第18話 人肉食事件、再び!
さて、そうこうしている内に、再び、あの「人杭村」で、またしても大事件が起きたのである。
今回も、もの凄く異常で悲惨な事件であって、ここに書くのも躊躇(とまど)う程でもあるのだが、当該事件は、またしても、あの『万能荘』で起きたのだった。
この事件の概要とは、かっては外科医であって、現在では引退している高齢者のお爺さんが「ジビエ料理」としてだされた夕食に、直感的に、かっての医師としての知識から若干の疑問を持ち、その「動物(猪)の肝」とされるサンプルを持ち帰り、息子の勤務する大学病院で鑑定して貰ったところ、何と、人間の肝臓の煮込んだ料理だったと言う、今回も、本物の「人肉食」事件であったのだ。
かって、数年前、あの一大事件があった、あの『人杭村』での「人肉食事件」の再来なのである。
この話は、即、マスコミにリークされ、再び、日本中を巻き込む大事件となったのである。
この私は、これこそが、この私の考える例のコッソリと潜む「悪魔」の再出現だと思ったのだ。
今度こそ、この事件の話を徹底的に調べ挙げて、出来れば、故:林先生の後を継いで、『人杭村人肉食事件の真相』と言う本を出してみたかった程なのだ。
何はともあれ、自費出版費用には、全く、事欠かないのだ。
ただし、今回の事件については、この私も、妻の明菜ちゃんも、共に、東京にいる時に、勃発していた事件でもあり、ホトンドの情報は、新聞やテレビ、SNS上の記事からのみの、情報だけなのである。
これでは、情報の入手先は、非常に限られてしまうので、以前のように、自分達自らが、この問題に、直接、顔を突っ込む訳にもいかないのだ。
丁度、病院に入院中の名探偵が、難解な事件の謎を解く、「ベッド・ディテクティヴ・スタイル」のような感じになってしまうのだが、それでも、あの「万能荘連続不同意性交殺人事件」に実際に直面していた、この私ら二人にとっては、再びの、悪夢の再来でもあったのだ。
一つだけ有利だったのは、上手い具合に、その時に、かって私らの捜査に当たっていた、当該県警の捜査一課長の長島警部が、県警本部次長にまで出世していた事である。
一緒に、あの「万能荘連続不同意性交殺人事件」に立ち向かった者同士であって、当該県警の外の人間よりも、親密な関係は、今でも完全には切れていなかったのである。
無論、今回の事件の詳しい内容は、警察の守秘義務の故、そうそう詳細な話を聞ける訳でも無いが、それでもこの私が、県警本部に電話をかけてみると、意外に好意的に応対してくれたのが、唯一の救いでもあった。
だが、今度の事件も、その内情は大変に複雑だったらしく、まず、『万能荘』の料理長等に事情聴取しても、暗中模索の状況は、ホトンド変わらなかったのである。
まず、ここでの、最大の問題は、被害者の特定が、実は、全く出来ないていない事なのだ。
近隣の市町村も含めても、何処の誰からも、誰かが失踪したと言う情報は、一切無いのだ。
これでは、一体、何処から手を付けていいのか分からない。
かっての「万能荘連続不同意性交殺人事件」以上に、証拠が見つから無いのだ。
ただし、人間の肝臓である事は、大学病院の検査結果で確定はしているのである。
しかし、何処からも、誰からも、失踪届が出ていないのである。
では、この『万能荘』の人肉料理に出された被害者とは、一体、何処の誰なのか?
まず、ここで県警は大きな壁にぶち当たったのである。
これがハッキリしないと、被害者の身元の特定は、出来ないのだ。
都会から、無理矢理、拉致してきた路上生活者だったのだろうか?
しかし、そのような不審な人間を見た者も、村民の中には、只の一人もいないのだ。
勿論、DNAは即分かるのだが、その元になる、DNAのビッグ・データ等は、今をもってしても、警察庁にも何処にも保存されていないのだ。
指紋のような場合とは、根本的に、話が違うのだ。
さて、ここでこそ、いよいよこの私の出番だと行きたいところだが、会社も忙しく、とても探偵ごっこに付き合っている時間の捻出は、できそうにも無い。
と言って、ここで引き下がったら、今までの、私の「積年の疑問」は、永久に解けないのである。
会社のほうは、まあ明菜ちゃんに一旦任せて、ここは、この私が出て行きたいところでもある。
そこで、妻の明菜ちゃんに、北陸のあの地、「人杭村」に調査に再度、行かせてくれと頼んでみたのだ。
駄目元である。
しかし、妻の明菜ちゃんの返事は、意外にOKだった。
確かに、現在の我が社の、実質的な経営は、既に、妻の明菜ちゃんに移っており、私は、単なる社長令嬢の、お婿さんに過ぎないのだ。
早い話が、この天下のXXX株式会社にしても、この私の今の存在は、有って無きが如しでもある。要するに、いてもいなくても、どうでも良い存在扱いなのだ。
この今こそは、ここは、かの北陸の超僻地へ、再度、出向くべきであろう……。
そして、この私の胸の奥につかえている謎の「悪魔」の存在を、この目で、確かめたかったのだ。
翌日、早速、北陸新幹線で、某県の県警本部に顔を出した。
相手は、県警本部長次長にまで出世した、かっての長島捜査一課長である。
しかし、長島次長は、この私より、遙かに天才的頭脳を持つ、妻の明菜ちゃんも一緒に来てくれると思っていたのか、その落胆ぶりが、この私にもよく分かったのだ。
それでも、極短い面会時間の間に、要点だけは、手短に、伝えてくれたのだ。
まず、この「人肉料理」の被害者が、全く特定出来ない事。
次に、何故、あの『万能荘』に、謎の人肉料理がどうやって搬入されたかである。
今のところ、県警百人体制で調査や捜査をしているものの、全てが雲を掴むような事件だと、この私に言ったのだ。
次に、この私は、地方鉄道やバスやタクシー等を利用して、あの因縁の『万能荘』に辿り着いたのだ。
本来なら、一般人は、絶対に立ち入れない筈のあの『万能荘』には、長島県警本部次長の手回しにより、何とか覗き見る事はできたものの、だからと言って、如何なる、足しにもならなかったのが現実だった。
鑑識課が、料理場等をくまなく捜査していたが、多分だが、無意味であったろう。
この大事件の勃発こそが、今までの一連の事件とは、また、別の流れと言えば良いのか、中々うまく説明はできないのだが、「人杭村」=「人喰村」での、多分、究極で最後の事件だったのだろうとの、感じを受けたのだ。
この事件の謎さえ、解ければの話だが……。
そして、噂話(伝説)なのか、実話なのか?
現在でも、全く解決の出ていない、「人杭村」=「人喰村」の謎に、立ち向かうべき最後の事件のようにも、この私には、思えたのである。
そこで、私は、この「人杭村」で最も深い知り合いでもある、若竹クリニックの院長であり、現在も「人杭村」の村長さんでもある、若竹村長に数年ぶりに会いに行った。
村長さんなら、この事件についても、何らかの意見を持っているかも知れないと考えたからだ。
村長さんの家の前では、多数の、マスコミ関係者が押し掛けていた。
皆が、聞きたがったのは、『万能荘』で食べられた被害者は誰かと言う事であった。
しかしながら、如何に村全体を預かる村長とは言え、そのような不明な人の話は、この村では、聞いた事が無いと言う、極、ありきたりの回答だった。
そりゃ、そうであろう……。
この点が、当該県警でも、最大の問題だった、つまり、一番の難問であったのである。
さて、実際に、村長さんに会って見て、思った事は、やはり、今回の事件は、超難問であったと言う事であった。
まず、繰り返し述べるのだが、人肉食にされた被害者が、まず、誰だか分からない。
もっと言うなら、一体、何故、この時点で、只でさえ「人を喰らう村」との噂の絶えない、この村を代表する『万能荘』で実施されたのか?
つまりは、はてさて一体、誰が、このような馬鹿げた事件を起こしたのだろうか?
これでは、あたかも、「人杭村」=「人喰村」の名を、更に、日本中に広める事になるだけなのでは無いのか?
本当に、単なる売名行為のようでは無いのか?
しかし、アイドルでも無いのに、何故、売名行為のようなこのような猟奇的事件を起こす必要があったのか?
久々に、村長に出逢った私は、このありきたりの疑問を、唐突にぶつけてみた。
「村長さん、本当に、お久しぶりです。
で、会った早々に、いきなりこう言う事を聞いて大変に失礼なのですが、あたかも、この事件は、「人杭村」=「人喰村」だと、自ら、宣伝しているようではないですか?
まさか、観光客集めのためにでも、このような事件が起きたのでは無いのでしょうか?」
この質問に対し、村長は猛烈に激怒した。
「確か、純一さんと言われていたよね。
しかし、いくら、北陸の超僻地であったにしても、たかが観光客を呼ぶために、このような馬鹿げた事件を起こす必要は全く無いのですよ。
私は、一村長としても、貴方の質問に、非常に憤りを感じますよ!」
「では、このような馬鹿げた事件を、引き起こす人間は、ホントに見あたらないのでしょうか?」
この質問に対し、一瞬、わずかに村長の顔色が変わったのを、感じたのである。
この時、キット、この先に何かがある筈だと、私は直感的に感じたのである。
「村長さん、この私には、何かが感じられるのです。それが何かは、暗中模索なのですが。
ここの、当該県警と、今は、全く同じ状況です。
しかし、この私には、かっての「万能荘連続不同意性交殺人事件」以来の因縁があります。このまま、引き下がる、私では、絶対にありませんよ。
ところで、村長さんは、何か、この猟奇事件に何らかの思い当たる事が、少しでも、あるのでは無いのですか?」
「そ、そ、そう言う事は、一切無い。分からない。知らない。存じない。
いい加減、馬鹿な妄想を膨らまして、我が村民らを、虐げるのも、もういい加減にして下さいよ!」
だが、村長の怒るのも尤もだ。
更に、私は、少々、顔に覚えのあった「人杭村」の村民数名に聞いてみて廻ったものの、この事件自体が、何故、あの有名な『万能荘』で、ワザワザ、起こされたのか?
この質問に真面に答えられる村民は、誰もいなかったのだ。
ところで、ここでまた、一番、最初の疑問に戻るのだが。
つまり、完全な「そもそも論」でもあるのだが、一体全体、この「人杭村」に昔から伝わる、「人喰村」の噂、つまり伝説は、結局、本当の話なのだろうか?
確か、かって、明菜ちゃんと近隣の町村を調査に廻った時に、魚釣りをしていた、隣村の古老の言っていた言葉、
「ワシの亡くなった親爺によれば、「人杭村(ひとくいむら)」の名前から、ワシの村人達が面白がって、「人を喰らう村」つまり「人喰村(ひとくいむら)」と名付けて、からかっていたと言っていたのを、今でも、思い出すのやからなあ……」と言う言葉も、この場合は、頭の中でも、考慮すべき事である。
この場合、このような、「からかい説」も、全てを含めて、総括的に鑑みる事が必要なのだ。
と言うのも、今回の「人肉食」事件は、この「からかい説」の更なる延長だとも考えられるからである。
これはこれで、十分に、動機の一つになるのでは無いのか?。
だが、例えば、この「からかい説」が仮に、今回の事件の動機だったとしても、流石に、人を実際に殺したか、あるいは、死体からの人肉を取り出す行為だったとしても、まず、普通の人間の心や、技術では、到底、出来ない筈なのだ。
よほど、狂った人間でなければ、その実行は不可能であろう。
徐々に、当該県警の捜査は、肉の卸業者らへと向けられて行ったのだが、ある肉の卸業者は、
「何故、自らの店の評判を潰すような事を、敢えて、起こす意味が何処にあるのです。
そう言う事をすれば、もう、商売は一発で終わりだし、万一、殺人に関与しているとすれば、一生を棒に振る事になりますよね。
この私には、その理由が、見いだせませんちゃ……」
これはこれで、もの凄い反論であり、強面で有名な県警の捜査一課でも、この反論には、到底に勝てなかったのである。
ではこのまま、被害者不明のまま、迷宮入りとなってしまうのだろうか?
私は、約1週間の滞在調査の上、もう、これが限界と思い、一旦、東京に戻る事にしみた。
まずは、明菜ちゃんに、報告すべきであろう。
さて、東京に戻っても、会社内ではこの話は一切出来無いので、二人が住むマンション内で、この推理の続きを、続ける事にした。
約1週間ぶり以上の再会である。
私は、明菜ちゃんをベッドに押し倒してから、その後に、事情説明をする事で、彼女の了解を貰っていた。まだまだ、二人の仲はいいのだ。特に、新婚旅行以降は、特に、だが……。
「で、純一さん、何かの手がかりは掴めたの?」
「いや、今度の事件は、難題中の難題だ。
明菜ちゃんも良く良く考えて見てほしいのだが、今回の事件は、たまたま、元大学病院の外科医だったお客さんが、フト、疑問に思って、出された料理を持ち帰り検査したら、何と「人肉」だと分かったが、これが、まず一般の客では、絶対に、見抜けなかったろうなあ。
つまり、この事件は、もっと前から始まっていたのか、今回が、初回なのかも分からないのだよ。
更に、事件を複雑にしているのには、近隣の町村も含めて、いなくなった人や行方不明者が、全然、見あたら無い事だ。
では、都会の路上生活者を「人杭村」に強制的に連れて来て、人肉料理にするのか?
と言ってもだよ。狭い町村の故、見知らぬ人が、そこら辺を、フラフラ連れて歩いていれば、「人杭村」の住民は不思議に思うだろうが、そう言う話も誰からも聞いた事が無い。
つまり、被害者が、全く分からない事なのだ。
勿論、DNA検査をすれば良いとの意見もあるだろうが、警察庁のビッグ・データにも、DNAの記録は、一切無いので、ここから照合する事も不可能だ。
で、私は、ある意味、この事件は、「人杭村(ひとくいむら)」=「人喰村(ひとくいむら)」事件として、ワザと広めようとしている、愉快犯が、本当の謎の「悪魔」の存在だと思うようになって、この事件を行ったのだと、そう思って、かっての村長さんに聞いてみたのだがね……。
だが、何処に、自らの村民らに恥をかかせる村長がこの世にいるのか?と言う、猛烈な、反論にあったのだ。
でも、確かに、村長の言う通りだろうなあ……。
但し、ホンの直感だが、何かの繋がりは感じ無い事も無かったが、あまりに漠然としていて、どうにも、今のところは、手の付けようもないのが、ココまでの、調査の結果なんだよ。
明菜ちゃんは、どう思う?」
「確かに、今の純一さんの話を聞けば、全てが、謎ね。でも、こう言う方法はどうかしら……」
しかし、ここで、明菜ちゃんは、この私が思いも付かなかった方法を提案して来たのである。
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