笑われるとは思いもしなかったのだが……。


「ウーン、明菜ちゃんよ、『ガイア』って、意外と、頑固で偏屈者なんだなあ。

 今まで、絶対に解けなかった謎を、この私に、解けと言うけれどさあ、そう簡単に解ける訳も無く。

 しかし、どうも、『ガイア』自身は、全てが漠然と分かっているみたいだしなあ。


 さて、一体、これから、どうしようか……。


 もう一度、長島県警本部次長には、電話しようにも、以前の「献体仮説」事件で、一度、大恥を搔かせているので、もうこれ以上は、迷惑を掛けられないしなあ」


「だったら、今、現在、「人杭村」に潜入している、高木先輩にこの話をして、この話の「裏取り」をして、何らかの確証が得られれば、その時には、長島県警本部次長に連絡してみようよ。

 じゃ、この私から、高木先輩に電話して、この話をチャンとしてみるわ?

 そして、極秘で、この話の「裏取り」を頼んでみるわよね」と、明菜ちゃんが健気に言う。


「ああ、それに、できれば高木先輩にだけでなく、かって、『万能荘』の「万能荘連続不同意性交殺人事件」があった時に、高木先輩と同じく麻雀していた、同じくイキノコリの三人、田中一郎君、杉下幸夫氏、脇坂泰三君らにも、出来れば、応援を頼んでみて欲しいな……」と、この私は、明菜ちゃんに頼んだのだ。


 皆、もう、既に就職しているので、それ程、今回の参加は楽では無いであろうが、少しでも多い方が良いと思ったからだ。

 特に、脇坂泰三君は、地元に戻り、現在地元の県警の新人刑事にもなっていると聞いている。上手く非番に当たれば、儲けものなのだが……。


 しかし、如何に単なる「推理」だとは言え、今回の話の「裏取り」が万一、取れれば、劇的に、この話は進むのである。


 それにしても、あの『ガイア』は、自分の頭で、既に、全ての「推理」を完成させているかも知れないように、この私には、漠然と感じるのだ。


もっと言うならばだ。この私の「積年の疑問」である、「人杭村」=「人喰村」事件の、究極の真実に関する、何らかの、確信を持っているのかも知れないと、フト思った程である。


 さて、ここに、いよいよ、最後の膜は切って落とされたののかもしれない。



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