第13話 噂の病院

「明菜ちゃん、これでは、今までの話は一挙にヒックリ変える事になってしまうなあ……。


 今までの事件とは、故:林先生が、最初に『人喰村伝説考』を書いた事に端を発した事に原因があると思っていたのだけど、よくよく考えてみれば、故:林先生が、精神的不調を理由に、この青空精神科病院長に入院した事こそが、実は一番最初の、問題だったのじゃないのかな?」


「そ、そこが、今回、この私が目に付けたところなのよ。


 だって、青空精神科病院の口コミ等を読むと、もうボロクソの書き込みが多かったのよ。 無論、かって、入院したり通院したり患者さんの口コミが主なのだけど、例えば、このスマホの書き込みを、少し、見てみてよ……。


 これなど、まだ、入院も通院もしていない人の書き込みなんどけど、ちょっと、あまりに酷すぎない」


「どれどれ、少し読ませてよ」と、私が、明菜ちゃんのスマホを見ると、次のような書き込みがあったのだ。


【いやあ、最近、少々、鬱状態なので、近くにある青空精神科病院に通院しようかと思い、車を飛ばして行ったのだけどさあ、

 あれは、流石に酷い。酷過ぎる。

 丁度、その日が退院日らしく、その患者さんの家族全員が車で迎えに来ていたんだけどさ。

 その患者さんが、「ようやく退院できてありがとうございます」、と看護師さん達に言っていたら、

 すると、病院長らしき白衣を着た医者が出て来てさ、「あんたは、まだ完全に治っていない、また、いずれ即入院になるんだ!」

 って大声で言ったので、その患者さんがさ、急に、発作状態に戻り、結局、退院は取り消しになった、のを、この目でハッキリ見てさあ。

 もう、こんな病院は、こりごりだと思って、別の病院に行く事にしたよ】 


 これを、読んで、

「明菜ちゃん、いくら何でも、これは医師として、完全に失格じゃないの?」


「そう、色々な書き込みはあるけど、これ等は、酷すぎるわねえ」


「だからさあ、こう言う口コミを読むと、明菜ちゃんが言う、青空精神科病院黒幕説もあながち、間違っていないのかもなあ……」


「そう思うでしょう。


 私も、この北陸の僻地にある青空精神科病病院には、黒い噂話も絶えず、今回の数数の一連の事件に、何らかの関連がある事は、もう間違いが無いと、その気持ちは、徐々に強くなって来たのよ。

 その噂話の中には、青空精神科病病院では、あの悪名高い、「前頭葉白質切截術」いわゆるロボトミー手術さえ、コッソリと実施されていると言う悪名すらある程なのよ。 勿論、現在は、ロボトミー手術は、現在は、一切行われていないけどもねえ……」


「だがね、明菜ちゃん。


 この私が、明菜ちゃんに、そう偉そうに意見を言える立場でも無い事は、十分に理解しているのだけれども、いくら、この青空精神科病病院の評判が悪いとしても、所詮、私立の、つまり民間のベッド入所床数100床たらずの個人病院なのだよ。


 この、青空精神科病病院の病院長の、青空郁夫医師自身が、映画『羊達の沈黙』に出てくる、あのハンニバル・レクター博士クラスの人間じゃないと、このような、「人杭村」=「人喰村」に関する一連の事件のような、大それた事件の黒幕だとは、ちょっと、考え難いのだが……」


「うーん、それを言われると、実は、私も、心の奥底には、若干その疑問は、少しはあるのよねえ」と、明菜ちゃんも頷いてくれる。


「あっと、そう言えば、私の高校の同級生が、かって受験ノイローゼになったと聞いた事がある。

 早田直樹と言っていたっけ。

 結局、今は完治して、現在は、旧帝大に進学したらしいのだが、まだ、スマホに連絡先が残っているから、今から、この青空精神科病病院の印象について、聞いてみてみるよ」


 早速、スマホを取り出して、緊急に電話した。

 

「やあ、早田君か?

 私だよ、私、かっての高校の同級生の三井純一だよ。

 その後、元気にしてるのかい?


 そうかいそうかい、元気そうで何よりだよ。


 えっ、コチラの方って?


 私のほうは、例の「万能荘連続不同意性交殺人事件」に巻き込まれて、もう無茶苦茶に、大変だったんだよ。


 ところで、何でも聞いてみるが、早田君は、かって精神的に悩んでいた時期があって、青空精神科病病院に行ったとか言っていた筈だねえ。


 その時の病院の印象は、一体、どうだったんだ?」


「それが、さあ、三井君よ。


 行くには言ったのだがね。急に、通院患者の一人が暴れ始めてね、男性の看護師にボコボコにされていたのさ。


 で、丁度、うまい具合に、保険証を忘れていたので、今から家に帰って保険証を取りに帰ると言う事にして、それ以降は、実は、一度も行っていないのだよ。


 いやあ、こんな酷い病院も世の中にあったものさ。


 それにしても、【あの時は助けてくれて、ありがとうよ。たった一回で治ったからなあ】……」


「そうか、それだけ聞けば、もう、十分だよ。

 今日は、ありがとう、またな、よろしくなあ……」


「ウワー、これらのは話を聞くと、もの凄く悪名の高い病院だったのねえ、純一さん。

 でも、【たった一回で治った】って、純一さんは、彼に何かをしたの?」と、明菜ちゃんが質問して来る。


「ああ、それはねえ、スマホで検索して、別の有名なクリニックを紹介したら、友人の症状が、劇的に回復したのさ。

 それも、たった一回の治療でね。

 世の中には、大した名医も、いるもんだね。


 でも、では、一体、何処の誰が、この一連の大事件の大本になる、地獄絵図の「元ネタ」を書いた張本人なのか?一体、誰が関連しているのだと思うの?


 これは、実は、前の事件が、次々と連続して起きた時からの、絶対的な根本問題なのであって、しかし、全くここは、私らも、警察も、マスコミも、ネット民も、色々な、推理や推測を述べる事は自由であっても、この大問題を、誰も結局、解決出来なかったのだろう。


 勿論、今までの一連の事件は、既に、大方の結論は出ているよね。


①「万能荘連続不同意性交殺人事件」→佐藤萌の自作自演。


②「大学生グループ人肉鍋殺人事件」→青空精神科病病院の退院患者。


③「幼女人肉食事件」→佐藤彰(佐藤萌の父親)の発狂。


 こうやって、一応の結論は出てしまっている。


 で、この①から③まで、青空精神科病病院の病院長の、青空郁夫医師自身が何らかの関与をしていたのも、今の話を聞いても、ほぼ、間違いが無いのだろう。


 なのでいずれ、警察も動くだろうから、捕まるのも時間の問題だろうさ。


 だが、この一連の事件には、もっと上から見下ろして指図と言うか、この事件を引き起こした、本命がいたに違いがないように、この私には思えてならないのだ。


 キットこの一連の事件を見て、高笑いしていた人間がね。


 私には、そう思えて、なら無いんだよ。


 でも、それは、一体、誰なんだろう?」


「それが分かれば苦労しないけどねえ……」と、再度、明菜ちゃんが頷く。


「で、どうする?

 明菜ちゃんよ。

 この青空精神科病病院の病院長の件は?」


「一応、金田刑事には、この一連の裏話を十分に伝えておくわ。

 現実に、あちらの警察が動くかどうかは、ハッキリ分から無いけど、しかし、①~③までの一連の事件に、何らかの関連がある事は、どうも間違いが無いらしいからねえ。


 あの「人杭村」の村長さん、つまり若竹クリニック院長も、この青空精神科病病院の病院長の青空郁夫は、「人杭村」=「人喰村」事件に関与しているように言っていたしね。


 これは、私の思いだけど、例えば、強力な電氣ショック療法とか、何かで、入院患者達を洗脳していたのかもね……。

 もしそうだとすれば、殺人教唆犯にも問えるし。


 だから、今から直ぐに、先程までの話を、箇条書きにして、Eメールで金田刑事に送るわよ」


「それが一番、近道かもね。

 明菜ちゃん、ともかく、頑張ってね。

 私は、午後から、授業があるので、大学に行ってくるよ」


「分かったわ、じゃ、勉強頑張ってね」 



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