第14話 父親の緊急入院
さて、一連の事件が概ね終わった頃、その年の10月初旬、明菜ちゃんは、実の兄の創一から緊急の電話を受けた。
明菜ちゃんの父親は、上場企業でIT企業のXXX株式会社の社長の白石壮一氏でもあるのだが、その父親に、悪性の病気が見つかり、緊急で、明菜ちゃんの実兄が勤務する東大病院に入院する事になったと言うのである。
で、二人で、彼女の父親に御見舞いに行った。
既に、彼女と同棲する前にも、5回ほど、彼女の父親に会っている。で、彼女と同棲させて下さいと言ったら、意外に反対も何もされなかった。
それよりも、父親としては、東大医学部をトップ合格している彼女の話を聞けば、ホトンドの男性は、尻込みして結婚相手がいなくなる事を心から心配していたそうで、ここで、この私が名乗りを上げてくれたので、やっと一安心した、とも言っていたのだ。
その後、明菜ちゃんは、私学の雄の慶早大学の理学部に進学するのだが、それは、彼女の実兄が、既に、東大医学部に入学し、国家資格にも合格、現在、東大医学部と共同で、癌の最新医療の臨床医療実験に没頭しているため、折角、上場まで果たしたIT企業のXXX株式会社の後継社長に、彼女を据える為にだ、と言うのである。
この病院内で、初めて、彼女の実兄の創一と会ったのだが、やはり、私が想像していた通りの、超堅物であり、挨拶もそこそこに、実の父親の症状を、医学的に、克明に教えてくれた。
癌ではあるが、ステージⅠでもあり、最新の分子標的薬で、約、1ヶ月後には、手術も必要無く、退院出来るという。
そのため、会社のほうは、積年の疲労の蓄積による一時的休養と言う事にしておいたのだとも言う。
仮に、いくら軽い状態のステージⅠだとしても、この話が、外部に漏れると、株価にも大きく影響するらしい。
特に、株主総会の運営にも影響するらしいので、特に、病名だけは、絶対に極秘・秘密だと言う。
ここで、しかし、明菜ちゃんの父親は、
「まだ医学的には、私は、当分は何とか命のほうは大丈夫らしいのだが、どうだい、純一さん、今年は、慶早大学のミステリー研究会では色色あったらしいが、卒業したら、娘と一緒に、我が社XXX株式会社に入社してもらいたいのだ。
で、誠に急な話なのだが、できれば、この私の元気な内に、つまり、年内には、婚姻届を出して貰え無いだろうか?」
「えっ、ソレでは、単なる学生結婚に、なりませんか?
私は、まだ、一学生で自分一人で生活費を稼ぐ力はありませんよ……」との、私の問いかけに、
「それはそうだが、まあ、生活費の事は、心配しなくていい。
私が、今後、責任を持って援助させて頂くよ。
私は、自分で言うのも何なのだが、非常に慎重な人間でしてね。この慎重さが、今の会社XXX株式会社を、わずかの期間で、上場企業にまで出来たのだ。
最終的には、東証プライムに上場替えをしたいのだが、それには、娘の明菜の頭脳が、絶対に、必要なのだ。
それと、明菜自体にも信頼できる相手がね。
だからこそ、この私が、元気な内に、「籍」だけでも入れておいて欲しいのだと言うのだよ。
で、正式な結婚式は、大学を卒業して、二人とも、我が社XXX株式会社に入社後で、どうだろうか?」
「こう言う嬉しい話を聞けるとは思ってもいませんでした。
そうであるならば、謹んで、お受けさせて頂きます」
病気の御見舞いに行ったのに、話は、トンデモ無い方向に、進んで行ったのである。
まあ、この私には、一切、反対する理由も無いのだが……。
しかし、あまりの決断の早さに、
「ねえ、明菜ちゃん、お父さんは、ホントにステージⅠの軽微な病気なのだろうか?」
「実の兄も、そう断言しているのだから、大丈夫だと思うよ。
私の兄は、即、顔に出るタイプで、嘘は絶対に付けないのよ。
父の言動は、もの凄くぶっ飛んでいるように純一さんには見えるかも知れないけど、
「事業の成功は、直感を大事にする事だ」が、私の父の口癖なの。
だから、父は、父なりの考えが合っての、決断なのでしょうね」
「しかし、同棲と、結婚は、根本的に違うからなあ……」と、この私が言うと、
「あら、それじゃ、いずれ、この私と、分かれる気なの?」
「ば、ば、馬鹿な、そう言う事では無いのだが、いくら、ぶっ飛んだ現代とは言え、しかも、今飛ぶ鳥を落とすXXX株式会社の会社の社長の言葉としては、あまりに軽すぎるように感じるのでねえ……」
「まあ、それが、私の父の白石壮一の性格なのよ。そうそう、深く考えなくても言いわよ。
それよりも、これからも、どうぞよろしくね」
「ああ、コチラこそ、先ずは、これからの事を考えて行かねばならないのだ。
私も、明菜ちゃんのお父さんの期待に応えないとね」
「純一さん、会社の事とか、IT関連のほうは、この私が責任を持つから、純一さんは、全般的に、会社全体を見てくれればいいのよ」
「そうだね、どうにも私には、会社の経営の才能は、無さそうだからなあ……」
ところで、急に話題は変わるのも何なのだが、この二人で、にやけた話をしている内に、既に、今までの、「万能荘連続不同意性交殺人事件」からスタートした、この人肉食関連事件の、大方の結論は、完全に出ていたのだ。
つまり、「万能荘連続不同意性交殺人事件」の犯人は、現在では、かっての「人杭村」出身の父親であった事も分かった佐藤萌の次作自演作が主流を占めており、警察では、その流れでの、検察への書類を作成し、検察へ、被疑者死亡のまま送致していた。
だが、ここで、二つの事件が、再び、起きたのである。
それは、日本海総合大学二人を、大鍋で煮て喰ったとされる青空精神科病病院の退院者の男性と、幼女を鍋で煮て喰っていた佐藤萌の父親の佐藤彰は、共に、精神鑑定中の間、別々の警察署の鑑定留置場に送致されていたのだが、丁度、明菜ちゃんの父親が、東大病院に入院中に、二人とも、別々に、警察官等の目を盗んで、自ら首を吊って死んでしまった事だった。
もはや、この二人の人間の狂気を疑う者は、この世には誰もいないにしても、結局、この人肉食関連事件の関係者は、これで皆全て、死んでしまっ事なのである。
これは、ある意味、二人の内の、どちらかでも、生きていてさえくれれば、もう少し詳細な事実や動機を聞き出せたかも知れなかったのだから、ここで、関連者が全て死んでしまうと、最早、どうにもならないのである。
では、この一連の事件は、これで、全て終結したのであろうか?
ここで、更に、あと一歩何かが起きるのか?
さて、急激に、浮上してきたのは、あの悪名高い青空精神科病病院であった。
何故なら、明菜ちゃんが、警視庁の金田刑事に送ったEメールにより、
・佐藤萌が夏休み中に、こっそりと青空精神科病病院に入院していた事。
・佐藤萌の父親の、田中彰が、やはり高校生時代の夏休み中に、同じように、青空精神科病病院に入院していたらしい事。
・日本海総合大学の二人を「人肉鍋」として喰った男性も、青空精神科病病院から、今年の4月になってようやく退院していた事。
これらの事から、今回の一連の人肉食関連事件に直接とは言えずとも、何らかの関連性がある事は間違いが無いとも思えるのだ。
先ずは、かっての1983年に起きた「宇都宮病院事件」のように、病院内の暴行事件や、『障害者虐待防止法』にかこ付けて、別件捜査に、入ったほうが早いのかも知れないが……。
だが、こればっかりは、県警の動きに任せる事しか、出来ないのである。
しかし、この後、10月末には、明菜ちゃんの父親は、東大病院を無事に退院したのだ。
彼女の父親の病気の心配のみは、どうも杞憂に終わったのだったが、一連の人肉食関連事件は、まだまだ、尾を引きそうな感じだったように思えたのである。
しかし、警視庁の金田刑事からのアドバイスにも関わらず、ここの当該県警は、青空精神科病病院に立ち入り調査を、数回、実施したものの、結局、病院に先回りされたのか、証拠不十分で、いかなる犯罪も立証出来なかったのだ。
北陸の一県警の捜査力では、畢竟、これが限界であったのだろう。
この最後の砦の、青空精神科病病院へのいかなる立証も不可能だった事は、この一連の人肉食関連事件は、ここで、一旦、完全に幕を閉じる事になのであろうか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます